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67 品質検査 sideニコル



11月中旬。

冬の品質検査に向けて、皆がんばっています。瞳の到達度に自信のない子はカウンセリングに行ったり、教導師の先生に頼んで個人で修練の時間を作ってもらったりするので、アロイス兄さんも忙しそうです。


学科は授業での理解度や、小さなテストの成績の積み重ねが評価されます。暗記系のものはどこまで記憶に定着しているかをマザーが判断してくれるので、テストの必要がありません。



私は基礎修練に関しては、いつも通りのマイペース。

慌てても、私は白斑ビットがあるのでC判定に違いないですから。でも、ちゃんとお片付けはしてますよ、もちろん。白斑には、控えめなお願いだけするようになりました。”私が目標に近づけるように、導いてね”っていう感じです。落ち着いて考えたら、”兄さんたちを守って”とビットに願うなんて他力本願もいいとこでした…私が力を付けなきゃいけないんですから。



学科は、修練の判定が良くないのですごく頑張ってるつもりです。記憶力はいいらしくて、A判定もらえてるのはとても嬉しいの。私、修練では「努力が実る」っていう経験が少ないので…



そう、とにかく私の課題は収束。これに尽きます。

出力の高い大規模魔法を撃てる人の収束技術というのは、空恐ろしいものがあります。私があまりに収束が苦手なので、一度ヘルゲ兄さんとコンラート兄さんに大規模魔法を収束まで実演してもらったの。



美しかった。


もう、ただそれだけだった…



コンラート兄さんの収束は「キィン…キン…キィン…」っていう、リズミカルで金属的な収束音がする。光が脈動していて、コンラート兄さんの思い通りに形を変えて、きっとひとたび放出したら絶対に敵を逃さないという躍動感にあふれていた。



ヘルゲ兄さんの収束は…ちょっと言葉にするのが難しいかも。収束音は可聴域ギリギリの高音で、私には「…ィィィィィィ…」としか聞こえなかった。耳鳴りがしそうだけど、しない。暴力的なわけではなく、どこか深い場所から聞こえてくるような、静かな高音。光は…正直言って直視するのが辛いくらいの輝き。錬成したマナが莫大な大きさだったというのに、「やるぞ」とヘルゲ兄さんが言った瞬間「…ィンッ」と、音じゃない音がして、小さな水滴くらいに収束…ううん、凝縮された。

…嘘でしょう?

これが放出されたら… 細かい座標指定なんていらない。着弾したフィールド一帯が焦土と化すんだろうな、とすんなり思えるほどのエネルギー。


ヘルゲ兄さんは『紅玉』なんだ、と納得した瞬間だった…






収束したマナをほどいて粉雪が舞うように散らせたヘルゲ兄さんは、ちょっと困ったような顔で言った。



「収束にも放出する魔法の”型”にも、個人差はある。焦る必要はない」



やはり二人に聞くと、イメージ通りの放出型だった。コンラート兄さんはホーミングバレット(追跡弾)系で、ヘルゲ兄さんはフィールド殲滅系。一般的に「フィールド系」は範囲が広い分、効果が落ちてしまいがちというのがセオリーだけど…ヘルゲ兄さんの魔法出力がケタ違いなので”殲滅”と付くのだそうです。



私はまだ大規模魔法なんて撃てるようなマナを収束できないので、どんな型かはわかりません。でも…こういうのって直感でわかるんだけど、二人とは違う型のはずだと思うんです。どうしてかな…私の魔法って、敵を倒すのに向いてないんじゃないかなって予感がしてます。

これは、実はとても不思議。だって治癒系や補助系の魔法というのはユニーク扱いなんです。私はまったくユニークの素養なんてないし、自覚もないんですから。属性魔法は、イコール攻撃魔法。水の大規模魔法なら、フィールド系だと津波みたいだし、バレット()系だとたくさんの氷柱が敵を穿ちます。なのに「敵を倒す魔法じゃない予感」がするとか…


…私、ほんとにどういう魔法使いになるんでしょうね?


マトモなのになれなかったりして…うぐ、落ち込む…





*****




品質試験当日。


集中して、自分の勉強したことを思い浮かべながらマザーへ送ります。するとマザーから記憶定着を検査する信号が来るので、ちょっと緊張しながら受け入れる。


…うひゃ!


うーん、何度やっても慣れないこの感じ…

一緒に受けた子もビクって肩を竦めてる。

あ、結果が出た…A判定。やった!



到達度検査に行きます。

マザーの測定装置で瞳を精査する。ひゅん、と瞳をマナの線みたいなものが走る。…屈折率・反射率・硬度…宝玉級、A判定。透明度 C判定。総合到達度 B判定。


やっぱり、透明度Cかぁ。

ま、毎回これだものね。白斑の盾はナイショ、ナイショ…





演習場で応用修練の成果実演です。

自分にできる一番大きくて強力な魔法を出します。結界が張ってあるとは言え、緊張します…


ぐっとマナを錬成する。かなりの量とスピードのはずだけども、次が問題…よっと…ああぁぁ…やっぱり収束させようと思うと、錬成させたマナの大半が零れていっちゃう…収束できたマナは、ようやく中規模魔法が撃てるっていうだけの量。

…仕方ないです。放出します、風の中規模魔法。フィールドタイプの、小さめ竜巻。というか、ちょっと強い木枯らしみたいな…がっかりですよ…


錬成量 A判定

錬成速度 A判定

収束度 D判定

放出精度 C判定

総合 C判定。



ふう、これで冬の品質検査、終わりですよ。

お疲れ様、私…




中等もあと1年半です。半年後、中等5年の品質検査では大事なことが決まります。

高等学舎では、マザーの適性判断ごとに少しずつカリキュラムが変わる部分がありまして、軍部・維持・養育の各セクトの配置予定者の特化授業があるんです。その適性判断が、半年後…



あー、養育セクトの配置予定になれないかな!ナディヤ姉さんみたいに、ナニーのお仕事っていいと思うんだけどなぁ~。




でも、とりあえず今は品質検査が終わったことだけ喜ぼうっと。

週末だし、品質検査終わったから、特別に兄さんたちの家に泊まりに行けることになったんだ~、ひゃっほう!ちょっとワガママ言って、アロイス兄さんにパエリア食べたいっておねだりしちゃった!


よーし、早く宿舎に戻ろうっと。





  

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