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Three Gem - 結晶の景色 -  作者: 赤月はる
未来へ続く虹
364/443

363 モンスター sideヘルゲ

  







ユリウスがジギスムントと接触している間、ユッテとオスカーはアンゼルマの執務室で待機していた。見張りと言うには過剰戦力なわけだが、理由がある。アンゼルマの周囲には、夫のクラウスが妻を守るために配置している私兵が異様に多い。中にはかなり練度の高い中規模魔法が撃てそうな蘇芳もいて、よほど次女の事件が尾を引いているのだとわかる。


自宅に潜入しようとしたオスカーが断念したのも同様の理由。一人残った長女を守ろうと神経がピリピリしている印象を受けたと言っている。しかし実際に神経衰弱になりそうなほど張りつめているのはクラウスで、アンゼルマは表面上普段通りの快活さで外交手腕を発揮していたようだ。


クラウスはそんな妻が精神的に少しおかしいのでは、と何度も休暇をとってゆっくりさせようとしたようだが、本人によって「そんな暇はない」と棄却されていた。



ユッテ『ヘルゲ兄、アンゼルマが広報部と連絡を取ってる。ポムの噂は娘から聞いたみたいだよ。欲しいんだけどって久しぶりにアレクシアがおねだりなんてしたわって嬉しそうだね。ポムの機能を聞いて驚いてて、広報部で情報掴んでないかって問い合わせてるし』


オスカー『うーわ…マザーからの盗聴とか考えなくて正解。通信し始めたら例の地脈の精霊が回線に混ざってる。うっすいけど、何かしらの防壁っぽいよ』


ヘルゲ「…クラン全体で精霊魔法を使っていたってことか…よくそんなもんを一般化させたなあの爺さん」



確かにニコルの精霊魔法も、普通の魔法に比べて濃度が低い。どうしても何かしらの「瞬発力」を加えて行使したい魔法は、それが生活魔法であっても収束した方が効率よく使えるから濃度が高いものだ。


ニコルの場合はその莫大な錬成量にモノを言わせて行使するから「普通より少し薄い」程度で済んでいる。だがこの地脈の精霊ときたら霞か霧かと思うほど薄くて、そのくせ断片的にでもきちんと必要な情報は受け渡しできるし、ある程度の「願い事」は叶えてくれるようだ。



ユッテ『ヘルゲ兄、アンゼルマの持ってる魔石に精霊魔法が入ってるっぽいよ、できることは限られてるけど。あの呪術師が持ってたメッセージ入りの魔石さあ…精霊で入れたって感じがすんだよね。そしたらマザーが”ヒトじゃない”とか言ってたのも納得なんだけど』


ヘルゲ「あー…確かに。地脈の精霊ならできそうだな」



ユッテが気付いてくれた内容に納得し、今後の参考になるようにとデータ作成してはエルンストの端末へ送信する。そのうち疲れて充血した怪しい目つきでエルンストが『ヘルゲ、シンクタンクで仕事しませんか』と言ってきたので、このミッションが終わったら逃げ回ろうと決心した。



オスカー『ヘルゲ兄、クラウスが来た。傍受内容の送信に切り替えるよ』


ヘルゲ「おう」


クラ『アン、そんなに仕事ばかりしなくても…』


アン『何言ってるのクラウス!私は大丈夫よ。それよりアレクシアがおねだりしてたおもちゃなんだけど、すごいのよ…パピィの製作者が作ったらしいわ、広報部の記事読んだ?また対外宣伝のいい材料になるとしか思えないの』


クラ『ああ、読んだよ。アレクシアが欲しいものは私が手配しようか』


アン『そうね、お願いしようかしら。あ、でも少し待ってくれる?広報部から聞いたんだけど…もしかしたらポムの販売経路に中枢議員が関与してる可能性があるわ。ホラ、”ぬいぐるみの紳士”よ。話を聞いてから吟味して買うのもいいじゃない?アレクシアはポメラニアンがいいって言ってるけど、もしかしたらおすすめを教えてもらえるかもしれないし』


