340 サプライズは念入りに sideアルノルト
フィーネが俺を甘やかしてくれたので、週明けには俺の機嫌はすっかり元通りだった。フィーネが言うには「強制甘やかしマツリだろう…!」ということだったけど、それでも俺のわがままを聞いてくれちゃうんだもんな~、フィーネってば可愛い~。
トビアスたちはすっかり「フィー」の方陣に夢中だったらしくて、講義の前後で角突き合わせてあーでもないこーでもないと言っていた。
トビ「なあ、お前はコレわかるのかよ?」
アル「えっとー…俺、それに似た接続方陣はフィーネによく見せてもらってるし。俺がマギ言語構文組んで、性能上げる手伝いもしたから…うん、わかるよ」
フォル「くっそ、アル羨ましい~!ぜってぇ解明してやる!…でもさアル、ちょーっとココの接続先をさあ…」
アル「ズルっこしたらフィーネに言い付けるよ?」
フォル「くそおおおお!どっから手を付けりゃいいんだ!」
パウラ「ねえアル、じゃあヒントだけ!ね?」
アル「うー…そだな…『この方陣はある女の子を守るためにフィーネが作りました』これでどう?」
トビ「守る…守るか…あ、そっか!『扉を開ける』動作と『索敵』が連動してんのか!?マジか!てことはココの紐は…」
パウラ「トビアスわかったの!?ちょ、説明してよお!」
トビ「ばっかやろ、これは勝負じゃねえか。教えねえよ」
パウラ「ケチぃ!」
トビアスとパウラがイチャイチャしている(ように俺には見えます)と、フォルカーがちょいちょいと俺を呼んだ。
フォル「あのさ、来週の半ばがトビアスの誕生日なんだよ。んで、俺とロッホスとパウラでサプライズパーティーしようぜって準備してっからさ、お前も協力しろよ」
アル「うっは、いいねえ!何やんの?」
フォル「そだな…トビアスの拉致はロッホスとパウラにやらせて、俺ん家に引き摺ってこさせるからさ。お前、なんかクラッカー的なモン作れねえ?本物のクラッカー鳴らして散らかすと俺がじーさんにヌッ殺されるから、『マナ花火』あるだろ、アレのクラッカー版みたいな」
アル「おー、まっかせて。どんなんがいいかなー、星が散ったり花が散ったりでいい?」
フォル「いや…ハートだ」
アル「へ?」
フォル「ハートを散らせ、どピンクと赤で!ロッホスには言ってあるけど、これを機にアイツらいい加減にくっつける!お前知らないかもしんねえけど、あの二人は5年以上両想いなのにくっつかねえんだ。もー俺はやってらんねえし見てらんねえ!」
フォルカーは親指でグイっとトビアスとパウラを指さして、苦々しい顔をした…なんだかニコル姉ちゃんたちに聞いたコンラートさんとナディヤ姉ちゃんみたいな二人だったんだなー。でも、あと三か月で卒舎だ。トビアスは魔法部で中央に行くし、パウラは緑青の第七だもんね。自然に会わなくなっちゃうのはモッタイナイ!
アル「了解…!ハートで埋め尽くしちゃる!」
俺とフォルカーはがしっと手を組み、極秘マツリの「二人をくっつけろミッション」が始まった。見ててくださいマリー姉ちゃん、俺はがんばるよ…!
*****
マナ花火は、白縹の村でも子供が遊ぶ安全な花火だ。小さい魔石が棒の先についていて、マナを流すと小さな光球が空へ上がる。ポン!とマナの花が咲いて、ほんとの花火みたいに散るからキレイなんだ。でも市販のマナ花火は夜空にボーン!と打ち上げるものばっかりで、屋内なんかでやったら下手すると天井に穴が開いちゃう。
というわけで、射出距離は1~2m、軽く破裂したら風船みたいな赤とピンクのハートが乱舞!大小合わせて百個以上のハートで二人を埋めてやりましょうぞ!
