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Three Gem - 結晶の景色 -  作者: 赤月はる
虹の輪舞曲
420/443

419 こぶしをコツン sideヨアキム

  






私は今、とっても、とっても恥ずかしい気持ちで俯いています。


だってギィたちの前で、彼らよりも子供っぽく泣いてしまったからです。


しかも困り果てたギィがアワアワしながら「泣くな、泣くなって。お前大人のくせにぃ~…ジン、お前何やったんだよお~」と私の顔を覗き込んだり、周囲を落ち着かなさげにウロつきます。


キキは穴の中へ入って行き、以前着ていた破けた服を持ってきました。目の前でそれを見事な水球へ入れてじゃぶじゃぶと洗い、惜しげもなく引き裂いてから乾かして、そっと目に当ててくれます。


…こんなことされたら、涙が止まる訳、ないでしょおおお…




ようやく落ち着いて泣き止んだ私は、恥ずかしさに顔を上げられない状態になっているわけでして。



ヨア「あの…ごめんなさい、泣きすぎました」


ギィ「驚かせんなって…なんだよ、どっか痛いか」


ヨア「痛くありません…」


キキ「…悲しかったの?」


ヨア「悲しくありません…」


ギィ「じゃあなんで泣いてたんだよぉ~、ワケわかんねえなあ!」


ジン「ギィ…たぶん、俺のせい」


ギィ「だあぁぁ、だからお前何やったんだって、さっきから聞いてんじゃん!」


ジン「…フェイが、ギドの金を獲物にしたんだ」


ギィ「はぁ!?くっそ、あのチビは身の程知らずだな!んじゃ殺られたんだな?どうせ指弾撃ってきたんだろ?」


ジン「いや、俺…つい、体が動いて、フェイを庇った」



ギィはいきなりジンの胸ぐらを掴むと、青ざめた顔でブルブル震え出しました。



ギィ「…お前…結界持ってるからって過信しやがって!何様だよ、フェイは自業自得じゃねえか!殺し専門のやつに手ェ出すなんて、あのチビがバカなんだ!勝手に死なせとけよ!」


キキ「ギィ…やめて。ジン、きっとわかってる。ね?」


ギィ「…くっそ!ジン、誓えよ。次にあのチビがヘタ打っても、絶対助けるな。バカは痛い目見るか、死んだ後にしか気付けねえ。…俺にはあんなバカより、お前が生きてないと辛ぇ」


ジン「…ん。わかった。誓う」



ギィとジンは拳をコツンと合わせました。そしてジンはキキへも拳を出して、同じようにコツンと合わせました。私が先生役なんてしなくても、この三人は自分たちで答えを出しました。


三人はそれぞれが納得できたみたいで、サラリと落ち着きました。この切り替えの早さ、毎日命の危機と背中合わせに生きる者ならではですよね。私は三人の絆を見てほっこりし、ウンウンなんて笑って頷きながら見ていました。


すると、三人が揃って私の方を向きました。



全「ねえ、何であんなに泣いてたの?」



うぐぅ…!!


そ、そこはスルーしてくださらないんですかッ


私はそれこそさっきのギィよりも泡を食ってオロオロしてしまいます。

あああ、魔法制御力なんて磨く前に、涙腺の制御力を鍛えておくんでした。

恥ずかしいぃぃぃ…



ヨア「…私の目の前で…ジンが、指弾に撃たれたんです」


全「…それで?」


ヨア「…ジンが死んだと思いました」


全「…それで?」


ヨア「…生きてたから、ホッとして、泣きました」


全「…それだけ?」


ヨア「そ、それだけってことはないでしょ!?だって、ジンってば目に指弾が当たったんですよ!?それで、頭をのけぞらせて、倒れたんですよ!?そんなの見たら、弾が目から入って脳みそぐっちゃんぐっちゃんだと思うに決まってるじゃないですか!!」


ギィ「…そういや何でお前生きてるんだ、ジン」


ジン「…さあ」


キキ「目じゃなくて、鼻に当たったんじゃない?アザ、ある」


ギィ「あいつの指弾、青アザだけで済むかぁ?」


ジン「 …? 結界、出してたぞ」


ヨア「うー…うー…えっとですね、あの男の指弾は、結界をやすやすと突き破りましたよ。それで、ジンの眼鏡に当たって助かったんです。あの指弾を防げる結界ではありませんから」


ギィ「…結界は破ったのに、眼鏡で助かった…?なんだそりゃ」


キキ「ジン、眼鏡、見せて」


ジン「…ん」



キキは眼鏡をじーっと見ると、ん?と首を傾げて私を見ました。



キキ「ヨアキム…この銀色のところ、方陣、あるね」


ヨア「キキは、これがわかるんですか」


キキ「…えっと、この眼鏡…とっても強い?割れない気がする」


ヨア「驚きましたね…そうです、その眼鏡のフレームには方陣が仕掛けてあります。レンズが水晶で出来ているので、簡単に割れたら危ないですからね」


全「す、水晶…」


ヨア「どうしました?」


ギィ「お前さぁ…俺たちに結界の方陣用で三つも魔石くれたろ?んでジンの眼鏡用に二個は魔石ツブしたかどうかしたんだろ?んで、指弾食らったってことは使い物にならなくなって…この眼鏡、二つ目なんじゃねえの?合計で…えっと…」


