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Three Gem - 結晶の景色 -  作者: 赤月はる
虹の輪舞曲
412/443

411 休日の主従 sideアルノルト

  






ただいま、執務室でユリウスが笑いの発作に見舞われております。そんなにヒロおじいちゃんの話が面白かったのかな。まあ、俺が想像していた「紫紺の長様」っていうのとだいぶイメージ違うしね、俺たちの前ではよく笑う面白いおじいちゃんだ。



ユリ「顔…顔が真っ二つ…ジギスムント翁にあそこまで言えるのはアルノルトだけだね…あは、あは、もうだめ、苦しい…」



…くそ、原因は俺ですか…ッ



トビ「まあ、よかったんじゃね?猫の庭についてはまったく勘ぐられずに俺たちが知り合いだってことになったわけだし」


アル「でもユリウスが来た時びっくりしたよー。普通に素でユリウスって呼んじゃったし、俺とトビアスの立場が逆じゃなくてよかった…」


ユリ「まあそれはラッキーだったよね。はぁ~、それにしても面白かった!」


アル「もういいじゃん、その話は…」


エル「アルノルト、また何かジギスムント翁に言ったんですね…ユリウス様、後でエルメンヒルト様との面会予定が入っております。その笑いの発作、ちゃんと鎮めてくださいよ?思い出し笑いとかナシですからね?」


ユリ「うあー、そうだった。キッツいなあ…あれだけで一週間笑っていられるくらいメガヒットなのに…」


アル「俺、ユリウスに娯楽を提供しようと思って言ったわけじゃないからね?あれ以上ジグおじいちゃんが怒りんぼになる原因が増えたら健康上悪いじゃんって意味で言ったんだからね?」


トビ「マジかよ…そんな意図があったなんてケほどもジグじいちゃんに伝わってねえぞ?お前、言葉のマジックの使い方が逆ベクトルだ。いっぺん治癒師にかかれ」


ユリ「トビアスも勘弁して…! エルメンヒルト様の前でお茶噴き出しそう。エルンストさん、さっきの映像記憶見せてあげるよ。どんだけの破壊力だったか、お願いだから共有してよー」


エル「お断りいたします、ユリウス様。私も健康を維持したいので」


アル「エルンストさん疲れてるね~、温泉行っておいでよー。ユリウスは猫の庭で面倒見てあげるからさあ」


ユリ「それ、いいなあ。今週末行ってくる?エルンストさん」


トビ「お前、『面倒見てあげる』とか言われて喜ぶなよ…」


ユリ「だって猫の庭は楽しい事ばっかりでしょー。今回の刺客の件も一応アロイスに知らせておきたいしね」


アル「んじゃ決まり!移動魔法で温泉だけ入ってきてさ、夜は猫の庭の部屋に泊まれば安心でしょ?」


エル「そうですねぇ…ではそうさせてもらいますか」


トビ「その件の話するなら俺も週末そっちに行く」



俺たちはエルンストさんに湯治場がどれだけ気持ち良かったかを語り上げ、あとはテオさんたちが行ったサウナのベスト3だって言ってた場所も教えてから魔法部へ戻った。






*****






週末になり、エルンストさんは温泉へ出かけて行った。ツーク・ツワンクのサーバーを気にしないで済むように猫の庭で預かり、エルンストさんは軽い私物と通信機だけ持って温泉三昧だ。ゆっくりして、疲れが取れるといいんだけど。


ユリウスはブランも連れてきてちびっ子と遊ばせたり、自分はヘルゲさんとチェスをしながら例の刺客の件をアロイス先生も交えて話していた。相変わらず器用なことするなあ。



ヘルゲ「h4だ。その刺客の件、グラオにはミッションが降りてきていないぞ」


ユリ「あー、そうだろうね。c5っと。シュヴァルツの面子もあるからさ」


アロ「そだねー、長の護衛って言えば蘇芳のエリートだもん。能力的に黒から選ばれるとはいえ、軍部の中では一番プライドがあるよね」


ヘルゲ「…h5。くそ、ユリウスとの対戦は面白いがいつもやりにくいな…だが紫紺の長の敵が確定しないんだから、俺たちも手の出しようがないな。それとも調査でもするか?」


ユリ「cxd4ね。無理に手を出す必要はないでしょー、長様も迎撃でツブすことができればいいって考えてるからさ。私も情報を共有しようと思って話してるだけだよ。ヘルゲ、チェスはサイドから攻められたらセンターで反撃って言うでしょ、ただの定跡だってば」


ヘルゲ「むう…hxg6。紫紺の長も肝の据わった男のようだな。修羅場は慣れっこか?」


アロ「現在の長は先々代の撒いた戦争の火種を回収して、もう七割がた終息させている実績はあるね。その過程でいろいろあったんでしょ」


ユリ「わぁお…駒の損得勘定なしかあ、オットコ前だねヘルゲ。私はそうもいかないね~、dxc3でナイトいただき。長様は平和主義ってわけでもないけどさ、全体のバランスを見る人だね。やろうと思えばすべての戦争を終わらせて外交のみで戦うこともできるけど、そうはしない。いま残ってる戦場は長様が『見て』、徹底的に叩く必要ありと判断したところだよ」