お母さんの家でヒッヒッヒと魔女みたいな独り笑いをしながらせっせと構文を作る俺は、いま相当フィーネに似てると思います。
第六のエクスでロッホスに「結界で二人を囲ってさあ、その中にハート風船ぎゅうぎゅう詰めにして、強制的に近寄らせちゃうのってどう?」と言ったら「お前えげつねぇ」と言われました。「失礼な、キューピッドと呼んでくださいよ」と返したらドン引きされた。ノって来いよロッホス~!
ある日、トビアスと二人で第一のエイスの講義を聞いた後に自習室を借りて、お互い勝手にいろんな思索にふけっていた。ハート風船の質感にこだわったり、色にこだわったりと頭の中で熱中している俺。いまだにフィーの方陣解明にウンウン唸っているトビアス。しゃべったりしなくても、なんとなく一緒にいて勝手に没頭できる心地よさがお互いにあるんだよね。
でも珍しくトビアスが、ふっと思い出したように話し出した。
「…なんか俺さあ、最近誰かに尾行されてるような気がすんだよ」
「(ドキーン!)なんで?(パウラあたりが尾行と拉致の練習でもしてんの!?)」
「いや…俺もたまにマナの声が聞こえるって言ったろ?あれでさ、なんか…ちょっとイヤな感じの雰囲気がするんだよな。それがここ一週間くらいたまにあって気持ちわりーんだ」
「(気持ち悪いってことはロッホスか??)ふーん、でも何もされてないんだ?だから気持ち悪いの?」
「んー…まあ気のせいかもしんねえ。こんな風に感じるの初めてだし、俺もよくわかんねーから何となく言ってみた」
「そうなんだ?俺は特に何も感じないけど…あ、もしかしてトビアスに話しかけたい女の子が遠くから見つめてるとか~」
「アァ!?アホかお前…そんなんあるわけねえだろ」
「へ?そうなんだ?トビアスもさあ~、もうちょっとだけ愛想よくすればモテそうなのに…いつもそんな仏頂面じゃ女の子に怖がられちゃうよ?」
「知るか、ンなもんどうでもいい。知らないやつが俺を怖がったって関係ないだろ」
「ちぇー、パウラにも怖がられたらどーすんだよ」
「…あいつは怖がらねえだろ」
「ヒュゥ~!」
バシーン!
「お前に相談した俺がバカだった…黙れアホノルト!」
「うおお…久々の手首強化ユニ攻撃…」
もー、恥ずかしくなると叩くクセやめろよトビアス…!つーかロッホスもパウラも何やってんのかなあ、トビアスに尾行を気付かれてるよ?注意して…って言っても、サプライズパーティはもう明日だし。まあいいか~。
フォルカーの家で晩ごはんとケーキを用意してくれるみたいだから、俺も楽しみなんだよね!そういえばアロイス先生とナディヤ姉ちゃんの「屍の宴」も随分出てないな…旅に出ちゃってるから、俺ってば何回食べるチャンスを逃してるんだろ。今度ちょっと甘えてお弁当お願いしちゃおっかな~。
まあ、明日は俺もフォルカーの家に先回りしてクラッカー仕掛けて…そうだ、トビアスを拉致ってからフォルカーの家に来るまで自動マッピングで見ておこう。ベストタイミングでハートを発射しないとね!
トビアスと別れて、家に戻った俺はホクホクしながら出来上がった「マナ・クラッカー」のついた棒を3本見てご満悦です。しかしソコでふっと我に返り…
アレ?この棒持って、男三人で赤やピンクのハート風船を発射するのってちょっと恥ずかしくない?それに金糸雀童話集で見た「魔法棒使いのクリンちゃん」が魔法ステッキからナニカを出す時の挿絵みたいじゃない?
ぞわぁ!!
ダメだ、もう軌道修正はきかない!もう明日なんだから諦めろ、俺…!