キキ「…七個」


ギィ「そーだよ、七個も水晶を俺たちに使ったってことじゃんか!ほんっとお前、バカな~!」


ジン「…俺、なんか怖くて眼鏡かけらんない。この眼鏡、水晶製なんて他のやつらにバレたら絶対ヤバい…」


ヨア「えぇ~!ダメですってば、眼鏡がなきゃ危ないでしょ。また周囲が見えなくて動きが鈍っちゃうじゃないですか!せっかく放出精度も上がってきたのに!」


キキ「でも…こんなキレイなレンズの眼鏡、水晶じゃなくても危ないかも…?」


ヨア「うー…わかりました!ジン、その眼鏡を貸してください」



私は眼鏡のレンズに誤認の方陣を仕掛けます。このレンズが、パッと見はヒビ割れて薄汚れたものに見えるようにするんです。でもジンはキレイな視界が保たれますからね。こういう時にレンズが水晶だとラクに方陣が入りますね。


ジンは「眼鏡がさらに高価になりすぎて重く感じる…」と言い、ギィは「何なんだお前、何でそんなに俺らに甘いんだ」と不機嫌になり、キキは「ヨアキムすごい」と素直に褒めてくれました。



おっと、そうだ。これを伝えておかないと彼らも安心できませんよね。



ヨア「えっと、さっきギドとか言ってましたっけ、その指弾使い。そいつは軍に目を付けられていたようでしてね、たまたまジンを襲った後に見つかって捕縛されました」


全「えー!」


ヨア「…えっと、弟もいるんでしょ?そっちはどっかの山の中で殺しに失敗して、死んだって言ってましたよ?」


ギィ「うは、リドは死んだのかよ!?やった、助かったなキキ!つか、よくあんな三流が捕縛なんて生易しい方法で終わったもんだよな。ぜってーデミの制裁でボロボロになって死ぬって思ってたのに」


ヨア「あー…あはは、生易しいですか」



…ちょっと、生易しいとは程遠い状態のギドの姿を思い出しましたが、私は都合の悪いことを忘れることにしましたよ。



ジン「ギドは大人には敵わないことがあるから、イラつくと子供を嬲り殺す。リドはロリコンで、チビの女を襲う。…生易しい」


ヨア「…なーんですってぇ~?」


ギィ「キキの破れた服あったじゃん?あれ、リドにやられそうになったんだぜ?」


ヨア「…ちょっと私、用事を思い出しましたよ…」



私がユラリと立ち上がると、キキが「ヨアキムの結界で助かったの。そんなに怒らないで」と私の服を掴みます。ギィはそんなキキを見て「キキ、お前こんなガリガリ男に何の心配してんだよ。魔法はすごくてもギドに腕掴まれただけで骨がポッキリだぜ?帰るんだろ、またな」と少し失礼だなってことを言いました。


そしてジンは、じっと見ていた眼鏡をかけ直して、何かをためらった後、そっと私に向かって拳を差し出しました。



ジン「あのさ。俺のために泣いたんだろ。もう、あんなに泣かさないから。誓う」


ヨア「は…はは、もー…ジンは酷いですねえ。誓ったそばから泣かせないでくださいよお…」


ジン「ごめん…」


ヨア「ふふ、嘘ですよ。嬉し涙はノーカンでいいでしょ?」


ジン「…ん」



私はジンとコツンと拳を合わせ、三人と別れました。ジンの拳と触れあった時にその手が温かくて、その熱が移ったみたいな気がして、私は右手の拳を左手で包みながら猫の庭へ戻りました。






*****





ヨア「ただいま戻りましたー」


コン「おーう、おけーり!」


カイ「よし、もう泣き止んだな。あの殺し屋兄貴の方、がっつり殴っといてやったからな」


カミル「刺青も使い物にならないように剥がしといてやったからな!」


ヨア「…剥がす…なかなかのスペクタクル・ショーを披露したんですね。残念です、見たかったなあ」


アロ「あれ、まだ物足りなかった?ごめんね、もう黒に引き渡してきちゃったよ」


ヨア「あー、いえいえ。ありがとうございました皆さん」


オスカー「どうしたんだよ?消化不良って感じの顔してんな、ヨアキム」


ヨア「んーと、あの兄弟ってギドとリドって言うらしいんですけどね。ギドはイラつき解消の子供殺し、リドは幼女を暴行目的で襲ってたみたいで。キキが服を破かれたの、リドのせいだったんですよねえ…あんな綺麗な刺し傷で一発昇天だなんて…黒は優しすぎです。何で捕縛して拷問しなかったのかな…」



全員が「マジか。あの弟、生き返らせてから俺たちのフルコース食わせてやりてぇ…」と怒気を漲らせます。私の気持ちがわかってくれましたか!と思って嬉しくなり、皆で「ねー、まったくラッキーな死に方ですよねー」なんて言っていましたら。



リア「もー、物騒な話ばっかしてるわね!そんな時は…コレよ、ヨアキム」



リアさんは私に降霊魔術書ネクロマンシー・グリモワールのデータをスッと見せました。


えー…そんなインチキ本…本気ですかリアさん。



リア「これでそのゲスい弟の魂を降霊して、ギッチギチに締め上げて地獄へ送り返してやればいいと思うわ!」


ヨア「…リアさん。その本、昔のトンデモ研究です。それをどう読み解こうとも、降霊なんてできません」


リア「…うっそぉ…だって、この本は紫紺の富豪のコレクションから流出したって…」


ヨア「他にどんな本があったんですか?」


リア「憑依魔術書ポゼッション・グリモワールでしょ、悪魔憑依魔術書サタノファニー・グリモワールでしょ…」


ヨア「それ全部、インチキ研究書です。その富豪って、ギャグで収集してたんじゃないですかねえ」


リア「ギャグ…」



リアさんは焦点の合わない目になって「アルが本当の情報をクレって思った気持ちがよくわかったわ…」とフラフラして部屋へ帰って行きました。


その日はオスカーさんがリアさんを浮上させようと大変な思いをしたそうです。

重ね重ね申し訳ありませんでした…







  

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