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Three Gem - 結晶の景色 -  作者: 赤月はる
未来へ続く虹
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337 Jack in the box  sideアルノルト

  






数か月ぶりに戻ってきた緑青の街は、レジエ山脈にほど近いためかとても寒かった。金糸雀の里が割と温暖だったので、この冷たい山風がけっこう辛い!肩をすくませてマフラーに顔を埋めながら、そしてこの寒さでも平気で考え事に没頭している研究熱病者を避けながら歩く。



久しぶりの第一研究所だ。詰所に近づくと、門衛さんが「おお、アルノルトさん!お帰りなさい!」なんて笑顔で出迎えてくれて、寒さで縮こまっていた背中が思わず緩む。「ただいまです、またお世話になりまーす!」と言ってマナ固有紋で入場のチェックをした。


ひとまずお母さんの家へ入って荷物を置き、研究所へ入って行く。ケージに乗って4A区画へ行き、お母さんに倣ってダンダン!とドアを強めにノック。ん~、いつも通り返事はないね!「おじゃましまーっす!ゲラルトさーん?」と言ってズカズカと所長室へ入ると、奥の端末でトロリと流れる蜂蜜の映像をうっとり見つめる姿を発見。うあー…蜂蜜トロトロ映像、また手に入れたんだ…お母さんに叱られるよ?


前回滞在していた間に編み出した、ゲラルトさんを夢の国から呼び戻す魔法の言葉を発射!



「はちみつ大好きな人いませんかー!?」


「誰か私を呼んだかね?…おおお、アル君!待っていたよー、デボラからこちらに来るとは聞いていたが今日だったか!で、蜂蜜の何が知りたい?」


「ううん、俺はもう知ってるからいいや!それよりゲラルトさん、また今日からお世話になります。二か月間ここで勉強させてもらいますね」


「おお、いくらでも滞在するといいさ。アル君がいないと淋しくてねぇ、思わず蜂蜜の摂取量が増えてしまったよ。どうだい、今晩久しぶりに食事でもしようか」


「ううん、俺はもうその食事も食べたことあるからいいや!それよりゲラルトさん、デボラお母さんから聞いたと思うんだけど、俺魔法部に入ったら結婚するんだ。今度お嫁さんを連れて来るから会ってくれる?」


「おおお、そうだよそれそれ!聞いたよ、おめでとう!この家の跡継ぎだのってめんどうな話にならないように、アスピヴァーラの当主イグナーツとも話は済んでるから安心していいよ。血筋だけならどの家にだってケスキサーリの傍流はいるから、継がせちゃうしね。あ、でもアル君がここを継ぎたいなら言ってね、私は大歓迎だから!そっかあ、結婚かあ。私もデボラの母親とは大恋愛で結ばれてね…あの子が高等学舎の時に病で死んでしまったが、とても気性の荒い…じゃなくて気立てのいい人だったんだ。そうだ、彼女と結婚した時に振る舞った蜂蜜料理をアル君の結婚式でも出そうね!」


「ううん、結婚パーティーは白縹でやると思うから蜂蜜料理はいいや!でもちゃんと緑青の分体へ入籍しに来るし、お嫁さんにも会ってもらいたいからその時は俺が何か料理を注文するね。でもゲラルトさん、結婚式で蜂蜜料理を振る舞ったの…?みんなの反応はどうだった?」


「あー…なぜかあまり評判は良くなかったね…嫁に鳩尾を抉るようなコークスクリューパンチをもらった初めての記念日になったよ…」


「…そっか…デボラお母さんのルーツはそこだったか…それに結婚記念日はコークスクリュー記念日なんだね…」



二人でなんとなく、お母さんのあんなパンチやこんなパンチを思い出してしんみりしてしまった。お昼休みは大抵トロトロ映像を見ながら甘い料理を食べているゲラルトさんだけど、癒しの時間にイタいことを思い出させちゃったかな。


俺は聴講手続きがあるからって言って所長室を出て、お母さんの家へ戻った。案内センター経由で第三以外の私塾全部に聴講手続きを取る。今回の二か月は有料だけど、お母さんもアロイス先生も「絶対遠慮などせずに勉強しまくってこい」と言ってくれたので甘えることに。授業スケジュールを確認し、面白そうな授業には片っ端から申し込みをしてやりました!がんばるぞー!





