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65 Falscher Bericht  sideコンラート


「デア ナーメ イスト コンラート・白縹。ゾルダード フォン ゼプツェーン フンデァート ドライ。秘匿認証“黒”を要求します。コード0268503、宛先コード0002246へダイレクト・コールです」



フォン、とマナが渦巻く。

マザーが俺のマナ固有紋を確認後、接続先へと繋いだ。

しばらく待つと、ホデク隊長がフォグ・ディスプレイに浮かぶ。



「定時報告です。少々長くなるのですが、お時間いかがでしょうか」


「かまわんよ、聞こう」


「ありがとうございます。目標(紅玉)の執着する原因がわかりました。やはり所見どおり、Aとの生活が楽であるというのが一つ。Aは目標に甘えられ、人の好さから断れないでいるのがありありとわかります。あともう一人、重要人物として14歳の少女が挙げられます」


「ほう?」


「データを流します。…名前はニコル・白縹。白縹としての品質は中の下、Aに非常に懐いている少女です。仮にNとしますが、Nは自分が低品質ゆえ、高品質の目標への憧れがあるようです。目標もNに随分と尊敬の目で見られていて、悪い気がしていない、というところでしょうか」


「その少女に懸想でもしているか、目標は」


「いえ、それはないかと。Nは現在までのところ、同期の少年と非常に仲が良いですし、目標に至ってはそういった人間関係の機微がまったく理解不能のようですから」


「なるほどな。確かにマザーは、安定させるために感情的な部分を極力排除するよう調整した、と報告が上がっている。…だが、結果は真逆ではないか…なあ?」


「まったくです。そして最後の理由なのですが…先に、マザーへの批判ではない旨、ご了承の上で聞いていただけないでしょうか」


「うむ、いいだろう」


「酒に酔った際に目標がこぼしていた内容です。『マザーの中に帰りたい、ここは面倒すぎる』ということでした。問い質したところ、『マザーの中にいた時は、全てマザーがやってくれた。村での生活までならなんとか我慢できたが、余所は面倒すぎる』と」


「…マザーを恋しがっている、とでも?」


「はい。全てのことが面倒そうで…デボラ教授への協力も、研究用端末を介してマザーに触れられる気がする、と言っております。…正直、マザーが甘やかして育てたのではないか、と考えて…しまうのですが」


「…なんと…まさか親離れのできていない子供だったとはな…」


「AにせよNにせよ、目標を甘やかすという点でマザーの中にいた頃を思い出すようで、そのための執着ですね。…僭越なのを承知で伺います。マザーは目標を親離れさせることが可能と思われますか?」


「…正直、わからんな。マザーは何度もやつを矯正しようとしていたが、まったくできていないのが現状だ」


「…それでしたら、やはり実力行使…でしょうか。幸い、Nの担当ナニーが同期のため、接触に成功しております。ひとまずナニーからNへ働きかけてもらい、目標に対する幻想を壊す。次に、Aの目を覚まさせる」


「目を覚ますとは?」


「彼も疲れ果てておりました。家事はすべてAで、目標はとにかくマザーとの接触が持てるよう、必死に端末にしがみつくだけ。本当に都合のいい家政婦扱いでした。自分が少々そういった部分を手伝いまして、お前が全てやる必要はない、相手は成人したれっきとした大人なのだ、と吹き込んであります」


「ふむ。いい仕事だな」


「オホメニ…与り、光栄です。ただし、本人の不安定さを拭うには…マザーに手綱をとっていただく必要があるかと。要するに親離れしていないままでも、マザーへの接触自体が目標のやる気に対するエサにならないだろうかと愚考いたします」


「なるほどな。わかった、手綱については、こちらで伺いを立てておこう」


「ありがとうございます。報告は以上です」


「うむ、ご苦労だったな」


「失礼いたします」



ふぉん…端末が沈黙する。

…マナの流れが完全に途切れて落ち着くまで待つ。


よし、もう安全だな。






「ぶっはぁ~、アブねー!もう少しで棒読みの『オホメニアズカリ』が出ちまうとこだった!!」


「…コンラートってあんな話し方できたんだなぁ~…驚いたよ、僕」


「仕方ねーだろ、蘇芳の奴等はそういうとこばっかし拘るんだからよ」


「ちっ…シナリオとわかっていてもイライラするものだな」


「オイ…マナ練るんじゃねぇよ…」


「まぁねー、秘匿回線なんて大げさなもの使っておいて、言われる内容がマザコンの連呼だもんねぇ」


「おい、この方向性でマジいいんだよな?俺、軍に戻ってから紅玉サマに八つ当たりされそうで怖いんだけど?」


「ふん…不本意だが仕方ないだろう。白縹にいるのは全員『兄弟』だ。しかも心を手入れする作業が常態化した特殊な精神性で、そこへ入り込んでくる異物への拒絶反応は他の一族の比ではない。白縹にマザコンなど育つわけがないんだ。…だがやつらは違う。肉親に育てられ、母への思慕の情があることに疑いを持たない。だろう?アロイス」


「うん、そこは狙い目だからね。…ほんとはニコルのことまで引き合いに出したくなかったけど…」


「いや、そりゃ仕方ねぇよ。ナディヤのことだってそうさ。とにかく俺らが接触した人間のことに関してだけは、隠さない方がいい。あいつは腐っても…いや、腐ってるからシュヴァルツ隊長なんだよ」


「…だろうな。これを見ろ」




ヘルゲが侵入用端末をいじると、今現在ヘドロが操作している端末の画面が現れる。…うっは、やっぱな。白縹の住民リスト…ヘルゲ アロイス ニコル ユッテ アルマ オスカー ナディヤ エルマー リア …ビルギットまで出てきやがった。ほー、あの境界警備隊のヨッパの名前もかよ、徹底してんなァ。


ニコルちゃんの成績についても表示させてんな。彼女には悪ぃけど、現状で白斑ありのC判定、マナの収束D判定が効いてる。お、学科は頑張ってんだな。A判定かよ。えらいえらい。





ふん…まあ、そうこなくっちゃな、ヘドロ隊長。

マザーの集積する監視方陣の映像からの特定だろ、わかってるっつーの。そうやって俺を疑ってかかれ、その方がアンタの考えが知れるってもんだ。んで、重要なことの映っていない映像でダマされてろよ。ま、改ざんはヘルゲ任せだけどな。


一仕事終えて、アロイスが晩メシを作りに行った。

俺がここにいられるのも、あと少し…だな。





  

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