343 赤いハート sideフィーネ
フィ「アロイス!緊急出動要請!緑青でアルの友人三人が何者かに拉致された、アルは現場へ行ってマナを追っている」
アロ「 !? 出動許可するよ、通信機をグラオ・オープンチャンネルに。詳細は?」
フィ「アルが自動マッピングで友人を見た際に、急にレッドが出て三人を飲みこむように消えたようだ。第二研究所敷地内にあるフォルカーという友人の家で、自治体の実質トップであるイグナーツ氏へ協力要請できる状態。拉致現場はアルが座標をくれるだろう。詳しくは後で共鳴する。ぼくは第二でイグナーツ氏へ説明してくるが、アルと連絡も取りあう。出動可能な人員はこの座標のフォルカーの家へ集合で」
アロ「わかった。任務中以外の人員は情報共有、フィーネに従って緑青へ集合。ヨアキムは連絡があるまでスタンバイ頼む。紅、留守番と戻ってきた人へ説明を」
紅「はーい!」
アロイスが指示を次々と出している間に、ぼくは失礼ながらもフォルカーの家のリビングへダイレクトにゲートを開いた。思い切り眼前に移動魔法のゲートが開いたので、イグナーツ氏とフォルカーが目をひん剥いている。
フィ「…失礼します、緊急事態なので無礼をお許し願いたい。今日は白縹特殊部隊、ヴァイスの者として伺いました。状況のご説明をしても?」
イグ「…なるほど、わかった。アルノルトは血相を変えて、トビアスたちが攫われたと言って出て行ったんだ」
フィ「はい、その通りです。…イグナーツさん、フォルカー、話す前にお願いが。ぼくらの移動方法や通信技術…その他の特殊魔法については軍の秘匿レベル8以上となります。勝手を言って非常に申し訳ないのですが…事後、記憶に秘匿魔法をかけることになるでしょう。どうぞ、ご容赦を」
イグ「うむ、わかった。とにかく彼らが心配だ、どういうことなんだ」
フィ「まずはこの魔法をご覧ください。ぼくらの開発した自動マッピングという強力な索敵魔法の一種です。偶然だと思うのですが、アルはこれでトビアスたちを見ていたようなのですよ。通常、目的の人物はこのように緑の光点で示されますが、悪意のある者、つまり敵がいると赤い光点で示されるのです。アルは、トビアスたち三人が急に現れた赤い光点に飲まれるように消えてしまった、と言っています」
フォル「あ…それでか…!フィーネさん、今日俺たちはトビアスの誕生日でサプライズパーティーをする予定だったんだ。それで、ロッホスとパウラは帰り道にトビアスを攫って、目隠ししてここへ拉致してくるつもりだったんです。きっとアルは、様子が気になってその魔法で見てたんだ…」
フィ「…なるほど…あ、ちょっと失礼…!?…アル!…ひどいマナを感じているじゃないか。慣れていない者にはキツい、接続を切るんだ」
アル『これ…このマナ、感情はあんまり感じられないけど…気持ち悪い生き物ばっかりの気配がする…いま接続を切ったら、トビアスたちのマナを見失っちゃう。大丈夫だから』
フィ「いまフォルカーのお宅へぼくだけ先行で到着して説明しているところだ。いったん戻れ、アル」
アル『 … い や だ … ! 』
フィ「 …! 馬鹿者、素人が手に負える相手ではないよアル!この気配、十中八九タンランの呪術師だ。今までぼくが見たようなハンジンのなんちゃって呪術師ではない、本物なんだ!一瞬で三人を拉致して遁甲で連れ去った手腕、複数いるはずだ。戻れ!言うことを聞けないなら君の意識を刈り取ってでも連れ戻す!」
ぼくの剣幕が相当だったのか、フォルカーは真っ青な顔でこちらを見ている。だが、イグナーツ氏はさすが年の功…どっしりと様子を見る構えだ。
アロイスがオープンチャンネルで話している声も重なって少し聞こえてくる…『コンラートとニコルと僕が行く。ダイレクトに行くからねフィーネ』と言っているが、ぼくはアルと話していて返事ができないこともわかっているようだ。アルを宥めてこちらへ戻っておいでと言っていると、アロイスたちがゲートを開けて一礼しながら入ってきた。
その時、だ。
アル『うん…わかっ…ぐふ!』
フィ「…アル?アル!?」
通信が途切れ、アルに何度発信してもつながらない…!
