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Three Gem - 結晶の景色 -  作者: 赤月はる
虹の輪舞曲
426/443

425 ケイオス③ sideヨアキム

  






ルチアーノから流れて来るマナは、相変わらずの極北状態です。これでチラッと白クマでも出てきたら可愛げもあるんですがね。ですが、さっきまではなかったクレバスが見えています。やはり孫の幻影が功を奏しましたね。


ご苦労様、紅、藍、翡翠。

この前の「秘匿したい情報ダダ漏れ事件」はこれでチャラにしてあげましょう。



ヨア「それで、移動魔法は売ってくれるんですか?」


ルチ「…お前、ほんとにそれしか興味ないんだな」


ヨア「そーですよ?ルチアーノにはこれっぽっちも興味ありません」


ルチ「つれねえな。だがせっかくこうして知り合えたんだ、これ以降もいい友好関係を築きたいと思っても、おかしくないだろう?」


ヨア「友好関係ですかぁ~?だってルチアーノはセルゲイさんを囲ってるんでしょ、デミから出たらひどい目に遭うって聞いてますけど」


ルチ「セルゲイの力量で手に入れた自由がデミの中だったってだけだろ?」


ヨア「ふう~ん。まあさっきのカスのカスパーは好きで囲われてるんでしょうからどうでもいいですけど。セルゲイさんは約束を守る人なのに、デミの中限定だなんてね。優秀な人材を脅すことでしか縛れない、ケツの穴のちっせー男と築く友好関係なんてありませんってば」


ルチ「くく…お前、言うなあ。じゃあセルゲイに自由を与えてやればお前は俺と付き合う気はあんのか?」


ヨア「さっきから『俺のものになれ』だの『付き合う気はあるか』だの…そんなのは女性に言ってくださいよ。この前から私は男色疑惑で苦労してるんです、口説き文句を間違えてますよ?」



ルチアーノは笑うと、「なるほどなあ」と言いました。そして、調停能力者の本気を出し始めたのです。それは「こんな正解を出せるなら、最初から出しておけばいいのに。これだからマフィアは面倒です」と私に思わせるものでした。



ルチ「ヨアキム、俺と友人になってくれ。お前に何の無理強いもしない。デミにいる間は俺の力が及ぶ限りお前や周囲の者に手出しはさせない。何なら、デミでゆっくりできるようにデミ中心部のメゾネットをお前用に誂えよう。そこを自由に使って、何かあれば俺に言ってくれ。友人の頼みはなるべく聞く」


ヨア「はあ…ずいぶんとまた、私に甘い高待遇で。どうしました、何の心境の変化です?」


ルチ「お前との繋がりを断ちたくないだけだ。こうでもしないと、お前は刺青が仕上がればデミからいなくなるだろう?俺はお前みたいなやつは好きなんだ。俺も含めて、誰も一人で立つことなどできないのがこの世界だ。デミではユニオンを作り、巨大にならなければツブされる。その辺にいくつもある小規模なファミリーは、中途半端に集まるからヘタを打つんだ。だがお前は、一人で立てる技量がある。男なら、本来そうありたいだろ」


ヨア「ふうん…でも私がそのメゾネットを貰っても、たまにしか行かないと思いますけど?」


ルチ「それでもいい。その代わり、ここにも顔を出せよ。俺を少しくらい友人候補にしていいと思うなら。どうだ?」



ルチアーノは眉尻を下げ、これくらい大負けに負ければ文句ないだろ?と肩を竦めました。


ふむ…まあいいでしょう。



ヨア「合格です、ルチアーノ。あなたと友人になりましょう。えーっと、じゃあ移動魔法の購入とセルゲイさんの行動の自由に関しては問題ないんですね。今日は現金を持ってきてないので、後日またここへお邪魔しますよ。あー…あと、もう一つ聞きたいことがあるんですけど」


ルチ「おう、何だ?」


ヨア「そのメゾネット、せっかくですから木彫りのアトリエにしたいなって。それとちょっと人手がいるんですけど、デミで私が適当に見繕っていいですか?」


ルチ「…人手ならこっちで出すが?下手なやつに声を掛けると面倒なことになるぞ。力仕事か」


ヨア「いえいえ、小間使いみたいなものです。デミの浮浪児でちょっとすばしっこかったり頭が良さそうな子を見繕うのもいいかなーと」


ルチ「あー、好きにしろ。だがその小間使い、何か目印になるものがないと殺されても文句は言えないぞ?」


ヨア「えー、目印って例えばどういう?」


ルチ「それこそ刺青だの、服装だの、何か考えろ。それをこっちに知らせてくれりゃあ、手出しすんなと俺も言えるだろ」


ヨア「なるほど…わかりました。ありがとうルチアーノ。そうだ、カラ魔石を小さ目でいいので二個ほどもらえません?」



ルチアーノはパチンと指を鳴らすと、さっきの護衛さんにカラ魔石を持ってこさせました。簡単なマギ言語を組み、どちらかの魔石にマナを流せば、もう片方が光るようにしました。