*****





さすがに到着した日に受講はできなくて、午後はリア先生の課題を進めていた。なんか一人でやっているせいか、自分がどれだけ先に進んでるのかあまりわかってなかったんだけど…最近リア先生の課題はあからさまに「これ高等学舎の授業じゃないッスよね?」と言いたくなるものが混ざってる。


お腹が大きくなって立ちっぱなしの授業で少し具合が悪くなり、リア先生は学舎を休んでいてヒマみたいなんだよね…そしてそのヒマを全て俺の課題作りに費やしていませんか?って感じになってまして。


あ、ホラあったよ…ねえ、これ古文書の解読作業だと思うんですよリア先生。絶対自分の持ってるお宝本から出題してるでしょう。…うあ、これリア先生とオスカーさんが結婚した時にお母さんがあげてた『シュルヴェステル・J・ケスキサーリ伝』じゃないかあああ!1105年編纂て書いてありますよ、六百年前の由緒正しい古文書ですよ…ッ!


そりゃね、この第一で勉強する以上ベストマッチな本だよ。第一はマギ言語と緑青の歴史が専門だからね!それにリア先生のドヤ顔だって目に浮かびますよ。どうせ「私ってばなんて良いチョイスしてるのかしら!」とか言ってるんでしょう。


でも俺は言わせてもらう。



六百年前の古文書で勉強する高等三年生はいない。



もおおおお、どっから手を付けよう…ッ





*****





俺が古語で四苦八苦していると、案内用端末がポーンと軽やかな音を出した。外はすっかり暗くなっていてビックリしたけど、時間は6時…端末に触ると門衛さんからだった。

「アルノルトさんにお客様がお見えです」

「え?わかりました、すぐ行きまーす」

誰だろ?第一に入れない人ってことだよね。コートを着て、ダッシュで正門へ向かい…門衛さんと一緒にいたのは。



アル「…! トビアス!フォルカー!パウラ!ロッホス!」


門衛「アルノルトさんのお友達ですね。確認しました、ゲスト登録しましたのでどうぞ」



4人は入ってくると、小走りにやってきて全員がどーん!と体当たりしてきた。



トビ「お前今日着いたのか?聴講生リストへ急にお前の名前が出てたから、驚いて全員で確かめに来ちまったんだよ!」


パウラ「久しぶり、アル~!今度はどれくらいいられるの?」


アル「あは、それでわかったのか!そうだよ今日着いた!今回も二か月いる予定だよ!」


フォル「お前ほんっとビックリ箱な!俺、一応まだ皆には言ってないけどよ…じーさんから聞いたぞ、魔法部に入ったらすぐ…云々って話。後でこいつらにも話してやれよ」


アル「うん、そのつもりだったよ。フォルカーはさすがに知ってるとは思ってた。そうだ、それよりロッホス!すっごいじゃんか、聞いたよエクスに引き抜きだって!?」


ロッホス「おー。やってやったぜと言ってやりたいけどよ…偶然みたいなもんだからな」


アル「うおお…ロッホスが謙遜してるう…」


トビ「こいつ照れてやがんだよ。急にロッホスが勉強するようになったあたりで、お前がここを発つ間際に『ロッホスはやればできる子だからね』とか言いやがったじゃん?あれが学舎で大流行りしてさんざんからかわれてよ。おかげで忍耐力がつくわ勉強に集中することでからかう奴等を無視するわで、成績急上昇。一応お前のおかげだと思ってんだよ」


