57 守護者たち sideニコル
こんにちは、ニコルです。
今日は私の周りの大好きな人たちについて、いろいろとお話したいと思ってます。
この前私がやらかしたせいで、いろんな人に迷惑や心配をかけてしまいました。
中でも、私が死んでしまうとひどく恐ろしい思いをさせ、公衆の面前で泣いてしまったアロイス兄さん。
それなのに、自分が泣いたことさえ私を勇気付ける材料にしたのです。
私はほんとうに幼くて、思慮が足りなくて。
でも、いつまでも落ち込んでいてはいけないと、ようやく思い至りました。
だって、泣き虫のアルマでさえ、あの件のことでは泣くのをガマンするんです。
「私は怖いことは忘れたもの。覚えているのは、ぽやんと平気な顔して戻ってきた時のニコルの顔だけよぉ」
「そうそう、まったくニコルの鈍感には呆れるわー。修練終了の合図まで気付かないなんて、どんだけボンヤリなんだかねー」
ユッテもひどいこと言うなぁ、なんて少し拗ねたふりをしておきます。
だって、アルマに聞いたんです。
あの日のお昼、コンラート兄さんがわざわざ会いに来てくれて、ユッテが本当に泣けたんだってことを。
「私は泣き疲れるほど泣いたけど、ユッテとオスカーはとにかくじっと我慢してたのよ…私があんまり泣くから、泣けなくなったんだと思うの…」
…そうなんです。
ユッテは私やアルマを守るんだ、とか面倒を見るんだっていう感覚が強くて。
とてもしっかりしているので、私たちはついつい甘えていたと思います。
「…でもね、びっくりしたの。コンラート兄さんがそれにすぐ気付いて、ユッテは誰に会いたいかって聞いたのよ。そしたらユッテ、消えそうな声でナディヤ姉さんって言ったの…」
確かに最近、ナディヤ姉さんに懐いてるって思ってました。
ユッテがほんとに珍しく、口を尖らせてふくれっつらして、ナディヤ姉さんにかわいいワガママを言うのも聞いてたし。
「すぐにコンラート兄さんがナディヤ姉さんを呼んできてくれてね。それで、ナディヤ姉さんがユッテを呼んだらね…跳ねるみたいに立ち上がって、ナディヤ姉さんに抱き着いて…泣きながら繰り返すの。『怖かった、怖い、ほんとに怖かった』って。姉さんもね、ユッテのことぎゅうって抱きしめながら『そうね、怖かったわね…それでもアルマとニコルを守ってたのね。えらいわ、ユッテは本当にいい子ね、大好きよ』って…」
そこまで言うと、アルマは黙ってしまいました。
アルマの気持ちが痛いほどよくわかります。
私も、ユッテに甘えすぎていたんですから。
それに、オスカー。
最近なんだかとても気が合って、たくさん話すようになった男の子です。
なぜだかユッテとアルマにも一目?置かれ、4人でお昼を食べるくらい仲良しです。
オスカーは、とても正義感が強くて友達思いで優しくて。
アルマとユッテを、まるで物語の騎士のようにずっと護衛していたのだそうです。
ですが、そこでまた驚きの行動をしたのがコンラート兄さんだったの、とアルマは言います。
「…すごく真面目で、誠実な感じになってね。『お前は立派な白縹の男だ、誇れ』って言ったとたん、オスカーまで泣き出したの。…私、コンラート兄さんとナディヤ姉さんは何の魔法を使ったんだろうって、一瞬本気で考えちゃったわ…」
コンラート兄さん。
いつもは軍で忙しく働く、とても優秀な軍人さんなのだそうです。
でも二人の兄さんたちと一緒にいる時は、おどけてて明るくて楽しくて。
あのヘルゲ兄さんの会話するスピードが尋常じゃないんです。
アロイス兄さんとは割と落ち着いてゆっくり丁寧に話すんですが、コンラート兄さんのことはまるで「全力で叩いても壊れない」とでも思っているかのよう。
なんていうか、コンラート兄さんってね。
芯がブレないっていう言い方が、すごくしっくりすると思うんです。
おじいちゃんの木みたいに、どんと立っていて、すこしくらい寄りかかっても何ともないっていう感じ。
きっと、ヘルゲ兄さんもアロイス兄さんもそういうところを感じていて、頼りにしているんだろうなっていうのがわかってきました。
最後にヘルゲ兄さんのことなんですが…
うん、なんというんでしょうか。
あんな風に「兄さんたちを守りたい」なんておこがましいことを考えて失敗してしまった私なんですけども…
どうしても、あの想いが消えないんです。
私にとって、魂の守護者とも言うべき、二人の兄。
大げさに聞こえるかもしれませんが、それほどのものを与えられていたと、今の私ならわかります。
でも同時に、ヘルゲ兄さんの悲しみがどれだけ大きいのかも、わかった気がするんです。
詳しいことはわかりません。
私がつらい思いをしないように、兄たちは細心の注意を払っていますから。
私にわかるのは、ヘルゲ兄さんが深く大きく傷つきすぎていて、自分が悲しんでるということが理解できないほど、痛みに鈍感になっていることだけです。
今の私には、未熟すぎて掴めなかったモノがあります。
どうしたらいいのかなんて、それさえもわかりません。
でも、なんとしても…なんとしても、いつかあれを掴んでみせます。
それが、皆を心配させた私の、精一杯の決意表明なんです。