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Three Gem - 結晶の景色 -  作者: 赤月はる
未来へ続く虹
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366 眉間の地脈 sideユリウス

  






中枢会議所は、今日も平常運転だ。つい先日あんなことがあったとしても、当人たちでさえ平然と「ごきげんよう」とにこやかに挨拶する。私ももちろん平常運転…のフリをしている。目の前にいるのがニヤニヤと笑う広目天&眼光鋭い白蛇だからね。



長「ユリウス、何か芸を見せろ」


ユリ「私は大道芸人ではありません、長様」


翁「もう一度ペトロを出してみい」


ユリ「ペトロ様はご満足されて、もう私の所へはおいでになっていません」


翁「ユリウス議員、あの後精霊の動きが妙に滑らかになったんだがな。何かに怯えて屈しているような気配もあるし…何を地脈に放った」


ユリ「ペトロ様が護ってくださってるんじゃないですか?」


翁「長、こいつ儂が性根を叩き直してやっても良いか?」


長「だめだジギー。ユリウスはこれが面白いんだからな」


ユリ「翁、アグエ様とお話してくださいましたか?」


翁「うむ。まあ凄い勢いで罵ってくれたわ。これからは妻たちにもここでの常識を重んじるようにきつく言っておいたからな。まったく、家の内政はボロボロだったわ…」


長「ぶふっアルカンシエル内政の要がな…ユリウス、面白いものが見られた。褒めてやる」


ユリ「アグエ様も面白そうな方ですよねー…そうだ、私とお友達になってくださらないか聞いてみましょう。きっと私とは翁のお堅いところの愚痴を言い合える良い友人になれると思うんですよ」


翁「長、やっぱりこいつを儂に預けてくれんか。じっくり話す必要がありそうだ」


長「…ダメだと…ぷふ…言っておるだろうが…ぶふ」



お爺二人の茶飲み友達認定された私は、いま毎日のように官邸へ呼び出されている。長様のティータイムに出てくるお菓子がこれまた絶品ばかりだから、私もイヤなわけではないけれどね。仕事がありますので、と官邸を辞するとエルンストさんから「お客様です。エルメンヒルト様とご夫君のフランツ様、お嬢様のレベッカ様です」と通信が入った。了解のしるしに不可視のヘッドセットを爪でコンコンと二回弾いた。



ユリ「エルメンヒルト様、フランツ様、レベッカ様、ごきげんよう。お待たせしたようで申し訳ありません」


エルメ「とんでもないわ。こちらこそ急にお邪魔してごめんなさい。こうして復帰できたので…今日はあなたに一番に御挨拶しなければと思って参りましたの。夫と娘もどうしてもというので、一緒に。ご迷惑ではなかったかしら」


ユリ「迷惑なわけないですよ、わざわざ恐れ入ります。フランツ様もレベッカ様も…お顔の色が良くなったようで安心しました」


フラ「ユリウス様、本当にこの度は…ありがとうございました。妻がこのように復帰できるとは、ましてや牢から出る日が来るなどとは思っていなかったものですから」


レベ「ユリウスさま、ありがとう。かあさまがおうちにいてくれて、とってもうれしいから…これ」



まだ八歳のレベッカ様は、恥ずかしそうに手紙と白いバラを一本私にくれた。

…こ、これは…嬉しいかも。「ここでは読まないでー!」と言うので我慢したけど、読みたくてウズウズするよ…


私が顔を赤くさせて蕩けそうな顔をしたのを見て、エルメンヒルト様は「あらあら、ユリウス様が恥ずかしがり屋だというのは本当ですのねえ」と口を手で押さえている。うう、私の弱点はこういう邪心のない心のこもったものなんですよ!


