394 ミッションをがんばります sideヨアキム
今日、グラオの皆さんは大張り切りです。いつもなら同時進行ミッションは四つ程度で収めていたアロイスさんですが、「秘密の休暇を作っちゃえ作戦」を遂行するために私も作戦メンバーに入れてのミッション構築をしたようです。
といってもまだ初心者の私ですのでね。私が関わるミッションは二つ。皆さんは平均三つという、全員掛け持ち・全員フル稼働という状態です。ハイデマリーさんとニコルさんは連絡係や捕縛した犯人・押収品の一時保管係。
カイさん、ユッテさん、オスカーさんは移動魔法を駆使してそれぞれ三つの戦場で敵をボッコボコにする大暴れ組。
コンラートさんとアルマさん、フィーネさんは潜入と証拠獲りが紫紺、露草、デミで三件。
カミルさんとアロイスさんはその紫紺と露草、デミの証拠が挙がり次第犯人確保に奔走。
ヘルゲさんと私は大暴れ組がジェノサイドしつつ追い立てたら、敵の本陣へ大規模魔法を撃ち込みに行きます。
私も別に三か所でいいって言ったんですけどねえ…まあ、ヘルゲさんが行くんだから心配はないですよね。私が行く二カ所は敵の本陣の位置がハッキリしないんですよ。なので候補を絞って、私とヘルゲさんが同時攻撃するんです。
私もヘッドセットを作ってもらい、初ミッションですよ。皆さんのお役に立てるように頑張りましょう。
ちなみに最近私はヘルゲさんに接続することが多くてですね。やはりガードが言うところの「バチ当たり」な形のコングロマリッドが素敵なんですよー。
ヘルゲさんはガードへ常に「神経が焼き切れないように」見張らせているらしく、先日の「ミッション幻獣」の時などはギリギリのラインで並列コアを稼働させていたらしいです。
ですが…ふっふっふ、私はそんな心配がないんですよねえ。なので試験的に本日は並列コアをフル稼働させてみて、紅たちと連動しながらミッション全体のバランスを見られないかと思ったわけですよ。
全体を俯瞰しつつ、ヘルゲさんクラスの大規模殲滅魔法を撃つ。
これ、できたらすごいと思いませんか?ちなみに紅たちコンシェルジュはヘルゲさんとアルによる改良が着々と進んでいて、簡易グローブのような機能が既に入っています。接続先は私だけなんですけどね。
どういうことかと言いますと、私と紅たちは元々猫の庭を通じて「仲間」と認識されています。ですので紅たちでも私相手ならば接続が容易だったのですよ。でも、さすがに他の方へ接続できるほどの演算領域はぬいぐるみに確保できなかったんです。
そして私に接続した紅たちは何が出来るかと言いますと…マナ固有紋など元から存在しないぬいぐるみのA.Iは、私のマナ固有紋を纏ってマザーへ侵入できるんですね。
なので私かヘルゲさんの指示が必須という条件付けで安全装置をつけてありますが、指示さえすればマザーや分体への出入り自由。何か調査したければ紅たちに指示を出すつもりなのです。
さて、ではミッションへ参りますよ~。
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カイさんとユッテさんはツーマンセルとなり、さすがご夫婦…息の合ったコンビネーションで舞うようにお互いをカバーしていますね。ユッテさんが速度で攪乱した所をカイさんが撲殺って感じでしょうか。
オスカーさんはクレバーな動きをしますから、カイさんたちの状況を気にしつつ確実にキルしていきます。
この大暴れ組には、さすがに私が入ったらジャマしてしまいそうですねえ…それこそカイさんに接続すればある程度はいけるでしょうが、ここまで高度に研ぎ澄まされた感覚全開で動かれてしまうと、付け焼刃のリンケージでは追いつけませんよ。これに割って入れるのはカミルさんやコンラートさんくらいでしょう。
