表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Three Gem - 結晶の景色 -  作者: 赤月はる
虹の輪舞曲
429/443

428 奇跡の阿呆と迷路洞窟 sideヘルゲ







ヨアキムはケイオスのボスから無事に一セットの使い捨て移動魔法を購入してきた。「これを手に入れるために、野を越え山を越えって感じでした」と少し疲れたような顔をするので、まあボスと直接対決もあったことだし大変だったなと皆で労った。


だがヨアキムは「あれはどってことなかったですよお。そうじゃなくて、あの娼婦がね…私を仲間認定したっていうか、世間話する感じになっちゃって…気のいい人なんですけど、あれはキツいです」と項垂れた。ヴァイセフリューゲルがわさわさとヨアキムを撫でるので、本当にダメージを受けているのはわかるんだが。

…慰めて損をした。





その日開発部屋に集まれたのは母さんとトビアス、アルにフィーネだった。ヨアキムはデミにいるので、情報共有のために藍もいる。


早速全員でわくわくしながら移動魔法の中身をコピーし、ミッタークとナハトへ入れた。当たり前だが暗号化の方陣は正規のものではなく、カスパーとやらが組んだ暗号化ロジックだ。まあ、ミッタークが一瞬で解読したけどな。


そして元になっている移動魔法のマギ言語を知っているフィーネ以外のメンバーは、マギ言語のセンテンスとして浮かび上がった構文を見て溜息をついた。



「…こりゃ一回で壊れるワケだ…」



ヨアキムが調整途中のままにして七百年間伝わっていた移動魔法は、本人も言っていたが「かなりざっくり」と作ってある。次元魔法の理論はもちろんキッチリと記述されているが、座標設定の甘さは適当もいいところ。


現在自分がいる場所から、二次元にしか座標を絞れないんだ。つまりその座標システムが方向の書かれた板だとすると、そのまま魔法を展開したら現在自分がいる場所と目的地との標高差がそのまま出口に反映してしまう。だから空中だの地中だのに出口ができやすい。


調整に三時間もかけて何に四苦八苦しているのかというと、その「板」を傾けさせる作業に時間をかけているということだ。出発地点で板をほんの数ミリ傾けただけで、出口での座標がとんでもなく移動してしまう。


だから俺が改良した新型移動魔法は、当然三次元での細かな座標設定プラス、本人が出口のイメージをきっちり持っていればそれも自動補正要素として加わるようにしてあるんだが。



デボラ「…なんだこれは。肝心の次元魔法のセンテンスを座標設定の言語と勘違いしていないか」


トビ「ひでえ…【異空間】を【行こうか】って記述してるぜ」


フィ「えーと…アルの説明を聞いた限りでのイメージなのだが。カスパーとやらはエイスでは珍しいおバカさんなのかい」


デボラ「うーん、たまにいるんだがマギ言語の適性はあるのに学科が苦手ってやつだろう。つまりおベンキョができないマギ言語使いってことだね」


全「…こりゃ落第だわ」



カスパーの使い捨て移動魔法の恐ろしいところは、それでも「奇跡的にギリギリ!」というラインで次元魔法の体裁を保っていたところだ。例えばゲートが意図せず数秒で閉じてしまうようなバグだと、最悪「使用者本人がスパッと切れて、数キロ離れた場所で半分ずつ死んでる」というような恐ろしい事故が多発していたはずだ。


だが何とか使用できるものの、その負荷に耐えきれるようなキッチリした構文ではないというのがミソだ。無理やり「次元魔法のセンテンス」と「座標をマーカーに定めるためのセンテンス」を兼任させているような構文なので、マーカーと繋げ続ける力が無理にかかって、次元魔法の方陣を使用後に崩壊させる。



デボラ「この分では、カスパーが移動魔法を量産できないというのは本当なんじゃないかねえ。一セットの値段がバカ高いから、セルゲイのように自重して量産できないフリをしていたのかと思っていたが」


藍「ヨアキムからでーす!『彼の演算領域はデミの穴ぐら程度しかありません』だそうでーす」


アル「あー…じゃあこの構文を自分で保持してがんがんコピーしていくなんて、できないだろうねー」


フィ「一応エレオノーラさんへも報告して、この奇跡の阿呆は放置でいいのではないかね?」


ヘルゲ「そうだな…だが今後、敵に不意打ちでこの魔法を使われてもイラッとするな。アル、カスパーの固有紋はこの魔石から採れるだろう?例の追跡方陣にカスパーの固有紋をつけて、使い捨て移動魔法の所有者を随時洗うことはできるか」


