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Three Gem - 結晶の景色 -  作者: 赤月はる
虹の輪舞曲
404/443

403 バーデン・ヴァルト④ sideアルノルト

  






カチヤさんとお母さんがカジノに行っている間、俺とトビアスはようやく呆然自失状態から立ち直って二人で困り果てていた。


ヒロおじいちゃんもジグおじいちゃんも、俺たちがデボラ研究室の新入りなのはもうわかったはず。問題は、ユリウスの迷惑にならないかなってことだった。俺はシュピールツォイクでアンゼルマさんとも会ってるし、ユリウスの知り合いだってバレてもなんとかなる。でもトビアスはどうなんだろう。


これはエルンストさんとユリウスに相談したほうがいいと思って、ツーク・ツワンクのセレクトチャンネルへ通信を入れた。



ユリ『やあ、アルノルトにトビアス。どうしたの?』


アル「ユリウス~、いましゃべっても大丈夫?」


ユリ『うん、問題ないよ?…なんか元気ないねえ、どうしたの』


トビ「あー…あのさ、いま俺たちバーデン・ヴァルトに来てるんだけどさ」


エル『おや、キール山の温泉ですか。それは羨ま… ふぁ!? まさか…』


アル「うあー、エルンストさんこれだけでわかるの?すげ…」


ユリ『えーと、えーと、まさか…ねえ。バーデン・ヴァルトにはたくさんホテルがあるし、たくさん温泉があるし。ねえ?』


アル「えーとね、お母さんがね、俺たちがすっごくがんばって仕事したからご褒美だって言って、豪華な旅行なんだよね。馬車も一流、ホテルも一流、みたいな」


エル『…カハッ』



エルンストさんは吐血でもしたんじゃないかって音を喉から絞り出すと『ホテルはシュヴァルツ・ヴァルト…ですね?』と言った。俺たちがコクンと頷くと、ユリウスが天を仰ぐ。



ユリ『なるほど。もしかして接触したってことだね?』


アル「接触どころじゃないよ…二人とも偽名使っててさ、温泉で意気投合してさ、俺たち『ヒロおじいちゃん』とか『ジグおじいちゃん』とか言ってめちゃくちゃ気軽にしゃべって、お昼ごはんまで奢ってもらった…」


エル『ガハッ』


トビ「デボラさんが俺たちを見つけてさ、顔面蒼白になってあの二人が誰なのか教えてくれたんだ。やっぱマズかったか」


ユリ『あーらら…デボラ教授は気の毒だったかな…でもまあ、大丈夫じゃない?あのお二人が食事をご馳走するなんて、君らを気に入ったってことだよ』


トビ「まあ、確かにひとつも気分を害したって感じはしなかったけどな。あ、でもアルノルトがジグじいちゃんに『眉間のシワがすごい、笑え』って言っちまったけどな」


アル「なんだよー、トビアスだってヒロおじいちゃんに『あくどい商売でもやってんのか?』って聞いたじゃないかー」


エル『ゲブフォッ』


アル「あ、そういえば…あれってユリウスのことかなあ。ジグおじいちゃんが矯正したい人がいて、その人にも眉間のシワのこと言われてたってヒロおじいちゃんが爆笑してたんだよー。そんなこと言いそうな議員ってユリウスだけじゃない?」


ユリ『あー、言ったね。アグエと飲んでた時にがっつり言ったね』


エル『ブガファッ』


トビ「おいユリウス、エルンストさんに治癒師呼んでやれよ」


エル『…私のことはお気になさらず…この話を聞き逃したら、そっちの方が体に悪いので…』



もうフォグ・ディスプレイには突っ伏した頭しか見えていないエルンストさんは、俺たちのヤッチマッタ話で滅多打ちにされていた。ユリウスはそんなエルンストさんを見慣れているらしく、平然として何かを考えていた。


…少しは労わってあげてよユリウス。今回は俺とトビアスが原因だけどさあ…



ユリ『えーと、一つ注意があるかな。あのお二人がそこまで気軽に接してそれでもご機嫌だったなら、態度を改めちゃいけないよ。いきなり恭しくされたら、たぶん長様は盛大に拗ねるし、ジギスムント翁もガッカリすると思う。逆に君たちは正直に、そんな偉い人だとは思わなかったけどゴメンネ!くらいでいいんだよ』


トビ「…マジかよ。ユリウスにそれで迷惑がかかるってのはないのか?」


ユリ『あははー、心配してくれてありがとうトビアス。大丈夫だよ、私はがっつり眉間の地脈に突っ込みを入れてヘラヘラしてるし、これ以上ジギスムント翁がプリプリ怒るとは思えないね。長様はそれを見て面白がってるだけだし』


