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Three Gem - 結晶の景色 -  作者: 赤月はる
未来へ続く虹
348/443

347 本職 sideヘルゲ









アルと友達4人が保護され、猫の庭へやってきた。ケガ人2人は寝かせてプラムに看させ、意識のある3人へフィーネが猫の庭とグラオのことを簡易に説明したりと一時騒然としていたが、なんとか落ち着いたようだった。





緊急出動が発動してから、現地へ行った4人を除くメンバーは自分のミッション終了後に続々と猫の庭で状況確認しながら合流した。既に育児休暇も終わって復帰しているユッテとアルマ。ニコルは自ら志願して、「休暇中とか関係ないよ、弟のピンチだもん」と言って現地へ入っている。


すぐに俺とヨアキムが中心になって、中枢の情報を探り始めた。ユッテとアルマは二人で中枢会議所へ潜入している。コンラートが現地へ行っているから潜入はアルマが適任だし、ユッテは護衛だ。


シュヴァルツから提出された「中枢要人子息拉致殺害事件」の被害者ファイルとその調査結果は、見るだけでも気が滅入ってくる内容だ。正直言ってスザクが生まれてからというもの、子供が殺されたり虐待されたりと言った事件は、本当に何というか…いろんな感情がごた混ぜになって噴出してしまうから、見るのが辛い。


あんなに可愛いものは他に存在しない。あんなに守りたいと思うものは他に存在しない。なのにそういう存在を切り刻める精神というのは、どこの暗黒から生まれたんだ?


信じられないほどの腐臭を放つその暗黒を消し去りたいと思う怒りの衝動。

その暗黒に飲みこまれてしまった子供が可哀相で。

唯一無二の存在を失った親がどれほどの絶望を感じたかと思うと、俺まで心臓が引き千切られそうになる。


だが…その苦しみも恨みも何もかも、それは殺された子供のものであって。絶望に飲みこまれて、大量殺人を企ててしまったら…それを、実行に移してしまったら。


お前らも、俺の敵である「暗黒から生まれたモノ」なんだ。







*****






ヨア「…ダメですね。ツーク・ツワンク並みの秘匿技術だと思いますよ。マザーからでは情報が得られません」


ヘルゲ「くそ、やっぱりそうか…そうなると、監視方陣映像から接触者を洗い出しか?これはシュヴァルツが手こずる訳だな」


ユッテ「ただいまぁ…ヘルゲ兄、ダメだった」


アルマ「ごめんねヘルゲ兄さぁん、ほんとに無理かも。対象2名はエルメンヒルト捕縛を何らかの伝手で知ったらしくて、直後からプライベートは自粛っていうか…ほぼ沈黙。中枢の仕事は黙々とこなしているし、表向きの政治活動は平常運転だねぇ。どっちか片方が動いたのか、二人で動いたのかも不明ですぅ」


ヘルゲ「…そうか。目標自身が緑青へ行ったり、タンランやデミと接触したような形跡もないしな…やはりクランを使って動いたかな」


ヨア「ん~…何か他の切り口を探さないといけませんねぇ。探したのはマザー本体と紫紺、瑠璃、緑青の分体ですから…他の色も探すべきですかね」



いくらヨアキムでも、何も手がかりのない状態で情報の海を探すのは無理がある。俺は皆に礼を言って、少し考えてみようと開発部屋へ行った。ミッタークとナハトに考えさせても、結果はあまり芳しくない。


…どうやって連絡をとっている?どうやってタンランの呪術師とツナギをつけた?どうやってトビアスという優秀な学生を選定できた?学科成績や得意分野など、緑青の分体でも見なければ知ることはできないんじゃないのか?


シュヴァルツでも捕縛した呪術師たちを尋問したようだが、見事に失敗した。「斡旋」をどこで受けたのか自白させようとした時に何らかの魔法が発動したらしく、呪術師たちの記憶が焼き切れたように一部がブランクになってしまったのだという。


久々の、「手が届きにくい相手」との戦いになりそうだ。





*****





アルが起きたのは、丸一日が経ってからだった。自分が失血死寸前だったことにも気づかず、ポヤンとした顔で「みんな、どしたの?」などと言う。緊張感が無いにも程がある…


フィーネは労わるようにアルを看て、「何てことなくてよかったよ」とニコリと笑う。だが、俺たち同期組はフィーネが強がっていることを知っていた。フィーネは感覚でマナを感じるが、思考は理詰めだ。仕事に対して責任感が強く、グラオの作戦行動時は文字通り「全幅の信頼」を俺たちに対して持っている。


だが、フィーネはアルを「特別なたった一人」にした。

そのアルが攫われ、頭部にケガを負い、もう少しで死ぬところだった。それでもフィーネは「仲間がいるからアルは大丈夫、自分は自分のできることをする」というスタンスを崩さなかった。それは俺などにしてみたら称賛に価するほどの自制心だ。そこまで自分を抑えて冷静に行動できる人間はなかなかいない。



そしてフィーネはアルが治療され、呼吸も正しく寝ていることを確認した途端に発熱した。狂いそうなほど心配する気持ちを強固な箱へ押し込めて冷静に振る舞うその胆力は、あいつが「男前な女」であることをイヤというほど俺たちに教えてくれた。同時にどうしようもなくアルに惚れている女だということも。