ヘルゲ「まあ、今の主戦場はテロが常態化していたりゲリラが横行していたりする場所ばかりだ。確かにあいつらと外交で戦うのはこっちが疲弊する可能性が高いな。…gxf7だ」



ん~…ヘルゲさんとユリウスが何を言ってるのか、たまにわかんないよ。一方で俺とトビアスは、なんかやっぱり「敵を取り逃がした」ってのが悔しくてね~。俺の記憶からあの時の自動マッピングのデータを引っこ抜いて固有紋取れないかな、なんてアホで夢みたいなことばっかりグダグダ言ってた。


そういうことを考えてると、パウラに怒られるんだけどね。んでそれを見たカミルさんとかコンラートさんに「男はクールに行けや」とかニヤニヤして突っ込まれるんだけどね。



フィ「パウラは可愛い上にしっかり者だね。トビアスは優しくしてくれるかい?」


パウラ「えへへ~、やだぁフィーネさんてば!トビアスは前に比べたら断然優しいの。この前もデートでシュピールツォイクの三階につきあってくれたし、以前なら絶対有り得ないもん」


アル「うっは…すごいじゃんトビアス!偉いよ、あの桃甘激震地帯につきあってあげたの?こりゃほんとにユリウスにご褒美だな~」


トビ「…目の前でそういう話しないでくれよ、フィーネさん…あの店の三階があんなピンクい場所だなんて知らなかったんだ」


パウラ「ああ、それは確かに…私、ポムの方陣で大きさの違うぬいぐるみが動くとこを実際に見たいなって思っただけだったから、二人してビックリしちゃったのよね」


ユリ「なんか私の名前が聞こえたよ~♪呼んだ?」


アル「ん?ああ、トビアスがパウラに優しくなったから、ユリウスが功労賞だなって思ってさ~」


トビ「俺はここから逃げていいか?それとも手首のウォーミングアップを始めた方がいいか?」


フィ「くっく…トビアス、すまない。そういうつもりじゃなかったのだがね。さて、パウラにいいものを見せてあげるからおいで。君がガヴィのファンだと先日聞いたのだよ。この猫の庭を作る際のガヴィとの打ち合わせ資料や映像記憶に興味はあるかい?」


パウラ「きゃあああ、見たいぃぃ!」


ユリ「パウラは素直でかわいいねー、トビアス♪」


アル「なんかユリウスさっきからごきげんだね」


ユリ「ヘルゲに持ち時間が一手につき二秒っていうルールでスピードチェスして五連勝したんだ。たーのしい♪」



びっくりして背後を振り返ると、真っ白に燃え尽きたヘルゲさんが「並列コアさえ使えれば…ッ いや、それじゃフェアじゃないだろう!地力で負けているんだ、定跡を研究してやる!」とブツブツ言っていた。いやー…チェスに関してはユリウスめっちゃ強いね。


で、肝心のトビアスはなんだか考え込んでいた。



アル「トビアス、どしたの?」


トビ「いや…ガヴィで思い出した。バーデン・ヴァルトから北北東ってさあ、旦那のリーヌス司令がいる北方砦にかなり近いよなあ?なんでわざわざ人気のないところじゃなくて、あんな強い部隊が常駐している方向目指して移動したんだって思ってさ」


アル「…そういやそうだね。えっと…地図、地図っと」



俺があの時敵を確認した地点は、バーデン・ヴァルトから北北東に約100km。その地点は、リーさんのいる北方砦から真南に約30kmという場所。しかもバーデン・ヴァルトを経由して中央と北方砦を繋ぐ主要街道がある場所だ。この国の交通網はほぼ放射線状に主要街道が伸びていて、それに加えて各部族の街を繋ぐ環状街道がある。


…おかしくない?死体を持った奴が、堂々と主要街道を行くかなあ?



ユリ「…これ、どういうことだろうね。確かに何か不自然だよね」


アル「これさあ、俺たち三人で考えたらいけない気がするなあ。俺たち全員、捜査の素人じゃん…」


トビ「確かに。ヘルゲさんは…まだ燃え尽きてるか?アロイスさんたちに聞くか」



俺たちが「そうだねー」なんて言って移動しようとしたら、ユリウスがピクッとして立ち止まった。そして「…エルンストさん、すぐに戻ってきてください。首を突っ込むべきではありません」と言った。


…ツーク・ツワンク内の通信でしゃべってるのかな。何を話してるのかなって思って見ていたら、ユリウスは今まで聞いたこともない声で叫んだ。


「命令だ!戻れエルンスト!」


その後通信が切れたらしく、ユリウスは少し青ざめた顔で「ヘルゲ、エルンストさんの位置を確認できる?」と言った。


何があったんだと皆が集まってくると、ユリウスは少しだけ震える声で「長を狙った刺客とそっくりな男を見つけたと…グレーのTシャツで、顔立ちも似ていると思いますと…固有紋だけ取って戻りますって言って、通信が切れた」と言った。


嘘だあ、あの男は護衛さんが始末したじゃん…


俺たちは一瞬呆然とした後、一斉に動き出した。






  

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