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34 仮病軍人の悩み sideヘルゲ

軍に配属された最初の一か月間は、面白いように上官や世話係の兵士が狼狽え、焦っていた。

何しろ話題の「紅玉」がここまで使い物にならないのだから。



白縹出身の軍人は、軍の中でもヴァイスと呼ばれる特殊部隊扱いだ。

一概に白縹と言っても、得意不得意はもちろんある。

が、瞳による魔法増幅効果のため全ての魔法効果が他の一族より強力で、使いどころが難しいらしい。

そこでヴァイスが設立され、作戦に沿った能力の者が派遣されるようになった。

厳密にはまったく意味合いが違うが、雰囲気としては傭兵に近いので皆よそよそしい。


そんなヴァイスにあって、さらに紅玉というので皆の興味が集中するのはわかっていた。

アロイスと入念に打ち合わせし、ひとまずされるがままに髪を切られたり、蘇芳の上官からの脅しも兼ねた「俺様の言うことには絶対服従」という意味合いのありがたい訓示もおとなしく聞き流す。


対人コミュニケーション1(対外用)も改造済で軍人仕様になっており、最低限の報告等はできる程度にスキルを上げておいた。

もっとも、アロイスが軍人の会話集(マザーの軍事情報より抜粋)を聞いていたら「ねえ、これって”イエス・サー”と”ノー・サー”が言えれば合格っぽくないか?」と呆れていたが。



まあ、それはいいとして。

俺は計画どおり、半月もしないうちに「制御不能」になりはじめた。

反抗的なところはみじんも出さず、ただ魔法出力の調整ができなくなる。

特殊訓練場で大規模魔法のテストを要請されれば、一度目はカスみたいな炎しか出せずに終わる。

再度やれと言われれば、オリジナル・・・・・のマギ言語で組んだ火魔法を極大出力で暴発させて、俺も多少のケガを負う。


もちろん、中枢のマギ言語使いがたまたま・・・・見学していた日にオリジナルマギ言語を使った。でもそいつはこの火魔法が、使い手にも多少のケガを負わせるまでがプログラムされていたことまでは見抜けなかったし、そもそも自分がこの日にヴァイスの紅玉を「視察に来ることにさせられた」経緯も見抜けなかった。


その後は俺の得意技だ。ダイレクトリンク時代に散々やった手だからな。

並列思考の一つに疑似人格をプログラミング。こいつだけをスタンドアローン状態にして、マザーとの連絡通路に直結させておいてある。

今回の疑似人格は「他人に興味のない無口なヘルゲ」改め「繊細で無気力なヘルゲ」だ。

こいつをマザーが精査することで、俺は簡単に「疾患」の判定を得られる。


まあ、内側から見てる分にはおもしろい見世物だったな。

俺を「管理不行き届き」で壊した上官と世話係は盛大に冷や汗を流しながら、マザーに俺を毎日診断させたり、ヴァイスにいるセイバーにダイブさせようとしていた。

ちなみにセイバーは疑似人格の中身を診ただけで、「俺そのもの」は発見できずにダイブアウトした。その後の報告書には「極端なストレスで無気力になっている」という至極まっとうな内容だった。優秀なセイバーだな。

アロイスからの勧めで、繊細で無気力ながら、軍人仕様の俺は「心から申し訳ないという態度と言葉」も入力してある。

わざとやっているのではない、と思わせるように上官と世話係に何度も謝罪していたおかげで、そんなに恨まれずに済んだようだ。

やはりアロイスはすごいな。



そして割と早い段階で、マザーの診断は「白縹のマザーにて調整要」と出た。目論見通りだ。

俺とダイレクトリンクし、俺に関するデータが完全に揃っているのはあそこしかないからな。


このようにして、俺は白縹へ戻ってきた。



*****



今日もマザーを介して、あの日俺を視察に来ていたマギ言語使いのデボラが熱心に話してくる。デボラは緑青出身の才媛らしいが、この興奮しやすい気質は何とかならないものか…



「で?それで?ここのセンテンスに関しての君の意見はどうまとまった?」


「…デボラ教授、何度も言いますが自分の場合マギ言語など知らずに偶然”炎獄”の方陣を組んでしまったんです。そしてあれは暴発するような不良品です」


「何を言ってるんだヘルゲ!あの”炎獄”はセンテンスをうまくループさせて、君たち白縹の瞳のような『疑似反射増幅効果』を実現させているんだ!出力調整と範囲調整に難ありとはいえ、これを研究せずして何がマギ言語使いかって話だよ」


「…ですから、あれは切羽詰まって偶然出たものなので。自分にはマギ言語などわかりません。瞳での反射がうまく調整できないことにパニックになり、偶然できた不良品の魔法なのですから」


「ならば、私が中枢に掛け合おうじゃないか。許可が出て君がマギ言語を学ぶことができたら、その時は改良に協力してくれるね?偶然できた魔法とはいえ、あの構成は美しいの一言に尽きる。君には魔法構成の才能があるんだよ!」


「…そこまでおっしゃっていただけるのでしたら、自分でよろしければ協力させていただきますが…結果を出せるとは、とてもお約束できません」


「ああ、もちろんそれでいいよ!よし、さっそく中枢に掛け合う準備をするとしよう!ではまた数日したら連絡するよ!」



もう何度目の通信になるだろう。

マギ言語使いを「捕獲」するための罠がうまくハマりすぎ、”炎獄”を改良しようと興奮されてしまっているのだ。

あの程度の火魔法なら、本当は俺が身一つで出力できる。

本来はわざわざマギ言語で方陣など作る必要もなかったのだが、白縹以外の部族がアレを安全に運用できれば、そりゃ魔法の革命と言えるよな。


あのループ部分を公開しても俺は全然かまわない。なぜなら意図的に欠陥品にしてあるからだ。あの部分をどうやって他のセンテンスに接続しようとも、どこかしらに負荷がかかる。俺はこの負荷を「自分の身にケガをさせる」ことで逃がしたからこそ発動条件を満たしたのだから。


何にしても、デボラ教授が食いついてくれたのは良かった。

これからあの欠陥魔法について、延々と研究してくれれば貴重な時間が稼げる。


しかし…俺はあのハイテンションな教授とこれから角突き合わせて研究せねばならんのか…こっちの方が俺には強いストレスがかかりそうだ…




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