さて…私とヘルゲさんが撃ち込みに行く敵の本陣なんですが。蘇芳の偵察部隊による報告で動いているので、グラオではありえない「本陣の位置不明」状態なわけなんですよね。これはちょっと気持ちが悪いです。まさかの二カ所ともハズれだなんてことになったらバカらしいですから、調べてみましょうか。
紅たちに指示をして、蘇芳の分体を見に行かせます。現在その二カ所の戦場を預かっている指揮官が使う、マザー端末の内容を精査させるためです。偵察部隊の映像記憶を獲ってこさせまして、並列コアに入れます。同時に藍へミッタークとナハトへ情報を入れて敵本陣の位置を予測せよと命令させました。
戦場Aは蘇芳の予測箇所と変わりませんね。ただ、ヘルゲさんの行く予定のポイントが一番可能性が高いと出ました。
問題は戦場Bです。…予測箇所が三つあるじゃないですか。しかも最初に私とヘルゲさんが行こうとしていたポイントではなく、第三ポイントの確率が高い…並列コアでもそういう結果が出ましたし、これはヘルゲさんに報告した方が良さそうです。
ヨア「ヘルゲさん、ちょっといいですか?」
ヘルゲ『おう、どうした』
ヨア「こういうわけで…戦場Bは第三ポイントの可能性が高いと出たんですが、どうしましょうか」
ヘルゲ『お前、よくそんなことを…わかった、ちょっと第三ポイントの偵察に行ってくる』
ヨア「よろしくお願いしますね」
ふむ、こちらはヘルゲさんにお任せで安心ですね。まだ殲滅魔法の出番は後になりますし、潜入組を見てみましょう。
紫紺の中枢議員と露草建築組合の癒着でワンセット、デミはいつもの麻薬関係のようですね。中枢議員の売名やら露草の商売人による賄賂だの利権確保だのと言った案件は後を絶ちません。エルンストも愚痴を言うくらい多いんですよねえ。
今回は建築組合とのことですが…ガヴィに実害がないといいですね。アロイスさんは「蘇芳要塞都市での建築現場に関することだから、大丈夫でしょう」と言っていました。要するに蘇芳へ顔の効く議員に入札で有利になるような情報を貰おうとしていたようでして。
ふむ、フィーネさんは建築組合の容疑者が繋がっている業者を洗っているご様子。証拠獲り自体は問題なさそうですが、アルマさんが困った顔をしています。アルマさんは中枢議員を調べているようなんですが…この前と同じく痕跡が見つかりにくいようですねえ。
ちょっとエルンストとユリウスに聞いてみましょう。
エル『ヨアキムじゃないですか、どうしました?』
ヨア「すみません、お忙しいところを。○○という議員さんてご存知ですか?」
ユリ『知ってるよ、ビフレストにいるね』
ヨア「あー…なるほど。ちょっとその人の動向を軽く知りたいなと思ったんですが、痕跡が掴みにくいんですよねえ。もしかしてジギスムント翁の関係者ですかね」
エル『あー…そうですね、あの方は最近ビフレスト傘下に入りまして。でもジギスムント翁はいらんと言ってるんですよ。何か焦っている感じがするからと』
ユリ『要するにさ、○○議員を見捨てられないと思ったジギスムント翁傘下の一人が彼を迎え入れたみたいだけど、あまり信用されていないんだ。その人の足元を掬うなら手伝うけど?私には痛くも痒くもない人だよ』
ヨア「いえいえ、それには及びません。連絡方法さえ目途がつけばいい程度の話なので。ありがとうございました」
ユリ『はいはーい、またね』
なるほど。ジギスムント翁の関係者ということは…
ヨア「ニコルさん、ちょっとお聞きしていいですか」
ニコル「はーい、なあに?」
ヨア「先日精霊を地脈や風脈に放ったじゃないですか。あの精霊は今どうなってます?」
ニコル「もちろんアルカンシエル全土にいるよ?」
ヨア「アルマさんの追ってる○○っていう議員…ジギスムント翁の傘下に最近入った人らしいんですよ。もしかしたら地脈の精霊でどこかと連絡取ってたりするんじゃないかなって。精霊に聞いたら過去の通信内容がわからないですかね」
ニコル「なるほどね~、たぶんわかるよ!精霊に聞いたらアルマに連絡しとくぅ」