ヨア「私に用事がある時は、これでお知らせください。なかなかいい『調停』でしたよ?」


ルチ「っは!俺のボロ負けだってんだ。用事がなくてもヒマな時は遊べよ」


ヨア「はいはい。ではまた」



ルチアーノはデミの人間らしい切り替えの早さで、さっきの不愉快な私のお仕置きを水に流したようです。あ、違うかな…デミの人間だから、大きな力に逆らわないのが普通なんでしょうかね。








ようやくケイオスの事務所を出た私は、大っぴらに声を出して歩けないので紅に思考を読ませて猫の庭の皆と話し始めました。つまり、私の思ってることを向こうで紅にしゃべらせてるんですよ。



アロ『やったじゃないかヨアキム。なかなか凝ってたねえ』


ヘル『お前、魔法制御力が中佐以上じゃないか。あんな大規模に“変形”できるなんて思わなかったぞ…』


ニコル『ねえねえ、メゾネットはジンたちの避難場所になるんでしょ?いい考えだねえ』


ヨア「ふふー、その場の思いつきですのでね。ジンたちがそれでいいって言うなら、その方向で考えようかなって。もしイヤだって言われても、グラオでデミの潜入用にいい拠点ができるかと思ったんですよ~」


コン『いや~…ケイオスとのバランスも考えなきゃいけねえトコはあるが、正直言って楽になるなんてもんじゃねえぞ?デミの情報取り放題だし、今後は中堅マフィアなんてやりにくくなる一方だ。ケイオスが手出しを控えているような悪質すぎる部分に危険を承知で突っ込んでくのが中堅なんだからな』


アルマ『キムキム!ねえ、制服作るの?ジンたちの制服作るって言ってぇ!』


ヨア「アルマさん、それは無理があるかと…まあ、ゆっくり考えますから」


カミル『あー、制服はやめた方がいいぞヨアキム。盗まれて悪用される心配をしなけりゃいけなくなる。それよりセルゲイに頼んで刺青を入れるのが正解だ。ジンたちに痛い思いをさせたくなきゃ、俺らで対策考えてもいいしよ』


アルマ『カミルの裏切り者ォ…ッ』


オスカー『なあ、さっきヨアキムが笑気ガスもらったじゃん。麻酔打って刺青なんて危ないかな?それとも治癒師に傷を治してもらったら…一緒に刺青も消えちゃうかあ。ちょっとリアに何かいい方法がなさそうか聞いておくよ』


ヨア「ふふ、皆さんありがとうございます。私、ちょっとこのままセルゲイさんのアトリエと、ギィたちのところへ行って話してみますね。少し帰りが遅くなりますけど、ごめんなさい」



通信を終えて、そのままセルゲイさんのアトリエへ入って行くと。



ガシィッ!



ヨア「うわ!セルゲイさん、びっくりしたあ…」


セル「ヨ…ヨアキム、お前、無事か?どこもケガしてねえか!消毒薬だけならあるぞ、どこ殴られた!」


ヨア「どこも殴られてませんよお~。心配してくださってありがとう、セルゲイさん」


セル「ま、まじか…じゃあ誰か人質に取られたとか?」


ヨア「あは、なーんにも。ルチアーノとは話が合いましてね、友人になっちゃいました。そしたら移動魔法も売ってくれることになったし、セルゲイさんの行動の自由も保障してくれるって言ってましたよ。まあ、デミに戻って来ることが前提でしょうけど。きっと、里帰りできますよ」



セルゲイさんはポカンとした後、「まっさかー、お前も冗談が好きだな」と笑いました。まあ後でルチアーノから直に話があるでしょうし、その時信じてもらえばいいですかね。


私は預かってもらっていた魔石などの荷物を受け取ってから、はたと思い出しました。



ヨア「そうだセルゲイさん。私の本当の姿、お見せしておきますね。ルチアーノにはナイショにしてください」



すうっと私が元の姿に戻ると、セルゲイさんは目を丸くした後で今度はため息をつきました。



セル「お前、その格好でデミをうろつかなくて正解だ。しかもボスにそれ見せてたら、骨の二・三本簡単に折られて、監禁コースだったんじゃねえか?うん、さっきのヨアキムの方が安全だ。しかも酒場でベタベタしなくたって俺のオンナ判定受けてたと思うぜ?そんなガリガリが刺青した所で箔なんてつかねえし、ならどういう用事なんだってことになるだろ。そしたら自動的にセルゲイのオンナだって結論が出る」



私はがくりと膝をついて項垂れてしまいました。


今日一番痛い攻撃をしてきたのは、セルゲイさんでした…






  

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