クラ『ああ、そうかもしれないね…しかし議員だったらここぞとばかりに名を売ろうとするだろうに。違うんじゃないか?』


アン『あ、それもそうね。でも取材した人間の話だと、相当恥ずかしがり屋な人らしいわよ?そんな人、いたかしらね…私も自信なくなってきちゃったわ。まあ、とにかくよ?そのぬいぐるみの紳士が本当に中枢議員だったら、対外宣伝と同時に紫紺のイメージアップだって図れて一石二鳥じゃないの!説得してみせるわ!』


クラ『うーん…まあ、ほどほどにね。まずはその議員の素性が分からなければ話にならないね』



そこで、傍受スライムの映像が静かに廊下を歩くジギスムントを捉えた。場所はアンゼルマの執務室へ続く道。案の定、迷いもせずに控えの小部屋に常駐している秘書へ声をかけ、取り次がせている。その映像はすぐさまユッテとオスカーへ送信して注意を呼びかけた。



翁『失礼。お忙しいかな?』


アン『まあ、ジギスムント翁。ごきげんよう!忙しくなどありませんわ、どうぞお入りになって!』


翁『いや、すぐに辞するのでここで結構。アンゼルマ殿に必要そうな情報を持ってきた。ぬいぐるみの紳士は…ユリウス議員だと思うぞ』


クラ『翁…私どもがその人物の話をしていたのはつい先ほどですよ…まったく、翁の精霊ときたら優秀にも程がありますね』


翁『すまんな、大事な同盟者が知りたいことは早く知らせようと思ったのだ。それだけだ、邪魔をした』


アン『ありがとうございます、助かりましたわ!…クラウス、ほんとに翁はすごいわね…ここ数年、ちょっとご様子がかんばしくないなんて言ってた輩はバカね。見通す能力はご健在よ』


クラ『…確かに。この様子ならビフレストもまだまだ安泰だな』


アン『ねえ、ユリウス議員ってあの若い子よね。ふふ…楽勝じゃないの…』


クラ『こら、相手をなめてかかるんじゃないよ。強力なギフト持ちは年齢などに左右されないでしょう。ユリウス議員はここ最近頭角を現してきている。どこまで開花するのかわからないんだ、慎重にね』


アン『はぁ~い。じゃあ今から行くわ!デラ、ユリウス議員へアポ取って頂戴』



デラと呼ばれた秘書はすぐにユリウスの執務室へ内線を繋ぎ、そこの第二秘書と話している。…うああ、エルンストの通信機と傍受スライムのステレオ音声だ…くそ、合計で二十カ所以上の傍受内容を管理しているとさすがに頭がパンクしそうだな。



オスカー『ユリウス、アンゼルマが動いた。おっどろき…ジギスムントがすぐアンゼルマのペンダントに気付いて、能面みたいな顔でユリウスがぬいぐるみの紳士だと思うって言ったよ。何なのこの人…』


エル『うーあー…出た!完全復活ですねジギスムント翁…あの方、シャマンじゃないって顔して普通に地脈と精霊使ってるに決まってます。今まであの方の見通す力が何なのかわからなかったんですが、ようやく正体がわかりましたよ…!』


ユッテ『アンゼルマ、もう出る支度してんね。もしかしたらユリウス連戦かもよ~』


ニコル『ユリウス、やっちゃえ~。私、待ちくたびれちゃった…』



ジギスムントはオスカーが言っている通り、アンゼルマの胸元で揺れる蝶の入った琥珀を凝視して話をしていた。それにしてもニコルには可哀相なことをしたな…もう少し出動が後でも良かった。


いまニコルは中枢会議所と官邸を合わせた敷地のど真ん中の座標で待機している。ニコルにしかできないことをしてもらうためだが、守護に警戒させつつ簡易テントに入って…中枢会議所の屋根の上でゴロゴロと待っているだけなんだよな。


