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Three Gem - 結晶の景色 -  作者: 赤月はる
未来へ続く虹
360/443

359 モフレスト sideユリウス

  







ヘルゲからの調査データを受け取った時、エルンストさんの口からはエクトプラズムがポワリと出てきたような幻覚が見えた。だってヘルゲってばシンクタンクがどうしても調べられなかったこと、ヒョイって出してきたんだもの。


ジギスムント翁の推測情報ったら、そりゃもうびっくりだった。シャマンとはね…それに追加でクランの連絡方法もほぼ判明したから自宅を監視させるって言ってきたし。

んー…さすがグラオとしか言いようがない。


それに対するヘルゲの作戦はかなりえげつない。というか、面白くて仕方ない。だけどちょっとアレンジ加えてほしいなあって思って、私とエルンストさんは猫の庭へ行った。



ユリ「こんばんは~」


アロ「あれ、ユリウス。サボった分の仕事は終わったの?」


ユリ「なんでアロイスがそんなこと知ってるんですかぁ…」


アロ「もうヘルゲのえげつない作戦の準備が始まってるから。ユリウスが長様にどう叱られたのかだいたいわかったよ?」


ユリ「もお~、官邸や執務室にまで監視方陣入れたんですか?バレちゃうよ、定期的に魔法部が盗聴系方陣のチェックに来るんだからー」


ヘルゲ「そんな見つかりやすいものにするわけないだろう。ホラ、これだ」



ヘルゲは先日見せてくれた流動魔石…だと思うんだけど、もっとぷるぷるした感じの水まんじゅうみたいなものを、手の平に乗せて差し出してきた。



ユリ「…ナニコレ」


ヘルゲ「迷彩機能付き傍受スライムだ。おもちゃに流動魔石を仕込んでプログラミングした。中枢会議所全域に放牧してきたから勝手に動き回って情報収集してくる。固定にしてるのはジギスムントとアンゼルマとアグエの執務室。あとは官邸だな」


エル「放牧て…オートスパイ機能つきスライムて…すみません、私ちょっと眩暈が」


ヘルゲ「ああ、オイゲンの追加ネタもあるぞ。パピヨンがばれたと思ったら次はバトー・フルールというセイン川の船上クラブに行ってる。少しも我慢できんとは頭がおかしいな、あの議員」


アロ「ヘルゲに言われたらその議員もお終いだね」


ユリ「ぶっふ!うん、確かに学習能力が低いね。えっと、ヘルゲ。ちょっと作戦にアレンジきかせてほしいとこがあってさ。相談しにきたんだ」


ヘルゲ「なんだ?」



私が気になっているのは、ヘルゲたちの作戦はほぼ確実に彼らの隠された情報を暴けるだろうけど…「その後」がないことだった。悪いことをした人物を断罪する。それは当然だし、根っからの悪党なら私だってどうなろうと知ったことではないけどね。


ヘルゲの予測ではアグエが一番怪しい。そしてジギスムント翁は何も知らないか、知っていてアグエを庇っているかのどちらか。


アンゼルマ様は外交ネタで釣って会う口実を付けてくれた方がいい。なぜならアンゼルマ様の自宅へ潜入しようとしたら、かなり警戒の厳しい結界とトラップの山だったから。それでも潜入できなくはないが、時間がかかる。


ヘルゲたちの目的は「アンゼルマが何を考えているか」を読み取ることにある。結界を中和したり解除してしまったらアンゼルマ様が警戒し、緊張してしまって何も読めないらしいからね。


