442 紫紺歴1731-1733 結晶の景色
さて、チーム緑青の続きでしたね。
パウラがユニ研室長になった翌年の1731年、緑青第二研究所所長イグナーツ氏がご逝去されました。それに伴い、フォルカーが第二研究所所長に就任。実質的な緑青自治体代表者となったのです。
フォルカーは元々優秀でしたので、アルの助けも借りて方陣のスリム化に関する研究の第一人者になりました。つまりアルの「方陣を兼任させてまとめる技術」を体系化したんですね。
アルの感覚派丸出し構文や説明を根気強く、たまにトビアスと一緒にアルの頭を叩きながら聞いては研究。さすがにセイスとまでは行きませんがトゥレスにする技術を一般化させました。
そんな研究成果もありますが、もちろんイグナーツ氏に鍛えられた裏から手を回すテクニックがすごいわけです。更に猫の庭で「裏の美学」を持つ面々に鍛錬されましたので、押しも押されぬ裏ボスですよ。
その翌年、第一研究所所長ゲラルト氏が亡くなられました。
前年に実質トップが逝去しているとは言え、筆頭名家の「緑青の長」ご逝去ですのでね。色々と後継問題などが持ち上がりかけましたが、すべてフォルカーが捌きました。
第一の所長としてデボラが緑青へ戻ることになり、フォルカーの補佐やマギ言語研究室の相談役として緑青を支えます。
そして…それに伴って当然マギ言語研究室のポスト異動もあったわけで。
もちろんテオさんという方が室長だとばかり思っていたのですが、テオさんが断固拒否。理由は「うちには紫紺の長専属魔法相談役が二人もいるのになぜ俺が中枢窓口にならにゃいかんのだ!」という至極もっともなものでした。
デボラの尻拭いを長年やっていたテオさんは「俺は普通の研究員に戻りたいんです」と言い出し、アルが室長になりました。そして感覚派アルのサポート役として室長補佐にトビアス。
おかげで官邸へ毎日のように出かけてはユリウスと三人でお茶しています。
そのユリウスは、長となってからも平気で各部族へひょいひょい訪問しては「ここにあの部族のこういう方を招いて教わるのも面白そうだね」とか「あなた方はここが素晴らしいんだから、もっと他部族に広めればいいのに」とか言って種をまき続け、部族特性を保持しつつ協力し合う体制を推奨していきました。
そして1733年、先代長ヒエロニムスの逝去。
それまでユリウスの後見として見守っていた広目天は、ユリウスへ遺言を残したそうです。
「好きにやれ、ユリウス。お前の“幻獣”…解放してやる時期だろう」
ニヤリと笑い、すべてお見通しだと言わんばかりに。
この年、ユリウスはヒエロニムスの遺言を忠実に実現しました。
あらゆる手を使い、あらゆる宣伝効果を利用し、キキと結婚した時のように民衆を味方につけて。満場一致で議会を通過したのは「白縹一族を主要八部族の一員として自治権を与える」という法案でした。
初代長として指名されたのはもちろん紅玉、ヘルゲ・白縹。
ヘルゲさんは面倒そうな、イヤーな顔をしていましたけどね。
「これが一番対外的に白縹を敵に回すなっていう牽制にイイからがまんして」とユリウスに言われて渋々って感じです。
この頃には白縹の人口もかなり増え、他部族より少ないけれども以前の三倍くらいになっています。白縹の村は「白縹の街」として発展し、他部族が行き交う普通の一部族の街のようになっていきます。
ヴァイスは独立運営されていましたので現状のままですが、白縹の子供たちの進路は爆発的に増えました。
学舎では金糸雀の教師が音楽や美術の授業を受け持っていたり、応用修練に緑青の教師も加わったり、大規模になった商店改め「マーケット」には露草の商人が行き交う。境界警備には蘇芳が混ざり、白縹のマザーの特殊性を研究しに瑠璃が訪れる。山吹も出入りしますが、白縹が嫌うようなタイプは総スカンをくらうのがわかっているので、バーニーさんを繋ぎにして取材に来る人ばかりで安心です。そしてもちろん紫紺一般人もあらゆる場で見かけるようになりました。
ヘルゲさんがマザーを改変した1709年から24年。
…いえ、あの三人が出会ってから35年と言った方がいいのでしょうか。
白縹はようやく飼われる家畜ではなくなり、本来の姿を取り戻す。
あの矜持と信頼でできている、彼らに。
不思議な白縹の本来の姿に。
結晶たちが自由な景色を見られる
そんな世の中に、いつのまにか変わりました。
これは瞳が結晶でできた不思議な一族、白縹のお話です。
fin.
これにて完全完結です。
最後までお付き合いくださった皆様、本当にありがとうございました。
ここまで続けて来られたのは皆様のおかげです。
この後は次世代編をがんばろうと思いますので、
懲りずにお付き合いいただければ幸いです。
赤月