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Three Gem - 結晶の景色 -  作者: 赤月はる
未来へ続く虹
384/443

383 自由な空 sideアルノルト

  





皆でたくさんのおいしい料理を食べて、ちびっ子たちは歌ったり踊ったりしてすごく楽しそう!でも疲れて眠くなっちゃう前に、あの映像を一緒に見てもらわなきゃ。あ、あと大人組が酔っぱらっちゃう前にね。


俺とヘルゲさんが水晶ドームの約三分の一使うパノラマ・ディスプレイの方陣(もちろんこの日のために組んだ)を仕掛け、フィーネは上映中だけドーム内への日光を遮断する、特大の遮光方陣を展開。子供が怖がらないように少しだけの照明を残して、広大な墳墓は暗くなった。



ヘルゲ「全員ちゃんと座ってるな?」


全「う~い!」


ダン「ではフルバージョンのマナ無しからいきますよ~」


ルカ「くらーい!よるになったー!」


ナディ「ルカ、しー…今からすごい景色が見られるわよ?あと、インナお姉さんのお歌もね」


ルカ「は~い」



クスクス笑う声や、皆のワクワクする気配とマナの波。絶対びっくりするぞ~!


フワっと周囲が明るくなると、皆の目の前にはラピスラズリ色が出現する。それが池だと分かると「うっそ!あれ自然の色!?」「うわうわ、後で実物も見れるんだよね?」と最初から驚天動地って感じになった。ふっふっふ~、まだまだこれからだよ、皆!



ユッテ「デカ!デッカァ!何この木!うわ、だってあそこ見てよ、あの鳥ってブッポウソウじゃん?30㎝はあるのに…超ちっさく見える…」


アルマ「…なにこれぇ…私たち、いまこんな高い場所にいるのぉ…?」


リア「ちょ…これ…ッ 絶対住居跡よ!調べなくっちゃ、調べなくっちゃ!ちょ…オスカー、離してよぉぉ」


オスカー「リア、これ映像。後で本物は見られる。落ち着け。赤ん坊が出てきそうで怖い、落ち着けって」


ナディ「…インナさん、この声…さっきの歌声と少し違いますね…気持ちいいわ」



皆が景色に見入って、皆が歌に聞き入って。

薄暗いドームの中で見るダンさんの顔も、とっても誇らしげで、とっても嬉しそうで。

インナさんも笑いながら、ルカとレティと一緒に手を繋いで映像を見てる。


俺ね、思うんだよ。ずっとこんな光景が見たかった。部族で特徴も価値観も違うから、繋がれないっていう考え方は淋しかった。だってさ、俺やフィーネは皆と違うモノを見てるから、同じ白縹の中でも繋がりにくかったんだ。


あー、これって誰に感謝すればいいのかな。こんな嬉しい気持ちは、誰に?

…多すぎてわかんないや。だから金糸雀では空に感謝するのかなあ。

全てに感謝します。うん、この言葉が一番近いかもしれない。

誰に?  全てに。

何に?  全てに。

俺は、俺と出会ってくれた全てに、感謝するよ。





*****





滝を落下する映像になった時は、阿鼻叫喚だった。皆「うおー!」とか「キャー!」とか言った後で体が前に傾いてフラついてる。でも虹をくぐって、フワリと減速して、振り返って滝と台地を見たら…皆何だか静かになった。


今しがた冒険してきたあのてっぺんから降りてきちゃったんだっていう一抹の淋しさが波で漂っていて、「もう終わりなの?」ってニコル姉ちゃんが残念そうに言う。


フッと映像は消えて、フィーネが遮光方陣を解除した。

光がまぶしくて、青が目にしみて、皆夢から覚めたみたいにボーっとする。

次の瞬間、全員が弾けたようにしゃべり出した。



コン「うおぉ、もうガマンできねぇ!外!外行くぞ、本物見に行こうぜ!」


リア「早く~!住居跡ぉぉぉ!」


ニコル「ヘルゲ!スザク!行こう!虹あるかなぁ~!見たいよねスザク!」


スザク「みぅー!」


カミル「ニーナ、ノーラ!はよ来い、見たいだろ。アルマ、お前は集中力なくなってるから接続すんな。もう全員一緒でいいから乗れ!俺はあの池を見るっ」


アロ「アテンショーン!台地には独自進化した動植物があると思われます!捕まえたり、花を摘んだりしないことー!無為な破壊行為は見つけ次第お仕置き!わかったー?」


全「おー!」



もう、すっごい騒ぎだった。全員ヘルゲさんかニコル姉ちゃんに接続して、多面体ケースに入ってはゲートから出て行く。ヨアキムさんはダンさん、インナさんと一緒に。俺はフィーネと一緒に空へ飛び出した。




