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Three Gem - 結晶の景色 -  作者: 赤月はる
未来へ続く虹
352/443

351 ギャンビット sideヘルゲ









アロイスは中佐の「私らはそのうち引退するぞ、後はお前がやれ」発言からこっち、死んだ魚のような目から徐々に覚悟を決めたような瞳になっていた。これが、アロイスなんだよな。必要とあらば自分を変える。必要とあらば遥かな高みにも絶対昇ってみせる。俺は、何度そういうアロイスに助けられただろう。だが、少し肩の力を抜いてもいいんじゃないか?


「アロイス、皆がいる。気負うな」


背中をポンと叩くと、アロイスはふっと俺を見る。そして「…それもそうか。もう二人だけで気を張ってるわけじゃないんだもんね」と言って笑った。その通りだ。もう俺たちだけではないし、手の平から零れ落ちてしまいそうな大切なものを必死に守ろうとしていた頃とは違う。


そうしてまた一つ高みへ近づいた親友は、俺と拳を軽く突きあわせて「ありがと、吹っ切れたよ」と言って未来を見据え始めた。





*****




俺たちは全員でフィーネたちの会話を聞いていた。フィーネもアルも簡易型リンケージグローブで共鳴を同時行使しており、俺たちにもユリウスとエルンスト氏のマナは感じられていた。


それにしても驚いたのはアルの感覚だった。やはりダイレクトに接触しているアルは、ユリウスをきめ細やかに感じている。ダン・山吹の言っていたトーチ国の神話をユリウスに感じ、強烈なカリスマ性とは何なのかという本来の姿をイメージとして確立したかのようだ。


フィーネの「クランの運営手法を教えてほしい」という、先方にしてみれば無理難題もいい所という要求に対する彼らのマナの波。かつての俺とアロイスのように、遥か彼方にある野望を掴むために伸ばされている手。ともすれば、その手を叩き落としてしまいかねないこの要求に対して、彼らはどうするのか。


しかしエルンスト氏の「わかりました、私どもの知り得ることは全てお話して協力致しましょう」という、通常ならば有り得ない快諾を受けて俺とアロイスは瞳で語った。答えは…共闘だ。



アロ「…フィーネ、GO」



フィーネとアルだけではなかった。この一言を聞いていた全員が…安堵の息をつき、次にはニヤリと笑う。フィーネはグラオとしてその場にいることを明かし、俺とアロイスは新しいフィールドへ向けての一歩を踏み出すため、移動魔法の座標を緑青の第一へ合わせた。





*****





アロ「初めまして。グラオを統括しているアロイス・白縹です」


ヘルゲ「ヘルゲ・白縹だ」



フィーネが「藍玉と紅玉を同席させる」と言った数秒後にゲートを開いて現れた俺たちに、ユリウスとエルンストは握手しながらも呆然としていた。アロイスは苦笑し、「うちには変態魔法使いがいるもので」と俺を指さす。


アルがケタケタ笑って「やった、もう一回びっくりさせた!」と言うので、俺はアルが可愛くなって頭をグリッと撫でてやった。



ユリ「移動魔法…ですか?白縹にも石板があるんですね…」


エル「ユリウス様、違うと思います。石板では個人宅のリビングへピンポイントでゲートを開くことなどとても…」


ヘルゲ「そうだろうな、あの構成のままではド級のラッキーがなければ精密な座標設定などできない」


エル「…まさかあなたが改良…したんですか!?すごい、すごいです!今代の紅玉はマギ言語の天才と聞いていましたが、よくここまで…!」


アロ「ユリウスとエルンストって呼んでも…いいかな。僕らはクランの秘密を貪るだけのつもりはないです。僕らの持っている技術、ヘルゲやフィーネ、アルの持つ開発力。そしてもちろん戦闘力。それらを共有して、共闘できないかと思ってあなた方を吟味させていただきました。我々グラオは、あなた方ツーク・ツワンクと親密な同盟関係になりたい」



アロイスが静かに言うと、ユリウスはキュッと何か見えないものを収縮させたような…嬉しさを心に押し込めたような顔をする。それから、男性なのにまるでカサブランカの花が綻ぶような笑顔になった。



ユリ「願ってもないです。選んでくださって、感謝します。私たちもアロイス、ヘルゲ、フィーネとお呼びしてもいいですか?対等な友人として…あなた方と共闘できることが嬉しいんです」


アロ「あは、もちろん。これから話すことは、友人同志の悪巧みだからね?」


エル「…なんとまあ…では私も失礼して敬称を外させていただきましょう。悪巧みの仲間とは、最高ですねえユリウス様」


ユリ「あは…あはは!アルノルトはさあ、私にどれだけのものをもたらせば気が済むのかな!?ダンさんの気持ちがわかるよ、『僕はアルノルト君に幸運を貰い過ぎて怖いです』って言ってたよ?」


