62 閑話 ナディヤ②
数日経って、フィーネが方陣の検査に来たの。
リアと三人で食事しようって、二人は先に行き…私はとんでもないミスをした。境界警備の酔った人たちの注意を不用意に引いてしまい、二人を危険な目に遭わせ…アロイスとヘルゲとコンラートに助けてもらって。
…あまり落ち込んでると、またリアに怒られちゃう。
なんとか気分を立て直して明るく振る舞おうって思ってたけれど、まだちょっとだけ落ち込んでたのよね。でも、そうしたらリアが…リアが!
「じゃあ、コンラートにはおいしい手料理が一番なのね。がんばって、ナディヤ」
混乱。私は滅多にパニックにならない方だと思っているんだけど…初めてこんな風になった…何言ってるのリア?でもなんで私はこんなに慌ててるの??え、コンラートは手料理を喜ぶの?なんで私は、どうやって料理を上達させればいいかしらとか考えるの?
「…んにゃろ…こんな時のためのサインじゃねぇってんだよ…」
コンラートが何かブツブツ言ってるけど、頭にあまり入ってこない…
「あー…ナディヤ?」
「ひゃい!?」
いやああああ、なんで声が裏返ったの!?
もうダメ、なんでこんなことになってるのかわからない…
「ひゃいって…かわいーなオイ…つか顔真っ赤に茹で上がってマスよ?」
「…なんでかしらね…ほんと…何でなのかわからないわ…」
「んあー…ホレ。ちっと寄り道してくか」
コンラートに手を引かれて、海が見える緩斜面に出る。
そこで、ぽつぽつと二人で話して。
私が小さい頃のコンラートを助けたかったけどできなかった話。
エルマーさんとの話。
ユッテがあの頃のコンラートに似ていると思ったこと。
ユッテを支えられた実感で、本当にナニーになれたと思ったこと。
帰省して初めて瞳を見た時に、このままじゃコンラートが黒くなってしまうビジョンが見えて心配した、と言ったら
「ほんと、ナディヤにはかなわねーよ」
といって額にキスされて。
せっかく落ち着いてきたというのに、また顔が茹で上がって…
「…知らなかったわ、私コンラートのことすごく好きなのね…」
と言ったら「勘弁してナディヤ、俺まで顔あっちぃ」とそっぽを向いちゃった…コンラートの瞳を見たかったんだけど。星明りだけでは、それもできなくて残念…
二人してなんとか顔の熱を冷まして、ようやく宿舎に戻ったらリアに捕まっちゃた…勢いが少し怖いわ、リア。
「で?自覚した?ちゃんとコンラートに言った?」
「…う…はい…」
「よーっし、よくやったわナディヤ!はぁぁ、長かった!!肩の荷が下りた気持ちよ!」
「え?何が長かったの?」
「んもぉ!!あなたがコンラートを好きなのを自覚するのに、何年かかったと思ってるの!10年よ、10年!!あー、ほんと清々した!あー、じれったかった!」
「そ…そんなこと…私、これでも周りには心情を読むユニークなんじゃないのって言われるほどには、気持ちを汲める方だと思うのよ?なのにそんなこと…」
「ハイ残念でした!確かにナディヤは他人の心に敏感だと思います!でも肝心の自分のことはなーーーーんにもわかってないのよ!人のことばっかり心配してさ、私だってあなたが心配でずっと見てるんだからね?」
「あ…ありがと…リア…大好きよ…」
「っかー、もう!そんなのコンラートに言っておやんなさい!どうせ彼もメロメロなんでしょ、傍から見てたら何年両想いが片想いやってんのよって、地団太踏みたくなってたんだからぁ。…ま、ほんと、よかったわ。うん」
リアは言うだけ言うと、急に照れだしちゃって。わかってるんだから、リアってほんとはすごく照れ屋なの。きっとほんとにじれったくて…私のために今日、すごくがんばってくれたんだわ。
「…うん、コンラートに、私がたくさん好きだってちゃんとわかってもらえるように、がんばるわ」
「だから、もう彼もわかってるわよ、そんなこと…まったくもう。じゃあね、おやすみなさいナディヤ」
「うん、おやすみなさいリア」
ああ、今日はいろんなことがありすぎて…
私が自分を何もわかってなかったっていうのが一番ショックかしら。
白縹にあるまじきことね。
これからは、修練とお料理、がんばります…