380 魂に翼を sideヘルゲ
アルとフィーネの絶景の話に皆聞き入っている間、俺はアロイスに月白の墳墓の話をしていた。大人組が行くのはいいとして、子供たちはどうするのがベストかと悩ましかったからだ。スザクは最初から連れて行くつもりでいたが、もういろいろ分かるようになっているルカやレティは怖がるかもしれんと伝えた。
アロ「問題ないと思うよ?祖先の墓参りっていう感覚は大事だと思うしさ、大人が余計なこと言わないように伝えておくよ」
ヘルゲ「そうか、それなら日を改めて皆で行くか」
大人組へ墓参りの事を伝えるためスタスタと絶景話をしている輪の中へ入っていったアロイスは、ミッションでもないのに「アテンション!」と声を張り上げた。
アロ「数日後にクアルソ台地の墳墓へ猫の庭総出で墓参します!その際子供たちも連れて行きますが、祭壇の宝石に関することや幽霊等の話で無駄に子供たちの不安感を煽った場合は僕のお仕置きがもれなく入り、一か月間毎日兼任ミッションの刑が待っています!ご了承ください!」
全「う…うぇ~い…」
アロ「アルマは墓地とか聞くとトロけそうなのでカミルに監督責任が発生するよ。そのカミルは数日オネショが止まらない怪談話をしそうな気配があるのでアルマに監督責任!カイとユッテもイタズラ心を起こして墓地で子供を驚かせないこと。コンラートは透明化して脅かすのも禁止。オスカーはリアの面倒見てね、あそこは古代文字の宝庫らしいから」
全「うぇ~…い…」
アロ「まあ、墳墓内でグラオ式パーティーでもやろっか。しんみりしてると子供たちは怯えちゃうからね。だーだーし!酒に酔ってつい子供をビビらせちゃいましたっていう言い訳は一切聞きません。全員了解?アンダスタン?」
全員がコクコクと頷く中、アロイスがうーん…と少し考え込む。そしてクルリと振り向き、俺やフィーネを見て、こう言った。
アロ「ヨアキム、連れて行けないかな…」
フィ「…それもそうだ、一緒に行きたいね」
ヨア「私はいいですよ。宝玉狩りの国出身者なんて、月白の方々に顔向けできません」
ヘルゲ「何を言ってる。朱雀を唯一助けようとした人物に誰が恨みを持っているって言うんだ。当の本人と仲がいいのに遠慮をするな」
アル「あっちのドームは水晶だし、猫の庭の一部と墳墓の一部をがっつり繋げるのはどうかなあ。魂の出入りを自在にして、器を墳墓に持って行ったらいいんじゃない?」
ヘルゲ「…そうだな。移動魔法のゲートを固定化させて…ほんの少し繋げておけば充分だからな。よし、それでやってみよう」
アルに固定化させる構文を作成させ、子供たちの手が届かないステンドグラスの採光窓の真上に手の平サイズのゲートを開けた。アルがこれを固定化させると、その小さな円形の穴はサファイアブルーの光を猫の庭へ注ぎ始める。
ヘルゲ「ヨアキム、試しに墳墓へ行けるか実験してくれ」
ヨア「うーん…わかりました。ちょっと行ってきますね」
器の接続を解除して、ヨアキムは出かけて行く。その間アロイスたちはまた絶景の話へ戻り、編集したすごい映像を見てからの方がいいよと言って映像記憶を見せようとしないフィーネとアルに「少しだけ~!」とねだる光景が繰り広げられた。
ヘルゲ「…おい、ヨアキムが遅くないか?心配だな…見て来るか」
フィ「でもグローブで普通に接続もできるし、無事なのではないかい?」
そろそろ二十分以上経つぞと思って、墳墓で何かあったかと気がかりになってきた時…ようやくヨアキムは戻ってきた。そして、呆然としている。
アル「ヨアキムさん?どしたの~?」
ヨア「…あの墳墓…どうなってるんですか…」
ヘルゲ「何だ、何かあったのか?移動はできたんだろう?」
ヨア「できました。すんなり行けましたよ。きれいな墳墓で…きれいな空で…」
アロ「…ヨアキム?」
ヨア「…私、器なしでもあの中を移動できたんですけど」
ヘルゲ「は?」
ヨア「ですから、器が無ければ私は水晶のドームに沿って中を眺めるだけでしょう?そうじゃなくて…魂が自由に動けるんです」
