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Three Gem - 結晶の景色 -  作者: 赤月はる
虹の輪舞曲
427/443

426 辛口な彼ら sideヨアキム

  






セルゲイさんのアトリエを出て、ちょっとフラフラ歩く私は例の娼婦に見つかりました。「あらあら、お疲れねえ。愛されてるじゃないのお」と邪気のない声で言うのはやめてください。同性愛を蔑視してはいませんが、私がそうではないというのを理解してもらいたいわけですよ。エステル、助けて。


ヘルゲさんに接続してマナ固有紋索敵をすると、ジンとキキは穴に戻っていました。ギィは…ああ、いま穴へ向かって走っていますね。物陰でゲートを開いて草原側へ行き、顔に火傷のあるヨアキムへ姿を変えました。



ヨア「こーんばんは」


キキ「…あれ、ヨアキム。珍しい時間に来るね」


ジン「…ほんとだな」


ギィ「おい、戻った…はぁ?どしたんだよヨアキム」


ヨア「お帰りなさい、ギィ。ちょっと三人に話があって…忙しいですか?」


ギィ「レーション一人一個で時間を売ってもいいぜ」


ヨア「ぷは、さすがギィ。いいでしょう、買いますよ」



そう言ってからすぐにレーションを渡したら、またギィに「お人好し」と叱られてしまいました。簡易テントを展開し、三人を中に入れて…さあ、正念場です。


彼らはどんな反応になるかな…おせっかいって、ギィに叱られちゃいますかね。



ヨア「えーとですね。ちょっと理由があって、三人に私の秘密を一つお教えしたいんです。どうでしょう、秘密を守っていただけますか?」


ギィ「聞いてもいないのに守れるかなんてわかんねーじゃん」


ヨア「えー、話した後でバラされたらすごく困ります。そしたら話せなくなっちゃいます…」


ジン「ギィ、それは無茶だ」


キキ「…そうだよギィ。私は約束してもいいと思う」


ギィ「ったくよ、お前らヨアキムのお人好しがうつってねえか。俺はこいつに駆け引きっつー言葉を教えてやりてえよ」


ヨア「あは、そんなに怒らないでくださいよギィ。なるべく気を付けますから」


ギィ「しょーがねえな。わかったよ秘密にしてやる。で、何だよ?」


ヨア「ありがとう三人とも。えっとですね、ギィは私が元々どういう姿だったか見ているから知ってますね。ジンとキキはこの火傷の顔が本来の私ではないことは聞いてますか?」



三人はコクンと頷きました。なので私はスウッといつものヨアキムに変わりました。服装も変わったので、全員驚いていますね。



ギィ「その火傷…何かの作り物を貼りつけてるんだと思ってた」


キキ「服、変わった。ヨアキムはどこかのお金持ちなの?」


ジン「水晶、確かにたくさん持ってそうだ」


ヨア「ぷは、そんな風に見えますか。そんなお金持ちとかじゃないんですよ。でも最近商売はうまく行っているので、普通に暮らす分には充分なお金を稼いでいます。それでですね、秘密にしてもらいたいのはコレなんです」



私が魔法師団長の姿へ変わると、途端にギィもジンもキキを背に庇ってズザッと下がります。

うう、ちょっとその反応、悲しい。



ヨア「私はね、変装の魔法が使えるんです。これはかなり特殊な魔法ですし、デミで知られたら犯罪に使われるだけなので秘密にしてほしいんですよ」


キキ「…ヨアキムの声」


ギィ「お、驚かせるな!」


ジン「…この人、見た。この前フェイを庇った時、近くにいた。あれがヨアキムだったのか」


ヨア「あは、その通りです。目の前でジンが撃たれたのを見たっていうの、嘘じゃなかったでしょ?ほら最初の頃ギィに言われたじゃないですか『カモられて当然な、弱っちいノータリンに見える』って。だから知り合いでちょっと屈強そうな人に変装してデミを歩いていたんです」


全「…納得」


ヨア「ひどいなあ…なのでね、この姿はデミにおける『ヨアキム』なんだって、三人には知っていてほしくって」


キキ「…ん、わかった」


ギィ「んで?話ってそんだけ?」


ヨア「えーと、まだあります。三人とも、ケイオスって知ってますよね」


ジン「知らないわけ、ないよ」


ヨア「えっとですねえ、私ってばそこのボスとお友達になっちゃいました」


ギィ「…何言ってんだお前。俺たちの知ってるケイオスと絶対違うと思うぜ?何かのバッタもんみたいに実は『ケイウス』とか言われてダマされてんだよ、目ェ覚ませ」


ヨア「ギィの私への信用の無さが辛い」


キキ「…どんな人?どこで会ったの?」


ヨア「えっと、デミのど真ん中のブロックにある、真っ白い大きなお家に呼ばれました。鋭い鷹みたいな目のスラリとしたおっさんで、ルチアーノって言います」


ジン「ホンモノ…」


ヨア「ええ、それでね。私の仕事は木彫り職人みたいなものなんですが、デミの中で作業できるようにメゾネットを使っていいって言われたんです。あの…イヤじゃなければ三人ともその仕事を手伝ってくれませんか?もちろん出来高で賃金も払います。そんなことはしたくないって言うなら無理強いは決してしませんし、やりたいことが見つけられるようにお手伝いはします。でも、その、もし良ければ…」


