349 ご注文確認 sideアルノルト
俺が「本職ならユリウスがいる!」と言ったことで、翌日にはグラオとしてユリウスに接触してみようっていう方針が固まった。つい軽く言っちゃったけど、アロイス先生は心なしか顔色が悪い気がする…俺、余計なこと言っちゃったかなあ…
でもアロイス先生は「いや、アルノルトやユリウスのせいじゃないんだよこれは…気にしないでね」と、どこか遠くを見るように口元だけで笑った。特に指摘はしなかったけど、目は死んでた。
ユリウスがどうやって会うつもりかは分からないけど、最初の連絡先は第一の案内センターへの通信のはず。エルンストさんか…知らないクランの人からだと思う。そうアロイス先生に伝えると、少し考えてからフォルカーを呼んだ。
アロ「フォルカー、中枢の人間が緑青に来たら…警戒されちゃうよね、今は」
フォル「そうですね、じーさんと各研究所のトップは今回のことも詳細が知らされるでしょうし、捜査で軍部が来るならともかくソッコーで中枢が視察に来るとかおかしいです。警戒マックスでしょ」
アロ「ふむ…わかった、ありがとね。アルノルト、とりあえず第一のデボラ教授の家へ戻ってくれる?…あ、正門を抜けないとまずいんだっけ。やっぱ数日待ってから動こうか」
アル「だめだよ、早く行かなきゃあいつら動き出すかもしれないよ。俺、ゆっくりなら歩ける。正門入ったらケージで移動するし、大丈夫」
フィ「アロイス、ぼくが付き添うから心配は無用さ。とりあえず会う方策が定まるまでぼくはアルと第一にいるよ」
アロ「そっか、じゃあ頼むね。でもアルノルトも無理はしないでくれよ?」
トビアスたちに叱られて、俺も少し冷静になれたと思うんだ。だからほんとに無理をして皆に心配かけるようなことはしないようにと思って、素直にアロイス先生へ「はい」と頷いた。
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フィ「アル、いまぼくはカイさんに接続しているからね。安心して寄りかかってくれてかまわないよ」
アル「ほんと!やったー!」
フィ「…それは寄りかかるとか体重をかけるとかじゃないねアル。それは『抱き寄せる』だね。君の負担が減らないことには意味がないのだよ」
フィーネと並んで第一への道をゆっくりと歩きながら、なんだかデートみたいだなーとか浮かれることができる程度には、俺は回復してますよ?造血魔法を掛けてもらっても寝起きであんなにクラクラしたのは、やっぱり何も食べずに寝てたからみたいでさ。ちゃんと食事して寝てたら、一気に血が造られました!みたいな感じだよ。それでもまるっと二日以上安静にしていたから、体がなまっててフラつくけど。
門衛さんに「ただいまでーす」と挨拶すると、フィーネが俺の婚約者とわかっているから「お帰りなさい!仲いいね、羨ましいなあ!」なんて言われた。うひひ、フィーネかわいいでしょー、羨ましいでしょー。
ケージに乗ってお母さんの家へ行き、ソファに座るとホッとする。やっぱ少しだけ疲れたかな。さっそく左手の指輪にマナを大目に流すと、細いマナのラインを光の玉みたいな信号がスッと中央の街へ向けて駆けていく。さて…エルンストさんからはどれくらいで連絡が来るかな。
フィ「おや、もう信号を流したのかい?少しアルが休んでからでも良かったのに」
アル「でもすぐに連絡が来るとは限らないからね~。エルンストさんも忙しいだろうしさ。だからフィーネ、連絡来るまで抱っこさせて~!」
フィ「多少は緊張感を持ってもらおうか、アル…」
フィーネに渋い顔をされてしょんぼりしていると、案内用端末がポーン!と鳴る。こんな素早いわけないよね、まさかなあ…と思って応答すると、『露草医療組合のロミー様より、ご注文確認の通信が入っております。お繋ぎしてよろしいですか?』と言われた。
俺とフィーネは顔を見合わせたけど、これがツーク・ツワンクの連絡なら無視できないと思い、お互い頷いた。「お願いします」と言うと、画面が切り替わる。
ロミー『お忙しいところを申し訳ございません!私は露草医療組合のロミーと申します。この度は当組合の湿布薬をご注文いただきましてありがとうございます。早速なのですが、実は湿布薬と申しましても何種類もございまして…よろしければ今後も末永くお付き合いいただきたいので、サンプルをお持ちしてご説明しようかと!ご都合はいかがでしょうか~?』
ロミーさんはニコニコと笑いながら見事な営業トークを繰り出し、さり気なく自分の指に嵌った指輪を俺に見せた。なるほど、と思いながら俺も考えている素振りで左手を顔へ持って行き、指輪を見せながら答えた。
アル「あ、はい。できればなるべく早く欲しいんですが、どこでお会いできますか?」
ロミー『販売員は各地におりますので、よろしければお宅に伺います!そうですね、三時間後であれば販売員が訪問できますので、その旨を門衛さんにお伝えいただけますか?』
アル「あ、はい…わかりました。えっと、その…マナ固有紋で…ゲスト登録することになるから、俺たちが外で待ってましょうか…?」
あのシステムでマザーのマナ固有紋チェックが入るんだから、ユリウスやエルンストさんだと露草じゃないってわかっちゃうと思うんだけど…だ、大丈夫なのかな…
ロミー『ご安心を!ただの販売員ですから、お客様はお気遣いなく!では、今後ともよろしくお願いいたしますぅ!』
プツン、と通信は切れて…俺とフィーネはまたしても顔を見合わせて「え~?」と言ったままポカンとしてしまった。たぶんだけど、三時間後っていうのは移動魔法の調整時間だと思うんだよね。あ、そっか…販売員さんがさらに俺たちをどこかに案内でもしてくれるのかなあ。
フィ「ふむ…なかなか偽装工作が徹底しているね。今のロミーさんの指輪は本物と思っていいのだろうかね」
アル「あ、それがさあ。ロミーさんが指輪を見せてくれた時に、俺の指輪がブルって震えたんだ。俺が見せた時にはロミーさんもうんうんって頷いて、納得した顔してたよ」
フィ「…なかなかいいシステムを持っているのだね、ツーク・ツワンクは…さて、では門衛と…アロイスたちにも報告しておこう」
門衛さんに露草医療組合の販売員が来る事を伝え、アロイス先生たちにも三時間後に誰かしらが接触してくると思いますって言っておいた。接触方法については俺たちがこれ以上ヤキモキしても仕方ないと思って、俺はフィーネとおしゃべりして過ごしていた。すぐに時間は過ぎて、俺がフィーネから最近のグラオの皆の話を聞いて笑い転げている時に、その訪問者は来た。
門衛さんから「先ほどご連絡のあった方々をお通ししましたので」と連絡が入り、ほどなくして家のチャイムが鳴る。ドキドキしながら「はーい」とドアを開けると…そこにいたのは小太りなおじさんと、若いアシスタント風の青年。
とりあえず「どうぞ、入ってください」と言ってリビングに案内し、その二人はニコニコしながら家にあがる。ソファにどうぞと言って、用意しておいた紅茶を出すと、その見たことのない小太りのおじさんはエルンストさんの声で「アルノルト殿、防諜方陣をお願いしますね」と言うのでホントにびっくりした。
…そういえば、エルンストさんに似ているマナの波だけど、でも何か違うところもあるから…似ている他人のマナだと思ってたんだ。まさか、本人??俺が驚いているとフィーネが「ぼくがやりましょう」と言って防諜方陣を敷く。
途端に二人は…エルンストさんとユリウスへ姿を変えた。