358 連絡手段 sideアルノルト
猫の庭でゆっくりできたおかげで、俺もロッホスもすっかり元気になりました!トビアスたちはイグナーツさん経由で成績をまるっとリア先生に報告されて、俺とは違うメニューで学科の授業を受けてます…
リア先生ってばそれはもう嬉しそうに「緑青の私塾みたいなことはできなくても…学科ならおまかせよ!あなたたちの成績、がっつり上げてみせるわー!」と宣言し、四人を並べて座らせてるけど全員違うことをさせていた。
違う科目なのに質問されればすぐさま答えるもんだから、四人とも唖然としている。そしてわかりやすい説明と個人の能力に合わせた設問なので、皆ガンガン勉強を進めていた。そして俺はと言えば「ちょっとアル、あの古文書の訳できたの?」と言われて「ごめんなさい、まだでーす…」と項垂れて再チャレンジしているところ。ううう、難しいよう…
ヘルゲ「リア、すまん。勉強中悪いんだがアルを貸してくれ」
リア「いいわよ~、アルもその古文書以外は提出済だしね!」
アル「どしたのヘルゲさん?」
ヘルゲ「ああ、例の遊牧民の解呪師の話をな。ダン・山吹にもっと詳しく聞けないものかと思ったんだが、どうだ」
アル「うん、きっとダンさんなら知ってることは教えてくれると思うよ!ヘルゲさん一緒に行く?」
ヘルゲ「…そうだな…本来ならきちんと通信でアポを取って行きたいところだが、万が一敵に動きを察知されてもいけないからな。透明化して、ダン・山吹が一人になったところで拉致るか」
アル「ぶっ…拉致って…ここへ?」
ヘルゲ「いや、そこまでしなくていい。簡易テントの中へ拉致だ」
アル「うわあ、ダンさんかわいそ…でも仕方ないか。巻き込みたくないもんね」
そうと決まれば金糸雀の里へレッツゴー!ヘルゲさんと二人で透明化したまま金糸雀支部へ忍び込んだけど…ダンさん、いないなあ。自動マッピングで探そうっと。
…あ、いた!編集作業室かぁ!
アル『ヘルゲさん、ダンさんはそこの編集作業室で仕事してるよ』
ヘルゲ『…丁度いいな、近距離でゲートを開いて侵入しろ。その部屋で結界を出す』
アル『は~い』
ゲートを開いて編集作業室に入ると、ダンさんは一心不乱に映像記憶の編集をしていた。うー、ごめんねダンさん。驚かせちゃうけど…
ヘルゲさんがごついクアトロ方陣を展開したのを確認し、俺は遮音と誤認の複合方陣を解いた。
アル「…ダンさん」
ダン「ひわあ!?」
アル「ぶふ…アルノルトでーす、ダンさん驚かせてごめんね?」
透明化を解除して姿を現すと、ダンさんは胸を押さえて椅子でゼェハァ言っている。そして涙目で「アルノルト君…ひどいよお…」とフルフルした。
アル「ほんとごめんダンさん。ちょっとワケありで、俺がダンさんに会いに来たことを知られちゃいけなかったんだ」
ダン「…何かあったんだね?うん、僕の心臓のことはまあいいよ…どうしたの?」
アル「あ、その前に…紹介したい人がいるんだ。もう一人ここにいるんだけど、いいかな?」
ダン「え?うん、いいよ…え?ここにいる?ほあ!!」
ヘルゲ「…あー…突然すまんな。ヘルゲ・白縹だ。よろしく頼む」
ダン「な…えぇ??こ…紅玉…?」
アル「あは、やっぱダンさん知ってるかあ。俺の兄ちゃんなんだ」
ダン「ほえええ!?」
奇声ばかり上げるダンさんは、俺がお忍びで会いに来たことをようやく思い出して落ち着いてくれた。
ダン「あー…ごめんなさい、ちょっとびっくりして…ダン・山吹です。どうぞよろしくお願いします。お会いできて光栄ですよ…」
