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Three Gem - 結晶の景色 -  作者: 赤月はる
未来へ続く虹
351/443

350 常春の大樹 sideアルノルト

  







マリー姉ちゃんの幻影かと思うほどの変装に、俺もフィーネも驚いて目を丸くしていた。



アル「ええええぇぇ!!なにそれ、すげー!」


ユリ「あはは、そんなに驚いてくれてありがとう~。呼んでくれて嬉しいよアルノルト。こちらの可愛いお嬢さんを紹介してくれない?」


アル「あ、フィーネって言うんだ。俺の婚約者!」


ユリ&エル「はぁ!?婚約者あああ!?」


フィ「はは、いきなりぼくまでお邪魔して申し訳ない。アルからお話は伺ってます、アルの婚約者フィーネ・白縹です」


エル「 ! フィーネ・白縹…方陣研究家でヴァイスの事件捜査専門の?」


フィ「おや、ご存知とは…さすがシンクタンクの方ですねえ。よろしくお願い致します」


ユリ「あ、そうか。クランに入るかどうかを相談したのがフィーネさん、なのかな?よろしくお願いします、私はユリウス・紫紺です」



フィーネは二人と笑顔で握手して自己紹介した。でもユリウスは「アルノルトってば何その原始パワー…かわいい婚約者とか羨ましいぃぃ」と俺をねめつける。



ユリ「もしかして婚約者を紹介したくて連絡してくれたの?」


アル「あー…実は違うんだ。あのさ、俺この前誘拐事件に遭ってさあ。そのことでユリウスに教えてほしいことができたから呼んだんだ」


エル「な…!誘拐!?…犯人の目的は?いま無事にいるということは、犯人は捕縛したんですか?」


フィ「その件はよろしければぼくからお話をしてもいいですか?実はぼくと他数名のヴァイスがこの件の捜査にかかわっておりましてね。他ならぬアルが巻き込まれていることもあり、徹底的に捜査したいのですよ」


ユリ「…巻き込まれた?じゃあ犯人の目的はアルノルト自身じゃなかったんですか?」


フィ「ええ。目的は優秀な緑青の学生。マギ言語でオリジナル方陣を作れる学生を狙っての誘拐事件で、その学生がアルの友人なのですよ。それで…アルも含めた三名が巻き込まれましてね。彼ともう一人がケガを負いました」


ユリ「…! 大丈夫なの、アルノルト!?」


アル「あは、ドジっちゃったよ。フィーネたちが助けてくれたから平気。でもちょっと貧血気味で、フラフラするかな」


エル「…フィーネ殿、不躾な質問をお許しください。もしや容疑者が中枢におりますか」


フィ「さすがの洞察力ですねエルンストさん。まだ仮説段階なので、いると断定はできません。ですが…ぼくは可能性が高いと思っています」


エル「納得しました。何をお知りになりたいのでしょう。我々でお力になれるならいくらでも協力致しますよ」



俺とフィーネは、お互いにお互いを接続先としてリンケージグローブを起動させている。俺は相変わらず白いユリウスを視て安心し、でも金糸雀の里にいた時みたいな「生まれたばかりの小さな子」みたいではなくなっていることも感じていた。


今のユリウスは、激しいオン・オフの切り替えをこなしていて…中枢にいる時の「氷雪の貴公子」と「美しい芸術と美味しい食べ物をこよなく愛する、感謝魔人のユリウス」を完全に使い分けていた。


そしてエルンストさんは出会った時と変わらない。腰の低い飄々としたおじさんという表面とは裏腹に「ユリウスに忠誠を誓う」という腹に響く太鼓の音のような…それでいて軽快なティンパニーのような…そんな揺らがない何かが一本の芯になって聳えている、しなやかな樹木のような人だった。



フィーネも当然同じように感じているんだろう。コクリと唾を飲みこみ、最初の関門は乗り越えた、と判断した顔だった。



フィ「…是非お言葉に甘えさせていただきたいと思います。ただ、知りたいのは…中枢の中でもかなり上位に位置するガードの固い人物二名が容疑者でして。まるであなた方のクランのように何も痕跡を残さずに動く議員なのですよ。ですから、ぼくらがお聞きしたかったのは、クラン運営の手法について。それと、その人物ならどういう人脈がありそうか。どうやって外部との連絡にマザーを介さないでいるのかなど…たぶん、あなた方が秘匿にしたい情報ばかりなのです」


