353 戦略とぬいぐるみ sideニコル
お久しぶりです、ニコルです。
ここ一年はスザクや子供たちと遊んだり絵本を読んであげたりと、マッタリした生活を送っていました。二か月早く仕事へ復帰したユッテとアルマがいなくなり、なんだか淋しいので私も早く仕事に復帰しちゃおうかな、なんて思ってた矢先にあったトビアスたちの誘拐事件。
アルが酷いケガをしたり、ロッホスがすごい殴られ方をしていて内臓破裂していないか精霊でチェックしたり…できることはきっちりやれた!と思っていますが、ついおいしいケーキに釣られたせいで、アロイス兄さんには叱られちゃいました…
でもケガの功名というか、トビアスたちも仲間として迎えることになって猫の庭は賑やかです。特にパウラが子供たちのユニーク特性を見ることに長けてるの。「自然の体現者」は気付かなかったみたいだけど、二組の双子たちは全員何かしらのユニークだよ!と断言しています。ルカの占術師の特徴について皆で慎重に見ていこうねなんて言っていた後だし、すごく安心できちゃう。
それに何よりですね!私たちに妹ができた!って感じで、私もユッテもアルマもパウラに夢中なの。ユッテはトビアスとくっついたばかりというパウラへ真面目な相談に乗ってあげていたり、アルマはパウラをお着替えさせて一緒にキャアキャア言っていたり。私も一緒になって楽しく話しているんだけど、残念なのはパウラがそんなにぬいぐるみに関心を示さないことかな…だって、緑青の子ってば皆してぬいぐるみの中身の方陣に夢中なんだもん…!
と こ ろ が 。
思わぬところで同志が出現しました。そう、ユリウスです。通信機をぬいぐるみ仕様にするのはやめろとエルンストさんに止められ、本当にしぶしぶ諦めていました。こ、これは…!
しかもユリウスってばかなりの食いしん坊という情報もありますよ。もしかして私、趣味を同じくする仲間に出会えたのかもしれないです…!
ニコル「ユリウスー、ちょっとこっち来て~」
ユリ「なんですか、ニコル」
ニコル「ふっふっふ…じゃーん!紹介します!こちら、私のぬいぐるみコレクションでっす!」
ユリ「………かわいらしいですねー」
ニコル「え、何その間は…」
ユリ「だって…私がほしくても手に入れてはいけないものを持ってるニコルが妬ましい…」
ニコル「通信機のぬいぐるみ化がダメなんでしょ?中央のすっごいぬいぐるみ屋さんを教えてあげるから、今度一緒にいこ?」
エル「ダメですよユリウス様。お家にはご両親もいて、お客様も多いでしょう。自室にぬいぐるみがあったら使用人にも見つかります」
ニコル「…ユリウス、キビしいとこで生きてるんだねぇ…あ、でも中央の自宅にあるのがいけないんだよねえ?」
エル「そうですね、ユリウス様のお家はお父様もカリスマ持ちの議員ですので…気が抜けないのですよ」
ニコル「じゃあココにぬいぐるみ部屋作っちゃおうかー。アロイス兄さーん、猫の庭にユリウスとエルンストさんの部屋確保しちゃダメ~?」
アロ「いいんじゃない?部屋は余ってるし」
ニコル「んじゃ決まり!ユリウスもたまにココ来て息抜きにぬいぐるみでモフるといいよ!」
ユリ「…ほんと?エルンストさん、ぬいぐるみ買っていいですかっ?」
エル「うー…買う時は絶対変装してくださいね?絶対見つからないでくださいね?」
ユリ「やった、ありがとうニコル!ほんとにありがとう!最高だ…猫のぬいぐるみが世話してくれて、カナリアの歌が流れてて、部屋にもぬいぐるみがある…」
ニコル「よかったねユリウス!じゃあこの子を記念に差し上げましょう!ユリウスって白馬なイメージだからこの仔馬さん!ちょっとデフォルメされててポテっと座っててカワイイでしょ?」
ユリ「おお~…かわいい…エルンストさん、今日はここに泊まりたいです」
エル「しょーがないですねえ、もおおお…」
