368 楽しいことは全力で sideフィーネ
エルンストへ通信すると『何かありました?ユリウス様に内緒の話でしたら移動しますので』と開口一番に言われた。察しのいい人だな、こうでなければ議員の第一秘書など務まらないのだねえ。ツーク・ツワンクのセレクトチャンネルではなく、個人指定して通信しただけでこれなのだから感心してしまうよ。ユリウスに秘密ということもないが、やはりぬか喜びさせたら悪いからね。
フィ「いやあ、察しが良くて助かります」
エル『少々お待ちくださいね… … …はい、移動しました。大丈夫ですよ』
フィ「実はね、こんなことを少々考えて…でも更に収入が増えてしまいそうな予感もするし、他になにか良い使い道がないだろうかと思ってねえ」
エル『ぶ…並外れた開発力があると、こういうことが起こるんですね…そりゃいろいろありますが、私の出す案をフィーネたちが出資するというのはちょっと違う気がするんですよ。あなた方は“楽しいことに全力を出す”のがとても合ってると思うんです。私が出す案など、誰それに出資すると見返りが大きいだの、どこそこに出資すると誰と仲良くなれるだの、そんなことばかりです』
フィ「う…そうか…確かにぼくらはそういう使い方はしないだろうね。ユリウスが寄付している孤児院というのは一つなのかい?複数あるならその数だけ寄付額を増やしたいが」
エル『寄付している孤児院は三か所です。議員がこぞって寄付しますからねえ、下手に余所へ寄付するとナワバリ荒しみたいに思われるんですよ』
フィ「おおう…孤児院のことを考えて、ほどよい具合で寄付が行けば良いのにね…」
エル『まったくですよ。くだらないったらありゃしません。まあ、何人かの議員が寄付を取りまとめて必要な場所へ必要な額を配布させる組織を作ろうとしているみたいですけどね。そこはエルメンヒルト様にがんばってもらいましょう、プロですから』
フィ「なるほどね、いろいろ参考になったよ。ありがとうエルンスト」
エル『…フィーネ、そのおもちゃ百貨店が実現する確率はどれくらいなんです?場合によっては“クルイロゥ注意報”くらい警戒しないといけない場所になりそうなんですが』
フィ「はっはっは、店長さんの返事次第さ。五分五分といった…」
ユリ『エルンストさんみーつけた』
エル『うわあああああ』
ユリ『おもちゃ百貨店て何かなあ』
エル『ああああああ…』
ユリ『フィーネと話してるんだね。私に内緒話かぁ…淋しいなあエルンストさん…』
エル『ぁぁぁぁぁぁ…』
エルンストはまるで幽霊を見たかのような叫び声を上げてプツンと通信を切った。…まあ、ユリウスはエルンストに任せようかね。
次は誰に相談しようか、やはり開発チームだろうか?と思って開発部屋へ行くと、ヨアキムとヘルゲが談笑していた。おもちゃ百貨店の話をすると、二人とも「面白い」と乗り気だ。
フィ「ふむ、やはりいいと思うかい?エルンストの話を聞いていて思ったのだが、おもちゃの収益の一部をぼくと店長さんの名前で孤児院へまわしてもいい。ユリウス経由は最初の一回だけにして、ぼくらが孤児院へおもちゃをそのまま寄付したりすれば議員のナワバリなど関係ないだろう?やりすぎなければ民間のことはお目こぼししてもらえると思うんだ。その辺の加減はエルンストに聞いてもいいし」
ヨア「うん、とてもいいですよフィーネ。ルカたちも喜ぶでしょうしね」
ヘルゲ「…」
フィ「ヘルゲはどうしたんだい?何か問題点があるかね?」
ヘルゲ「…アルが金糸雀の男子学舎でインダストリアルデザイン部の模型を見せてもらった時の話を思い出した。馬車の模型を作っていたらしい。あれを何かで指示した通りに走らせるおもちゃにできそうだな…テキスタイルデザイン部の布を使ったポムの服とか…金糸雀の学舎とコラボして作らせても面白そうだ…あ、音楽部にオルゴールの曲を作らせるとかどうだ」
フィ「おおう…ヘルゲ、まだ出店が決まったわけではないよ?」
ヘルゲ「…フィーネ、さっさとあの店長をオトしてこい」
フィ「ふは!そうだね、楽しい事を思いついたら速攻がいいか。よし、では誠心誠意オトしてくるとしようかね!」
こうしてぼくは、もう収入がどうたら考えるのがばからしくなったのだよ。だって楽しい事が待っていそうじゃないか?