で、ヘルゲは三人の心理内容を読み取ったらその内容に沿って「捕縛して牢獄か、捕縛して治癒院だろう?」と言う。まあ治癒院は一時的ならいいけど、そうじゃなくってね。



ユリ「リサイクルしたいなあと」


ヘルゲ「リサイクル??」


ユリ「そ。敵は選んで作るのが基本。てことは、選んで作った敵は絶対潰せる算段を付けておくのも基本。でもねえ、もしジギスムント翁が真っ黒も真っ黒っていう大量殺人鬼ならどうなったってかまわないけど、アグエ議員の掌の上で踊っていただけの人だったら?成人していい年した息子の犯罪に監督責任なんて普通は問われないと思うけど、同居している上に彼らは議員だ。絶対失脚するに決まってる。で、ジギスムント翁やアンゼルマ様が失脚すると誰が困るかっていうと…私たちなんだよねえ」


ヘルゲ「甘えるな、そこは頑張れよ」


ユリ「もちろん頑張るってば。でもね、頑張る方向性くらい決めさせてよ。私はジギスムント翁とアンゼルマ様がアグエ議員の操り人形だった場合、二人を飲みこんでみたいんだよねー」


アロ「飲みこむ…?何か嫌な予感しかしない…」


ユリ「何も脅迫とかするわけじゃないってば。恩を売るの。あのさ、エルメンヒルト様の調書も見たけど…なんでこんな二面性のある思考ができるのかって不思議じゃない?アグエ議員は知らないけど、他の三人は全員表面上は普通に政治活動してたでしょう」


ヘルゲ「…子供を失くしたショックじゃないのか」


ユリ「うん、そりゃ途轍もないショックだったろうね。実際あんなに泣き崩れたり激昂する彼らを見たのは、私も初めてだった。でもね…あえて言うけど『そんなことくらいじゃ彼らの政治に対する熱意は揺るがない』よ」


エル「…語弊のある言い方ですが、私もそう思います。カリスマ持ちの情熱は周囲を巻き込んでトルネードのように大きな事象を起こす。それが正の感情でも、負の感情でもです。では、エルメンヒルト様の『こんな世界はいらない』という情熱で動いたのは何人でしょう?…アダルブレヒトという第三の班長だけじゃないですか。有り得ません、これは彼女の本意ではないように思います」


ユリ「そゆこと。だから…エルメンヒルト様、アンゼルマ様、ジギスムント翁…この三人が真っ黒なら君らの流儀で裁けばいい。でも操られているなら私の流儀で正気に戻したい。そして、私の陣営へ…飲みこむ」



ニッと笑うと、ヘルゲもアロイスも納得してくれたみたいで口角を上げた。

ん~、忙しくなりそうだね。





*****





フィ「ユリウス、ちょっとこちらへ来てみたまえ」


ニコル「来たまえ~!」


ユリ「なんですか、フィーネ、ニコル」


ニコル「んっふっふー、ユリウスに出来立てほやほやの『ポム』一号を差し上げまーす!ちゃんとユリウスの目の色と合わせてもらったよ!毛色はねえ…どうしても白がいいからそのまんまだけど。真っ白サモエドちゃんで思う存分モフモフしちゃって!」


ユリ「…! ほ、本当に私がもらっていいんですか…!」


フィ「もちろんさ。売り上げが全てこちらに来てしまうなんて申し訳なくてね。量産型『ポム』はポメラニアンになるんだが、君には絶対この子だとニコルが言うのでね。名前は君が決めるといいよ。フィーよりも大きいぬいぐるみになってしまったけれど、どうだろうね」