たくさんの乳白色のケースが、クアルソ台地からリョビスナ台地へ向かって飛ぶ。アロイス先生たちは水晶の剣山を見たかったのか、クアルソ台地をぐるんと回ってた。カミルさんたちは青い池へ真っ直ぐに。カイさんたちは高度を上げ、ひゅうっと降りてユッテ姉ちゃんやライノとレイノに歓声を上げさせてた。オスカーさんとリア先生はソッコーで森の中に入って住居跡を見に行く。コンラートさんたちは湖の上を旋回していた。ヘルゲさんたちは虹を見に滝の方へ。ヨアキムさんたちは上空から全体を見ている。


そして俺とフィーネは…感慨深い気持ちで、その自由に飛ぶ皆を見ていた。



フィ「…月白の皆、ぼくらは【帰ってきたよ】」


アル「フィーネ、今なんて言ったの?古代語?」


フィ「ああ、リアに教わったのさ。帰ってきたよ、とね」


アル「そうだね、やっと合流できた。きっと昔は、こんな風に自由に飛びまわってたんだろうね」



じーん、と胸があったかくなる。

空にふわふわ浮きながら、俺とフィーネはキラキラと光を反射する守護とガードを見ていた。





*****





ヘッドセットから『はーい、撤収~!』とアロイス先生の声が流れ、ようやく全員が墳墓へ戻ってきたのは午後五時だった。リョビスナ台地の砂地で珍しい花を見つけたり、巨木の森でフィギュア気分を味わったり、散々遊んでいたら夕日で視界が全部オレンジ色になる絶景に心を奪われて。


だから墳墓もすっかりオレンジ色に染まってて、皆戻ってきても「すげぇ」って放心する始末。この分じゃ夜も星空がすごいんだろうなって思ったけど、そんなこと言ったら泊まり込みになっちゃうもんね…



ヘルゲ「…結局めちゃくちゃ健全に遊んだ…この俺が宴会で酒を一杯しか飲まなかったとは…」


アロ「それでいいんだってば…インナさん、ヘルゲがたくさんお酒貰っちゃってごめんね。またお酒くれって言われなかった?」


(ドキーン!!)


インナ「ええ、言われてませんよ?でも最長老様のお酒…ほんとにまだたくさんあって困ってるんです。よかったらダンさんとわけて、全部もらっていただけません?ヘルゲさん個人にじゃないならよろしいのでしょう?」


アロ「え、それは図々しすぎるよ…」


マリー「ふふ、インナさんてば優しいのね?じゃあアロイス、もう少しだけいただいたらどうかしらぁ。好意を無碍にするのはかえって失礼よ」


ナディ「じゃあお礼に、週末のお昼はインナさんとダンさんにお弁当を配達してあげることにしましょ?せっかくお弁当がおいしいって褒めてくれたんですもの」


ダン&インナ「本当ですかっ」


アロ「それくらいでお礼になるならもちろんいいよ!よかったー、ちょっとこないだヘルゲが貰った量がハンパないから気になってたんだ…」



インナさんが「アルノルトさんも運ぶのを手伝ってくださいます?ダンさんの部屋にも運んでほしいので…」と言うのでもちろん行きました。でも、それはインナさんの優しさだった。ヘルゲさんは警戒されて、アロイス先生に「来るな」って言われて舌打ちしてたんだけどさ。それを見越していたダンさんとインナさんが事前に打ち合わせしていたらしいんだ。


