348 見極める立場 sideアロイス
アルノルトが中枢のクランに関することを聞くのにユリウスへ接触してはどうかと言い出した。正直言ってほんとに悩ましい。ユリウスにアルを会わせるかどうかというレベルじゃない、軍の特殊部隊が中枢に接触するってことなんだからね。
それに、その中枢議員二人がこの事件にかかわっているというのは僕たちの勘や憶測でしかない。その状態でユリウスに接触かあ…
カミル「俺はいいんじゃないかと思うぜ。共鳴してユリウスを視た時にも思ったけどよ、紫紺のカリスマってのは本人が『何をどれだけ強く思っているか』ってのにかなり左右されるみてーじゃんか」
カイ「あー、そうだな。俺みたいな単細胞でも、向こうが本気でシンパにしたいと思わなければそうそう籠絡されねえよな」
オスカー「…そっか、中枢でカリスマ持ちの対立が激化するのって、政治闘争に勝ちたいって本気で思う人が跋扈してるからなんだよな」
ニコル「でもアルだけで私たちが知りたいことをうまく聞き出せるかなあ?」
ヘルゲ「当然、アロイスか俺あたりが同行して接触することになるだろうな」
フィ「…そうだね、向こうにしてみればクランの運営は秘匿したい内容に決まっているんだ。こちらも手の内をある程度晒さなければ、いくらアルといえど話してはもらえない気がするね」
ユッテ「今日さ、中枢会議所に行って思ったんだけど。すごいよ、目の鋭さが違うし。通りすがりの人にも『こいつは何を考えてる人間だ?』って値踏みするような目をしていたりね」
アルマ「そうなんだよねぇ~。透明化してなかったら、私がいくら気配を埋没させても見逃すってことはしなさそうなくらいだったなァ…そういう場所で生きてる人に、誤魔化しはきかなさそう」
マリー「そうね…ユリウスを騙したり、何かを誤魔化しながら聞き出すっていうのは違うわねえ。アルも罪悪感でいっぱいになりそ…」
コン「俺ァどっちでもいいと思うぜ。ユリウスに悪意はないと思うしよ、聞き出すのが難しきゃ目標の自宅に潜入して探るまでだ。問題はアルとヴァイスががっつり繋がっていることをユリウスにバラしてもいいのかっつぅ一点だろ。エレオノーラさんと、デボラ教授に聞こうぜ。あの二人はいつも中枢と接触してる」
アロ「…ん、わかった。僕としてはヴァイスと繋がっているって明確に言わなくても、デボラ教授、ヘルゲ、フィーネっていう『魔法部繋がり』を強調してもいいと思うんだよね。アルが巻き込まれた事件の捜査をフィーネとヘルゲが担当しているとか、そんな感じで。嘘はないだろ?」
ヘルゲ「…確かにな。それならいけるか」
フィ「いいね。では母上とエレオノーラさんにも相談しに行こうか?」
僕とヘルゲ、フィーネはヴァイスへ行き、デボラ教授も呼んで執務室で一連のことを報告した。中佐はいつものようにマナの渦を見ながら「フン?」と鼻を鳴らす。
中佐「私らが接触している中枢議員は、単純に利害関係で繋がっていると思っていい。だから気を付けているのはお互いの利害が一致する落としどころを探すという点のみさ。私がアルとユリウスの接触に関して好きにしろと言ったのは、逆に利害関係がない状態で『マナの読めるアル』が『ユリウスは大丈夫』と判断したからなんだ」
フィ「それはどういう…?今回の件で利害関係が発生するなら会わない方がいいんですか?」
中佐「逆だよフィーネ。この前私が『ユリウスはオーディンの要素がない』と言ったのを覚えているかい?ヨアキムを拷問にかけた紫紺の長はまさにオーディンだ。これは何か目印があって判断されるわけではないし、対面した人間の感覚の問題だが…それでも紫紺のカリスマ持ちが強烈であればあるほどわかりやすい。白く染まった後のユリウスと相対した時、そんな恐ろしい感じがしたかい?」
フィ「いえ、まったく…」
中佐「私らのように利害関係のみであれば、相手が死の神だろうが豊穣の神だろうが関係ないだろ、相手の目的に沿う答えを私らが出せばこちらに被害は及ばない。そういう対応をするのは、私らにゃアルやアンタみたいにマナから思考を読むなんて芸当ができないからなのさ。ではアルが大丈夫と判断したユリウス自身の目指すところが、私らと共闘できるものだったら?私にゃお互いにとんでもない味方ができるとしか思えないね」
アロ「…なるほど。フィーネとアルノルトが一緒にユリウスを視ながら、問題ないと判断すれば…ユリウスを引き入れるくらいの気持ちで臨んでもいいのか。どうだい、ヘルゲ」
ヘルゲ「そうだな。俺はもともとユリウスのやり方が面白いと思っていたしな。中枢が嫌いと言っても、マザー改変前のことだ。今の紫紺を見極めるのも…いいかもしれん」
デボラ「ふむ。私も特に反対意見はないね。一応補足すると、エレオノーラの言うオーディンだのフレイだのって区分けは中枢と接触する機会の多い私たちみたいな位置にいる者の間での隠語のようなものだから、一般的ではない。他にも戦争を仕掛けることを好んだ時代の長は戦の神と言われたこともあるしね。まあ、ユリウスがどういう要素を持つのか…君らで見極めてみれば良いと私も思うよ」
中佐「アロイス、アンタも会いに行きな。グラオのトップとして…ヴァイス、いや白縹に害を及ぼすと判断したなら撤退。逆に益になると判断したなら、好きにおやり。ああ、それといい機会だから言っておくよ。私とバルトが引退したらお前がヴァイスを統括しな、わかったね」
全「はあぁぁぁぁぁ!?」
アロ「ちょ…エレオノーラさんも大佐も引退なんて嘘でしょ!つか僕が大佐みたいに筋肉と人望を持ってるわけないじゃないですか、冗談はやめてくださいよおおお!」
中佐「お前こそいつまで私らを働かせるつもりだい。問題ないだろ、相談役くらいならやってやるよ。筋肉が必要なら双子がいる。娘らの統率ならハイデマリーがいる。ブレーンならホレ、無駄にコングロマリッドで演算能力を高めたバカ息子と商才を持つ企画立ち上げ屋の娘がここにいるだろが。頭のカタい年上をオトすなら可愛い三人の孫娘と真面目なオスカーで蕩かせておやり。シュヴァルツ関係はコンラートに丸投げでいいじゃないか。だから、それを踏まえてユリウスを取り込むか考えればいいのさ。お前らだったら、何かあってもどうにでもできるだろうが」
ヘルゲ「…なんでコングロマリッドのことがバレてるんだ…」
フィ「ぐぅの音も出ないですね…」
アロ「胃が痛い…胃が痛い…」
最後にとんでもない爆弾を落として、エレオノーラさんは呵呵と笑った…