412 スクランブル sideヘルゲ
エルンストからの通信が途切れ、こちらから発信してもエルンストが反応しなくなった。それを聞き、全員が弾けたように動き出した。
アル「ヘルゲさん、俺とトビアスでこの前のと同じ追跡方陣作ってくる!」
トビ「ユリウス、ツーク・ツワンクのサーバー借りるぞ!エルンストさんの固有紋を採取する!」
コン「現場へ様子見に行けるやつ集合しろ。全員で透明化してから町を散開して探すぞ。エルンストの座標がわかったら知らせろよ」
ユリ「アロイス、さっきアルノルトたちと話してて、あの時に敵の逃げた方向がおかしいよねって言ってたんだ。北方砦の30km南、主要街道上だ」
アロ「わかった。フィーネ!ちょっとこの情報分析してくれる?」
ヘルゲ「アロイス、フィーネとユリウスは借りるぞ。ナハトにもぶち込む」
マリー「私、エレオノーラさんにこの件の捜査が黒でどこまで進んでるのか聞いてくるわぁ」
ニコル「水脈にいる精霊に何か見てないか聞いておくね!」
防御手段を持たないエルンストが心配だ。まさか移動魔法持ちのやつがわざわざ犯行現場に戻るか?長とアルノルトたちが温泉へ行ったのは先週だ。一週間あけて、またあの町へ?しかも死んだ男に似ているというのがどういうことか俺たちにはわからん。
不確定要素に情報不足。長の敵対者を討つ必要はなくても、今はエルンストの身柄確保が最優先だ。何もなければ笑い話で済むんだがな。
一階のコンシェルジュ端末を使ってガンガン情報を入力していく。Kleine Nachtから入れた情報は開発部屋のNachtへダイレクトに行くので、全員の動きを見ながら考察させるには使い勝手がいい。
ニコルは温泉地だからと、水脈にいる精霊へエルンストを探すように頼んでいた。結果はあまり芳しくなく、エルンストが行った湯治場とサウナの足跡が追えただけだった。だが諦めずに今は風脈にいる精霊へ聞いている。
そこへアルとトビアスが魔石を持って、「ヘルゲさん、できた!ヘルゲさんの出力で探してー!」と走ってきた。俺が受け取って起動すると、エルンストのマナ固有紋を追って二つ目のフォグ・ディスプレイの中の地図が猛スピードで流れる。
ピタリと止まったと思ったが…ゆっくり、ゆっくりとエルンストの光点は街道を南へ向けて移動していた。この速度は…馬車かもしれん。だが、固有紋の反応があるということは、エルンストは生きている。
ヘルゲ「グラオ・オープンチャンネルへ通信。エルンストは現在主要街道を馬車のようなスピードで中央へ向けて南下中。座標を送るが、馬車を走っては追えないだろう。誰か一人車体へ取り付いて内部を見られないか?」
ユッテ『はいよー、立候補!ヘルゲ兄、馬車の現在の位置じゃなくて、三十秒先の到達予測地点を送って!』
ヘルゲ「了解。5秒後に座標を送る。…3、2、1、GO 」
ユッテはその俊足を活かし、ゲートが開いたと同時に走り出す。エルンストの光点がユッテの光点に追いつき…一か所にまとまって移動し始めた。
ヘルゲ「ユッテ、よくやった。簡易グローブでカミルに接続、カイと共鳴しろ。カイ、俺たちも共鳴するからな」
ユッテ『了解』
カイ『おー、いいぜー』
ユッテの見ているものの情報が流入してくる。並列コアをフル稼働させて、手元はクライネ・ナハトへ入力し、目はエルンストたちの座標を追いつつ、脳内に流れるユッテの視覚情報を処理していく。
ユッテは馬車の側面に刻印してある所有者コードを見てから、御者の顔を確認。そして後部の幌の隙間から見える範囲で内部を見渡す。俺は口頭で紅への指示を出した。
ヘルゲ「紅、分体への侵入を許可する。露草へ行って、この馬車の所有者を洗え。藍、蘇芳分体への侵入を許可する。この馬車の盗難届が出ていないか確認しろ」
紅&藍「おまかせおまかせぇ~」
翡翠「翡翠はどこに行こうか~?」
ヘルゲ「 待 機 」
翡翠「はぅ…」ショボーン
悪いが翡翠の相手をしてるヒマはない!
ユッテが取りついたのは軍用の荷馬車でケーソンと呼ばれるタイプだ。箱型ケーソンで後部が開いているが幌で覆われている。だが所属部隊のコード表示もなく、もしかしたら民間へ払い下げられた物かもしれない。
内部はかなり広く、奥半分はコンテナのような木箱で埋め尽くされていた。中にはグレーのTシャツを着た男が…二人??
ヘルゲ「アル、映像見てるか?グレーのTシャツの男が二人いる。始末された男に似てるのはどっちだ」
アル「…なんか…左側の男、似てるけど。ん?でも違うと思う。確かに似てるけど、始末された男は腕に刺青なんてなかったよ」
紅「しっつれーい!馬車の所有者わかりましたー。国軍レーション加工業『味自慢商会』の物流セクトでーす!」
藍「おっじゃまー!馬車の盗難届出てませーん!」
…
…
全『 味 自 慢 だ ァ ァ ァ !? 』
くそ…お前ら全員、痛いほど気持ちはわかるが今はよせ!!
何で並列コアをフル稼働している時に限ってこうなるんだ…!
ヘルゲ「待て、全員落ち着け…!まずはエルンストだ!」
全「お、おう…」
ニコル「ねえねえ、風脈にいた精霊からなんだけど。あの馬車に乗ってたのは行きも同じ人数だったって言ってるよ?御者も入れて三人だって」
フィ「ふむ…ユッテ、腕の刺青をよく見せておくれ。ふんふん。ヘルゲ、翡翠に分体への侵入許可を出してくれないかい?行くのは金糸雀の分体だ。あの刺青をデザインできそうな彫師をピックアップ。それと紅にもう一度露草へ行かせて、この物流セクトの就業形態を確認。あのグレーのTシャツは制服なのかな。御者を除いて二人で納品に行くのが通常なのだとしたら、あの殺された男は元々木箱の中に潜んでいたのかもしれないよ」
ヘルゲ「…翡翠、聞いてたな?紅もだ。許可する」
紅「おまかせ~!」
翡翠「やったあぁぁ!行ってくるうう!」
藍「藍はぁ~?待機ぃ?」
ヘルゲ「いちいち聞くな!待機だ!」
ユッテ『フィーネ姉、自動マッピングでどの木箱にエルンストがいるか確認していいと思う?』
フィ「…ううむ、そいつらがマナに鈍いといいのだがね…」
アロ「ユッテ、もし気付かれてそいつらが攻撃してきたら反撃を許可する。できたら意識を刈り取るだけですませて。できなければキルでもかまわない、エルンストの保護最優先だ。カミルとコンラート、馬車を視認できる位置に移動してコンバットスタンバイ」
全員が少々緊張する中、ユッテは自動マッピングを微かな出力で展開した。