54 苦虫百匹 sideコンラート
っかー、これだから境界警備のやつらは…
数日間村を離れては境界の砦でヤロウだらけの勤務。
終われば酒場でキレイなおねーちゃんをからかいながら大騒ぎ。
白縹も、酔っぱらうと台無しだよなぁ~
ヘルゲが索敵しながら先導して現場に着くと、オステリアの裏手だった。
もう絵に描いたようなヨッパがフィーネの腕を掴み、リアの腰を触ろうとし、あぶれた一人は「さっきの黒髪美人ちゃんはどこ行ったぁ?」と千鳥足でその辺を見回してやがる。
ハンドサインで合図し、ヘルゲは物陰に潜んでもらう。
こいつが大々的に間に入ると、男どもの劣等感を煽りまくるだけだからな。
「よー、兄さんたち。楽しそうなコト、してんなァ?」
「あぁ?ひっこんでろよ、このかわいーのは俺らのだぜー?」
「そーらぜ、おれらのらぜー?」
うーわー、これ滅多に見ないくらいヒデェな。
呂律回ってないとか、どんだけ。
明日にでも維持セクトに報告だなーこりゃ。
「まーまー、この子ら俺の同期なんだよ。兄さんたちなら、女の子は選び放題だろ?この子らは勘弁してやってよー」
「うーっせぇな!いいとこでしゃしゃり出てきやがってよォ。ヒトの恋路はジャマすんなって、学舎で教わらなかったかァ?」
「はァ、恋路ねぇ~?しょうがねー、コレでもダメかァ?」
シュヴァルツで覚えたとっておきの殺気と一緒に、右手のマナをキンキンに収束して、男らに差し出すように見せる。
これで引っ込まないなら、骨の数本は覚悟してもらおっかァ。
「…は?…お前…なに…」
「だって兄さんら、その子の腕離してくんないじゃん?んでそっちの子の尻触ろうとしてんじゃん?そしたら、軍属としちゃぁねぇ?」
「ばっけあろ、軍属がなんらってんらよぉ」
「バカ!やめろ!おいシド、コナーを押さえろ!…くそっ」
お、ナディヤを探してた男は醒めたかな?
あ…あー、ダメだこりゃ。リアに抱き付こうとしてんぞコナーってやつ。
もういっちょハンドサインで、背後のヘルゲに合図。
リアとフィーネに一瞬で張られた結界方陣。
ガンッと派手に頭を弾き飛ばされ、コナーとやらが後ろに倒れた。
…「コナー」って俺もたまにナニーに愛称呼びされてたから、けったくそ悪ぃ。
ざまァみろ。
「兄さんたち、そんじゃね。悪く思わないでくれよ~」
結界が解除され、二人を背後からガードしながら離れていく。
ヘルゲは少し後方から、静かに付いてきた。
索敵しながら歩いてんだろうな。
オステリアから少し離れると、ガクガクしていたリアがようやく声を出せるようになった。
「…コンラート…ごめんなさい。アロイスにも気をつけろって言われてたのに…」
「気にすんなって。災難だったなァ、ありゃ白縹じゃ滅多に見ないほどの泥酔だったもんな。フィーネも大丈夫か?」
フィーネは呆然と歩いている。
軍で、ある程度の荒事は見てると思うんだけどな?
まあ、フィーネの担当は暴力沙汰の事後捜査がほとんどだ。
細っこいし、軍属と言ってもああいうのをどうこうできる腕力もないしな。
「…ああ、すまなかったねコンラート。あの手合いなら結界方陣を出せば、本来何ということもなかったんだがね…いきなり腕を掴まれてしまったもので、ぼくの精度ではあの酔漢の腕を切断してしまうと思って、できなかったのさ。…でも…」
…あ。
あっちゃー、そういうことか。
フィーネほどの方陣研究家が出せない精度の結界方陣を、ヘルゲがすんなり出しちまった、と。
ありゃ…レベルはそんなに高くなかったはずだけど、確かに腕掴んでたままだったのに無事だったし、慌てて引っこ抜いてたもんな…
うーわー、フィーネが後ろのヘルゲにめっちゃ神経集中してんのがわかる…
ここ最近で一番恐れていたことが現実になったァ…
チラリ、とヘルゲを振り向いた。
うほあぁ、苦虫百匹を口に放り込まれたみたいな顔してんぞ…
無表情モード崩れてる!
修復しろヘルゲぇ!