アルの部屋で一緒に眠ると言って聞かず、アルは気付いていないだろうが同じベッドには貧血療養中の患者と熱を出した患者が一緒に寝ていた。朝には熱も下がり、アルが昼過ぎに気が付いた時には何食わぬ顔で「よかったよ」などと言っている。まったく、とんだ強がりだ。




ともあれ、アルが無事に目が覚めたことでフィーネはもう大丈夫そうだった。一階へ降りてきたアルは、トビアスたちを見て驚き…そしてとにかく嬉しくて仕方ないという顔をした。俺とフィーネは魔法部内での強固なパイプができることにほくそ笑み、母さんは優秀な学生を送り込むことでユニーク魔法研究室と混成魔法研究室の室長を抱き込めるとほくそ笑む。


アロイスにバレて説教をされたのは迂闊だったが、これは俺やニコルが混成魔法の種類を爆発的に増やせる予感しかないし、子供たちのユニーク特性をパウラが秘密裡に研究してくれれば安心だろう。それに…くっくっく、ロッホスが精霊魔法にかなり興味津々だからな、あいつならその原理自体を解き明かしてくれるかもしれん。猫たちが精霊魔法を使う日が来るのも遠い未来の話ではないかもな。





*****





俺がアロイスの説教に屈せず笑っているのを見て、ヨアキムも笑いながらこちらへ来た。



ヨア「ヘルゲさんも懲りませんねえ。ところで…中枢の件はどうします?」


ヘルゲ「うーん…目標二名の自宅に潜入するか?」


ヨア「それしかないですかねえ。そうすると、今回私はお役に立ちそうもありませんね…あの秘匿加減を見るに、孤立サーバーでの活動としか思えません」


ヘルゲ「…俺たちでは分体に入れない。ヨアキムは充分役に立っているし頼りにしている。自宅に潜入して得た情報があれば、そこから辿るからな。その時頼む」


アル「ヘルゲさん、ヨアキムさん」


ヨア「…アル、どうしたんです?随分と心配そうな顔をしてますけど」


アル「あのさ、誘拐犯の黒幕…調べるの難しいってアルマ姉ちゃんに聞いてさ。また、誰か学生が狙われちゃうのかなと思って。あいつら、学生で出来のいいのを使うってマナの波が言ってたし」


ヘルゲ「イグナーツ氏が学舎と研究所の守りは固めると言っていたようだし…すぐにトビアスくらいできる学生を探すのは無理があるだろう」


アル「俺が…囮になるなんて、ダメだよね?」


ヨア「アル!何を言うんです!」


ヘルゲ「…悪いがアル、お前を使うわけにはいかんな。お前は通常のマギ言語使いの枠から逸脱しているのを理解しているか?普通、マギ言語使いはマギ言語を学んで覚え、意志のあるマナを定められた通りに並ばせるから魔法が発動する。だが、お前ときたら『マナに質問して、答えを返してもらっている』んだぞ?マナとの意思疎通ができるマギ言語使いなんて今現在お前一人だ。誰がそんな切り札を囮にすると言うんだ?囮になるなら逆に俺が適任なくらいだ。ずっとデボラ研究室で仕事をしていた上に立体複合方陣の開発者として名が通っているんだからな」


アル「でも…!ヘルゲさんが囮になったって、紅玉の戦闘力だって周知の事実だもん。誰がヘルゲさんを捕まえようとするっていうんだよ…俺、もうロッホスみたいにボロボロにされた友達を見たくない…」



思わず俺が「グラオを見くびるなよ?」と言いそうになったところで、トビアスたちが現れ、アルの頭をペチンと叩いた。



トビ「お前、何様だ?聞いたぞ、ロッホスをボコッたあの強いやつに挑んで、もうちょいで眼球やられるトコだったって。今度はドコやられる予定なんだよ」


ロッホス「わざとピンチになって、また皆に助けてもらうつもりかアホ。ボコられたのは俺が悪いんだ、相手の強さを無視して突っ込んだバカは俺だからな」


フォル「俺も同じようなことじーさんに言ったけどよ、今ならわかるぞ。素人が首突っ込んで、本職のジャマすんなってこった」


アル「…うー…わかった…」


パウラ「はいはい、この話はこれで終わりっ!ほんとに男子はすぐアツくなるぅ~…オトコはクールに行けっての!」



パウラの言葉を聞いていたグラオの皆はブハッと吹き出し、「ちげーねぇ、オトコはクールに行けか!今年の標語だな!」とゲラゲラ笑った。


アルはいい友達を持ったな。


俺もヨアキムもなんだか温かい気持ちになって5人を見ていた。するとアルが「あ…!」と言って左手を見る。



アル「…ヘルゲさん、本職…いるじゃん。中枢の本職!ユリウスに聞くのは?」


ヘルゲ「…! だが、ユリウスが中枢重要人物の内情を知っているとは思えんぞ」


アル「ダイレクトに知っているかどうかじゃなくて、クランがどんな風に動くとか…えっと、どういう人を取り込む傾向があるとか…そういうことを聞くのは?」



…確かに有効かもしれん。特にあのシンクタンクの男、エルンストか。一考の余地あり、だな。これで手がかりが掴めるなら、かなり捜査範囲が絞れる。



ヘルゲ「…アロイス、会議だ」


アロ「りょうかーい」



俺たちのやりとりを聞いていたアロイスは、すぐに会議を招集した。







  

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