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Three Gem - 結晶の景色 -  作者: 赤月はる
終章 天使の独白
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440 紫紺歴1722-1728

  





えーと、どこまでお話しましたっけ。


ああ、ヴァイスの世代交代とフィーネさんの室長就任でしたね。

あれが1721年のことでしたから…1722年の大きな出来事、ですね。


はぁ…


溜息なんてついてすみません。

この年はですね、わかってはいたけどかなり辛い出来事がありました。




キキの結婚です。




はぁ…

彼女は大恋愛の末に、様々な障害を乗り越えて結婚しました。

いい話じゃないか、おめでたいじゃないか、と思ったそこのあなた。


娘同然に思っている可愛いキキを嫁に出した私の気持ちを汲んでください!


私と出会った当時キキはギィと同じ10歳だったそうです。食糧事情が良くなかったとはいえ、正直言って私は彼女を7歳か8歳だと思っていました。それほど彼女は小さかったし、語彙もなかった。


ですが工房で暮らすうちにみるみる健康そうな可愛らしい少女になり、はにかんだ笑顔や「泣かないでヨアキム」と小さな声で労わってくれる優しさはそのままに、美しく成長していきました。


その彼女は、デミ出身であることも何もかも、努力と資質でカバーして一流の治癒師として開花しました。その魔法制御力は凄まじく、人体の構造を知り尽くしたきめ細やかな技と博識さは、学舎へ行ったことがないというハンデをまったく感じさせません。


美しいタトゥのある右腕から紡がれる繊細なマナによって九死に一生を得た患者たちは、彼女を『オピオンの聖女』と呼ぶようになりました。この時、キキはまだ16歳という若さです。未成年だろうがデミでは関係ありませんので、彼女の治癒の腕はデミのケダモノの被害者だけを治して実践で鍛えられたものです。


その頃から恋を自覚した彼女は三年もの間意中の人へアタックし続け…恋が叶って結婚したのが19歳だったわけです。あの頃ジンの後ろに隠れていたキキがそこまでするなら本気なんでしょうと、私もわかってはいます。でも淋しいじゃないですか…はあぁぁ…




で、彼女がオピオンの聖女などと呼ばれたのは…もちろん、『オピオン』という組織が存在していたからです。ボスの名はジン。別にファミリーとして何か裏仕事をしていたわけではありません。ジンを慕って自然に集まった浮浪児たちが、ジンの庇護を受けて、ジンに教育されて育ち…いわゆる自警団のような組織になっていったのです。


あの「子隠れの穴」をジンたちのように見つけて隠れていた者はあれからも数人いました。そういう子を見つけるとジンは「俺と実験契約しろよ」と誘っては、教育を施す。まともに育った子供はオピオンに忠誠を誓い、負の連鎖を切るための自警団になっていく。そしてオピオンのタトゥを入れる青年も増えていく。




ギィは、もちろんジンの右腕として一番恐れられています。ジンも大概腕っぷしが強いのですが、ギィはデミでは珍しいほど体術に秀でた短気な男として有名です。殴るのはデミの「ケダモノ」一択なわけですが、彼がただの武力担当だと思ったら大間違いです。


彼はシュピールツォイクで毎年行われるチェストーナメントで、既に五連覇を成し遂げる偉業を達成しています。ほぼ毎年のように決勝戦は「ユリウス vs ギィ」となり、名人位であるケヴィンさんへの挑戦権を得ては彼に負けているんですよね。ちなみにヘルゲさんもこれに挑戦するんですが、大抵ユリウスかギィに負けて悔しい思いをしています。


ヒマを見つけてはケヴィンさんやユリウスとチェスの研究会なぞ開いて集まっているそうで、工房で集まる時にはヘルゲさんも行くのだとか。ケヴィンさんもまんざらじゃないんでしょう、楽しそうに皆をその頭脳で翻弄しています。




そんなわけで、三人は私以上の速さで精巧な幻獣駒の作成をして納品したり、紫紺の富豪が自宅に飾りたいと注文してくるようになった「幻獣像」も受注生産してオピオンの資金にしています。









…え?話逸らさないでキキが誰と結婚したのか言え?






ユリウスですよ、ユーリーウース!!


最初キキは、自分が纏わりついていたら中枢議員としてのユリウスの足枷、もしくは失脚の原因になるのがわかっていて「デミ限定での愛人でもいい」なんて言い出すほど思いつめていました。


それに激怒したギィとジンがもう会うなと言い出したり、ユリウスはユリウスでキキが可愛くて仕方なかったため、あらゆる障害を排除してキキを迎え入れる努力をしたわけで。


それがまあ、ツーク・ツワンクの底力を見たって感じでしてねえ…


いつのまにかアルカンシエル全土で「身分違いの大恋愛」という噂となって駆け巡り、氷雪の貴公子とオピオンの聖女のラブロマンスはとある三人の旅芸人によって広められたとかなんとか。


民衆を味方につけて、1722年にゴールイン。


ユリウス30歳、キキ19歳の時のことでした。






その三年後、ジギスムント翁が体調を崩されて引退の運びとなりました。翁直々のご指名により、ビフレストは実質ユリウスが引き継いだそうです。もちろんユリウスの派閥はそのままに、翁の跡継ぎであるアグエ議員は翁の派閥を引き継ぎつつユリウスをトップとした巨大派閥同盟ビフレストの補佐をする。


残念ながら翁はその一年後、老衰で安らかに永眠なさいました。享年81歳、波乱万丈の人生の方でしたね。私に言われたくはないでしょうが。




そうして長の右腕として盤石の地位を築いたユリウスは更に三年後の1728年、紫紺の長ヒエロニムスの引退宣言を受けて議会で承認された「紫紺の長」に就任しました。


次々と部族間の軋轢を治めていったその手腕と、何よりアルカンシエル国民から絶大な支持を得ていることが主な要因です。もちろんキキとのラブロマンスが大きいわけですが、中央では何より「チェストーナメントで毎回上位へ食い込む怜悧な顔」と「隠れモフモフ中毒」が有名すぎました。


しかし本人は未だに「モフモフ好き」はバレていないと思っているのが憐れです。彼を「なんつうカワイイ議員だ」と思ってしまった一般人が「気付かないフリをしなければいけない」と必死に守ってあげた結果なんですけどね。





そんな経緯でデミ出身でありながら「紫紺の長様の妻」になってしまったキキは、素性がバレまくっていても気にせずデミの被害者を治癒しに行く毎日です。同時にオピオンのタトゥを持つ者は間接的に地位を上げ、ケイオスと並ぶデミの勢力となりました。


もちろんルチアーノとはつかず離れずの距離を保って、友好関係です。ルチアーノの跡継ぎもまあまあの実力者で、ジンに一目置いているので安心でしょう。




これが、1722年から1728年の出来事です。


まあ、キキが幸せならいいんですよ、ええ…



はあぁぁぁぁ…






  

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