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Three Gem - 結晶の景色 -  作者: 赤月はる
未来へ続く虹
376/443

375 蒼穹の墳墓 sideヘルゲ

  






全員をガードの結界に包み込んで地上から離れた俺たちは、雲海の上にいた。俺は三つの結界の座標をきっちり把握しつつ既にダンと軽い共鳴を使っている。


ダンは面白い精神構造をした男だ。生き甲斐を仕事にしているという、自分自身を賭けた情熱で撮影に臨む姿勢は称賛しか出ない。感動屋のアルと同じくらいに景色に魅了されているのに、頭の半分は冷静な映像記録者イメージグラファーが計算ずくで全ての事象を捉えて“至高の撮影技術”へ繋げていく。


俺は主にダンの冷静な半分と共鳴しながら、ダンなら次にどうしたいと思うかを並列コアで予測していた。俺はこの前星座を撮影するために雲海をさんざん見たので、他の皆よりは景色に心を奪われないでいられたのは幸運だった。


あの時は月の光に照らされた、青く光る雲海だったが…どんな絶景でも数時間も見ていると、人間というのは満足すると飽きてしまうものなのだというのも知っている。もちろん最初は感動して見惚れるほどだったが、脳の「慣れる」という機能はこういう時には欲しくないなと思う。本来なら飽きるなんてもったいないほどの絶景だったがな。




ダンがそろそろ全体を把握したがっている。広大な雲海に浮かぶ島々はがっちりと記憶へ焼き付け、メインはもちろんリョビスナ台地を縦横無尽に飛んでみたい。そのためにはどこから視線を侵入させ、離脱し、水のない滝へと繋げていくか。それを見極めるためには旋回して色んな方向から台地を見せたほうがよさそうだった。


ダンが考えをまとめやすいように、ほどほどの速度で旋回しつつ降りていく。水のない滝の反対に位置する、台地の外周の約半分を過ぎたあたりだった。



アル『ヘルゲさん…あれ…』



アルは背後を見て目を丸くし、指差しながら言った。さっきまで鏡のように凪いでいた湖が、膨張したかのように中心から盛り上がっている。次の瞬間、ギュッと収束の気配が起こって大規模魔法「焔矢ほむらのや」が俺たちに降ってきた。



ヘルゲ「…!? ガード!!」



即座に盾形状となったガードが防御し、全ての焔矢は弾かれて四散していく。波状攻撃が来るなら守護も出すかと思ったところで、フィーネとアルが俺と同じ懸念に辿りつきながら言った。



フィ『ヘルゲ、ぼくが守護を出す!魔法レベルは中の上くらいだが、マナの発信源が一つしか感じられないんだ。ウソだろう…なぜ、大規模魔法がこんな場所から…っ』


アル『いまのバレット型…焔矢だよね?俺もマナの波は一種類しか感じなかった。…個人で大規模魔法?そんな…!』



くそ…わかっている。白縹しか個人で大規模魔法は撃てないはずだ。だが…なんでこんな場所なのかが問題なんだ。もし白縹なら、なぜ、どうして、ここに。



「白縹…ガード、どういうことだ…!」


( …白縹じゃ、ねえ。月白ツキシロだ… )


…は?何だそれは。月白なんて一族は聞いたこともない。このままあの湖へ行ってもいいのか。話せば分かる相手なのか?


( 知らねえ。俺が生まれる前…俺の爺さんの代に分かれたやつらだろ。山から降りることに最後まで反対したやつらは月白と名を変えて袂を分かったと聞いてる。その“山”がここだったかなんて、俺ァ知らねえけどな )


要するに同族だろうが!くそ、だから大規模魔法が撃てるのか…!



とにかくこのままでは危険すぎて撮影どころじゃない。フィーネへ守護による警戒を頼むと伝え、全員を連れて大きな湖のある島へ向かった。





*****





その湖のある台地は、地図上で「クアルソ(水晶)台地」となっていた。その岩盤からは、まるで剣のような水晶がアロエベラのように生えている。所々に水で穿たれたような穴があいているんだが、その中にも水晶がギッシリだ。研磨もされていない水晶は白く見えるが、この台地には至る所にそれらがあった。


魔石屋が見たら大喜びだろうな…などと思いながら接近すると、アルが「ヘルゲさん、やばい!」と叫んだ。アルから見ると、その水晶から湖の中へ、マナがぐんぐん吸い上げられているのが見えると言う。するとまたしても湖の中央が盛り上がり…「鎌鼬」か!



