355 ノマド sideヘルゲ
ユリウスは父親も中枢議員、自身もカリスマ持ちということで、常に誘拐の危険があったらしい。そのおかげで護身術がある程度身についているようだな。見事にナンパ男を撃退したのはいいが、正直言ってやりすぎだ。俺に言われたくはないだろうが、おかげでパズル屋へ行くまでもなく退避騒ぎだった。
アル「…うー…俺の変装程度でアレだよ!?もしフィーネとニコル姉ちゃんが二人で歩いてたら、絶対そっちに行ってたよ?」
ユリ「そうだね、あんなゲスカスクズが生息しているなんて許容できないね」
エル「…そのゲスカスクズをぶっ飛ばしたということは、ぬいぐるみ屋さんには女性型で二度と行けませんね。ご愁傷様です」
ユリ「!?」ショボーン
エル「さ、もう息抜きは充分でしょうユリウス様。そろそろプロファイルが出来ているはずです、戻りますよ」
ヘルゲ「そのプロファイル、こちらにも送ってくれ」
エル「もちろんです。ヘルゲの相互セカンド・オピニオン型端末…なかなか斬新でした。私の端末にも適用させてみますよ。当面はそのミッタークとナハトに頼りそうですが、うちの解析結果とも突きあわせてみてください」
そう言うと、ユリウスとエルンストは中央へ帰って行った。フィーネとアルはトビアスたちと劣化版フィーの方陣に集中し始めている。方陣さえ完成すれば、量産型のぬいぐるみは露草の玩具組合が用意するらしいからな…
すごい速さで販路と生産体制を確立させたエルンストは、ほぼ同時進行でプロファイル作成の指示までしていたらしい。あいつらが帰って数分後には、シンクタンクのプロファイル結果が送られてきた。
…本当に早いな。
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【ジギスムント・レグバ・紫紺】
紫紺歴1646年生まれ 68歳 male
レグバ家当主
妻
第一夫人:アイダ 63歳
第二夫人:ロコ 42歳
第三夫人:アザカ 30歳
第四夫人:シンビ 26歳
子
第一子:オグン 40歳
第二子:アグエ 36歳 中枢議員
…
…
第十二子:ペトロ 享年4歳(中枢要人子息拉致殺害事件被害者)
来歴
1646年、紫紺一般人女性と外国人男性との間に誕生。生まれの経緯から紫紺の長の祝福を受けずに育ち、後天的ギフト発現者として15歳で発見・強制保護されるまで遊牧民として外国を転々としていた。その見識の広さから高等学舎時代よりシンパが爆発的に増大、現在最大派閥「ビフレスト」の中核を担う。
厳格にして冷徹、現紫紺長ヒエロニムスと覇権を争うも軍門に下り、それ以降アルカンシエル内政の要として活動。
所見
・ノマド時代の足跡不明、調査要
・15歳の強制保護時に改名した形跡あり(改名前の名は不明)
・第十二子ペトロ死亡後、プライベートで他者との接触を断絶
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【アンゼルマ・ハイネン・紫紺】
紫紺歴1679年生まれ 35歳 female
ハイネン家長男クラウス夫人(ハンツ家出身)
第一子:アレクシア 11歳
第二子:エミーリア 享年5歳(中枢要人子息拉致殺害事件被害者)
来歴
1679年ハンツ家長女として生まれる。ギフト持ちとして一般人にもシンパが多く、高等学舎でギフト発現後は女性シンパの多さから「花園の主」と呼ばれた。クラウス・ハイネン・紫紺と結婚後はクラウス氏自らアンゼルマの筆頭サポートをしており、クランの取り纏め役はクラウス氏と推測されている。諸外国への宣伝、アルカンシエルの威力顕示に才能を発揮。外交戦略の要として活動。
明朗、活発。外交のバランス感覚に優れ、広報部と親密に連携を取る。
所見
・第二子エミーリア死亡後、プライベートで他者との接触を断絶
・政治的活動に陰りはないが、夫のクラウス氏より度々アンゼルマの休暇申請が出されては本人が棄却するという奇行が確認されている
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これは…参ったな。紫紺の来歴だから中央内の潜入捜査とばかり思っていたが。ノマドだと?とりあえずアンゼルマはまだいい、ハンツ家と言えば代々続く名家だ。しかしジギスムントの方は…ユリウスが「土地から攻める」と言った矢先にこれだ。外国を転々というのはどの程度なんだかな…
いや…遊牧民?何を飼うかにもよるが、トナカイならレインディアか?いや、あの国は定住しているはずだな。ブルーバックで牛の放牧をしているとも聞いたことがあるし、タンラン北部からフォン・ウェ・ドゥ国、トーチ国にかけての大陸北部は羊の放牧が盛んだったと思うんだが。そういえばフォン・ウェ・ドゥはまだバジナが大隊長だった頃に転戦させられて大規模魔法を撃ちに行ったっけな。
うんうん唸っていても仕方ないと思い、開発部屋へ移動しようとするとフィーネが来た。方陣の目途が立ったのか。
フィ「おや、もうプロファイルが出来てきたのかい?」
ヘルゲ「ああ、エルンストは仕事が早い。ただ、さすがにこの二人だと不明な部分も多そうだ。さっき通信で『思ったより出来が悪いです』と残念そうに言っていた」
フィ「ふむ…ジギスムントは何と言うか…ユリウスに匹敵するほど特殊なケースのカリスマ持ちなのだね。後天的に発現して強制保護ねぇ…国内ならともかく、国外にいた者をよく見つけたものだ」
ヘルゲ「まったくだ。カリスマ持ちが一番同族を恐れているというのがよく分かるな。しかし、その外国暮らしの影響か?妻の名や子供の名が一般的な紫紺風ではない気がするが。妻の出身地もブランク…どういうことだかまったく分からん」
フィ「奥方の出身地か…ちょっと調べてみたいね。アロイス!ちょっと来てくれないか」
アロ「はいはい?…ふーん…なるほどね。これ、コンラートたちに頼もうか。あとさあ、気になるのが『改名』だよねえ。ヨアキム、紫紺の分体で『改名する前の名を隠蔽したり削除した形跡』って追えないものかな?さすがに五十年以上前じゃ痕跡もない?」
ヨア「五十年程度なら追えると思いますよ。デリートしたと思ってもどこかしらに残っているものです。見て来ましょうね」
アル「フィーネ何してるの~?あ、容疑者のプロファイルかぁ…」
ヘルゲ「一応これからミッタークとナハトに情報を入れて考察させるつもりだが、ジギスムントの来歴が特殊すぎてな。遊牧で転々としていたなどと言われても絞れない」
アル「遊牧…うーん、何か聞いたことが…あ、そうか。ダンさんだ」
ヘルゲ「…ダン・山吹?」
アル「うん、たしか『虹の池』の映像記憶を撮りに行った時の話で…そうだ、タンランのはずれの未開の地って言ってたな。その冒険話に遊牧民のことがあったよ。タンランでテンがくっついて…テンが死にそうになったから山を下りた先にあったフォン…なんとかって国の解呪師にテンを取ってもらったんだ。その解呪師、遊牧民だったから会えてラッキーだったんだって」
ヘルゲ「フォン・ウェ・ドゥか!」
そうか…ダン・山吹なら遊牧民について何か知っている可能性もあるな。それはアルに後日聞いてもらうとして…よし、フォン・ウェ・ドゥの事も視野に入れてミッタークとナハトにぶち込むか…!