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Three Gem - 結晶の景色 -  作者: 赤月はる
未来へ続く虹
347/443

346 開発極道セクト sideアルノルト

  





俺は目が覚めて、ぼんやり天井を見ていた。なんだかすっごく体がだるくて、でもどこも痛くはない。感覚が鈍くなっている気がする右手で、目をこすって…「右目がある」ことに驚き、そんなことを思う自分にも驚く。


一気にいろんなことが思い出されて、ガバッと起き上がって叫んだ。


アル「トビアス!パウラ!ロッホ…す…うぇ…」


起き上がった瞬間、頭痛がして景色がグルンと回った。少しの吐き気と変な頭痛、力の入らない体。俺、どうなったんだ??



プラム「アルおきたー!」


アル「ふえ?あ、プラム…ここ、猫の庭?」


プラム「そだよー!こちらプラムでーす!アルおきたよ!」



プラムは繋がっている他の猫に向かって報告したみたいで、数秒後には部屋にグラオの皆が殺到した。でもいつもみたいにワーワーと話さないで、様子を窺っているような。キョトンと皆の顔を見ていたら、フィーネがそっと話しかけてきた。



フィ「アル、気分はどうだい?」


アル「…うん、ちょっとクラクラする…かな」


フィ「そうか、だいぶ出血していたので貧血気味なのだと思うよ。数日安静にしていれば良くなる」


アル「あの…あのさ、トビアスたちは…」


フィ「うん、その話は後でするよ。ひとまず一階に降りようか、お腹すいただろう?何か食べられるかい?」


アル「うん、たぶん食べられる。あのさ、みんな…どしたの?」



なんだか居心地悪くなって、恐る恐る聞くと。



コン「…お前よぉ~…ロッホスの止血したくせに何で自分の止血しねえんだよ…」


オスカー「アル、いくらなんでも防御なしは無謀だよ。そういう時は焦らずに一人ずつ確実にキルだ」


カイ「貧血で器械武術使いを相手にするなんざ百年早ぇぞ…お前、もっかい鍛え直しな」


カミル「お前の後頭部、殴られた時に点穴針の切っ先で同時に切られてたんだぞ?」


アル「てんけつしん?あ、暗器か!そうだ、なんで俺の目の前にあった鏢が消え…あ、コンラートさんが?」


コン「おー。肝が冷えたぜ…」



どうも皆が静かだったのは、俺があんまりにも失血していてちょっとヤバかったのと、俺程度の経験値で器械武術使いに挑むなんてアタマがおかしくなったんじゃないかと思ったそうで…うう、すみません。


それをコンラートさんが一方的に「コテンパン」にしてくれたらしいんだけど、マリー姉ちゃんが「エレオノーラさんにやりすぎだってコッテリ叱られたくらいには『コテンパン』よぉ?よかったわねアル」と綺麗に笑うから超コワくなった。ちなみにフィーネも外に一人いた敵を「コテンパン」にして、一緒に叱られたらしい。


皆が部屋から出て、フラフラしながら着替えようとするとフィーネが止めた。要安静のケガ人がそんなことする必要はないよと、モフモフの毛布を俺に巻き付けてからヨアキムさんの翼を出して俺を掬い上げた。


そして、俺をじーっと見てから「…生きてて良かった」と一言つぶやく。手で優しく額を撫でてくれて、軽く唇を落として。俺がポーッとしてると、少し目を潤ませて「二度とこんな思いをさせないでおくれよ」と微笑んだ。


俺は、フィーネのこんな辛そうな笑顔を見たことがなかった。俺がこんな顔をさせたんだと思うと「ごめん…ごめんねフィーネ」としか言えなくて。申し訳なくて、自分の不甲斐なさに落ち込みそうだった。


でもフィーネは「元気になったら落とし前はつけてもらうさ!さて、どんなワガママを聞いてもらおうか?」とニヤリと笑い、俺の落ち込みを吹き飛ばした。ほんとに…フィーネには敵わないなあ。俺が笑って「何でもワガママ聞きます」と言ったら「言質は取ったよ?」と笑って、キャリアーを操作した。




*****





一階へ着くと、なんだか…人数が多いような。あれ?え?ここ、猫の庭だよね?


