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64 笑顔の理由 sideヘルゲ




ニコルが笑っている。

真の望みと接触してから、たまにこんな風・・・・に笑うようになった。アロイスは分かっているようだが、俺にはまだよくわからない笑顔だ。とてもきれいな笑顔だと思うのに、俺がニコルを泣かせてしまっている気がして仕方ない。


アロイスに教えろと言ったが、「君にはまだ早いね」と上から目線で返された。納得いかないが、たぶん情緒に関することなんだろう。



*****


コンラートとナディヤが付き合い出したと聞いたのは、アロイスが通信機を作れないかと相談しに来た時のことだ。どうでもいいやつらならともかく、コンラートのことだ。いくら朴念仁の俺でも、祝う気持ちくらいはある。だからナディヤの分も作ってくれと言われて、普通に承諾した。


アロイスが驚いたように「ナディヤの分なんて必要ないだろって言うかと思ったよ」と言うので、心外だと返すとアロイスが満足げに笑う。



「ナディヤ、絶対喜ぶと思うよ。ありがとうヘルゲ」


「礼を言われるようなことでもないだろう。コンラートはお前の…違うな、俺たちの仲間なんだろう?それで、コンラートはナディヤが大事、なんだろう?俺たちがニコルを大事だと思うくらいに」


「はは、同じ『大事』かはわからないけど、その通りだよ。コンラートにもそう言ってやればいいのに。喜ぶよ?」


「…それは嫌だ。全力で断る」


「二人とも変なとこで似てるなぁ…」


「…俺たちにできるのは、コンラートとナディヤの通信機を作ってやったり、コンラートが不在の時にナディヤの身に危険がないよう気に掛けることか?ナディヤの部屋にも心理探査サイコサーチを仕掛ける必要があるのか、お前らで判断してくれ。俺にはわからん」


「…ヘルゲ、何かあったか?君、おかしくないか?」


「…飛ばすぞ?」


「うん、ムッとしたのはよくわかった。でもほんとに意外だったんだよ」


「…俺にもよくわからん。だが、お前とも俺とも違った視点と方法でコンラートは周囲を気にかけて、守るべき対象を正確に掴む力があるように思う。あれは軍の訓練どうこうではなく、あいつの資質なんだろう?いや、元々の資質を生かす方法を軍の訓練で開花させたという方が正確か?」


「…確かにね。コンラートは周囲が何を感じて、どう思うだろうってことを常に考えざるを得ない環境だったと思うね、それこそ誰よりも」


「俺とは真逆だな。だからコンラートは面白い。その男が大切だというなら、俺たちがナディヤの安全を確保するのに何か他の理由が必要あるのか、と思うんだが…何かやはりおかしいのか、これは?」


「くくく…いやいや、よくわかった。そうだったな、ヘルゲは懐に入れた人間にはとことん甘いんだった…」


「…別にナディヤは入れてない」


「うん、わかってる。…じゃあ、ナディヤの保安についてはコンラートと相談しとくから」


「おう」



*****




そして、俺は今初めてコンラートとナディヤが一緒に笑っているところを見ている。ナディヤがおっかなびっくりミニディアにマナを流している。少し離れたところからミニコンでナディヤと話しているコンラートが、そんなナディヤが愛しくてならないという表情をしているのがわかる。ナディヤがコンラートを頼りにしていて、コンラートが笑うと幸せだと思っているのがわかる。




…そうだ、俺は彼らが「そう思っている」のがわかるようになっている。ニコルが笑うと俺が幸せなように。アロイスを常に頼りにしつつ、俺もアロイスを守ろうと思うように。


いつのまに俺の世界はこんなに賑やかになったのだったか。そうだ、不本意極まりないが、フィーネもそうだった。フィーネの方陣に関する意見は、変な賛辞や修飾語を除くと、大変有用なものだった。一般的に普及した方陣の、意外な使い道も、外道な使い道もフィーネは”味わい尽くして”いる。


人の力。調和する力。こんなに俺の周囲に、あふれている。頭の中で、何かが次々と手を繋げていくような感覚だ。俺自身に調和する力はないのに、まるで俺が輪の中に入っているような錯覚を覚える。勘違いなのにな。





そんなことを考えていたら、ニコルがそっと俺を見ているのに気付いた。

目が合うと、ふんわりと笑う。



「ヘルゲ兄さん、今二人とも幸せそうだって思ってた?」


「ああ、そうだな」


「んふふ、笑ってたもんね。わかるわかる~、私も大好きな二人があんなに幸せそうだと、心がポカポカしてくるよー」


「そうか、ニコルまで幸せにするとは、あの二人もやるもんだな」


「あは、ヘルゲ兄さんもでしょ?」


「 ? どうだろうな。俺はニコルが笑えば、確かに幸せだがな」


「…そっか。じゃあたくさん笑わなきゃね、私」



そう言ってニコルがきれいな笑顔をするが、またしても泣かせた気分になった。アロイスが苦笑いしながら「まだまだだねぇ~」と言う。


ニコルを泣かせたくない。ニコルは笑っているが、泣いている。ニコルを悲しませているのがきっと俺なのだと思うと、どうしたらいいのかわからなくなる。アロイスもこの件に関しては「自分で気付かないといけない」と取り合わない。八方塞がりだが、思考を止めるわけにもいかない。ニコルのことなのだから。

だから並列思考をまるまる一つ使って、ずっとずっと考えることに決めた。いつか、俺にでも分かるのかもしれないから。







  


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