アル&トビ「地脈て…」


エル『えーと、まあ、大丈夫ですよ。アルノルトもトビアスも可愛がられてるだけです。確かにユリウス様の言う通り、態度は改めずにいた方がいいと思いますよ』



…そっかー。俺もせっかく仲良くなったおじいちゃんたちだし、確かに逆の立場でいきなり手の平返されたみたいに恭しくされたら、距離を取られたみたいで悲しいもんなあ。



アル「うん、わかったよ。ありがと二人とも、助かっちゃった。…あ!あとさあ、ヒロおじいちゃん狙いだと思うんだけど、今日刺客っぽいのが一人来たよ。大丈夫なの?」


エル『 …! どんな人相だったかわかります?』


アル「えっとね、この人。でもおじいちゃんたちの護衛の人が始末したよ」



俺はあの男の映像記憶をデータ化してエルンストさんたちに流した。俺も遠目でチラッと見ただけだから、あんまり鮮明じゃないけど。どういう経緯だったか話すと、エルンストさんはホッとした顔で初めて笑顔になった。



エル『アルノルト、これはいい情報です。それによくやってくれました。長様も褒めてくれたでしょう?』


トビ「かなり上機嫌だったし、デボラさんにも『気にするな、逆に助けてもらった』って言ってたらしい」


ユリ『なーんだ、何も怖い情報はないじゃない。アルノルトは私の話が出たらおもちゃ屋繋がりを強調でよろしくね。トビアスは私には会ったことないけどアルノルトから話は聞いてるって感じでね』


アル「うん、わかったー。あ、温泉黒豚のお肉たーくさんお土産に買ったからさ。明日の夜猫の庭へおいでよ、きっと食べられるよ」


ユリ『アルノルト、君は私の親友だ!』



ユリウスはすっごいキラキラした笑顔でグッと拳を握って頷いた。






通信を切ると、なんだか昼寝って感じでもないよなあと思ってトビアスとロビーに出た。そしたらヒロおじいちゃんたちが護衛さんと真剣な顔で何か話しているところにまたしても遭遇。さっき部屋に戻ったのに…どうしたんだろ。



アル「う、えっと、ジグおじいちゃん」


ジグ「お前たち昼寝するとか言ってなかったか」


トビ「ジグじいちゃんたちのこと、デボラさんから聞いたんだよ。眠気吹っ飛んじまった」


ヒロ「ん?アルノルトにトビアス…どうした」


アル「えっとさー、デボラお母さんにヒロおじいちゃんたちのこと聞いて昼寝って感じじゃないなって言って降りてきたら、いたから」


ヒロ「ぶは…そうか、驚かせてすまんな」


アル「まあいいけどー。ヒロおじいちゃんたちだって部屋に戻ったよね?…さっきの件?何かあったの?」


ジグ「お前ら軽いのう…まあいい、さっきの男の身元を調べようとしたが死体を奪われてな」


アル「…奪われた…ちょっと待ってて!」



俺はヘルゲさんに接続して自動マッピングを最大範囲にドカッと展開させた。ヒロおじいちゃんに敵意を持つやつ。さっきの男の仲間。


どこだよ、ふざけんな!


ピ、と反応があった地点は…バーデン・ヴァルトからもう百キロ以上離れた北北東方面だった。そしてすぐにその赤い光点は索敵範囲よりも外へ出て、俺には感知できなくなってしまった…