アンゼルマが意気揚々とユリウスの執務室へ歩いて行くのを確認する。ユリウスもブランを撫でながら不敵な笑顔をしているのを見て、俺まで面白くなってきた。



ヘルゲ「ハイデマリー、シュヴァルツはどうだ」


マリー『エレオノーラさんに頼んできちゃったあ。エルメンヒルト釈放の手続きしといてくれるって』


ヘルゲ「そうか。アンゼルマが動いたんでな、次はエミーリアを出してほしい」


マリー『了解よ。すぐそっちに戻るわぁ』



そこでカミルから地脈を辿った座標が送られてきた。

…ふん、自分たちは遊牧で移動し続けているから安心感でもあるのか?

もう逃がさんぞ…


コンラートは数日前から幻影で変装しながらフォン・ウェ・ドゥを調べまくっていて、遊牧民が昔から自国内とタンラン近郊、そしてアルカンシエル郊外ギリギリまでの未開の地を渡り歩いていることを突き止めた。どうもタンランとはその伝手でいくつかの組織と繋がりがありそうだ。


またジギスムントの妻たちは、「アルカンシエルに憧れの『神の白蛇』がいると聞いて、集落を出奔した娘だ」という話も聞き出していた。放っておけずに迎えてやったのかも知れないが、おかげでアグエがアレなのだからな。



ヘルゲ「コンラート、カミルから座標が来た。どうだ」


コン『…了解。ターゲット捕捉、十六名のシャマンが割りまくった粘土板の修復…完了。草原に置くからリアに解読させてくれ』


ヘルゲ「十六名?随分少ないな」


コン『…お前が殲滅しすぎたんじゃねえの。まあこんだけで何かやろうとしたなら、こいつらもいい手使ったんじゃね?現に第三は偶然見つけられただけだったもんな』


ヘルゲ「まあ、どうでもいいか。ユリウスのリサイクルにも支障はなさそうだし…中佐のゴーサインが出たらツブせ」


コン『うーい』


ヘルゲ「カミル、手があいたらコンラートと一緒にそいつらツブすか?」


カミル『いいねぇ、少しも動かずに地脈の監視なんて性に合わねえからな。コンラート、やるときゃ呼んでくれや』


コン『…俺はいいけどよ。作戦の内容と相方がカミルっつーと俺ァ…ゴーヴァルダナを思い出して仕方ねえ』


カミル『コンラート、地獄見てぇか?その記憶、魔法なしで吹っ飛ばしてやんよ』



…全員の会話が入り乱れる俺の脳内にくだらないことを吹き込むこいつらは、俺が後で地獄を見せる。俺はいま『モンスター』の駒かと言うほど盤上を見渡してるんだ、少しくらい気を遣え…!


コンラートはもちろん傍受スライムを持って潜入したから、もう敵を見失うことはない。紅たちへ指示を出し、コンラートがニコルの精霊魔法で修復した粘土板をどんどん持ってこさせた。


リアへ解読を頼むと「腕が鳴るわぁ~」と言いながらすごい速さで翻訳を書き出していく。本当にリアは、使いどころさえ間違わなければすごい頭脳の持ち主だ。間違うとその頭脳を破壊したくなるほどの阿呆だがな。


リアが翻訳したものはどんどんヨアキムが整理していき、ほぼ時系列になるようにリスト化した。まとめたものを一気に読み下していくと…あった、アンゼルマへの指示だ。


メッセージの魔石作成…自分が手配したと思わせて、タンランの地下組織から送り出した呪術師と幸運にもツナギがつけられたと思い込ませる。そしてオリジナル魔法ができたら自分もろとも中枢会議所で自爆しろと来た。もちろん、「オリジナル魔法を作った学生」も一緒に、だ。


…お前ら、楽に死ねると思うなよ?







  


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