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Three Gem - 結晶の景色 -  作者: 赤月はる
虹の輪舞曲
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397 至高の孤独 sideヨアキム

  







あの日は皆さん存分に遊んだようで、オスカーさんはクレアに小さなぬいぐるみを買ったり、カイさんとカミルさんは二階の売り場でいたずらグッズを何か買ったようです。何を買ったのかは教えてくれませんでした。…ということは、いたずらされるのは私なのでしょうか。これは警戒せねばいけません。


アロイスさんもレティに可愛らしいエプロンドレスを買っていましたね。レティはハイデマリーさんの影響なのかスカートをはかないのですが、厨房には興味津々なのだそうです。たまにハンバーグのたねを捏ねたりさせて一緒にお料理をするアロイスさんは幸せそうな笑顔ですし、厨房へ入る時のエプロンのつもりなのでしょうね。


コンラートさんは…もちろんスライム補充のため購入していました。あの宴会芸用の暗器、何気に愛用してますよね。






そんな感じで変装しつつも楽しんだようなのですが、数日後に私が完成した水晶の幻獣駒4セットとクルミ材の駒、それにジャイロ独楽も持ってシュピールツォイクへ出向くと…驚きました。


どういう趣向なのか、あのポスターの人気投票をしていたり、「あなたのいちばん好きなおもちゃは何?」という商品の人気投票もやっていたんですよ。


お客様を飽きさせない工夫なのですかねえ…おもちゃのランキングはともかく、ポスターのランキングはマズくないですか?


これではまた話題性が出て、あのポスターを外せなくなってしまいますよね。いつまで皆さんは変装しなければならないんでしょう。お気の毒に。





ちなみに現在の人気ランキングは同率一位で白衣のアロイスさんと白いヘルゲさんでした。皆さん銀縁が好きなんでしょうか。その下は混戦模様になっていて、でも男性票がリアさんに集中しているのでなかなかお強いです。


投票会場を覗いてみると、たくさんのお客様がワーキャー言いながら投票していました。フォグ・ディスプレイにはファンの方のコメントが流れ、皆さんの熱意あふれるナニカが漂っています。


『筋肉さんのご機嫌を直してあげたーい』

あ、カミルさんのことですか、コレ…


『童顔くんの悩みを聞いて、私が癒したい…』

オスカーさん、ヒドいニックネームですね。


『先生、私の病気治してくださいいいい』

え、アロイスさんは治癒師じゃありませんよ?


『あなたの目に心臓を撃ち抜かれました』

リアさんの目じゃなくてメガネを見てくださいよ。


『はしゃぎすぎて疲れた感がたまんない…』

いえ、アルマさんがはしゃいだから疲れちゃったんですよ、コンラートさんは。


『ヴァンパイア兄さんハァハァ』

『ヴァンパイア兄さんペロペロ』

『ヴァンパイア兄さんハムハム』

…警備員さんを呼んだ方がいいですか、これ。

カミルさんも赤い瞳なのに…ヘルゲさんの黒髪がどうしても吸血鬼を彷彿とさせるんですかねえ…恐ろしいファンが付いてしまいましたねヘルゲさん。






ちょっと恐ろしいものを見てしまいましたが、おもちゃのランキングの方はポムが一位、二位がTri-D airy region、三位が立体プラネタリウムのオーロラバージョンでした。やはりダンさんの映像は強いですね~。


そういえば完全版の上映がそろそろ始まるって話もありました。建物の四階を改装して会場にしたり、全国各地へ興業するためのテントはトビアスたちがあっさり作り上げたりと準備は着々と進んでいるようですよ。


まったりと見て回り、ケヴィンさんの手が空いた隙を狙ってお声を掛けます。



ヨア「ケヴィンさん、こんにちは」


ケヴィ「ヨアキムか、どうした…アンタまさかもう作ったのか?」


ヨア「ええ、出来ました。ケヴィンさんに見ていただきたかったんですが…お忙しいですか?」


ケヴィ「かまわない。水晶のを見せてくれ」



ケヴィンさんにプレゼントするつもりで作ったものを出します。これは力作ですよ~。他のセットは駒だけですが、ケヴィンさんのはチェスボードも作りました。透明に磨き上げたマスと曇ったようなすりガラス風のマスでパターンを作ってあります。


