392 特別な愛情 sideアルノルト
猫の庭で、とーっても大きなパーティーを皆がやってくれた。俺とフィーネの結婚と、魔法部の就職祝い。トビアスたちやユリウスたち、ダンさんにインナさんまで招いてのすっごい大勢のパーティーだった。
俺とフィーネは以前作ってもらった、例のゴーヴァルダナ衣裳。フィーネは踊り子の衣装を難なく着こなして、バサバサのまつ毛をくるんと上にあげ、チェリーピンクの唇。綺麗なブルーのスケスケ衣裳はもう、目が釘付けになるほど可愛かった。
アルマ姉ちゃんも言ってたけど、フィーネの可愛さは男女を超えてると思うんだよね。性格もあるんだろうけど、この衣裳でも堂々と普段通りだし、下手に恥ずかしがらないから少年ぽい色気っていうか、爽やかな色気なんだよ。
俺は濃いブルーのマオカラーで、シタールを持たされたけどほんと雰囲気だけって感じの小道具だった。でもインナさんが「あら、いい楽器をお持ちですねえ」なんて言いながらサラリと弾くからホントに驚いた。
シタールを弾きながらウィングを歌い、ベルカントがインナさんの歌を追いかけるように歌う。二人の言葉は違うのにメロディーが同じで、どうしてこんなにピッタリ合うのか不思議なくらいだった。
パウラは貴婦人みたいな衣裳を着て、トビアスたちも宮廷衣装を平気で着ている。「よく着られるね…すげえ」って言ったら、全員で声を揃えて「お前ほどじゃない」って返された。
そのうちインナさんの歌に合わせてパウラは踊り出し、トビアスに踊ろうって言ったけど断られてショボンとしてる。
そこでユリウスが「レディのお誘いを断るなんてひどいね?」と言いながら王子モードでパウラをリードし、見事に踊ってみせた。エルンストさんが平気な顔をしているので…これはユリウスの作戦と見たね。
案の定トビアスはブンむくれて、一曲終わるとパウラを取り返しに行った。ユリウスってば「姫の手は放しちゃいけないね~」とにっこり笑ってトビアスにバトンタッチし、俺に向かって「フィーネも誘っちゃおうかな?」とニヤリと笑った。
もちろん俺はデコピン発射準備をしてユリウスを威嚇したけども、ユリウスはケラケラ笑って額に結界を出し、インナさんの曲で華麗なステップを踏みながら俺を躱していた。
*****
パーティーが終わって、俺はもうクタクタだった。あんなに大騒ぎしたのは久しぶりで、しかもすっごい大人数で、すっごく楽しかったんだ。
皆に祝ってもらって、大騒ぎして遊んで。なんだかフワフワした気持ちがおさまらないままで部屋に戻って衣裳を脱ぎ、お風呂からあがって…あれ?リビングを見たけど、フィーネがいない。いつもならフィーネは何かしらリビングで方陣を見ていたり端末をいじっていたりするんだけど。
ナディヤ姉ちゃんとリア先生がパーティーで嬉し泣きしていたから、気になって話をしに行ったのかもな、なんて思って寝室のドアを開けた。
フィーネが、パジャマでベッドに腰掛けて、俺を待っていた。
フィ「髪をまだ乾かしていないじゃないか。風邪をひいてしまうよ?」
アル「あ、忘れてた…」
フィ「おいで、乾かしてあげるよ」
フィーネは生活魔法でふわりと俺の髪を乾かして、にこりと笑った。
アル「フィーネ、今日の衣装もめっちゃ可愛かったねぇ。更に皆にお祝いしてもらってさ、最高の日だあ」
フィ「まったくだ。ナディヤがあんまり泣くのでねえ、どうしたのかと聞いたら『フィーネは結婚する気がないのかと思っていたから、嬉しくて』と言われてしまったよ。確かにあまり結婚願望はなかったしね」
アル「それはねー、俺にはラッキーだったよ。フィーネが結婚願望あったら、俺と会う前に絶対誰かに攫われてたもん。ほんとよかったー、絶対ムリ、フィーネが他の誰かのものなんて、絶対ムリ」
フィ「…アルは時々、豪速球ストレートな台詞を投げて来るね…」
そう言うとフィーネは首筋を真っ赤に染めて、拗ねたようにソッポを向いた。
な ん だ そ の カ ワ イ イ の !