トビアスはヨアキムさんと「そっか…ここの構文がおかしかったのか!道理でうまく方陣が起動しないと思った…」とマギ言語についてガンガン話している。ヨアキムさんは熱心な生徒に満足気で、「なかなか優秀ですね、これはデボラが第一に推薦するわけですよ。アルは感覚派ですが、トビアスさんは理論派だ。ヘルゲさんとも話が合うでしょうねえ」と頷いている。


フォルカーはヘルゲさんと接続型複合方陣の性能や制約について話していて、その制約をぶっちぎるために俺に構文を作らせたり、クアトロ方陣の開発をしたと聞いて白目を剥いていた。でもヘルゲさんに「フォルカーはこんなに勉強熱心なのに自治の仕事をするのか?もったいない」と言われて「いや~俺、裏で手ぇ回すのもけっこう好きなんで」と照れていたり。


ロッホスは俺みたいに翼で寝転がりながらも必死に上半身を起こし、夢中になってニコル姉ちゃんやアロイス先生と話している。「雪風巻ゆきしまき、緑青でもすげえ話題だった!宝玉の無自覚ミックスって多いらしいけど、あんなすげえの紅玉以外では初めてだって。それに精霊魔法かあ…伝説級なんだよなあ…くそー、俺なんで気絶してたんだよ…精霊魔法って事象の直接変換するって話はホントっすか?どこまで研究されてる?」と、まるで山吹が乗り移ったみたいな知りたがりになっていた。


パウラはうっとりした顔でマリー姉ちゃんや双子の兄ちゃんやコンラートさんと話してる。「レアユニが二人に、双子の共鳴ユニーク…あああ、ここ天国よ…ハイデマリーさぁん、もう一回だけシャドウ見せてくらさぁい…」と、なんだか舌っ足らずになっている。マリー姉ちゃんはパウラが可愛くて仕方ないみたいで「いいわよお、もう一人の私とお話してみるぅ?」とクスクス笑っていた。





ポカンとその光景を眺めているとユッテ姉ちゃんとアルマ姉ちゃんが来て、俺を面白そうに覗き込んだ。



ユッテ「ぷっくっく…アル、口が開きっぱなしだし~」


アルマ「まあ、起きたらコレじゃビックリするかぁ」



俺はユッテ姉ちゃんに「ナニコレ?」と言い、アルマ姉ちゃんには「ナンデ?」と聞いた。そしてフィーネを見て「ドウイウコト?」と聞くと、三人は堪えきれずにお腹を抱えて笑い出した。いやいや、笑ってないで説明してクレ…


思わず情けない声で一番近くにいたトビアスに声を掛けてみました。



アル「…なんでトビアスたちがいるのお~?」


トビ「お、アルノルト起きたか。助けに来てくれてサンキュな。後頭部ケガしたんだろ、しばらくひっぱたくのは控えてやるからな」


パウラ「あっはー、アルも揺り籠で赤ちゃんみたい!ロッホスとお揃いじゃない!」


ロッホス「…うるせえよパウラ…」


フォル「よー、アル。ここ最高だな!お前なんで旅に出たんだ?ここから出る気になるなんてアホかよ」


パウラ「あ、フィーネさん!やっぱりねえ、ルカはラック・チェインっていう解釈でいいと思うな。あとはやっぱ双子ちゃんよね~。片鱗が見えるから、4人とも何かしらのユニークよ」