ヨア「何か手がかりがあると儲けものですもんね。よろしくお願いします」
こんなものですかね。コンラートさんはデミへ潜入してますが…こちらは問題なさそうです。おや、暇つぶししていたら大暴れ組が絶好調すぎてそろそろ殲滅魔法の出番になりそうですよ。
ヘルゲ『ヨアキム、助かった。やはり三つ目のポイントに本陣があった。俺はそっちに行くから、悪いが第一と第二ポイントの偵察頼む。本陣じゃなくても一個中隊以上の勢力が居た場合はニブルヘイムをかませ』
ヨア「了解です、じゃあ出ますね」
ヘルゲ『おう』
戦場Bはあらかた片付いていて、大暴れ組はいま戦場Aの掃討に入っています。まずは第一ポイント…はい、ハズレでした。では第二ポイントへ行きます。…ひーふーみー…うん、三個中隊ほどがいらっしゃいますね。
大暴れ組から退避してきた殿です。命拾いしたとでも思っているんでしょうねぇ。残念でした。
ギシミシ…ッ
あ、いけない。
出力を上げ過ぎて、バランスが悪い姿勢だった者が倒れて…あーあ、ドミノです。ガッチゴチに凍っていたので、氷が割れるみたいにガラガラっと集団の一部が人体瓦礫になってしまいました…
反省です。
あとでアロイスさんに反省文でも提出して白状しましょうね…
戦場Aもゴーサインが出ました。すぐに予定のポイントへ向かうと、本陣はヘルゲさんの方に、私の方は移動中の一個中隊に出くわします。さっきより規模は小さいですが、もう同じ失敗は…あ、こっちはニブルヘイムじゃなくて炎獄で派手に火柱を上げろと言われていたんでした。
じゃあいきますよお。
範囲が狭いから楽勝です。
ゴッガアァァァァァァァァ!!
あ、いけない。
またしても出力が高かったようで、地面がマグマになってしまいました。あーあ、溶岩風呂です。全部一瞬でマグマに飲みこまれて、地獄クッキングをしてしまいました。
反省です。
これではここでどの部隊が攻撃されたと、敵に知らしめることができないじゃないですか。反省文二枚目ですね…
一応クリアコールだけはして、ヘルゲさんは戦場Cへ出ました。
大暴れ組はノーダメージで帰還、証拠獲りは無事に済み、やはり中枢議員は地脈の精霊でやり取りしている痕跡があってお縄。ユリウスたちにもそれを知らせて「ジギスムント翁は○○議員を既に破門していた」ことにするため動き、またしても恩を売ったそうです。
犯人捕縛も恙なく終了し、なんと、本当に本日だけで六つのミッションをクリアしてしまいました…
アロ「みんなお疲れ様~!さて、報告書をサクサク作っちゃおうか。日付をずらしてイイ感じにね。捕縛した犯人がいるケースだけは今日の日付にしよっか」
ヨア「アロイスさん、それでしたらもう概要が出来ています。こちらをどうぞ」
並列コアで全体を見ていたので、翡翠へどんどんデータを送って整理させてあったんです。押収品一覧のリストも作成させましたし…使えそうならいいんですが。
アロ「…完璧」
ヨア「使えます?よかったです」
ニコル「アロイス兄さん、追加でコレ…」
アロ「精霊で証拠獲り!?」
ヘルゲ「ヨアキムが蘇芳の甘いデータの洗い直しをしてな、戦場Bは三つ目のポイントを強襲したから、当初の予定とは座標が変わってるからな」
アロ「データ洗い直し!?」
カミル「おいアロイス…今エルンストから通信入ってるぞ、出られるか」
エル『アロイス、助かりましたよ~!ジギスムント翁の配下から逮捕者が出たなんてことになったら、まーた有象無象が翁へ地雷を仕掛けに来るところでした。今回もがっつり恩を売れましたよ、ありがとうございます~』
アロ「え、うん…いえいえ…」
プツン…
ヨア「アロイスさん、私はちょっと殲滅魔法の出力調整が必要なようです…これ、反省文です。ごめんなさい」
アロ「…ドミノで人体瓦礫…マグマで地獄クッキング…」
ニコル「…アロイス兄さん?おーい?」
ああ、やっぱりあの殲滅魔法はやりすぎでした。ごめんなさい…