アル「くっそ!ヒロおじいちゃん、ここから北北東へ百キロ以上離れた場所にいた。でも離れすぎて、もう俺じゃ感知できない。ごめん…」


ジグ「…お前…ああ、そうか。ボニファーツ殿と同等の能力者と言うておったな。驚きの知覚範囲だな」


トビ「こんな短時間にか?移動魔法持ちか、遁甲かよ」


ヒロ「まったく…お前ら優秀だな。アルノルト、方角がわかっただけでも大成果だ。お前には今日だけで随分助けられたな」


アル「そんなことないよ。でもヒロおじいちゃんの敵、追えなかったね…護衛の人、ケガとかしちゃったの?」


ジグ「そっちは大丈夫だ。奪われたと言っても箱へ入れてあったはずの死体がいつの間にか消え失せていてな。まったく面倒な相手だが、どうとでもなる。心配かけたな」



俺はなんだか悔しくて仕方なかった。トビアスもきっと同じで、俺の隣でグルグルいろんなことを考えてる顔をしてる。そして俺たちはたぶん、同じ結論を出した。



トビ「ジグじいちゃん、俺たちで今から方陣作るから。そいつら、ヒロじいちゃんの命狙ってんだな?」


アル「すっげえ高性能のを作ってやる…ちっくしょ~」


ヒロ「おい…そこまでしなくてもいい。護衛もいるし、日常茶飯事だと言っただろうが」


トビ「うっさいよ、黙ってろって。おいアルノルト。セイスいけるんだろ、俺に考えがある。レッドが出たらマナ固有紋を登録。自分を中心にした円状の索敵範囲に加えて、その固有紋を中心にした追跡設定をかければ…遠くまで追えるんじゃないか?えーと、索敵に警戒に固有紋登録に追跡、地図取得に心理探査。これで六つだ」


アル「トビアス天才…!その固有紋で何かわかるかもしれないし、一石二鳥じゃん」


ジグ「一人や二人じゃなかろう。そんなに熱くなるな」


アル「もー、ジグおじいちゃんも黙っててよー!集中しないとセイスは作れないの!トビアス、どれくらいの容量の魔石持ってる?」


トビ「ちょっと待ってろ。取って来る」



トビアスはダーッと走り去り、ヘルゲさんにこの前もらった移動魔法でホテルの部屋から魔法部へゲートを開き、カラ魔石を取りに行った。すぐに戻って来ると、俺のセイス方陣の大きさがきっちり分かっているかのような容量の魔石だった。さすが~。


集中して、マナに聞く。しっかり作りたい方陣をイメージして、絶対にヒロおじいちゃんとジグおじいちゃんを殺そうとするような奴を逃がすもんかと念じる。バカでかい構文は手を繋ぎ、兼任し、デボラ研究室の皆みたいにチームワークのいい、協力し合う構文へと姿を変える。方陣化し、暗号化し、魔石へ。



アル「できたっ」


ヒロ&ジグ「…は?」


トビ「貸せ、検証する」



トビアスは魔法部から持ってきた検証用方陣の魔石を持って、俺がいま作った方陣を検証していく。トビアスは鋭い眼光で検証内容を見て、どこにも動作不良がないことを確認した。



トビ「…おっけ、クリアだ。護衛さんでマナの錬成量がなるべく多い人がいねえかな。さすがにちょっとマナを食う魔法なんだ。せめて中規模魔法撃てるくらい」


A「あ…それなら私が。よろしいでしょうかヒロ様」


ヒロ「ああ、頼む」


A「…うあ、何ですかこれ…」


アル「えっとね、さっきの敵は見失っちゃったしマナ固有紋まではとれてないから申し訳ないんだけど…次にヒロおじいちゃんとジグおじいちゃんを狙うやついたら、これに赤い光点で示されるから固有紋を絶対登録して。そしたら、そいつをこの大陸じゅうだって追っかけて居場所がわかるから」


A「わ、わかりました」


ジグ「…呆れたな、ボニファーツ殿より早いではないか」


アル「あ、ジグおじいちゃんはひいおじいちゃんに会ったことあるんだー?俺が会う前に死んじゃったからさあ、俺、知らないんだよね」


ヒロ「アルノルトにトビアス。すごいものを作ってくれたもんだな。ありがとう」


アル「へっへー、役立ててね!あー、悔しいのが少し薄れたかな。次は絶対とっ捕まえて!がんばってね」


トビ「ジグじいちゃん、まだ足りない機能があったら言ってくれ。それこそ俺たちの仕事だ、どうとでもするぜ?」


ジグ「ふは…そうだな、それがお前たちの専門か。ではその時はデボラ殿に頼めばいいかの」


アル&トビ「あ、俺たちに直接で」


ヒロ「何でだ?デボラ殿は断るような人ではないだろう」


アル「お母さんビックリしちゃってたからさぁ~、かわいそうじゃん。俺たちと違って常識人なんだよ」


ヒロ「ぶあっは!確かにな!ではそうしようか。ぶふ…」



ヒロおじいちゃんとジグおじいちゃんは、二人して笑いながら今度こそ部屋へ戻って行った。その夜はお母さんにグチグチ言われ、フィーネにも二人のおじいちゃんの話をして絶句させてしまった。





翌日、帰りの馬車は行きと同じくコーチをチャーターしてあったけど、六頭立てが二台になっていた。何で?って思ったら、お母さんが口から魂を出しつつ「…あのお二人からだ…移動時間が短くなるようにと気を遣ってくださってな…」と言った。


んー、やることが豪快だね、おじいちゃん…


こうしてデボラ研究室の慰安旅行は終わった。







  

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