実はこれ、ケヴィンさんが作って売っているチェスボードを参考にして仕掛けを施したんです。ヘルゲさんが持っている「名人のデータ入り魔石」を少しお借りしましてね。チェスボード自体にそのデータを入れ、駒がそのパターンに沿って勝手に動く仕掛けもマネしました。


まずは通常のチェスマンのみを盤上にセットします。そしてマナを流して命令するとですね。


コトン、と透明な「白」のポーンが動きます。次は半透明なポーン、次は透明なナイト…


そんな風に名人の棋譜の通りに、水晶の駒が動きます。幻獣駒を使うデータはケヴィンさんに教えてもらって、その場で入れましたよ。そしてディスプレイ用ですからねー、少し派手にしようかと思いまして。


駒が動くとそのマスがポワンと光ります。そして小さなディスプレイで棋譜も表示されます。ボードの端につけた簡易コンソールで、「何手目からリプレイ」という指示も可能ですよ。



ヨア「どうでしょうケヴィンさん。もちろん普通に遊ぶことも可能ですし、一応強化の言霊…じゃなくて方陣もかけてあるので、そうそう簡単に傷ついたり割れたりしませんよ」


ケヴィ「…アンタ、ヘルゲの弟か何かか?気持ち悪いくらいすごいな」


ヨア「あう、気持ち悪いですかね…弟じゃありませんが、家族ですよ」


ケヴィ「あー…いや、すまん。褒めたつもりだ。この幻獣駒もすごい造作だ…ケースに入れて触られないようにしないとな」



そう言うとケヴィンさんは嬉しそうに納品したものを受け取ってくださいました。そして幻獣駒を見つめながら、ポツリポツリと話します。


ケヴィンさんはその素晴らしい頭脳を持ちながらもパズルにしか興味はなく、シンクタンクに招かれたこともあるらしいのですがバカらしいと一蹴してこのお店を開いたのだそうです。


ケヴィンさんが住んでいるのは、数理とロジックの世界。どんなに研究しても、開けた扉のその先にまたたくさんの扉があるのを発見し、どこまでも深く潜っていける楽しさに夢中で、気付けば誰も周囲にいなかったそうです。


それでもこの素晴らしい世界を捨てる気になどなれず、パズルを作っては店で売る。でも普通の人にも「解く楽しみ」がなければ売れません。なので自分の中では低ランクでも、普通の人に楽しんでもらえるものを作っていた。


ある時、気まぐれで作った「高レベルの問題千問」の魔石が少しだけ物好きに売れたのだそうです。自分と同じようにパズルにハマる人がいるものだと思って嬉しくなり、毎年違う問題を千問作っては、いつか「もっと難しい問題をくれ」というお客様が来ないかと期待していた。


そして、ヘルゲさんが来たんだそうです。


自分ほどではないけれど、それでもかなり近い。

これはどうだ?この問題は解けるか?というやりとりが楽しくて仕方ない。

三平方の定理を使ったチェス問題を出せば即座に答えが返って来る。


ケヴィンさんは「孤独で淋しかったんだと、ようやくわかったんだ」と呟きました。


そんな時にイザベル店長からシュピールツォイクへ誘われて、この集客力ならもっと仲間が見つかるかもしれないと思ったそうです。ですが、そう簡単にはヘルゲさんクラスは見つからない。しかもマナ・グラスのポスターにヘルゲさんが出現した時点で、たった一人の仲間を失ったか、とガッカリしたんだとか…



ケヴィンさんは最初にパズルや数理の世界に触れるきっかけとなったチェスを愛していて、その駒のコレクターでもありました。先日変装してまでヘルゲさんが来てくれて、私が水晶の幻獣駒をプレゼントすると言った時、本当に嬉しくて仕方なかったんだそうです。



…ふふ、本当にヘルゲさんに似ていらっしゃる。


そういうことが顔に出にくいところまで、ね。




ヨア「ケヴィンさんは誰にも真似できないことを、突き詰めているだけです。そういうのを、『至高』って言うんですよ。そういう存在には孤独感がつきものですが、本当に一人なわけじゃありません。他の分野の『至高』とは、住む世界が違っても共感できるじゃないですか。だから、あなたは独りじゃありませんよ」



にっこり笑ってそう言うと、ケヴィンさんはとーってもうっすらと微笑みました。







  

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