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Three Gem - 結晶の景色 -  作者: 赤月はる
くらい火とひかる水
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4 見えない爺さんとコンラート sideアロイス






大木で出会った僕らは、それからほぼ毎日のように昼は森で会うようになっていた。


ニコルはもともとしょっちゅう「おじいちゃん」と話をしに来ていたし、ヘルゲはニコルに強く興味を持っているようだった。


僕はといえば、不思議なことを言うニコルのことも気にかかっているものの、ぶっちゃけニコルとだけ会話の成立するヘルゲに興味津々の野次馬、といったところだった。



「やっぱりお兄ちゃんたちも、おじいちゃんの声きこえない?」


「ああ」


「うん、聞こえないなぁ」


「だよね…アルマもユッテもきこえないって、いってた」


「それで、いいと思うが」


「よくないよ!おじいちゃん、やさしいんだよ?みんなもなかよくしてほしかったのに、うそつきって…」


「…誰かにうそつきっていわれたの?」


「…うん」


「お前は、うそつきじゃないだろう」


「うん、でも、みんなきこえないなら、しかたないよね…」


「お前は、うそをついていない」


「…うん」



労わっているからなのか、本当に信じているのかわからないが、ヘルゲは淡々とニコルの「おじいちゃん」を肯定する。おかげでニコルに少しだけ笑顔が戻った。


それでもまた、ふっと複雑そうな顔をするニコルを見て、まだ半信半疑でいる僕の心はズキンと痛んだ。



(レア・ユニークを発現する子は、最初信じてもらえなくてつらい思いをしがちなんだよな…ニコルもそうなのかな…でも「おじいちゃん」以外に姿の見えない声は聞こえていないらしいし…)



僕の脳裏には、自分の友人のことが浮かんでいた。




*****





同期のレア・ユニーク持ち、コンラートなどはその最たるものだと僕は思っている。彼のユニーク魔法は「透明化」。


制御できなかった初期の頃は、服ごと体の一部分だけ消えていたりしたので、周囲で悲鳴が上がっていた。


そのうち制御できるようになったものの、今度は「透明化して、そのへんにいるんじゃないか」という恐怖を覚えた者が彼を責めたり、避けたりし始めた。


ナニーや教師が「コンラートはそんなことをする子じゃないだろう!」と周囲を諌めても、なかなか沈静化しなかった。


そんな仕打ちを受けたコンラートだが、彼を救ったのはその強靭で前向きなメンタルだった。


透明化できるといっても、その呼吸音や足音、衣擦れの音がなくなるわけではない。


だから、と皆の前でコンラートが掲げて見せたのは、大きめの鈴が3つもついた飾り紐だった。



「俺は、これをいつでもつけているから。俺がここにいるって、ちゃんとみんなにわかるようにしたい。一人でどこかに行く時は必ず誰かに言う」



だから、信じてほしい。


真摯な彼の言葉に、皆が罪悪感にまみれた。レア・ユニークだとわかっていて、それでも仲間を責めてしまった者は特に。だがコンラートはさらに言う。



「いや、誰でも怖くなるだろ、わかるよ。皆に安心してもらえるなら、こんなもんいくらでも付けるし」



あっけらかんと言うコンラートに、どうしたらそんなに強くいられるんだろうと誰もが思った。自分なら耐えられない、と。



僕はしばらくしてから、思い切ってコンラートにそのことを尋ねてみた。



「ぶっは!さすがアロイス、そういうとこ容赦ねぇな!まだ俺って微妙に腫物扱いなのによぉ。でもお前みたいにしてくれた方が、すげーうれしいよ」



リリン、と大きく響く鈴の音を鳴らしながらコンラートは笑った。


そして、その瞳の明るいオレンジ色が溶け出して、白霧にまみれるのではないかと思うほど泣いた、と。


でも、もしいま精神に異常をきたしたら、透明化したまま戻れなくなるんじゃないかと恐ろしかったから、どうしたらいいのか必死に考えた、と。


鈴をつけた程度では皆は安心してくれないだろうなと、あの日膝ががくがくしていたんだ、と。


自分は強くなんてない、と。




僕は彼のやわらかい「内側」に入れてもらったという感覚に、物理的に心臓が揺さぶられたかのようだった。


聞いてよかった、これで君を泣き虫めってからかえるってもんだ、などとうそぶくと、コンラートはニヤッと笑って僕の目が少し赤いのを見ないふりしてくれた。






*****





(僕は小心者で卑怯だ。コンラートにもヘルゲにも、最初は関わり合いにならず傍観してた。安全そうだなって判断してから近づくんだ…最低だ)



僕は、目の前の小さなニコルにあんな思いを絶対させたくないと思った。具体的な方法なんて少しも思い浮かばないけれども、それでも。



(話を…うん、話をしよう。いや、聞こう。ニコルに味方がいるって、大丈夫だって、そう思わせられるなら)



僕はこうして、「おじいちゃん」が実在すると信じることに、決めた。





  

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