318 兄の禁書と姉の衣裳 sideアルノルト
アル「たっだいまあ~!」
全「おけーりぃ~!」
もうすっかり慣れた俺の帰還に、皆は一階で待ち構えてくれるようになっていた。いつもみたいに皆に挨拶し、ちびっ子たちの所へ行って挨拶し、感謝を込めてルカをむぎゅっと抱き締める。そしていつも通り「落っこちないようにがんばってますよ!」とルカに言うと「あるー、おかえぃ~」と笑顔で返してくれた。くぅ~、かわいいなールカ!
さーてフィーネを抱っこしに…と歩いて行こうとするとガシィ!とユッテ姉ちゃんたちに止められた。
ユッテ「フィーネ姉とラブい感じになる前にさあ…」
アルマ「そうそう。私たちからアルにお祝いの気持ちよぉ…」
ニコル「ほんと、すっごく頑張ったねアル~!えらいよ!もう私たち、モダモダだよ!最高だよ!」
アル「…な、何?姉ちゃんたち…藻だ藻だって何?」
俺はコロリと小さな魔石と何かの布が入っているみたいな袋を貰った。「絶対一人で見るんだよ!」と三人に囁かれ、よくわかんないけど「ありがとう…?」とお礼を言っておいた。
改めて「ただいまフィーネぇ!」と抱っこしようとしたら「晒し者、ダメ、絶対!」と華麗なサイドステップで回避された…ひ、ひどい…いつも抱っこはしてたじゃん…今さらだよ…
しょぼんとしているとオスカーさんとヨアキムさんが「ま、女の子は難しいって思っておけばいいよ、アル…」と慰めてくれた。何だかマリー姉ちゃんを師匠と仰ぐ者同士、オスカーさんにシンパシーを感じる今日この頃です…
そうだそうだ、大事なことを報告してヘルゲさんを安心させてあげなきゃね!
アル「ヘルゲさーん!こないだの簡易グローブありがとう!ほんとにすっごく役に立ったんだあ!急に頼んだのにスグ作ってくれたからさ、おかげでもの凄い映像が見れちゃった!」
ヘルゲ「お、そうか。あれくらいどうってことないぞ、いつでも言え」
アル「あはは、うん、頼りにしてます!あ、それでねえ。俺この前、金糸雀の童話集を作ってる人たちに会ったんだ。それで『こうぎょくのだいぼ』ウモガガ!」
ヘルゲさんはユッテ姉ちゃんにでも接続したのか、疾風の如き速さで俺の口を塞いでから体を抱えて引き摺り、パティオの裏手へ回り込む。そして至近距離で紅い瞳に何か得体の知れないフラストレーションを揺らめかせてドスの効いた声を出した。
ヘルゲ「アル…あの禁書を見たんだな?記憶緊縛レベル10を掛けていいか…?」
アル「ヘルゲさん目が怖い、目が怖いっ!それにそんな魔法掛けられたら、俺の大切な記憶が吹っ飛んじゃう!!見たけど、そうじゃなくってぇ!…あの挿絵なんだけど、俺が白縹は目から光線なんか出さないって言ったらすぐに挿絵を変える、紅玉様に謝っておいてくれって言われたよ。だから、これから出版される童話には、あの絵は使われないよ」
「な…なんだと…!?アル、お前…!ありがとうな…俺はあの挿絵の件でこんなに温かい対応をされたのは初めてだ…俺はようやくあの禁書の呪縛から逃れられるのか…!」
ずいぶん感動してくれたらしいヘルゲさんに優しくハグまでされ、俺も嬉しくなる。でもその…今の話、数人にがっつり聞かれてるね。透明化してめっちゃ近距離で俺たちを囲んでますけど。あ、みんな透明化を解除した…ヘルゲさんがビクーン!となって、周囲を見る。そしてゴーレムのような無表情になった…
アロ「よかったねー、ヘルゲ。でもその、感動してるとこ悪いけど…」
コン「んあ~、あれって何十年も昔からのベストセラーらしいぜ?今から出版されるものの挿絵が変わってもよォ…」
ユッテ「うぷぷ…あの表紙はどっちにしてもさ、1709年度版の『こうぎょくのだいぼうけん』に使われてたよね…くひひ…」