アル「む~、違うって言ったのになあ、ダンさん…今まで不運すぎただけじゃんかー」



俺たちはこれから始まる悪巧みが…その先の未来が楽しそうで、笑った。だが、事態はまだ悪いまま。後手の黒いポーンを握りしめたまま、次の一手が差せないでいる状態だ。



ヘルゲ「早速なんだが…この資料を見てくれるか」


ユリ「…! これは…ハンジンの殲滅議決が出た時の事件ですね」


フィ「それに加えて、半年前のエルメンヒルト捕縛はご存知かな」


エル「やはりエルメンヒルト様は病気療養ではなく、秘密裡に捕縛されていたのですか…おかしいとは思ったのですが、さすがに詳細は知りません」


アロ「半年前、緑青の第三研究所で史上最悪の魔法が造られつつあった。僕らはその件を処理し、その魔法作成の依頼主であるエルメンヒルトを捕縛したんだ。そして今回の誘拐事件は、ガードの固くなった研究所籠絡を諦めたエルメンヒルトの同志、もしくは同じ危険思想を持つ者が優秀な学生に大量殺人用の魔法作成をさせようとしたのだと考えている。…でも、その容疑者と思われるのがこの二人なんだよね」


ユリ「…嘘、でしょ…ジギスムント翁にアンゼルマ様…大物なんてもんじゃない、長様と覇権を争った後和解、実質的に長様の右腕として活動されている方だ。アンゼルマ様も外交統括のスペシャリストとして長様を支えている。もしこの二人のうちどちらかでも失脚などということになれば、長様の治世が揺らぐ…!」


ヘルゲ「ほう?まあ今の紫紺の長の治世が悪いとまでは言わないが、揺らいでもいいんじゃないか?ジギスムントに関しては、俺は老害になりつつあると認識しているがな」


エル「はは、ヘルゲはシンクタンクに欲しくなる人材ですねえ。確かにジギスムント翁はここ数年、引退がよろしいのではと囁かれています。足元を掬われないようにする技術だけが巧みなので、誰かが翁を諌める前に鎮火させてしまう周囲の手腕が恐ろしい。そして…可愛がっていた十二番目の末の子供を殺害されて、ハンジンを滅せよと激怒した旗頭ですね」


フィ「…ジギスムント翁は御年70に近いのでは?ぼくは殺害されたのは孫だと思っていたよ…」


ユリ「ん~、紫紺の高齢の方に多いんだけど、愛人というか多数の妻を持つ方っているんだよ。一夫多妻が推奨されているわけではないけど、禁止もされていないのはそのせいだね。カリスマ持ち以外にはほぼ有り得ない話だけれど、長様が認めれば紫紺なら一般人でも可能。なぜかというと、紫紺のカリスマに魅かれて女性が群がるケースがあるからだね。逆に一妻多夫もあり得る」


アル「…ユリウス、がんばれ…」


ユリ「私は一夫多妻なんてごめんだよ!もー、自分はフィーネと結婚できるからって余裕なんだから…私にはハードルが高いよ、本当に愛せる人が一人できるかだってわからないのに」



ブツブツ言うユリウスに全員が苦笑いし、話が進む。本来事件捜査の詳細を部外者に明かすなど有り得ないが、今回の捜査も中佐の了解を貰っているとはいえ対外的には完全に非公式の裏マツリだ。…使える駒は余すところなく使って、勝ってやる。



ヘルゲ「ユリウス、エルンスト。どうだ?ジギスムントやアンゼルマのクランがツーク・ツワンクと同じシステムを使っているとは思わないが…俺たちはこの二人の動きをみられる切り口が欲しい」


ユリ「…二名のクランは十中八九同盟関係にある。長様を支えるための巨大クラン同盟が存在するでしょう。現在最大の派閥『ビフレスト(虹の橋)』を支えるクランです。そしてクランとは、その人物の歴史そのものと言ってもいい。ギフトの…カリスマの発現時期に関らず、その人物が出会い、感銘を受けた人・物・土地。すべてが私たちを支える土台に成り得るんです」


エル「アロイス、ヘルゲ。この二人に関するプロファイリングをシンクタンクで引き受けましょう。政治家として活動している以上、来歴ははっきりしているんです。彼らを形作る土台を解析してやりますよ」


ユリ「うん、正攻法じゃ戦えない。何か奇策を弄する必要があるかもね」


ヘルゲ「ふん…ユリウス、一ついいことを教えてやる。お前は今、一つの盤面で従来の駒を元にゲームを進めようとしていないか?『鏡の国のチェス』だ、ユリウス。相手には正攻法で戦っていると思わせて、お前はもう一つの…俺たちのチェスボードを通って相手の背後から奇襲してやれ。一つの盤面勝負の奇襲ギャンビットだと自陣の駒に犠牲が出るかもしれんが、お前の通り道は無限にあるぞ?…お前なら自陣に一切の損害も出さずにキングを詰みに行けるだろう?」


ユリ「ふ…ふは!それもそうだ、しかも『フェアリーチェス』の幻獣駒まで持っているみたいだね。これは反則技の悪巧みだ、あはは!」


アロ「悪党相手にはイカサマもルールのうちってね。よっし…じゃあ移動しますか?ヘルゲもフィーネも『システム』いじってみたくてたまらないんだろ」


フィ「おぉ!いいねえ」


ユリ「移動ですか?じゃあ変装しないといけないね」


アル「あは、必要ないってばー。帰りに正門から出てマナ固有紋登録を忘れなきゃいいんだよ」


フィ「二人とも、ぼくらの秘密基地へご招待するよ。だから、そのツーク・ツワンクのシステムをぼくらに改良させてくれたまえよ…というか、そのサーバーシステムの開発者にお会いして語り合いたいものだね」



ヨアキムを慄かせた笑顔を出しそうになったフィーネに軽いアイアンクローをかまし、「ま、帰りはここからまた帰ればいいんだ。もう移動魔法の調整に三時間もかけなくて済むぞ」と言って猫の庭へのゲートを開いた。








  

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