フィ「…アロイス、アルも拉致されたかもしれない…通信先がアンノウン、マッピングも無反応…くそ!」
アロ「落ち着いて、フィーネ。アルノルトの言ってた座標確認を…コンラート、頼む。全員フィーネへ共鳴、情報共有して。…イグナーツさん、ですね。僕はヴァイス灰猫チームのリーダー、アロイスです。ご協力感謝します」
イグ「かまわん、アルノルトとフィーネはワシの親族だ。遠慮するな、仕事をしてくれ。何かあれば動こう」
コンラートは緑青の地図からアルの言った地点割り出しをしている。アル…あの時点で共鳴しておけばよかった、こんなに気配を遮断されては正確な位置がアルしかわからない…!
拉致地点から西北西へ約5㎞…半径100mに絞っても建物が多すぎる。西部地区の魔法実験場が多い場所だ。
ニコル「アロイス兄さん、このマーカー近辺を精霊で探してもらうから」
アロ「ん、頼むね」
ニコルはぶわ!っと莫大なマナを練る。フォルカーは「うわ!」と言って口を開けたまま固まった。ニコルがおかまいなしに願いを伝えると、ふわりと精霊は飛び立っていく。彼女はアルのエマージェンシーを聞いて、スザクをナディヤに預けてまでここへ来てくれたようだ…非常にありがたい。アロイスはイグナーツさんとフォルカーへ話を聞いているので、ぼくも何か情報がないかと参加した。
アロ「…トビアスという子が狙われるような要素や特徴は何かあると思いますか?」
フォル「俺には何も心当たりなんて…あいつの特徴って言ったら、頭が良くて…エイスとエプタを兼任してて…」
フィ「エイスとエプタ…私塾の名前だったね。ん?エイス…アルは第一でトビアスと出会ったんだ。ということは、トビアスもマギ言語を扱えるのかい」
フォル「うん、あいつはマギ言語の高等講座でアルと会ったって言ってたよ」
フィ「…アロイス。半年前の第三…裏マツリの件はその後どうなっているか知ってるかい?確かエルメンヒルトの他にも潜在的な危険思想がないか黒に内偵させると言ってたが」
アロ「…! エレオノーラさんに確認する」
フィ「イグナーツさん、半年前の第三研究所心理魔法研究室第9班の件…覚えていらっしゃいますか?」
イグ「もちろんだ、軍の上層部経由で経緯を聞いた。ワシがクロヴァーラの当主と話してな…もしやアレを処理したのはフィーネか?」
フィ「ぼくは犯人の身辺調査が主でしたが…ぼくら灰猫チームで処理しました。あそこのコンラートと他二名が実際に9班への潜入をしています」
イグ「そうか…その件と何か繋がっているのか?」
フィ「すみません、今はぼくの勘ですが。第三はその後、どのような状況なので?」
イグ「研究内容の根拠洗い出しと、研究対象魔法の内容を全て当主自らチェックした。ワシへも報告が来ているが、あの件のように不正に魔法作成を請け負ったケースは9班以外にはない。その後、研究内容は新設された監査班によって見張られている」
フィ「なるほど…ガードが固くなった研究所へはもう作成依頼ができない、か」
アロ「フィーネ、エレオノーラさんに聞いたよ。黒の内偵は現状ほぼ完了しているんだけど…どうしても内情の知れない人物が数人いて、エルメンヒルトとも接触があった人たちだから別の調査方法を検討中なんだそうだ。中枢でも中堅以上、昔からガードの固い人物ばかりらしい。いま、ヨアキムに頼んで一応『調査』してもらってる」
アロイスはヨアキムに頼んでマザーの情報を見てもらうところまでやってくれたらしい。これでぼくの勘が当たっていたら。ヘタを打ってアルの能力が敵に知れたら。
ターゲットは、トビアスからアルに変わる…!
ぼくに共鳴して考えを共有していたアロイスは「なるほど…」と呟いて思考を巡らせ始めた。そこで、ニコルから待望の情報がもたらされる。
ニコル「…!ここ!何か赤い風船が…なんだろ、風魔法で真っ直ぐ浮いてる」
ニコルが地図上で示した場所は、先ほどのマーカー範囲内…撤去途中の魔法実験場だった。「なんかこの風船カワイイ…?ハート型かも、違うのかな…」とニコルが言うと、フォルカーが弾かれたように立ち上がった。
フォル「それ!そこだ!アルが今日の為に作ったマナ・クラッカー!」
フォルカーは人のいない方へ向けてクラッカーを起動。すると…鮮やかなピンクと赤のハート型の風船みたいなものが出てきた。
アロ「 …! ニコル、ここで連絡係を頼む。フィーネ、コンラート!オープンコンバット!透明化し、必要なら接続先を変えてフレキシブルに。GO!」
ぼくらはすぐに透明化し、各々ゲートへ飛び込む。
座標はもちろん、赤いハートのある地点だった。