ダンさんにしては珍しいラインナップのお酒をけっこう大量に部屋へ運んだんだけど、コソっとインナさんが耳打ちしてきた。



インナ「アルノルトさん、後でもう一回こっそりここへ来てください。ヘルゲさん用のお酒、ここから運んであげて?ニコルさんには了解をもらいましたから」


ダン「僕じゃこんなに飲めないからね~。これでヘコんだ気持ちが上昇するといいけど」


アル「うは…絶対喜ぶよお!ありがとう二人とも!じゃあダンさん、後でまた来るね!」



二人の思いやりに感動して握手してから猫の庭へ帰還。こっそりニコル姉ちゃんに「後で運びます!」と言うと「ありがとね、アル~。アロイス兄さんてばヘルゲが電池切れで寝た時のこと話したら、『ニコルを枕扱いだと~!?』って怒っちゃって…それ以来厳しいの~」と苦笑いしていた。





晩ごはんを軽く食べた後、ダンさんの部屋からとりあえず俺の部屋へお酒を移動!フィーネにもインナさんたちの気遣いを話すと笑って「それはいい、ヘルゲのライフも回復するだろう」と秘密にしてくれた。ニコル姉ちゃんへ通信してから、ミッションスタートだ!


ラベルを見ると、どれもこれも不穏な名前のお酒ばっかり。「ドラゴンスレイヤー」とか「オーク殺し」とか「ヘルズ・キッチン」とか…最後のなんて「ヘルゲ・キッチン」と読み間違えて、まさかのヘルゲさんとアロイス先生のコラボ酒かと思った。


いそいそと運び込み、ニコル姉ちゃんと一緒にヘルゲさんを待ちます。髪を拭きながらお風呂をあがってきたヘルゲさんは、俺を見て目を丸くした。



ヘルゲ「なんだアル、どうした?」


アル「えっへっへ~…じゃじゃーん!」


ヘルゲ「…! この酒、最長老のところにあったやつじゃないか!?」


ニコル「んっふふ、インナさんとダンさんからだよ!『今度こそ見つからないようにね』って言ってた!やっさしいね~!でも毎日飲み過ぎはダメだよ?約束できるなら私も黙っててあげるから~」


アル「わざわざダンさんの部屋に一度運び込んでね、それから持ってきました!大事に飲んでねヘルゲさん。インナさんとダンさんがね、これで元気になるかなって心配してたよ?」



ヘルゲさんはスタスターっと歩いてきて、びっちゃびちゃの髪のまま、びちゃーっと俺をハグした。「ぐはぅ!」と言うとニコル姉ちゃんが俺ごと精霊で乾かしてくれた…ああ、びっくりした。



ヘルゲ「俺はいま最高に嬉しい。悪魔の泉は惜しかったが、俺にはまだオーク殺しがある…!」


アル「よりによってソレなんだ!?よかったよ、インナさんとダンさんのチョイスだったんだけど、なんかすごい名前のばっかだから不安だったんだよね」


ニコル「あは、ヘルゲが好きなお酒って度数高いのばっかりなの。そうするとね~、ゴツい名前が多くて~」


ヘルゲ「いい名前の酒もあるんだぞ。ここにあるのが強烈な名前のものばかりなんだ。まあ、最長老はいい酒の趣味をしている」


アル「…ちなみに、今までで一番強烈だった名前のお酒って?」


ヘルゲ&ニコル「ヒモとビッチ」


アル「…は?」


ヘルゲ&ニコル「ヒモとビッチ」



俺はこの前のフィーネと同じハニワみたいな顔をして聞き返したけど、この美男美女の宝玉夫婦の口から出てくるにはあんまりな言葉に、俺の耳がおかしいに決まってる、と思った。



ヘルゲ「強烈だろう?しかもクソまずかった」


ニコル「あれ、リア先生が面白がって買ってきたんだよね~」


ヘルゲ「ああ、あれは飲んだ瞬間にアロイスが『酒の神への冒涜だ』と叫んだな」


ニコル「その後リア先生がオスカーに『バッカス、ごめんなさい』って素直に謝ったくらいの味だったらしいよ~」


アル「そ、そうなんだ…」



俺はなんだか「ドラゴンとオークをヘルズ・キッチンでボッコボコにするヒモとビッチ」というカオスな脳内になってしまい、ヘルゲさんたちに「おやすみなさい」と言ってフィーネの部屋へ戻った。


フィーネに不思議そうな顔をされたけど、一晩寝ないとこのカオスがおさまらなさそうで、何もフィーネに言わずに寝ました…








  

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