丁度いいから、いま渡しちゃおうかな。「ちょっと失礼」と言って、ブランを呼ぶ。ブランと一緒にチョコチョコとついてきたマルチーズ型のポムは、まっすぐレベッカ様の所へ行った。



ユリ「…えーと…ポムってご存知ですか?その、アラート機能が付いていますし、レベッカ様がこれで少し安全にならないかなって思ったので、余計なお世話かなと思いましたが、よろしかったらどうぞ」


レベ「こ、この子レベッカにくれるの!」


ユリ「うん、可愛がってあげてね」


レベ「ユリウスさま、ありがとう!だいすき!レベッカをおよめさんにして!」


ユリ「ぶふッ…いや、その…」


エルメ「レベッカ、そういうのはもう少し大きくなってからね?ユリウス様に変な虫がつかないように、母様が見張っててあげますから」


ユリ「エルメンヒルト様、目が本気です。やめてくださいよ…あ、あわわ、レベッカ様はとっても可愛らしくて素敵な女の子ですよ!その、もっと大きくなってからにしましょうね、こういう話はね!」



「レベッカじゃダメなの…?」なんて涙目になったのを見て、慌ててフォロー。

…胸の大きくない、純粋な女の子は無碍にできなくて難しい…!


フランツ様にアラート受信ペンダントを渡して三人を見送ると、エルンストさんがニヤニヤしながら私を見る。



エル「…だからモフレストって言ったじゃないですか。アンゼルマ様のお嬢さん、アレクシア様の分もあるんでしょう?」


ユリ「う…だって、今回かかわった人にはさあ…特にアンゼルマ様には暴言吐いちゃったしねえ。まだアンゼルマ様が落ち着いてないみたいで、クラウス様もまだポムを手に入れてないみたいだったから…」


エル「それなら、もう渡してきた方がいいんじゃないですか?…そういえばアンゼルマ様と和解するんですか」


ユリ「しないっていうか、あれは私が本当に思ってることだから、和解しようがないっていうか。まあ、恩だけは売ったから適度な距離感でね」



そんな事を言いながら、エルンストさんの言う通りアンゼルマ様の執務室へアポを取ってもらい、ブランとポメラニアンのポムを連れて歩く。このポメラニアンは量産型のオレンジではなく、ブランと同じ真っ白な毛並にした。



ユリ「ごきげんよう、アンゼルマ様。お邪魔致します」


アン「…ごきげんよう、ユリウス議員。今日は何かしら」


ユリ「アレクシア様にこの子をプレゼントしに来ました」


アン「まあ、真っ白。そっちの大きな子と親子みたいねえ…」


ユリ「もともとポメラニアンはサモエドが小型化されたものですからねえ」


アン「そう…ありがとう」


ユリ「いえいえ、では失礼します」


アン「ちょっと待って。少しお話できないかしら」


ユリ「…ええ、もちろん。何でしょう」


アン「ねえ、あなたは…広報部による宣伝活動は不要だと思う?」


ユリ「うーん…中身がカラッポなのは好きではありませんが。不要ってこともないんじゃないですか?広報部の仕事は必要な情報を必要な場所へ配信することでしょう?『報道は無色透明』であるべきだと思ってます。事実を誇張することなく、知らせる。記事を見て民衆がどう判断するかってことです。最初から色の付いた報道ばかり周囲に溢れていたら…民衆は自発的に何も考えない愚か者ばかりになってしまいます」


アン「…うー…なんっか悔しいわねえ…いーい?『個性溢れる』なんて言葉じゃ済まされない部族がいくつもあるこの国で、少しの誘導もなくして治世できるわけはないのよ!?過去に金糸雀の踊り子が体で籠絡した者はその子に貢ぐために横領事件を起こしたわ!蘇芳が全員軍人になれるほどの規模ではなかった頃には、血の気の多い蘇芳による暴力事件が絶えなかった!」


ユリ「それらを是正したら別の問題が噴出したんでしょう?押さえつけるからいけないんですよ、各部族がそれぞれ別の部族の特性を知った上でお互いを生かせるように気遣わなければ本当に共存しているなんて言えない。もうこの国は発展途上の管理すべき子供じゃないんです、大人なんだから自分で考えさせるべきです」


アン「んもー!アッタマきたわ、そんな綺麗ごとで国がおさまるもんですか!」


ユリ「綺麗ごとを汚い手腕で実現するのが政治家ですよ!アンゼルマ様こそご自分の手が汚れるのを忌避してらっしゃるんじゃないですか?」



プフ!と控室から噴き出す声が聞こえて、私とアンゼルマ様は口論をやめてそちらを見た。…クラウス様が体を二つに折って声も出さずに笑っていた…



クラ「ご…ごめん…面白くってつい…アンゼルマ、ユリウス議員の言うことも一理あると思うね。君がやってきたことが無駄とは思わないけど、やり方を考えてみてもいい時期かもね」