ヘルゲ「ユリウス、お前チェス強そうだな。ぬいぐるみ屋に行くならパズル屋にも一緒に行こう、あそこのパズルは面白いぞ」
ユリ「行く!行きます!」
エル「ああああ、ここは何でこんなにユリウス様を誘惑するものばかりなんですかああ…」
アル「ユリウス~、今日の晩ごはんホントにクルイロゥに行っちゃうの?アロイス先生とナディヤ姉ちゃんのごはん、めちゃくちゃ美味しいよ?」
ユリ「なんだって!?ぜひいただきますっ!クルイロゥへは後日行くから大丈夫!」
エル「行くのはやめないんですね…結局ぬいぐるみだって買うのに…ああああ…」
*****
エルンストさんの体がなんだか傾いちゃってるけど、ユリウスはもうご機嫌です。なんかね、ユリウスってリリーの影響で、ちっちゃい頃は周りにぬいぐるみや花が溢れてたんだって。でもそのうちそんな場合じゃなくなっちゃって、高等学舎では既にぱぶりっくいめーじ?とか言うのを大事にしなくちゃいけなくなってたんだとか。その反動かもね…
ユリウスは喜び勇んでアルやフィーネ姉さんと一緒に急いで緑青へ行き、第一研究所から出ましたっていう正門のチェックをしてからすぐに猫の庭へ戻ってきました。
そしてアロイス兄さんとナディヤ姉さんのごはんを食べて…もう大変。緑青っ子たちやアルと食べ物談義に花を咲かせ、アロイス兄さんとナディヤ姉さんに「こんな美味しい料理をありがとう…!握手してください」と感動しながらお礼を言い、リア先生には「山吹が宣伝用に作った紫紺万歳の物語は嘘ですよ、今度うちにある『ギフト図鑑』を持ってきてあげます。歴代長のカリスマ特徴やそれによって起きた数々の事象が載っています」と暴露したり。
驚いたのは筋肉系兄さんやオスカーとは話が合わないと思っていたのに、意外と軍事系の話にも強かったこと。現在の各国情勢や軍備増強に関する中枢の現在の動き。シュヴァルツの元になった昔の長直属暗殺部隊の話。これらの話にはさすがにアロイス兄さんもマリー姉さんも聞き入っていて、暗殺部隊にいた暗器使いの話にはコンラート兄さんががぶり寄りで食いついてた…
そして今。
食後に子供たちの世話をして寝かしつけ、ピーチたちにパティオで見ててもらいます。そして大人はどういう状況かと言うと。
…ヘルゲとユリウスはチェスをしながら皆と作戦会議。どういう脳みそしてるんだろうなあ二人とも…
ユリ「ん~、とりあえず折角心理探査まで付けてもらったんだから、私の隠れ政敵も洗い出ししつつ二人の周囲を探ってみましょう。 …Rd1っと」
ヘルゲ「長の側近だろう?不用意に近づいていいのか? …b4だ」
ユリ「ギフト持ちは覇権を争うのが本能みたいなものだよ。長へ近づこうとしない者の方が怪しまれちゃうって。 Nc4ね」
アロ「ふうん…てことは、ユリウスもジギスムントやアンゼルマによく接触してたの?」
ユリ「まあ、普通程度には。仕事で指示を受けることが多いから、プライベートはなかったよ。アルノルトに初めて会った時の金糸雀の仕事は、長様とジギスムント翁からの直接依頼だったね」
ヘルゲ「…bxc3。アンゼルマはどうだ?」
ユリ「アンゼルマ様は外交関係だからな…どっちかって言うと、広報部と連携を取るんだよなあの人。はい、bxc3。フィーネがパピィを売り出した時なんて、対外的にめっちゃ宣伝できたから嬉しい悲鳴あげてたよ。私の仕事から攻めるよりは、何か外交でおいしいネタがあった方が釣れるなー」
ヘルゲ「…なるほどな。おいフィーネ、何か商売ネタ考えないか?…うー…Nd4だ」
フィ「ふむ、いいねと言いたいが…外交戦略に役立つほどの発明品かい?学舎で役立つものなんてまだあるかね…」
ユリ「Nb6っと。売り込み先は学舎じゃなくてもいいと思うなあ。さっきニコルに見せてもらったフィーなんて最高だよ、私もほしい…」
ヘルゲ「くそ、投了だ…15手目のBg5はいい手だったな…」
