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Three Gem - 結晶の景色 -  作者: 赤月はる
未来へ続く虹
373/443

372 危険だらけの打合せ sideヘルゲ



カペラへ全力疾走している間に俺は幻影で自分の瞳を少し赤っぽく見えないでもない茶色へ変えた。自分の名前をがっつりマナ固有紋付きで署名したんだからマザーが検品すれば一発で本物とバレるわけだが、あの子供の親がそこまで頭の回らない人物であることを祈るばかりだ。


そして索敵ではなく自動マッピングを調整して、「こうぎょく」を探している人間を老若男女問わずチェック。俺の半径50m以内へ入ったらクアトロ方陣で完全防御する構えだ。念のため金糸雀の里全体へ自動マッピングを作用させると…先ほどの場所のすぐそばで黄色の光点が明滅する。


…あの子供か。頼む、お前の持っているその本を焼却処分してくれないか?その代わりお前の家に新しい童話集を全巻セットでそっと置いてやるから…!


アロイスならきっと子供を傷つけずにうまく追い返してくれたんだろうが、俺一人では完封負けもいいところだ。せめてあの子が周囲にこのことを言わないでいてくれるといいが…いや、無理だよな…せめて親に報告する程度にしてくれないものか…!頼む…!


俺が必死な気持ちで祈っていると、ポッと黄色の光点が二つに増えた。


ゾワ!!


思わず立ち止まって、真っ青な顔で自動マッピングの画面を見る。


ポ ポ ポポ ポポポポ ポポポポポポポポポ…


「うわああああああ!!」


タラニスとやらは、まるで俺をあざ笑うかのように金糸雀の子供たちの祈りを優先させたのだった…







*****






アル「ヘルゲさん、元気だしてよ…」


ダン「ほら、帰りは全然違う人に変装してしまえば…私たちで『こうぎょくは帰っちゃったよ』って言いますから!」



アルとダンは、恐慌状態になった俺が幻影でオスカーになったりコンラートになったりと物陰でやっているのを発見して慌てて戻ってきた。いま俺は、魚屋のディルクになっている。


俺の身長をカバーできて赤い目ではない者といえばカイだが、共鳴を発動してしまったら赤にもなるから危険すぎる。オスカーもコンラートも、白縹でございと言っている瞳の色だから危険だと思った。他に俺の記憶に強烈に焼き付いている高身長の者と言えば、ディルクかぬいぐるみ屋の店長しかいなかったんだ…!


アルとダンに労わられてカペラへ到着すると、二人は熱烈に歓迎されてすぐに長へ取り次ぐと言われた。長の使用する区画はカペラの舞台裏にほぼ集中しており、常駐するカナリアがガードしている体制のようだ。


カペラの客席を抜けて舞台裏への通路へ入ると、案内のカナリアは「どうぞ」と言ってドアを開けた。そこには、すらりとした若い女…新長のインナがいた。



インナ「アルノルトさん、金糸雀にいらっしゃったんですね!会いに来てくれて嬉しいです。そちらの方は?」


アル「あ…えっと、俺の兄ちゃんなんだ。ヘルゲさん、ここは誰も来ないから幻影解いて大丈夫…だよ?」



俺はディルクのままでガチゴチに自動マッピングへ意識を向けていたので、アルの言葉で我に返った。幻影を解いて、挨拶しなければな…



ヘルゲ「…すまん、変装していた。ヘルゲ・白縹だ、アルが本当に世話になった。ありがとう」


インナ「…紅玉…なんですね?…ああ、なるほど…ふふ、それは大変でしたね」


アル「インナさん、もしかしてマナを読む力がガツンと上がってる??」


インナ「ええ、やはり丘で長老様方と同調して歌うと上がってしまうようです。その…ミハイルさんも悪気はなかったんです、お許しください」


ヘルゲ「いや、それは…わかっているつもりだ。だが今会ったら反射で首を絞めてしまいそうだから、ここ以外では変装させてくれ…」



インナはクスクス笑いながら頷いた。そしてダンの絶景撮影に付き合わないかとウキウキしてアルが話すと、「まあ…!昇仙でもないのにそんなデートに連れて行ってくださるんですか!?」と嬉しそうな顔をする。



ヘルゲ「まあ、おもちゃ作成のための撮影だが。せっかくダンというすごい視線を持つ者がいるんだ、最高…いや、至高、だったな。至高の映像を撮影して、至高のおもちゃを作ってやる」


アル「うあー、もう俺ワクワクが止まらないぃ~!ダンさんとインナさんの都合が会う日で調整して…あ、フィーネにも会わせたいな…五人で行こうよヘルゲさん」


ヘルゲ「そうだな。ああ、それと…俺はインナにも聞きたいことがあってな。最初はオルゴールを作ろうと思ったんだが…カナリアの歌を録音して流してもいいものか聞きたかったんだ」


インナ「録音…そうですねえ、マナの力のこもった祝詞になるとは思えませんが、祝詞を録音するのは金糸雀として嫌がる人も多いでしょうね。あ、でも…ウィングなら祝詞の効果があっても問題ないかしら」


アル「ウィングって何??」


インナ「あら、すみません…舞台用語の『ウィングス(舞台袖)』から来ているんですが、即興で何かやることなんです。カナリアは教わった教科書通りの祝詞ばかりを歌うわけじゃありません。たとえば大自然に感動した時に心が解放され、マナの大河に触れると祝詞が降りてくることがあります。だから、ウィングなら金糸雀で知られていない歌ですし、そのカナリアが納得していれば録音も問題ないわけです」


