39 暖かい難攻不落の家 sideニコル
…コンラート兄さんが、アロイス兄さんの家で、ヘルゲ兄さんと仲よくケンカしながら、ソファでリラックスしています…
「おい、ヘルゲぇ!お前さ、だから何で予告なしに書き込みするわけ!?俺様はお前と違って、超ナイーブなのっマザーの回路一本でゲロっちゃうほどセンシティヴなのっ!ねー、ニコルちゃん、ちょっとこのアホ兄貴に何とか言ってやってくんなーい?」
「本当にうるさいな、お前…俺は優しく言っただろう、頭痛薬を用意しろと。ニコルを巻き込むな。ニコル、アロイスはどうした?」
「…あ、アロイス兄さんは商店で買い物してから家に入るって。私を送ってきて、そのまま商店に行ったよ」
「お!今日の晩メシなにかなー。なあ、なんでアロイスってあんなに料理上手なんだ?」
「毒薬作れないかいろいろ模索したが、さすがにそんなレシピも材料も手に入らなかったみたいでな。副作用で料理の腕が上がったと言っていたぞ」
「…副作用…俺、生きてこの村出られんのかな…」
すごい…ほんとにコンラート兄さんは、ヘルゲ兄さんと「スッゲー仲良し」みたい…!よかった…ほんとによかった…!
「…ヘルゲ兄さんっ」
思わずヘルゲ兄さんに抱きついちゃった。背が高いから、腰のあたりに飛びついたバッタみたいだけど。
「よかったぁ~!ヘルゲ兄さんのこと、『アロイスとしか馴染めない無表情美顔ゴーレム』だとか『顔だけ極上の壊れ紅玉』だとか『悪魔から魔王にグレードアップしたシスコン』だとか言われてっ!この家なんて『難攻不落の魔王城』って言われてて、でも私は理由を言えないし、くやしくて心配でっ!ヘルゲ兄さんは、ほんとは誰とでも仲よくできる黒くまさんなのにぃぃぃ~!!」
「…ニコル、そのへんにしといてあげたら?コンラートが笑い死にしそうだよ?あとヘルゲ、それ、幸せそうにニコニコしていい内容じゃないからね?」
いつのまにか買い物を終えて帰ってきてたアロイス兄さんが、呆れたように言った。あ、荷物受け取ってあげなきゃ。…でも、ヘルゲ兄さんが頭をなでなでしてくれて、離してくんないや…
「ひー、ひー、最高~ニコルちゃん!いーなー、ここいるとほんと退屈しねーわ!」
「コンラート兄さん、ヘルゲ兄さんと仲良しで私うれしいよぉ~!ありがとう!」
「お、俺にもハグ来る?来る?」
「はーい、ニコル悪いけど手伝ってくれるかな?ヘルゲもそろそろニコル離せよ?」
ニコニコしたアロイス兄さんに手を引かれ、キッチンに行く。
後ろでコンラート兄さんが「ぐおおお!アイアンクローはらめ…」とか言ってるけど、大丈夫かな…
キッチンで野菜の皮むきを手伝って、アロイス兄さんとポトフを作りながらおしゃべりした。
「へぇ~、じゃあナディヤが掛け合ってくれたんだ?」
「うん、コンラート兄さんが『ヘルゲとすげー仲良し』って言ったのがあんまりにもみんな信じられなかったみたいでね。私も週末くらいここに来たいってずっと思ってたから、助かっちゃった!ナディヤ姉さんも『あの二人に下心が宿るくらいなら、ゴーレムにも心が宿ります。そして二人がいればニコルは安全です』って言ってた。あんまり意味わかんなかったけど」
「…ふぅーん。ナディヤに礼を言うべきか、お仕置きすべきかわかんないな…」
なんだか微妙な顔したアロイス兄さんは、手早くチキンに下味をつけている。
今日のメインはチキンの香草焼きなんだって!楽しみだな~。
すーっごくおいしい晩ごはんを食べながら、みんなでおしゃべり。
後で、アルマと作って持ってきたクッキーを食後に出そう!って考えてたら、コンラート兄さんが不思議そうに私を見た。
「なあ、ニコルちゃんてさあ、すっげー透明度高くねぇか?もしかして緑玉候補か?」
「ああ、そうだね。到達度はかなりいい線いってるよ。ね、ニコル」
「う…そう言ってくれるのは嬉しいけど…でもホラ、まだ白斑があるし…」
「白斑?…ああ~、これか…んん?白斑?」
なんだかコンラート兄さんが考え込んじゃった…
「ニコル、その白斑だけどな。気にする必要はないと思うぞ」
「え、なんで?だってこれがあると透明度の判定が…」
「まだ仮説の段階なんだけどな。ニコルのじいさんとも話したから、たぶん間違いない。それは防衛本能だ」
「防衛??」
「ああ、ニコルの心を外部の『侵入』から守るための盾だとでも思えばいい」
「あ、それこないだおじいちゃんが言ってた”母の轍”の話に繋がる?」
「んー、たぶんそれは違う話だね、ニコル。あれは収束に失敗した時だったでしょ?」
「あ、そっか…」
「まあ、マザーの品質検査で透明度に合格しないのは、しばらく我慢してもらうしかない。すまんが秘密にしていられるか?」
「…うん、わかった!大丈夫だよヘルゲ兄さん」
なんだか心が軽くなった気がする。ほんと、ここに来てよかったぁ。
「なー、白斑に関する文献つーか、報告書を見たような覚えがあるんだよ、俺」
「ほんとか、コンラート?」
「んー、でもさらーっと流し読みしたものの中にあったような…うー、思い出せねー。ヴァイスに戻ったら探してみるわ。なんかわかったらすぐ教えるからな、ニコルちゃん。まあ、そんなにキレイな緑の目ぇしてんだ。緑玉がダメでも、何らかの到達認定は間違いねぇよ。なあ、アロイス先生」
「まあ、そりゃそうだろうね。コンラートもよくわかってるみたいで何よりだよ」
「おー、俺は魔王降臨を目の当たりにした一人だぜ?そんなヘタ打つかよ」
最後のほう、何の話になったんだろ??でもコンラート兄さんもすごく優しいなあ、励ましてくれてるのがわかる…私ってほんとに恵まれてるんだ。
「ありがとう、コンラート兄さん。大丈夫、めげないでがんばるよ!ヘルゲ兄さんの言った盾っていうのも、すごく心強いし。白斑が私の味方なら、修練でやることは白霧みたいな排除や払拭じゃないってことだもんね。正しい向き合い方があるのかも」
むふん!力が湧いてきたっ私、修練がんばるっ
「おー、こりゃお前らが夢中になるのもわかるわぁ~」
「だろ?」
「当たり前だ」
「おー、重症だわぁ~」
「コンラート、さっき裏庭に生えてたおいしそうな赤紫のキノコを見つけたんだよ。君にあげよう」
「飛ばすぞ?」
「おー、勘弁しろよお前らぁ~…」
難攻不落の家の中は、とってもあったかかった。