ロッホス「…トビアス、お前ひでえぞ。そこまで余すトコなくバラすか、普通?」



五人で歩きながらお母さんの家へ入り、あったかい飲み物を淹れた。みんな急にここへ来ることにしたもんだから、晩ごはんは家で食べるし少しだけで帰るつもりらしい。じゃあ、とりあえずこの話しないとね。



アル「あのさ、俺ねえ、魔法部に入ったらすぐ結婚しますー」



フォルカー以外の三人はブーッと吹き出した後、虚を突かれた顔で「なんだって?」と聞き返してきた。



アル「あはは、片想いしてるってのは前に言ったじゃん?念願かなって結婚できることになったんだー」


トビ「…なんか、すーっげえ色々すっ飛ばしてる気がするけど…おめでとう…?」


パウラ「ひゃあ~、片想いから一気に結婚て…おめでとう!アルってばすっごー。ねえねえ、お嫁さんになる子ってどんな子?」


アル「超かわいい!超あたまいい!超おとこまえ!とにかく最高!」



俺が拳を握りしめて力説すると、パウラが「男前…?ナニソレ…」と首を傾げた。うーん、フィーネの良さは一言じゃ言い表せません…



ロッホス「…お前って…フォルカーがビックリ箱って言うの、よくわかるわ…まあ、おめでとう…」


フォル「だろ?俺だってじーさんから聞いた瞬間に飲んでた茶ぁ全部噴き出してめっちゃ叱られたってんだよ。うちのじーさん、大爆笑してたぜ?ゲラルトさんが浮かれまくってて、孫に嫁が来るって小躍りしてたってよ」


アル「あははー、フォルカーとは親戚だねってデボラお母さんとも話してたんだ!今度お嫁さん連れてきてちゃんと紹介するよ。フィーネって言って、フォルカーのお父さんの研究室と軍部を兼任してるんだ」



今度はフォルカーも一緒になって、全員がブーッと吹きだした。…え?今の話のどこに噴き出す要素があった??



パウラ「…ま…まさかフィーネ・白縹…方陣研究家の?」


アル「うん。パウラよく知ってるね?会ったことあるんだ?」


フォル「おま…マジか、その認識、マジか?」


アル「へ?」


ロッホス「…お前、すげえな。なんでこんな天然のアホが、こんなに成績いいんだ?」


アル「な…なんなんだよー?」


トビ「みんな、落ち着け。こいつはこういう奴だった。だから説明してやるぞ、アルノルト。フィーネ・白縹は超がつく有名人だ。ロッホスのいる第六は混成魔法専門で、紅玉の山津波発案者のフィーネ・白縹はそこでも有名人!さらにフォルカーが行く第二は方陣研鑽が得意分野だしフォルカーの親父は方陣研究室の室長。その両方でフィーネ・白縹は緑青でもないのにすごい実績があるんだよ!お前パピィ知らないのか!?あれの開発者だぞ!?」


アル「え?あ、あぁ~!なるほどね、パピィの件か!」



そういやそうだった!販売に関しては名前を表に出さないけど、方陣研究室のお墨付きといいつつフィーネが開発したっていうのは魔法部じゃがっつり知られてるもんねえ…


つってもさあ、猫の庭ではパピィの性能なんて軽く上回る猫さんたちが毎日元気に働いてるし…ヘルゲさんがかなり性能アップに貢献したって話だし…俺も改造するのにマギ言語で構文作ったし…


あー、でもそっか、そういう認識なわけね、緑青では…



俺がちょっとビックリしてから納得すると、四人ともハアァァ…と深いため息をついてから「うん、これぞアルノルトだ。みんな、そろそろ帰ろうぜ」と言って帰って行った。


…うう、なんだか「これぞアホノルトだ」ってマナから聞こえて、けっこう心が痛いんですけど?数か月ぶりに会った友達に酷い仕打ちじゃないですかトビアスぅぅぅ…






  

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