ダン「インナさん…だったらもしかして…あの台地の上へ実際に行けたら、祝詞が降りてきたり…」


インナ「あら…それもそうですね。あんなすごい場所へ行ったら、高確率で降りてくるでしょうね…」


ダン「うわ…うわ…ヘルゲさん、すごい映像になっちゃうかもしれませんよ?至高の絶景と、その絶景のために生まれた至高の祝詞だなんて…絶対歌と一緒に映像を流すべきだ…!」


ヘルゲ「それをおもちゃとして売るのはもったいなさすぎるぞ…」


アル「じゃあさ、編集してフルバージョンとショートバージョンに分ければ?フルバージョンの使い道はユリウスとエルンストさんに相談するとか。衝撃が強すぎるなら、俺たちだけでコッソリ楽しんでもいいんだしさあ」


ヘルゲ「それもそうだな。インナはどうだ?それでもいいか?」


インナ「もちろんです!ああ、楽しみです!」



俺たちはスケジュール調整してからもう一度集まることにし、アルはフィーネへ連絡して同行の快諾を貰っていた。


帰ろうと思い、念入りにディルクの幻影を被る。そして自動マッピングをチェックしてみた瞬間、俺は心臓がニブルヘイムへ叩き込まれたかと思った。思わずアルの腕を掴み、震えた声を出してしまった。



ヘルゲ「ア…アル…助けてくれ…」


アル「へ?どうしたのヘルゲさ…うわ!!」



カペラの観客席が…黄色に染まっている。

それでもこの姿でカペラから出るところをほかのカナリアへ見せなくてはマズい。俺はまたしてもガチゴチになりながら、ディルクの巨体で歩いて行くしかなかった。



子供「あー、アルくん来たァ!」


アル「や…やあ…みんなどうしたの~?」


子供「あのね、こうぎょくのさいんほしい」


ダン「そうだったのかあ。ごめんね皆、こうぎょくはここにはもういないよ」


子供「えぇ~!うっそだあ!だってアルくんといっしょにカペラに行くぞーって、はしって行ったって言ってたよぉ?」


インナ「まあまあ、皆どうしたの?にぎやかですね」


子供「インナさまあ!こうぎょくのサインほしいよお!あとだいぼうけんのおはなしがききたい!こうぎょくどこぉ?」


インナ「こうぎょくなら、絵本に変身しに行きましたよ?」


子供「!?」


インナ「金糸雀の子供たちの中でもたくさんお勉強して、お父さんやお母さんの言うことを聞くよい子のお家へ行きたいって言ってましたけど…誰のおうちへ行ったんでしょうね?」


子供「ぼ、ぼく、おうちに帰るっ」


子供「わたしもぉぉ!!」



子供たちは潮が引くようにカペラからいなくなった。俺は思わずがっくりと膝をついてしまった。



ヘルゲ「インナ…助かった…」


アル「インナさん、こうぎょくが変身する伝説をスルっと追加したね…まだ目から光線が出るっていう誤解も根強く残ってるのに…」


インナ「ふふふ、創作絵本で『こうぎょくのだいぼうけんⅡ』でも作ってもらいましょうか」


ヘルゲ「やめろ…!インナ、真面目そうに見えてお前なかなか悪戯好きなんだろう…!」


インナ「あら、そんなことあり…ますかしらね…?最長老様の側付きも長かったですから…」



コテンと首を傾げるインナは少しニコルに似ていた。まさか、無自覚の天然悪戯娘という属性なのか?タチが悪いぞ…!


俺たちは逃げるようにカペラを出て、マザー施設まで戻ってきた。ダンが「お茶でも出しますよ、少し休んだらどうです?」と言ってくれたので甘えることにしたんだ。俺は…本当にもうライフが限りなくゼロに近い…!幻影を解いて金糸雀支部に入ると、バーニーとエド、あともう一人…ベティだろうな、女性が一人いた。



バーニー「お~、おかえりぃ!」


エド「なあヘルゲさん!俺さっき里へ行ったんだけど、すっごいことになってたじゃんか!くく…こうぎょくのサインをもらった子が自慢しまくってたぜ?俺…ちょっと笑っちゃったよ、ごめん…ぷぷ…」


ベティ「きゃあああ、初めまして!私は金糸雀歌劇団の専属記者でベティって言うの!ちょっと~、すごいハンサムじゃないの!ねえねえ、アナスタシア様とお衣裳着て並んだら絵になると思うんだけどぉ」


ヘルゲ「…ベティ、本当に勘弁してくれ…そろそろ再起不能になるから…妻も子もいるんだ、俺を無事に家へ帰してくれ…!」


アル「ごめんねベティさん。俺、こんなにダメージ受けた兄ちゃん見るの初めてだから、勘弁してやって。殲滅魔法撃ってもこんなになったことないよ」


エド「おい…この国の攻撃力の代名詞にこんな弱点があるなんて、余所で知られるなよ?他国に絵本持って攻め込まれたらお終いじゃねえか」


ダン「皆、そんなに追い打ちかけるなよ~。ヘルゲさんはちっちゃい子に優しいだけだよ!」


バーニー「まあ、あのすっげえ挿絵はな~。ベティの言うこと実践しちまったら、もう逃れようもなくあの挿絵のモデルだと思われるだろうからな。その顔じゃヤバい」



…うん、もうわかった。わかったから…お前ら、その口を閉じてくれ…!


俺は身体中の水分がなくなった干物のようになって、茶も飲まずに猫の庭へ帰った…







  

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