ギィ「グダグダうっせえ。アホか、その話をケるやつがどこにいるんだ」


ヨア「え、ほんとに!?」


ジン「うん、そんなうまい話は、普通はない」


キキ「…ん。その辺の大人に言われても絶対信じないけど、ヨアキムが言うから信じる。私もやりたい」


ヨア「…ジンも、いいんですか?」


ジン「うん。俺、頑張るから、仕事」


ヨア「よ、よかった…ああ、でもルチアーノがね、私の所で働いている子供に何か目印を付けろって言うんですよ。それがあるやつに手を出すなって言えるからだそうですが。何がいいと思いますか?」


ギィ「目印…まあ、そうなるよな。大人は指輪とか、飾り物つけてるけど。俺たちじゃソレ奪われたらお終いだからな…」


キキ「…そうだね。指輪なんてしてたら指ごと切り取られちゃう」


ジン「ヨアキム、その姿の時ってもしかして彫師のとこに通ってた?」


ヨア「ええ、よく知ってますねえ」


ジン「娼婦が『おカタイやつがいる、でもゲイだったから仕方ない』ってこの姿のヨアキムを指さしてるとこ、見た。そんで、彫師の仕事場に入っていった」



三人の了承が得られたから嬉しくて浮上しかかっていた心が、また撃沈です。

七百年後って、甘くないですね…



ヨア「うー…それ、娼婦が誤解しただけなんですよお。娼婦も買わず、酒場にもいかないでウロウロしてる私が彫師のところへ行ってるから。えっと、違うんですよ?私はルチアーノの前に彫師のセルゲイさんとお友達になってたんです。それでおしゃべりしに通ってただけなんですよ」


ギィ「ンな必死に弁解すっと、真実味がどんどんなくなるぜヨアキム」


ヨア「ギィったらいつも辛口すぎます…」


ジン「ヨアキム。刺青が目印になると思う」


ヨア「…その案は、確かにルチアーノも言っていました。でも、すごく痛いんですよ?セルゲイさんのところに来るお客さんは、いつも悲鳴を上げてます。そんな痛いこと、三人にさせたくありません」


キキ「…でも、刺青なら死なない。ちょっと我慢すれば、ケイオスの守りが入って、私たち、殺される心配が少なくなる」


ヨア「…ちょっとセルゲイさんに相談させてください。子供が刺青をする危険性とか…痛みを少なくする方法とか…いろいろ、考えて来ます。だから、もう少し待ってください。でも、少しすれば守りが入るからって、絶対気を抜かないで。あと数日って思ってその間に三人に何かあったら…こ、この前以上に私は泣きますよ?いいですね、絶対ですよ?」


ギィ「ほんっとにお前グダグダうっせーなー。しかも脅しの内容が『泣くぞ』って何なんだ、意味わかんねえ。心配すんな、そんなこと俺たちはよく分かってる。ラスと同じ轍は踏まねえよ。な、二人とも」



ジンとキキもうんうんと頷きます。ああ、一日も早く刺青対策を考えなくっちゃ。

あ、そういえば何のデザインがいいんでしょうね…

それも考えましょう、うん。


私は三人と別れ、いつもより深夜に近い時間帯で猫の庭へ戻ります。

そして小声で「ただいま戻りました」と言って一階へ入ると、まだリアさんがクレアをあやしながらパティオにいました。



リア「おっかえりヨアキム。オスカーに聞いたわ、デミの子供への刺青を考えてるんですって?」


ヨア「ええ、そうなんですよ。あんな痛い思いをさせたくないんですけど…当の三人も刺青が一番いいって言うんです」


リア「あらー、さすがデミの子は覚悟が違うわね!えっとね、一応調べたけど部分麻酔とかはあまり効果ないみたいよ。でも全身麻酔なんて逆にそれが原因で死んだり障害が残る危険もあるからやらないんですって。痛いのこそ刺青っていう感覚っぽいわね」


ヨア「うー、やっぱりそうなんですか…」


リア「気落ちするのはまだ早いわよヨアキム。学舎のヘルミーネ先生っていう治癒師がいるんだけど、相談してみたの。そしたら治癒師で腕のいい人なら『痛覚遮断』っていう魔法が使えるらしいわよ。ほら、産院で無痛状態で分娩してるでしょ、アレよ。それで、彫り終わって数時間したら治癒魔法かけるんですって。そうするともう色が定着した後だから、傷が塞がるだけで刺青は消えないだろうって言ってたわ」


ヨア「ほんとですか!ありがとうリアさん、それなら治癒師の手配さえなんとかなればできますね!よかったー、ホッとしました!クレア、あなたのお母さんは本当に頼りになりますねえ!」



大人しいクレアのほっぺたをツンとつつくと、クレアはきゅっと私の指を握りました。

ええ、約束しますよクレア。

私はあの三人を死なせたりしませんからね。







  

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