フィ「ほう!1歳そこそこでそんなことがわかるのかい?すごいねパウラは…」



フィーネは俺の揺り籠役をヨアキムさんへバトンタッチして、パウラと一緒にパティオの子供たちの方へ行ってしまった…



アル「…ヨアキムさん…翼出しちゃって…紅たちも普通に動いてて…トビアスたちもいて…なにこれ、いいの?」


ヨア「ええ、皆さんは今回の事件の黒幕が判明し、目途が付くまで猫の庭で保護することになったんですよ」


ロッホス「…俺、お前より早く目が覚めたけどよ…今でも何が何だかわかんねーよ。お前、とんでもないトコ出身だったんだな」


トビ「ほんとだよ…俺もヘルゲさんと話してて、自信なくなってきたぜ?紅玉があんなに頭いいとかどんだけだよ…」


フォル「俺はここの猫たちを見て自信失くしたってんだよ…」


アル「あ…あはは…まあ、その…ヘルゲさんとフィーネはデボラお母さんと一緒にマッドな開発チームって呼ばれてるから…仕方ないんじゃないのかなあ…」


ヘルゲ「なんだアル、冷たいじゃないか。まるでお前が開発チームじゃないような言い方だな?」


ヨア「そうですよー。皆さん、アルは開発チームの末っ子ですから。やはりマッドなんですよ?」


トビ「末っ子…そういやフォルカーと同じ末っ子だとか言ってたな。これのことか…」


フォル「…おれはヨアキムさんが開祖様ってのが、もうびっくりっすよ…じーさんに言ったらたぶん祭壇に祀られちゃうよ、ヨアキムさん」


ヨア「あはは、それは勘弁してほしいですねえ。でもフォルカーも私の子孫てことですもんね。緑青の自治なんてほっぽって、ここで開発して遊びませんか?」


フォル「うはー…楽しそう…」



…ポカーン…開祖様の件まで言っちゃったの?秘匿はドコ行ったの?ほんとにいいの、コレ…



ヘルゲ「アル、お前が寝ている間に中佐や母さんもここへ来てな。4人があんまり勉強熱心で優秀なんで、もうこいつらも取り込んでしまえと言い出した。開発一家は規模拡大だぞ。特にトビアスとロッホスは使える…これは一家どころじゃない、セクト発足だ…!」


アル「ヘルゲさん、笑顔が黒いよ…アロイス先生に見つかったらまた警戒レベル上がるってば…」


ヘルゲ「そうだな、最近あいつも容赦ないからな…まあ、そういう訳だ。これからイグナーツ氏と母さんに手を回してもらって、こいつらの内定先も変えようって言っててな。フォルカーは無理だが、トビアスはデボラ研究室とユニーク魔法研究室を兼任、パウラもユニーク魔法研究室、ロッホスは混成魔法研究室へブチ込む。くっくっく…魔法部の研究成果が使い放題だ…」


アル「だから、抑えてヘルゲさん…ていうか、パウラとロッホスまで中央に呼んじゃうんだ、すごいね…」


ヘルゲ「パウラはトビアスと一緒に中央へ行けて嬉しいと言ってたし、いいんじゃないのか?」


アル「…へ?あ!あー!もしかしてトビアスとパウラ…無事にくっついた…?」


ヘルゲ「おう、見てて面白いぞ。パウラがトビアスに触ると、トビアスが石になる」


アル「ぶっは!!そっか、よかったー!」



よかった…なんだかトビアスの誕生日がとんでもないことになっちゃったけど。それよりも、トビアスたちが本当の意味で隠し事の必要もない仲間になったっていうのがめちゃくちゃ嬉しい。それに魔法部で一緒にいられる!フォルカーだって、仲間だからいつでも通信機と移動魔法で会える!


俺が嬉しくてニヤニヤしていると、スゥっとヘルゲさんの背後からアロイス先生が近寄ってきた。



アロ「…藍から報告を受けました。開発極道一家改め、開発極道セクト発足だそうですね?ヘルゲ…ちょっと話そうか…」


ヘルゲ「…おう…」


ヨア「長男は辛いですね…」


ヘルゲ「お前、一番年上なんだから一緒に来い」


ヨア「残念ですが見た目年齢はヘルゲさんが上です。私が年齢相応の姿になったらホラーですからねえ」


アル「…そうだね…」



ドライアイスのような冷気を垂れ流したアロイス先生に連行され、ヘルゲさんはしぶしぶとお説教を受けに行った…








  


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