*****
CutieBunnyへ行くと、未だに店内はごった返していた。従業員も少し増えて、まだ露草の玩具組合員も常駐している。一応アポは取ったのだが…閉店後に来た方がよかったかね…
「フィーネたん!待ってたわよう、こっちこっち!」
「おや、スタッフルームへお邪魔してもよろしいので?」
「ふふ、ごめんなさいねえ。店内の応接はカスタマイズ型の受注で使っちゃってるのよう」
「いやいや、お忙しい時に申し訳ない」
「いいのよう!あなたたちのおかげで私の夢が叶ったようなものよ!」
「店長さんの夢ですか?」
「ええ!私の魔法でこの店を中央一の店にしたいと思ってたのよぉ。今や押しも押されぬ中央一有名な店だもの」
「ほほう…店長さん、実はですねえ…ゴニョゴニョ」
「なんですってぇ…フィーネたん、あなた何考えてるのよう!この前も言ったわ、オイシイ話には裏があるのよ」
「ふふ、この店は国一番の規模で、国内唯一の品を扱う店になる。夢はでっかく!そして社会福祉もしているとなれば、他の追随を許さないブランドになることでしょう。ぼくはできればそういう店にしてほしいし、例の中枢議員さんが遠慮なしに来られる憩いの場を作るお手伝いをしたいのですよ。ですので、もし店長さんがその気になってくださるのなら、是非!」
「んまあ…わかったわ。任せなさいフィーネたん。アナタの漢気…私がどんと引き受けたわ…!」
ガシィ!!
ぼくと店長さんは灼熱の握手を交わした。もちろんぼくは、カイさんに接続して握手したがね…ユリウスの二の舞は踏まないさ。さて…ガヴィにも打診してみようか。今度は割引無しで作ってもらわねば!
*****
ガヴィに正式に依頼すると、二つ返事で了承してもらえた。またしても原価で引き受けそうだったので、ポムの事情を話して相場で請け負ってもらうことに成功したよ。現在CutieBunnyがあるのは南区の東寄りなのだが、どうせならもっと中心に近い場所を確保したいね。そう思って奔走すると、例の「誇大広告」を賄賂で出そうとして潰れた店が更地になっているのを発見!
いいねえ…南区と東区の境あたりで、中心の噴水広場からワンブロックしか離れていない立地だよ!ヘルゲとヨアキムにマザーを調べてもらったが、特にその土地を買うことに問題もなさそうだったので、即購入。面積は猫の庭の四分の三ほど。高層建築にするつもりはないので、四階建てにしてスタッフルームや倉庫も確保できるようにする。
建築自体は数日で終わるが、ガヴィはひと月かかるとマザーへ届けた。ま、そうしないと中枢に囲い込まれてしまうからねえ。もちろん建材はマナ・ピエトラ製。ヘルゲによる変態防犯システムや、変態清掃システム、変態アトラクションを反映させやすくするためさ。
こうして新しいCutieBunnyを誕生させる準備は着々と進んだわけだが…問題はぬいぐるみ以外のおもちゃだね。ぼくらが開発したおもちゃがドドンと大量に用意できるわけもないので、店長さんは個人的に親しい小さな店へ声掛けをした。するとほとんどの店主は二つ返事で乗ってきて、店名はそのままだが店子のように他の店を内包した不思議な形態ができたのだった。
一階には、ヘルゲご贔屓の大人向けパズル専門店や幼児用おもちゃの店が。
二階には、けん玉、独楽やカイト。いたずらグッズとしてスライムなども置いている。
三階には、もちろんぬいぐるみ。
主に今のところはこのようなラインナップなのだが、開店に絶対間に合わせる!となぜか猫の庭総出でおもちゃを考え始めているのだよ…
ヘルゲなどは作るスピードが他の皆とは段違いなので、試作品を作っては子供たちに遊ばせて改良していっているのだからね…
さて、ぼくもせっかくアイデアが湧き出ているのだ。
作るとしましょう!