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Three Gem - 結晶の景色 -  作者: 赤月はる
未来へ続く虹
386/443

385 繋がった色 sideヘルゲ







ダンの絶景とインナの絶世の歌声が入った「Tri-D airy region」はまたしても爆発的ヒットとなった。紫紺の長からブルーバック王室へ贈呈されたという経緯は聞いたが、どうもユリウスに感化されたアンゼルマが発案してのことらしい。開発した者や売り出しているおもちゃ店を取材攻めにさせるのではなく、長様が同盟国の王室へ贈ったことを中心に取材させれば良いというわけだ。


実はこっそりユリウス経由で繋ぎをつけてもらったアンゼルマがフィーネに会いに来て、公表していい経緯や逸話を聞き出したらしい。その話に長様が感銘を受けての行動として広報部へ情報を下ろせば、知りたがり記者も納得して取材熱がおさまるという算段だ。中枢には中枢のやり方があるものだな、とその時は俺もアルも感心した。




しかし新たな問題…というか、犯人はグラオの中にいるわけだが、アロイス・コンラート・リア・カミル・カイ・オスカーは迂闊に中央の街中を歩けなくなった。マナ・グラスを欲しがる者が増え、そのポスターとしてモデルにされてしまったからだ。


ちなみにカイはポスターになったカミルと同じ顔なので、完全なるとばっちりだった。アルマは「だってぇ…私も貢献したかったんだもン…」としょぼくれたが、孫娘に弱い中佐が「いいじゃないかい、お前らは元々ミッションでも顔バレせずに遂行できるんだ。街中なんてグローブで幻影を出しゃいいんだろ。アルマは何も悪いことなんてしてないさね」と言って、全員「それもそうか」と思ってしまった。


ポスターが欲しいと言う要望が激増していたらしいが、本人たちは「絶対ヤだ」と断固拒否。店へその旨を告げるとポスターの下に「非売品」と注意書きが掲げられ、ポスターを盗まれないようにゴツい額縁へ入れた上に結界で覆われるという激レアプレミアムポスターとして一層有名になってしまった。


おかげで、今度はそのポスターを見る為に来客数が増えることになったらしい。経済というのは、どこでどう回るかわかりゃしないな。






*****





リョビスナ台地のロングバージョン映像は、金糸雀の里のカペラ上映用にまずは寄贈された。それと歴史編纂局のミハイルへ、インナから月白の歴史が語られた。インナも歴史書として残して良い部分悪い部分がわかっているので、俺たちが実際にあそこへ行ったという事実や月白の墳墓が存在することは伏せている。だが、完全に歴史の地層に埋もれ、存在したことさえ知られていなかった月白という一族がいたことが八百年ぶりに判明したというのは大きなニュースとなった。


それはもちろん実質的な白縹のトップであるバルタザール大佐へ知らされ、大佐夫婦は金糸雀の里へ表敬訪問をして白縹一族としての謝辞を述べた。…まあ、バカ親父も中佐も俺たちからとっくに報告を受けていて、こちらは静かに墳墓への墓参も済ませていたんだけどな。


もちろん金糸雀支部へも訪れて正式な謝辞を述べ、あの「禁忌って知ってるか?」事件以来初の白縹と広報部の和やかな会談となった。本部を完全スルーされているのがかなり悔しかったらしい本部長が金糸雀支部へ来て同席しようとしたようだが、大佐が一言「…儂ァあなたから、あの時の謝罪を受けておらんがの?」というドスの効いた一言ですごすごと引き下がった。


おかげで金糸雀支部は「唯一白縹と接点を持つことのできる支部」として広報部での地位をガツンと上げた。まさかバーニーやダンが本部へ引き抜かれてしまうのかと思ったが、本人たちが本部行きを断固拒否したことと、現在のメンバーが認められたが故の白縹との接点なので絶対にその細いラインをツブせないという思惑が重なり、彼らは安定して金糸雀支部での勤務を続けている。






*****





もう一つのロングバージョンの寄贈先は、緑青第一研究所だった。ゲラルト氏は飛び上がらんばかりに喜び、しかし同時にもたらされた「宝玉狩りによって絶滅した一族」という歴史書の草稿を見て涙したという。


緑青の祖国ヴェールマランが宝玉狩りの国という事実はなるべく紫紺へ知られないようにしていた緑青なので、フィーネとアルが繋ぎ役となってイグナーツ氏とゲラルト氏は秘密裡にヴァイスを訪問。大佐と中佐へ、現在の緑青代表として謝罪を述べに来た。



大佐「お互い、もう水に流そうじゃねぇか?こうして今は同じ国を支えるモン同志だ、俺たちがいがみ合ってどうすんだ。大体、おめぇの娘のデボラは俺たちの親友だ。んで俺たちの娘夫婦はおめぇらの孫や親族になる。俺たちだって親戚だろうがよ?」


イグ「…そう言ってもらえるとワシらも気持ちが軽くなる。これからもよろしく頼む」


中佐「ほれほれ、まったくアンタはデボラの親父さんとは思えない泣き虫だねぇ?私の親友の親父さんなんだ、しっかりしとくれ。それと…フィーネとアルの坊主を頼んだよ」


ゲラ「うう…私はね、ずっとね、白縹がね…気になってたから…やっぱり私の孫は最高の子だ、私の悲願が叶った…何とか白縹と緑青を…繋げたいと願ってたんだ…」


中佐「ンなこと考えてたのかい。アルはとっくに緑青の若いのと繋がってたろうに。研究所に籠ってっからだよ、これからはデボラと一緒にここへ来て茶でも飲むといいさ」



大佐と中佐は呆れたように笑いながら二人を迎え、同席していた俺たちや母さんを苦笑させた。ゲラルト氏はうんうんとうなずいたが、長年の研究が無駄ではなかったと言って泣き続けていた。