エル「…なるほど…それは…」


ユリ「これはかなりの難問だね。でもエルンストさん。私は、アルノルトをそんな目に遭わせた人物が中枢にいるなど…許容できないんだが?」






ユリウスのマナは一瞬にして氷雪の貴公子へと変わる。それはとても…冷たいけれど熱い、不思議な感覚。まるでヘルゲさんやアロイス先生みたいだよユリウス。仲間へはマグマのような熱い友情。敵へは極北の氷のような冷たい洞察と対処。けれどその中心にあるのは常春の大樹みたいな…


ああ、ダンさんの言っていたことがわかる。ユリウスは根っこの先が見えないほど深く、その梢がどこまで高く、広いのかも視認できないほどの世界樹のよう。こんなに…こんなに違う温度のものを内包して、その温度差が起こす対流でユリウスという人間が動き出す。


俺ははじめてカリスマ性に籠絡されてしまう人の気持ちがわかった気がする。皆が夢見る到達点。常春の大樹のそばで幸せになりたいと思う、人々の願望のチカラ。ユリウスは…カリスマ持ちは、人々に夢を見せるんだ…






ユリウスが「許容できない」と言葉を発した時、俺はビリリと何かが震えた気がした。マナじゃない、マナには何も変化がない。けれど、何かが確実に震えた。そしてエルンストさんの表情も引き締まる。俺はいま…ユリウスの中でぐるぐると渦巻くエネルギーの対流が、何かのギミックを動かしたかのような感覚に飲まれていた。


ユリウスが抱く「野望」。自分がそれを全力で叶えるべく存在するとでもいうように、エルンストさんのマナに歓喜が湧きあがる。


これが、本当のユリウス様なのです、と。


これが、不当に押さえつけられていたユリウス様の本当の姿なのです、と。


エルンストさんが「待ちに待っていた」本当のユリウスは、金糸雀で生まれ直した直後から始動していた。ずっと待っていた御主人様ユア・ハイネスが中枢議会の混沌カオスを颯爽と駆け抜ける。それが嬉しくて仕方ないと、エルンストさんのマナの波が打ち寄せる。


エルンストさんは即座に「わかりました、私どもの知り得ることは全てお話して協力致しましょう」と返事をしてくれた。それを聞いて…俺とフィーネ、そしてずっと通信で内容を聞いていたグラオの皆は、同時に安堵の溜息をつく。不思議そうな顔をしたユリウスとエルンストさんは、フィーネの言葉を聞いて仰天した。



フィ「…ありがとうございます。では、改めまして自己紹介いたします。ぼくはヴァイスの中でも秘匿ランク8オーバーの特殊部隊『グラオ』所属のフィーネ・白縹。こちらのアルノルトも軍属ではありませんがぼくらの仲間です。グラオにいるのはヴァイスの中でも突出した精鋭部隊。紅玉、緑玉、藍玉を筆頭戦闘力とした大規模殲滅級兵力と、痕跡を残さずミッションを処理する隠密能力を備えております。よろしければ…これよりグラオのヘッドである藍玉と、紅玉を呼び寄せてお話したいのですが」


ユリ「…グラオ…聞いたこともありません…本当にそんな部隊が?エルンストさんが知らないわけ…」


エル「申し訳ありませんユリウス様。私も初めて聞きました…シンクタンク情報戦略研究部の恥ですねえ…これは参った…」


フィ「はは、グラオ発足に関しては中枢でも一部の…それこそ長様と側近くらいしかご存知ないのではないかと。議会が承認したのは単なる『特殊部隊の再編』ですからねえ。しかも長様でさえ、このような突出した部隊とは考えていないと思いますよ。シュヴァルツの存在はご存知でしょう?」


エル「ええ、それは知っていますが…」


フィ「たぶん長様や蘇芳の軍上層部は、シュヴァルツの仕事の一部を委譲する新部隊としか思っていません」


ユリ「…なるほどねえ…アルノルトのマナ可視化方陣だっけ。あんな高度方陣を高等三年の学生が扱える理由がわかった気がするよ。うん、これは…ワクワクしてきたねエルンストさん。私たちの知識や人脈を総動員して協力する価値は大いにあるよね!」


エル「ええ、もちろんですよユリウス様。こんな…風穴を開けるような衝撃はユリウス様と知り合って以来です」


アル「俺もエルンストさんからツーク・ツワンクのこと聞かされた時は同じくらい驚いたってば~。これでお返しできた?」



俺がニィッと笑うと、エルンストさんもユリウスもぷはっと吹きだして笑い出した。フィーネは「ほんとに良かった、あなた方と協力できることになってね」と言って、アロイス先生とヘルゲさんへ通信し始めた。





  


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