32 少女の悩み sideニコル
今日の修練は、なんだか体が重く感じる…
ダイブで体が重いってことは、心が重いってことよね。
今日は片付けをちょっと中断して、おじいちゃんに会いに行っちゃおうかな。
うん、そうしよう。
草原を、一直線に大木に向かって走る。
すごく遠くに見えてるおじいちゃんの木だけど、おじいちゃんに会いたいと思って走れば、すぐに着く。
「おじーちゃん!来たよ~」
(うん、ニコル。よく来たねえ)
「今日ねぇ、ちょっと心が重くて。片付けさぼってきちゃった」
(そうかい、重いかね)
「理由はなんとなくわかるんだけどね、きっと認めたくないのかも」
(ニコルには、わかるかい。じじに教えてくれるかい)
「うーん…やっぱりねえ、ヘルゲ兄さんだと思うの」
(どうしたね)
「ずっと何か隠してて、何か困ったことになっていそうな感じがするの。でもアロイス兄さんもヘルゲ兄さんも、私には隠してて、絶対教えてくれない。私にだけは教えないって感じがして…それがすごく悲しくて認めたくない…」
(…昏い火は、困ってるかね)
「たぶん…煮詰まってる?今まではアロイス兄さんと相談して乗り越えてた気がするんだけど。二人でも解決できないのかも。ねえ、私に何かできないのかなあ?私じゃ力にはなれないのかなあ?」
(時がくればわかるだろうよ)
「むう…おじいちゃんがそういう言い方する時って、後で何か起こるんだよねぇ~」
(そうかもしれないねえ。だがニコル、待つのも立派な『力』となるよ)
「も~、ずっと待ってるってば…じゃあ、話変わるんだけどね。私、また昨日『収束』失敗しちゃったの…何で私、こんなにヘタなのかなあ」
(愛し子、ニコル、よくお聞き。お前の真価はそこにはない。用意された母の轍に舵を取られるでない。お前の舵はお前が切れ。輝る水ならいつかわかるじゃろ)
「…また謎文章かあ…私の修練が足りないから、わからないの?それとも単に私がおバカなの??」
(時がくれば、わかるだろうよ、大丈夫。さあ、もう終わりの時ではないのかい?)
「あ!ほんとだ…またね、おじいちゃん」
(はいよ、気を付けてお行き)
ニコルの「光」は、ニコルの心をほとんどカバーするほどの大きさへと育っている。あまねく光り、ヘルゲの曳いた航跡を照らし、行き渡る。
深淵の片隅で、滑らかな三角形を輝かせながら、彼の愛し子を見送る。
*****
修練の後、すぐに私はアロイス「先生」に話しかけた。
「アロイス先生、”木”に”小鳥”がいる光景を見ました」
「…そうなんだ、それはよかった。修練も順調のようだね。その光景が”吉兆”だといいよねえ」
「はい、私もそうだといいなと思います」
今のは、簡単な暗号なの。
アロイス兄さんに「おじいちゃんに会ったので、その話がしたい」って伝えて、「いいよ」って返事。
この言い方をする時って、私がおじいちゃんに謎文章をもらったけど意味がわからなくて助けてーっていう時。
私がおじいちゃんのことを実在するって「言い張った」話は、同期のみんなが知ってるから詮索されないように暗号で話してるの。もう、うそつきって言われたくないもんね。
後で紙に書いて、アロイス兄さんに渡しに行こうっと。そしたらお昼に森で見解を聞けるかも。それにしても…今回の謎文章、ムズかしかったな~…