ヘルゲ「驚かせて本当にすまない。実は是非ダンに教えてほしいことがあるんだ。アルに聞いたんだが…肩にテン?がくっついた時に、それを解呪してくれた人物や国のことなんだが」
ダン「あ~!虹の池の帰りですね?僕はどこの国にいるかなんてその時はわかってなかったんだけど、後から確認したらフォン・ウェ・ドゥだったらしいんですよ。そこの遊牧民にたまたま解呪師がいて助けてもらいました」
ヘルゲ「その時の映像記憶をできたら見せてほしいのと、彼らはどんな呪術を使うのかがわかれば助かるんだが」
ダン「映像記憶は問題ありませんよ。でもえっと…呪術って言ってもな…僕も素人だし、テンが死んで泣いちゃってたからなー。えっと…粘土板を使ったり、人形を使ってたと思うなあ。僕に呪いを掛けた人物を地脈に教えてもらったとか…それでその人物の名を人形に彫ってから集中し出して…また地脈を通して呪い返しをしたって言ってたような」
ヘルゲ「…地脈…粘土板は何に使うんだ?」
ダン「犯人を地脈に聞くって言ったと思ったら粘土板に何か文字みたいなのが浮き出てきて、どうもそれが呪いをかけた人の名前だったらしいです。僕はその文字が読めなかったから本当かどうか知らないけど、実際に僕の肩にいたテンはボロボロって崩れて死んじゃいましたし」
ヘルゲ「それだ…粘土板!あいつらの連絡方法がわかった…!」
アル「でもさ、地脈を使ってるなんて言われても、俺たちじゃ何のことかわからないよねえ。傍受はできないでしょ?」
ダン「傍受?あー、その粘土板を使って連絡取り合ってる人がいるってことかあ。僕が見ただけの話で申し訳ないですけど、その粘土板は使い捨てなんですよ」
ヘルゲ「使い捨て?」
ダン「ええ、その地脈を通って浮き上がった文字は粘土板を焼いたみたいに固定されるんです。だから、解呪師は一通りの作業が終わったらその粘土板を外で割って捨てていました」
アル「なんだか陶芸家の失敗作みたいな…でもヘルゲさん、それなら処理される前に監視方陣で読めればいいのかな」
ヘルゲ「そうだな。ダン、本当に助かった。それとその時の映像記憶を…できたら魔石に入れて貰い受けることはできないか?厚かましいのはわかってるんだが」
ダン「あは、全然かまいませんよ。アルノルト君のお兄さんなら尚更だ」
ヘルゲ「恩に着るよ。大規模魔法でも見たくなったらアルに言ってくれ、バンバン撃ってやるから」
ダン「あはは!それはすごい!じゃあ次に撃つ機会があったらでいいですから見せてください!」
ヘルゲ「ああ、約束する」
俺はもう一度ダンさんに謝ってから、またね!と言ってゲートで猫の庭へ戻った。…そういえばダンさんに移動魔法のこととか幻影の魔法のことって特に記憶施錠も掛けてなかったなあ俺…
でも当たり前みたいに秘密にしてくれるダンさんは、やっぱり「情報の重要性」が分かっている広報部の人なんだなって思う。金糸雀支部の人って皆そうだったもんね。きっと…俺のことを信頼してくれてるから。大事な友達だと思ってくれてるから。
ほんとに俺、金糸雀の里へ行くといつも胸が熱くなる。
あそこには俺の心を躍らせることがいっぱいだったって、離れてみて切ないほど懐かしく思う。
ああ、これって「故郷」って感覚なのかな。もちろん白縹の村も猫の庭も同じように思うけど、金糸雀の里で感じたことって…特別なことだらけだったから。
うん、俺もユリウスとおんなじだ。
金糸雀の里は、俺のもう一つの故郷だ。