コン「おいアロイス、そういや前によ…パピィの類似品おもちゃを売り出そうとして賄賂かました業者いたじゃねえか」
アロ「あ~…いたねえ。粗悪品の誇大広告ね。そっか、フィーの性能をランクダウンさせて、ちっちゃい子のおもちゃとして売り出すとか?」
ユリ「…いいねーそれ…エルンストさん、ロミーに言って玩具組合経由で販路確保してくれる?税金対策はこっちでやるとして…フィーネ、隠し口座持ってる?」
フィ「ああ、パピィの時ヘルゲに作ってもらったものがあるよ」
ユリ「んじゃ売り上げはそっちに入れて、販路で私の名を少し出そうか。ねえニコル、お勧めのぬいぐるみ屋さんがあるって言ってたよね?そこで劣化版フィーを売るの手伝ってくれそうかなあ?」
ニコル「うは、聞いてみる!そこの店長さん、魔法でぬいぐるみの目や毛色をカスタマイズして売ってくれるの。そのサービスも込みなら、きっとすっごく売れると思うなあ」
エル「…ユリウス様、完全にその店を支配下に置いてぬいぐるみを買い漁るつもりでしょう。販路から釣るつもりなら、わざとらしくならないようにアンゼルマ様への接触は気を付けてくださいよ。そのおもちゃがヒット商品になれば広報部がまず動くでしょうし、フィーネが関わっていればパピィほどの衝撃はなくても対外的な宣伝効果はあります。すみませんがフィーネのところへ少々広報部から取材申請が入るかもしれませんよ」
フィ「白縹関連への取材はタブーだからそんなには来ないだろう。でも必要ならば厳選していくつか受けても構わないよ」
アル「誰からの取材なら大丈夫そうか、金糸雀支部のバーニーさんに確認すればいいと思うよ~」
ユリ「よっし、じゃあアンゼルマ様への撒き餌作成は任せちゃっていいかな?私は本丸…ジギスムント翁だ」
ヘルゲ「どこから攻める?」
ユリ「まずはシンクタンクのプロファイリングを待つ。結果が出たら、一番の土台になる『土地』を攻める」
ヘルゲ「人じゃないのか」
ユリ「人は土地に根付く。その土地に生きる人が自然にチョイスする『物』…そこから、通信手段に何を好むのかを推測できるかもしれない。それを押さえれば、今度は『物』で繋がっている『人』も浮き上がる」
そう話すユリウスは、なんだかマザーを書き換える算段を付けたヘルゲみたいで。ううん、紅い世界を修復していた時にガードと悪巧みしていたヘルゲかもしれない。さっきまでぬいぐるみの可愛さに夢中になっていたユリウスとは大違いで、すごく意外性のカタマリみたいな人なんだなあって思う。
そして思わぬ商売ネタがあがったフィーネ姉さんも絶好調で、緑青っ子たちにニヤリと笑ってこう言った。
フィ「そういえば君たち…フィーの方陣の解明はどこまで進んだ?」
トビ「俺はあともうちょい…約九割だな…フィーネさん、よっぽどニコルさんのこと守りたかったんだな。方陣多すぎだよ」
ロッホス「ほんとだよ、俺は八割ってトコかな」
フォル「俺もだ」
パウラ「私はもう競争は降参~…六割かなあ…あの紐が難しいよお。のんびり解明するう」
フィ「ふむ…そこまでこの短期間に解明できるならいいね…よし、君たちで劣化版フィーの設計図を作ってみたまえ。テーマは『親も子供も喜ぶわんこ』だ。索敵だのはいらないが、例えば子供が転んでしまって親を呼びたい時には座標を知らせるとか、子供が危ないことをしそうなら服を引っ張って止めるとか。そういう最低限のアラート機能を持たせた上で、どれだけ子供の心を掴む仕草をインプットできるかな?」
トビ「まじ!?それ面白そうじゃんか…!」
ロッホス「…」
フォル「うお、ロッホスもう熱病者になってんぞ…」
パウラ「フィーネさんが監修してくれるんでしょ?なら私もがんばる~!」
フィーネ姉さんはうんうんって満足そうに頷いてます。
よーし、じゃあ明日は私もCutieBunnyへ久しぶりに行ってみよっかな!