表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/443

42 金糸雀の昔話 sideニコル


少しためらってから、ヘルゲ兄さんはようやく話はじめた。



「お前の瞳の白斑なんだがな」


「うん」


「七百年ほど前までは、そう珍しいものではなかったのかもしれん」


「え、そうなの…?」



静かに頷くと、ヘルゲ兄さんは昔話をはじめた。





昔、白縹の人口が他の一族と同じくらいには多かった頃。

山奥で隠れるように暮らしていた白縹はどういう理由からか里へ下り、同時にその頃から瞳の結晶を目当てに乱獲される憂目にあった。


逃げるように隠れながら暮らすうちに段々その数を減らし、とうとう修験者様…『紅玉』が立ち上がった。


紅玉は、仲間数人と宝玉狩りの国相手に勇敢に戦った。


彼の仲間も強い能力を持っていて、白霧ミストを瞳から無くした純粋な「宝石」を持っていた。

さらにその中の数人は紅玉と同じ・・・・・白斑ビットの盾」を持っている「宝玉」だった。


とても強い魔法をたくさん撃って、どんどん進んでいく紅玉たち。


でも、敵も必死だった。

何人もの魔法使いが一緒になって、禁断の魔法を使った。

それは、心を破壊する魔法。


紅玉は、これでは「白斑の盾」を持っていない宝石たちが全員死んでしまうと思い、自分の「白斑の盾」で宝石たちを守ったまま、自分は盾なしで単身城へ突っ込んで、敵を倒した。


仲間たちが駆け付けた時には、心の砕けた紅玉だけがそこに立っていた。


仲間は嘆き悲しみ、残った宝玉たちは「白斑の盾」の力を使って、宝玉狩りの国へ大きな魔法をかけた。

それは悲しい歌のようで、やさしい波のようで、その国の全ての人に届いた。

でもその大きな魔法のせいで、宝玉たちも心が壊れてしまった。


壊れた紅玉と宝玉を連れて、残った宝石の仲間はどこかに消えていった。


その後、宝玉狩りの国は争いのない平和な国として、今もひっそりと世界のどこかにあるという。





昔話が終わると、ヘルゲ兄さんはそっと私を見つめた。



「…ニコルはこの話を、どう思う?」


「んと…なんでヘルゲ兄さんに白斑がないんだろうって思ったのと、私の白斑って自分を守るだけの盾なんじゃなくて、仲間も守れるかもしれないんだなってこと…かなあ」


「…そうだな、なんで俺にはないのか、ニコルは不思議に思うだろうな。だが、この話は正確かどうかわからない。白縹に伝えられる修験者の伝承とは、細部が違っているだろう?」


「うん、そうだよね。修験者様に白斑があったなんて話、伝わってないもの。というか、誰も白斑を見たことも聞いたこともないって、言うよね」


「俺はな、ニコルのそれは一種の先祖返りかもしれないと思っている」


「…あぁ~、そっか…昔はいっぱいいたけど、人口が激減しすぎて、伝承とかも途切れた可能性、あるよね」


「ああ。いま話した昔話は、白縹のものではなくて金糸雀かなりあ一族の童話なんだ。白縹で途切れた伝承が金糸雀で継がれていた可能性もあるし、逆に外部の伝承だから不正確かもしれない」


「なるほどね~、金糸雀は芸事に優れてて、語り部もいるって言うしね…あ、それに…いまのお話だと、宝玉全員が白斑を持ってたことになってるね」


「…宝玉の資格が白斑ビットを持っていることが条件だと仮定すると、今までマザーに認定されてきた宝玉というのは、何を基準に・・・・・判断されてきたんだってことになるな」


「ほんとだ。よくわかんないねぇ?でも、ヘルゲ兄さんに白斑があったらお揃いだったのにね!残念~」


「…そうだな、お揃いだったら、よかったな」



そこまで話すと、ヘルゲ兄さんは私を抱え上げ、また膝に乗せた。

…あ、これが落ち込んだ原因??



「ヘルゲ兄さん、白斑がなくて落ち込んでたりする??」


「…ああ、少しな」


「あはは、変なの!私は白斑があるから落ち込むのに~。ヘルゲ兄さんはすっごい魔法使いじゃない。ヘルゲ兄さんが紅玉なのは、白斑がなくても、誰が何て言っても変わらないよ。ヘルゲ兄さんは、すごいんだよ?」


「そうか、すごいか」


「うん、すごい」




ヘルゲ兄さんは薄く微笑むと、ようやく思いついたみたいに言った。



「あー、コンラートに解毒かけるの忘れてたな…」


「…さっき気持ち悪いって言ってたよ?コンラート兄さんにあんまりイジワルするの、やめてあげてね?」


「…あいつの態度次第だ」


「もー、すっげー仲良しなのに、そんなこと言っちゃダメだよ」


「…善処する」



また少しムクれて、私の頭を撫で始める。

気持ちいいけど、もう子供じゃないんだけどな~。



「うーし、復活!あー、まだニコルちゃん捕まってたんか」


「…コンラート兄さん、もう大丈夫なの?すごいね、お酒強いの?」


「おー、アルコール分解能力は高いぜ!まあ、気持ち悪くはなるんだけどな」


「…ちっ」


「おい…聞こえてるぞヘルゲ…」


「ヘルゲ兄さん…」


「…善処する」




うん、ヘルゲ兄さん、もう大丈夫かな。

コンラート兄さんの明るいところが、すごく頼もしいな。



今日、宿舎に帰ったらみんなに教えてあげよう。

ここはあったかい家で、間違いなく三人の兄さんたちは「スッゲー仲良し」だったって。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