ユリ「おいで…うわああああ、さいこおおおおおお」


ニコル「やった!モフモフ中毒患者出来上がり!!さっすがチーム緑青!」


トビ「…俺、なんか達成感で目の前にマギ言語がチラついてる…」


ロッホス「俺も…接続紐をポメラニアンが追っかけてるのが見える…」


パウラ「…方陣フリスビーをポムが咥えて戻ってきた…いい子ねー…」


フォル「なあ、ポメラニアンが方陣の輪っかくぐりしてんだけど?一匹…二匹…眠い…」


フィ「…皆しっかりしたまえ…そんなことでは魔法部で生きてゆけないよ」


ユリ「エルンストさん、私はここに住みます」


エル「ダメに決まってるでしょう、帰りますよ」


ユリ「うううう、この子と離れたくない!いい子だねー、君の名前は…そうだな、真っ白だからブランがいいね」


フィ「エルンストさん、カスタマイズ型『ポム』の宣伝にブランを連れ歩いていただくのは無理かな?」


エル「う…っ!販路で名前を出す以上、テスト品を提供されるのは自然な流れですか…リスク…リターン…ちょっと待ってくださいよ…えっと…ユリウス様、ブランを議会で連れ歩いた場合に、イエローがホワイトへオチてくる可能性があります!よろしいんですか、無差別にモフモフ患者がオチてくるんですよ!?街中を歩いたら一般人シンパが激増しますよ!?」


ユリ「おっけ。クランはこのままでいいけど、派閥は規模拡大でいーよ。どうせバカでかいビフレストの三分の二は飲みこむつもりだし~。うわー、ふわっふわ…もっふもふ…」


エル「あああああ…死んじゃう…忙しくて死んじゃう…ビフレストがモフレストになって私を押し潰すんだあああああ」


スッ


エル「…アルノルト…これは?」


アル「『ポム』からのアラート受信ペンダント!普通は親が持つんだけどね。ユリウスのわんこは特別仕様になってて、食べ物屋さんに無断で行ったらエルンストさんに座標のお知らせが行くから」


ユリ「 何 て こ と を す る ん だ 」


アル「じゃあブランを置いて中央へ帰る?」


ユリ「こんな可愛いブランを置いていける訳がないよ…!」



くう…っまたアルノルトに足枷を付けられた!しかしこればかりは譲れない。ちゃんとエルンストさんに行き先を告げて食べに行けば、ブランは私と一緒だ…!



ユリ「…それにしても開発が早いですね、フィーネ」


フィ「はっはっは、これがグラオ式のスピードさ」


トビ「ありえねえ…いくらフィーのデチューンだったとはいえ、普通は検証と動作テストで1か月はかかるだろ…!」


ヘルゲ「あー…まあ、検証は俺が得意なんでな。動作テストはメガヘルでさんざんやったし、デチューン版ごときに時間はかけんぞ」


フォル「ごとき…ごときとか言いやがりましたよ、このイケメン紅玉…!」


フィ「…うむ、君たちもう休むといい。疲れているんだね…ま、ユリウスが生産・販売ラインをすっかり整えてくれているからねえ。これを露草のロミーさんだったかな、彼女へ送信して量産してもらえるかい?あとは君たちツーク・ツワンクの力の一端を見せてもらうとしようか」



フィーネはニヤリと笑うと魔石を渡してくれた。エルンストさんは即座にロミーへ連絡を取り、生産ラインの始動を指示する。ロミーは露草内でも稀有なほど強力な『調停能力者バランサー』でありながら、フリーランスで仕事をしている。逆に強力だからこそフリーでいられるんだと本人は言うけど、露草の各業種ほぼ全てに伝手がある上、ピンポイントでキーマンを押さえる手腕がすごい。


まあ…ロミーに任せておけば、二日後くらいにはほぼ全国へ『ポム』が行き渡るだろうね。ちなみにCutieBunnyにはニコルとフィーネが直接魔石とアラート受信ペンダントの在庫を持って行くそうだ。羨ましくなんかないよ、私にはもうブランがいるからね。



ユリ「さて、じゃあお邪魔しました。行こうかブラン」


ブラン「わふん!」グィ


ピロリーン☆


ユリ「え、何で服をひっぱるのブラン?」


エル「…『クルイロゥ注意報』…ユリウス様…?」


アル「あ、言い忘れてたけど。エルンストさんの了解なしにゲート座標を金糸雀の里に合せたらブランは反応するからね」


ユリ「 何 て こ と を す る ん だ 」



くう…金糸雀へゲートを開いて、なし崩しにエルンストさんも一緒にクルイロゥへ連れて行っちゃえと思ってたのに…ッ!


アルノルトめええええ…!





  

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