全「はあぁぁぁ!?」
ヨア「それでですね、猫の庭に戻ってもできました。あの墳墓に入った瞬間、何かの構文が働いたと言うか…」
ヘルゲ「…あ!書き換えた玉座の構文か!?そうか、リアに【魂の解放】で構文を作らせたんだ…まさかお前、消えそうなのか?」
ヨア「違いますよ、逆です逆!魂を保持したまま、もしかしたら外へ自由に出ることができそうなんです。猫の庭にきちんとつながったまま、すごい安定感なんですよ。どういう構文だったんです?」
ヘルゲ「確か【魂を軛から解放せよ 魂に自由な翼を授けよ】みたいな内容で…」
フィ「…月白の魂は深淵に還ることを切望していた、疲れ切った魂だったのだからね…解放されて自由になったから全員深淵へ還ったのだろう?だがヨアキムは自由意思でここに居たいと願っている。だからじゃないのかい?」
ヨア「…それはそうでしょうね。今さら成仏したいだなんてサラサラ思ってませんし~…」
アル「ヨアキムさんは今まで猫の庭の内部しか動けなかったんでしょ?外に出ようと思っても何か壁があったってこと?」
ヨア「猫の庭の建物境界を出ると魂が散ってしまうだろうという確信があったので、それがイヤで出なかったってことです。でもこの安定度なら、普通に外に出られますよ。何か危ないなと思えばゲートで猫の庭へ戻ってくればいいかなって思う程度で、何も危機感がありませんね」
マリー「…ちょっと怖いけど、実験してみるしかないんじゃなあい?ヨアキムが器に接続している状態で草原へ出てみてくれるぅ?不安定になって器から離れそうになったら私が分かるし、すぐに救出できると思うわ」
ハイデマリーの提案で、ヨアキムは恐れ気も無く「それもそうですね、大丈夫だと思いますけど」と言いながらスタスタ歩いていく。俺たちの方がよほど慌ててヨアキムを追いかける始末だった。
コン「お前、少しは恐れるってことを思い出せ。一応人間だろが…」
カイ「俺たちの方がビビっちまうよ、ヨアキム…」
ヨア「あはは~、大丈夫ですってば。…ほらね?」
ニコル「うわ…うわぁ~!すっごい!よかったねヨアキム!一緒にシュピールツォイクに遊びに行こ!」
アルマ「それイイ~!クアルソ台地に行ったら、一緒に遊覧飛行もできるよねえ?」
ユッテ「ヨアキム、金糸雀の里に自分で行けるんじゃん?ベルカント連れてってあげなよ!」
アル「あ!ヨアキムさんも魔法部で働けるじゃん!お母さん喜ぶよ、コレ~」
オスカー「…つかさあ、マリー姉の魔法がなくてもどういう変装も自在なヨアキムがさ、潜入捜査とかしたら…最強っぽくねぇ?マナ固有紋チェックなんてないも同然なんだし」
全「…うあ…本物の隠密担当かよ…」
ヨア「あはは、これで皆さんともっと幅広く遊べますねえ!」
…遊ぶ領域を大きく突き抜けてしまった十二人目のグラオは、いきなり最強メンバーの名乗りを上げた…
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【おまけのヘルゲ&アロイス】
「…あの酒は俺が個人的にインナから貰った。返せ」
「ねえねえヘルゲ。君が毎晩ごくごく飲んでるものは水ではないんだよ」
「カナリアの最長老の形見だ、返せ」
「オスカーは宴会の時にしか飲まないし、コンラートも宴会の時以外は大した量を飲まないし」
「あの中には悪魔の泉という火気厳禁のヤバい酒もある。危険だから俺が飲む」
「ヘルゲはこの前電池切れになって、ニコルを枕にして寝てたんだって?危ないなあ、スザクを潰してたら大変なことになってたよ」
「最長老はヤバい酒をごっそり持っていた。あんなのが保管庫にあったら引火して火事になる。寄越せ」
「…お酒の飲み過ぎでヘルゲの体調が悪くなったら…ニコルもスザクも泣くね…」
「うぐ…っ」
「火気厳禁のお酒があるの?じゃあお酒が残った状態で炎獄出したら、ヘルゲが火だるまだね…火気厳禁、火気厳禁っと…」
「…」
俺が口でアロイスに勝てたことは、まだない。