51 友人の共通点 sideヘルゲ
アロイスからニコルが「溺れた」顛末を聞き、ニコルからも事情を聞いた。
聞いてすぐわかった。
じいさんと…真の望みと、リンクしてしまったんだろう。
だが、ニコルにはまだ時期尚早だったようだ。
危険と判断して、じいさんがニコルの自我をすくい上げたんだろうな。
じいさんがいる以上、ニコルは本当の意味で溺れてしまうことはない。
俺の場合は、真の望みが「分割」によって壊れかかっていたことと、俺自身が強烈に「自分を守る方法」を求めていたため、かなり幼い頃に俺と融合してしまった。
その時のことは今でも覚えている。
幼すぎて、まったくコントロールを失っていたんだよな。
極限まで自分が拡がり、極限まで自分が薄くなった。
直後に、極限まで収縮し、極限まで濃縮した。
ミクロからマクロ、マクロからミクロを繰り返して。
気付けば、無限に続くかと思ったその状態からは抜けていた。
そして、分割された真の望みのカケラの数だけ、並列思考が立ち上がっていた。
…懐かしいことを思い出したもんだ。
懐かしいと思えるってのがまた、驚きだけどな。
それにしても、アロイスの憔悴した様子には驚いた。
だが話を聞くと、なるほどと思った。
死にそうなニコルを目の前にして何も救う方法が手元にないと思ったら、俺だって気が狂いそうになる。
本気で泣いてしまったと言っていたが、さすがに茶化す気にはなれんな。
悪いことをしてしまった。
アロイスは俺ほどには「危険のボーダーライン」を判断できない。
当たり前だ、俺は経験で知っているんだからな。
もっと言葉を尽くして説明しておくべきだったんだ。
そんなことを考えながら家に着いた。
客間から、うーうーとコンラートが唸る声がする。
「…どうしたコンラート、ハラ痛か?」
「…ちげーよ、自分のご都合主義的思考に恥じ入って、奈落の底で大反省会を絶賛開催中なんだよ」
「…よくわからんが、お前も反省するんだな」
「お前が抱く俺の人物評を、今度じっくり聞かせていただきてぇよ」
『シュヴァルツコマンダー殿にお聞かせするほどのものはありません』
「なんでいきなり軍属モードなんだよ、気持ち悪ぃな!」
「面倒なやつには、これに限る」
「お前、優しくねぇぞ!?」
「今までお前に優しくしたことがあったか」
「…無ぇな」
妙に納得した様子のコンラートを見て、どうやら反省会は中断したようだと判断する。
それから話を聞くと、昼食後にこいつも学舎へ行っていたらしい。
ニコルの同期数人がショックを受けていて、そのフォローをしていたと言う。
「…どういう経路でその的確な行動になったんだ?」
「んあ?バールで噂聞いただけだぜ?」
「お前は、アロイスに似ているな」
少ない情報から、思いもつかない真実に辿りつく力。
人を思いやり、理解しようとする意思が生み出す力。
俺には到底真似できない、人と調和するための力。
「おいぃ~、やめてくれよ、マジかそれ。俺はあんな報復上等で隠密抹殺な趣味はねぇぜ?」
『了解しました、その旨上官にご報告させていただきます』
「それやめろ!!つか絶対報告もすんな!死ぬだろ!」
コンラートをあしらいながら、俺も随分こいつが好きになったもんだなと思う。
午後の情報整理と、毎日少しずつ積み重ねているマザーへの仕掛けをやり終えた頃。
コンラートはなぜか決死の顔をしながら「今晩、メシいらねえってアロイスに言っといてくれ」と出かけて行った。
晩めしで何の戦いを挑む気なんだ?あいつは…
まあいい、アロイス上官にあいつの迷言を報告して俺は楽しもう。