アル「あの…あのさ、今日から、その…『待て』は解除?」
フィ「うぐ…うむ、そういう約束というか、計画だったね」
アル「じゃあさ、じゃあさ、ベビードールは!?」
フィ「ぐ…忘れているわけじゃないよ、約束だからね」
うおおおお、タラニスに感謝しますッ!!
俺は今日、やっとアレに出会えるんだああぁぁぁぁ!!
じゃあ今から着替えて来てくれるのかなっ
今はいつものパジャマだもんねっ
着替えて来てくれるのかなっ
…いつ、着替えに行って…くれるのかな…?
アル「あの…フィーネ?」
フィ「だ、だから…ぼくもだね、恥ずかしいという感覚は持っているのだよ、だが…約束、したね。うん、確かに約束した」
俺はその時、初めてフィーネが少し怖がっていることに気付いた。フィーネはいつも冷静に物事を判断し、計画した通りに物事を進めようとする。アクシデントがあってもそれを補って軌道修正できる技量があるから、何もなかったかのように物事は運ぶけど。
でも、フィーネの弱点はきっと「感情のままに動くこと」なんだ。ミロスラーヴァさんにいろいろ言われて反省した、だから俺を不安がらせたりしないようにたくさん愛情を示していくつもりだよ、なんて言ってくれた。それを俺は真に受けてただ嬉しがっていたけれど。
自分の感情が昂るままに行動する、それが何を引き起こしてしまうのかが、フィーネにとって未知の領域だから、怖かったんだ。
俺ってば…俺が、フィーネを守るって思ってたのに。
フィーネにもらった嬉しいことに喜ぶばっかりだった。ごめん…
アル「フィーネ、無理しなくてもいいよ?あのね、俺が好きなのはフィーネだから。ベビードールじゃないから」
フィ「…なんで君はそんなにピンポイントでぼくの弱点を突いてくるのだい…」
フィーネはそう言うと、吹っ切れたような顔になった。
…こういう顔した後のフィーネって、急に大胆行動へ出ることが多い。
なんとなく身構えてしまった俺を見て、フィーネは柔らかく笑った。
フィ「さ、今日からぼくは全部君のものだ。好きにしていいよ」
すっと体を俺の方へ向けると…フィーネは幻影を解除する。
そこには、きれいなブルーのベビードールを着た、妖精みたいな俺のフィーネがいた。
ドガン!と頭が沸騰する。
どっか遠くで小さくなった理性が「優しくしろ、フィーネに優しくしろ」って言ってるのがわかるんだけど。
こんなの…がまんできるわけないじゃん…!
それでもぐぎぎって歯を食いしばって、フィーネの肩をなるべくそっと抱いて、そっとキスして、ブルーの薄い生地から透けて見えるフィーネの体に目は釘づけだったけど、それでも力を入れないようにがんばって自分を押さえていた。
そしたらフィーネは笑って、「もう待ては言わないよ?君はぼくの知らない感情の奔流を知っているだろう?君が最初にぼくに教えてくれたんだ。あの熱い感情を、今度はぼくの体に教えてくれないかな」と言って、俺の首に手を回し、深く、深くキスしてくれた。
俺の理性はもう跡形もないほど焼き切れて、今まで我慢できてたのは奇跡だったんだなって思いながら、青い膜ごとフィーネを貪る。小さなフィーネは、俺の腕にすっぽり収まって、年上だなんて思えない程俺を頼って身を任せた。だから、俺も全部包み込んであげようって思いながらフィーネに触る。
俺たちは、混ざり合って融合したみたいに。あの森での夜みたいに、特別な体温と、特別な吐息を聞きながら、特別な愛情を手に入れた。