アル「楽勝~。カスパーの固有紋が付いた魔法も追えばいいんだよね。すぐ作るよー」


ヘルゲ「藍、カスパー専用の追跡方陣をミッタークとナハトへ入れるから監視と精査をしてくれ。頻度は一日一回でいい。移動魔法を購入した人物がいたら固有紋採取、データ蓄積用のサーバーを作っておくから、そっちに整理しておいてくれ。もちろん購入者の固有紋はマザーに照会をかけてからな」


藍「はーい!おまかせおまかせ~」


フィ「ふむ、こんなものかね?」


トビ「あー、バカは怖いよなって方陣見て、肝が冷えた」


全「まったくだ…」



このようにして、使い捨て移動魔法の件はミッションクリアという顛末になった。念のため現在の所有者を藍と翡翠で洗い出してリスト化したが、ほとんどが「ルチアーノ所有」だった。まあ、過去に購入した者はすでに使用して壊してしまったんだろう。数もそんなに多くないし、驚異と言うにはお粗末な規模だった。







*****






アロ「なるほど、カスパー放置でいいのはラクだね。じゃあ残りはメギドか。レジエ山麓の迷路洞窟だけどね、やっぱりエレオノーラさんから『面倒だからお前らがやれ』ってさ。ヘルゲに頼んでいい?拡散させる威力があるほうが強力にマッピングできそうだし」


ヘルゲ「おう、わかった。残党がいた場合は捕縛か?」


アロ「そだね、草原で預かるから通信してくれるかな」


オスカー「呼んでくれれば手伝うよ」


ヘルゲ「そうだな、じゃあ行ってくる」



俺はそのままレジエ山麓の迷路洞窟入口へ、透明化してからゲートで移動した。入口は申し訳程度に軍が封鎖しており、「KEEP OUT」という立札とロープ、そして蘇芳が展開したらしいレベル5の結界が張ってあった。


その結界はそのまま保持されているものの、どこに隠し通路があるかわからない洞窟だ。どう考えても他の出入り口があるんじゃないかと思うんだがな。



フィ『ヘルゲ、ぼくらが見つけた他の出入り口も一応封鎖はしてある。ぼくらは移動魔法があるから意味のない封鎖だがね』


ヘルゲ「なるほど。わかった、少し進んでから自動マッピングを展開しよう」



内部に入るとひんやりした空気が洞窟内に満ちていて気持ちいい。鍾乳洞のようになっていて、ガードが数百本ブラ下がっているみたいだな。だが湿度が高いのはいただけない…入口に近いから風があって気持ちいいだけかもしれん。


マナをドガッと錬成し、この広大な洞窟を3Dで表示するよう設定する。収束をあまり強力にすると拡散の衝撃で洞窟が崩れるだろう。なので程々という程度にしておいた。


…展開。


手の平に立体映像で構築したマッピング表示画面は、俺のマナが浸透していったところを模型のように形作っていく。第一階層…第二階層…標高でおおざっぱに区分けし、以前フィーネたちが探索して把握済みの通路はレイヤー表示して青く塗りつぶす。


ほぼ全てを網羅したか?と気を抜きそうになった時、黄色の光点が二つ出てきた。こちらに悪意を向けているわけではないので、どういう意図で潜っているやつなのかはわからんが。まあ立ち入り禁止の洞窟を許可なしにウロついているようでは、もちろん捕縛対象と見ていいだろう。



ヘルゲ「…二名ほど洞窟深部にいるのを発見。マッピングデータが完成してから様子を見に行く」


アロ『了解~。オスカー、準備しといてねー』


オスカー『ヘルゲ兄、草原は準備できてる。今からそっち行くよ』


ヘルゲ「おう」



黄色の光点はジリジリという感じで細い通路を降りている。その通路一本しか下層へ繋がっていないらしく、上層で網目のようになった洞窟を置き去りにしてグネグネと下へ伸びていた。


しばらくすると、下層でマナが一気に拡散したかのように巨大な空洞が現れた。正真正銘、そこが洞窟の行き止まり。やつらはこんな場所に資金をプールしていたのか?取りに行くのも数日がかりだろうに…


呆れつつアロイスへマッピングデータを送って、俺はオスカーと二人でこの深部を探索することになった。






  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