そして緑青産の蜂蜜をケースごと持ってきて、「絶対おいしいから!これじゃ一週間分にしかならないけど、足りなかったら連絡してくれ」と言った。中佐は「…ヴァイスの食堂で使っても半年はもつだろうさ…」と言って更に呆れた。





*****





俺たちはこれでロングバージョンの寄贈先はもうないだろう、俺たちでたまに楽しもうなどと言っていたわけだが。シュピールツォイクの常連となっているユリウスは「もったいない!絶対もったいない!」と地団太を踏みそうな勢いで抗議した。


ユリウスとエルンスト、それにチーム緑青にロングバージョンを見せた後で大興奮した全員が口々にそんなことを言うので、根負けした俺やフィーネが「君らならどう使う?」と聞くとユリウスが目をキラキラさせて言った。



ユリ「シュピールツォイクってマナ・ピエトラ製なんでしょ?心臓が悪い人お断りって言った上で有料の上映会をする!四階の倉庫はまだスペースに余裕があるなら上映会場に改造して、『Tri-D airy region』の完全版って言って観客を集めるんだよ。その利益の一部をさらに社会福祉にあてる。どう使うかはエルメンヒルト様に任せれば、国民に還元されると思うよ」


エル「ふむ…シュピールツォイクのブランド力向上には最適かもしれませんね…ですが地方への上映は無理がありますが?マナ・ピエトラ製の建物があるのはあと緑青や猫の庭だけじゃないですか」


トビ「…じゃあ、俺たちで簡易テントのデカい版みたいな、立体映像がきれいに見られる大規模テントを開発するとか。ユリウスの伝手で露草の人に興業してもらうとか可能なのか?」


エル「可能でしょうね。玩具組合だけおいしい目を見ていますから、ロミーに調整先を模索してもらいましょう」


フォル「いいね~、んじゃ最初の興業先を緑青にしてもらって、テストと観客動員数のリサーチを自治体にさせよう。じーさんをこき使ってやるぜ」


ヘルゲ「…お前ら相当ここに染まったな。あっという間に全国展開の骨子が定まるとは…」


フィ「…ぼくらがやるより遥かに規模がデカい…最近、ぼくらは国全部を巻き込んで動いている気がするね」


ユリ「いいんじゃないかな~、元々ヘルゲたちの開発力がおかしいんだよ。大規模攻撃魔法と大規模開発力だもん、こういうことにもなるってば」


アル「ありゃ~…新しいおもちゃを出すの、しばらく控えた方がいいのかな…」


ユリ「…まさかまだあるの?」


フィ「ええと…方向指示スティックで動くミニチュアの馬車があるね。そのスティックはマナ・コントローラーと名付けたので、略して『マナ・コン』として売り出そうと思っていたよ。いま同じようにマナ・コンで飛ばす鳥のおもちゃもチーム緑青とアルで開発中。あとは粘土造形ホビーを流行らせようかと思って、方陣を仕掛けた水晶板をね。名前は『クレイ・アート』だ。それと各家庭の設置可能面積に合わせて自動組み立てしてくれる『幼児用ジャングルジム』に、広大な公園などで子供用アトラクションを作成できる『ミニ木魔法迷路方陣』。これはなかなか苦労してねえ、大木のクローンではなくて灌木をコピーできるように改造したのさ。迷路の種類も数十種類インプットしてあるので、灌木が枯れそうになったら違うパターンの迷路が作れるよ。…ええと、こんなものかな…」


エル「…すみません、小出しにしてもらえますか?いくらなんでもロミーが過労死します」


フィ「おや、そうかい…では当面はじっくり鳥型マナ・コンの開発でもしようかね…」



…くそ、また折を見てダンと別の秘境に行こうと思ってたんだが…これでは言い出せないじゃないか。コンラートは「俺ァ砂浜に子供埋める時の自動穴掘り方陣が欲しいぜ」と言ってオスカーから大反対されているし、カイとカミルは「チャンバラセット…」と言いかけてアロイスとハイデマリーに眼光で射殺されそうになっている。アルマはユリウスに「あの激レアポスターの映像データあったら、釣れる議員いるんじゃなぁい?」と言って、やっぱりモデルどもから大反対されていた。



ニコル「あ、そっか!アロイス兄さんたちがイヤだったら、ヘルゲがモデルになるのはどお?」


ヘルゲ「お前、夫を売るな!これ以上肖像権に関る問題を抱えるのはごめんだ!」



俺はモデルなんぞ絶対回避したかったが故の失言に気付かず叫んでしまい、追求されて結局「新装版こうぎょくのだいぼうけん」の表紙をバラす羽目になった。アルマが涎を垂らしそうな目で俺を見るので思わず幻影でディルクになってしまったほど動揺した俺と、新装版の衝撃度の高さで、その日の爆笑ネタ提供キングは燦然と俺の頭上に輝いた。


自爆でこころがしんだ。






  

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