ヘルゲ「フィーネ、鎌鼬だ。規模はさっきと変わらん」


フィ『了解、弾く』



さすがにニコルの守護はあっさりと風のバレット型大規模魔法を弾く。そして注視してみると、台地にあるあらゆる水晶から、マナの光が湖へ吸収されていくのが見えた。なるほど…エネルギーチャージのためのクールタイムはあるが、ほぼマナを無尽蔵に補給できるってことか。これは、人間じゃないんじゃないか?プログラム通りに侵入者を迎撃しているようなシステムに思える。



ヘルゲ「埒があかん。このまま湖に行くぞ」



湖の真上へ着くと、その恐ろしいほどの透明度のおかげで内部にあるものが見えた。水晶のドームと、その中には白い棺が…おそらく万単位で同心円状に並んでいた。



インナ『あ…ああ…』


フィ『インナさん!ヘルゲ、退避を』


インナ『だめです…このまま…中へ』



インナはポロポロと涙を流しながら水晶の墓場を見つめている。アルへ接続してみたが、マナの波らしきものはほとんど見当たらないと思うんだが。インナは何を見ているんだ…


とにかく、次の攻撃用のマナが充填されてしまう前に中へ入ってしまおう。移動魔法を三つ連動させて大きなゲートを作り、俺たちは空中からダイレクトに水晶のドームへと入って行った。







*****





ドームの中へはすんなり入ることが出来たが…ガードの結界を解除してもいいものか。何か有毒ガスの類がないかとガードへ聞いてみるが( …ない。通気されているから問題ない )と素っ気ない返事が来た。




ヘルゲ「…ガードは呼吸に支障はないと言っている。守護はどうだ」


フィ『同じだね。まあ、警戒はもちろんしていてもらうがね』


ヘルゲ「よし、出るか」



ガードから出て、俺たち五人はその巨大な墳墓に圧倒される。棺に彫られた数々の古代文字。上を見上げれば、空のサファイア色に染まった無色の水。こんなに美しい墓地を見たのは初めてだ。


インナを取り囲み、様子を見る。インナは「ああ…」と言いながらまだ泣いていた。



アル「…インナさん、何か視えたの?大丈夫?」


インナ「ハァ…すみません…祝詞の前に、歴史が降りてきてしまいました」


フィ「まさか…この墓地の人々のかい?この人たちは…」


インナ「ガードさん、あなたはご存知なのでしょう?【ツキシロ】の方々を」



ガードが俺にだけ伝えた「月白」のことを、インナはすんなり言い当てる。カナリアの長は…アルやフィーネと本当に同類なんだな。


ヴォン、と空気を震わせて出てきたガードは俺に( マスター、シャドウを出せ。俺の昔の姿…見たことあるだろ? )と言う。…俺が今まで考えたこともなかった、ガードが外部の人間と直接話せる方法だった。


ハイデマリーへ接続し、ヨアキムの記憶や、ガード本人に見せてもらった昔の仲間たちと談笑する【朱雀】を思い出す。赤茶色の長い髪を頭の高い所で一つにきっちりと紐で結わえ、以前オスカーが仮装で着ていたような白装束に手甲てっこう脚絆きゃはんを着けている、紅い瞳の、不敵な笑顔の男。


だが本物の修行僧のようにキッチリとは着ていなくて、あわせが肌蹴たようなだらしない着方をしていた。だいたい、白縹の集落ではこんな儀式用装束で暮らしていたわけではなかったと言う。このまま仲間が狩られ続けたら白縹は滅んでしまうから。だから朱雀は『死装束』のつもりでこれを着てヴェールマランへ攻め入った。後にそれが「修験者」と呼ばれる所以となったわけだが、ヨアキムと会った時には血染めで全身赤黒くなっていた。



朱雀『あ゛…あー…お、しゃべれるな。インナもすげえな、たぶん俺もこいつらは月白だと思うぞ』


フィ「な…な…ガード…かい?」


朱雀『おう。やっぱお前ちっこいんだなフィーネ。もっと食え』


フィ「…もう成長期は終わって久しいのでね、食べたら横に成長してしまうよ…そんなことよりツキシロとはなんだね」


朱雀『約八百年前に白縹と袂を分かった者だ。俺の爺さんは紫紺を信じて山を下り、宝玉狩りにあった白縹のグループ。んでこいつらは…それに反対して山に残った月白グループの成れの果てだろうな』


インナ「ねえガードさん、あなたはあそこの人を知っていると思いますよ。彼は…【ツキシロ】の最後の一人です」



インナは向こうに見える、この棺群の中心…祭壇のような場所を指さす。その時、俺の心臓なのか朱雀の心臓なのかわからないが、確かに「ドクン」と鳴った気がした。








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