アン「クラウスまで…あ、そうよ!ユリウス議員でしょ、広報部の強硬派を押さえてるの!私のところに陳情が来たわよ、金糸雀自治体に歴史書編纂させようと思うと圧力がかかるって」


ユリ「アンゼルマ様の所へ陳情に来た方々が強硬派だって分かってるなら、アンゼルマ様が抑えてくださいよ。その人たち、貴重なカナリアを潰すような要求を出す阿呆なんですよ?」


アン「んもー!わかったわよ!クラウス、ユリウス議員はアレクシアにポムをくれたの!お茶を出してもてなして差し上げて!私、今から広報部へ行ってくるわ!」



アンゼルマ様はドタドタと支度して、執務室を飛び出していった。クラウス様は苦笑して「かしましくてごめんね」と言う。ほんとにお茶を出されてしまったのでありがたく飲みながら、クラウス様とポムの話をしたりしていた。



クラ「ポムをありがとう。アレクシアも喜ぶよ。それに…アンゼルマがあんなに元気を取り戻したのは数日ぶりだ」


ユリ「いやー…なんかアンゼルマ様と話してると討論になっちゃうっていうか…私こそすみません」


クラ「あはは、それでこそ中枢議員ってものだろう?そういえば君はビフレストに入らないの?翁とも親密だと聞いたけれど」


ユリ「あんな厳格な人の派閥に入ったら、私は毎日お説教じゃないですか…冗談じゃありません。まあ、仲良しの証にビフレストと同盟を組むのはかまわないんですけどね」


クラ「ぶふう!あっはっは!派閥同士の巨大同盟ビフレストと同盟!?そりゃ豪気だ!!でも君ならできそうだねえ、これは痛快だ」



クラウス様は爆笑し、私も笑った。でも、クラウス様はこれが私の本気だとはまだ、気付いていない。







*****





【おまけのユリウス&アグエ】



「かんぱーい!」


「もー、何度目の乾杯ですかアグエ様~」


「いいだろ、あのガッチガチ頭のクソ親父の悪口を遠慮なく話せるなんてユリウス議員くらいだ」


「まあ、ガッチガチってのは同感ですけどね~。クソじゃないと思いますよ、家庭をしっかり顧みなかったドジっ子親父くらいでいいんじゃないですか」


「ドジっ子!ドジっ子~!あーははは、ユリウス議員、ほんと面白いな!」


「議員なんてつける必要ないですよ、ドジっ子親父の愚痴仲間ってことで呼び捨てにしてください」


「お、そうか?俺のこともアグエって呼んでくれよ、今度親父がドジ踏んだら教えてやるよ」


「アグエもえげつないなあ~、そんなことバレたら私がツブされちゃうから、マジネタはやめて。でもイジれるネタなら是非ください」


「…ユリウス、親父をイジるって本気か?」


「え?翁はイジるとすぐプンスカ怒るから、結構面白いですよ?」


「…俺、ユリウスを尊敬するよ」


「儂を肴に楽しそうだな、お前たち…」


「あれ、ジギスムント翁いらっしゃったんですかあ」


「儂の家だ」


「だって翁ってば私を矯正するって言ってたじゃないですかぁ。ですからこうしてお宅にお邪魔してですね~」


「嘘をつけ、アグエと一緒に儂の悪口大会だっただろうが」


「ほらー、そんなにプリプリ怒るから眉間にすっごい縦皺があるんですよお。もしかしてその皺の中に精霊を収納してるんですか?皺が地脈だなんてすごいですね~」


「ユリウス、俺は酔いが醒めた…その辺にしておけよ…」


「アグエもそこで萎縮するから眉間の精霊にやられちゃうんですよ!もっと腹を割って話す!」


「…酔うとユリウス議員は手が付けられんな…アグエ、もう送って差し上げろ…」


「はい…」








  

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