アルマ「私たちもあのインパクトは忘れられないっていうかァ~」
ヘルゲ「なあ…お前らに記憶緊縛かけてもいいだろう?いいよな?」
ニコル「ヘルゲ、抑えようか…ね?そんなおっきいマナを練ったらスザクたちがびっくりするから~…」
フィ「はっはっは、ヘルゲはいったん流れた情報の増殖が止められないことなど先刻承知ではないか。ぼくは君のキャラの濃さや二つ名の多さや演技の幅の広さに驚嘆するばかりだよ?誇りたまえよ!」
ヘルゲ「フィーネ、お前…今回だけはアルに免じてアイアンクロー改の威力実験を免除してやる…その挑発癖をなんとかしないと、いつかパースの狂ったスタイルにしてやるぞ…?」
なんだか俺がサラリと言おうと思ったことが妙にヘルゲさんにとっての大事件に直結する話題だったようで、「迂闊に話してごめんなさい…」と言ったら「お前はいいんだ、お前とオスカーは俺にはかわいい弟だ…」と言って頭を撫でてくれた。
少し肩を落としていたヘルゲさんも立ち直ってくれて、パティオから皆が撤収。…そういえば、さっきニコル姉ちゃんたちがくれた魔石、なんだろ。ここで見ちゃおうかな、もう誰もいないし。
その小さな魔石には、映像記憶が入っていた。そこには、ニコル姉ちゃんを中心にフィーネを妹パワーでメロメロにしている場面が入っていた。
ニコル『フィーネ姉さん、お願いします!私のお願いを聞いて!フィーネ姉さんが最高のお姉さんだってとこが見たいです…っ』
アルマ『私もぉ!フィーネ姉さんがこんなに素敵だなんて…私ったら気づかなかったのぉ』
ユッテ『フィーネ姉…私もさ、ほんとにお願いしたい!頭脳明晰、眉目秀麗…そういう姉ちゃんは私の自慢なんだよ…!』
フィ『な…なんという殺人的に可愛らしいおねだりだ…!君たちはぼくを鼻血で失血死させるつもりなのかい…?で、そのお願いというのは…な、何かね?』
三娘『これから私たちがデザインして作る服を、今度の仮装でアルと一緒に着てほしいのー!!』
フィ『お…?おお、もちろんいいよ。あのタンランの呪術師衣裳も、ぼくはとても気に入っているからね!君たちの作る物なら間違いないだろう』
三娘『きゃあ!やったー!ありがとフィーネ姉さーん!大好きぃ~!』
フィ『むっほ…』
…フィーネ、ほんとにニコル姉ちゃんたちが可愛くて仕方ないんだね…鼻の下が伸びてるよ、それじゃどっかのおじいちゃん大佐みたいだよ…
映像はそこで終わっていて…ということは、この渡された袋の中身がその仮装衣裳ってこと?
ガサゴソと開けてみる。さらに二つの袋に分かれてて、小さなメモが付いていた。
『こっちは仮装衣裳だよ!』『こっちはサービス品だよ!』
はい?
とりあえず仮装衣裳を覗いてみる。
ブゥゥゥゥゥゥ!!
スッケスケ。フィーネの衣装がスッケスケ。これ知ってる、知ってるよ。これゴーヴァルダナの扇情的な踊り子さんの衣装ですよね。地理の授業でこれの映像が出た時に、学舎で男子が大騒ぎだったもん。
俺のは別にスケスケじゃないけど、どっちのズボンもローライズでぶわーっと幅が広くて、足首ですぼまってるやつだ。んで、俺のはマオカラーのベストみたいな感じで、たぶん踊り子さんの後ろでシタールとかいう楽器を弾く人の衣装。
フィーネのは…もちろん大事なトコは短めのタンクトップと短パンて感じになってて隠れるけど、その上から羽織る物や短パンを覆うようにうっすい布で作られたズボンのスケスケ感が犯罪臭さえ漂う極悪お色気衣裳…!ちょっと、姉ちゃんたちぃぃぃ!
まあ、フィーネもこれはいくらなんでも拒否ると思うよ~?あ、それを回避するために先に言質を取ったのかな、なんて考えながら『サービス品』の袋を覗く。
ガッハ…ッ
さっきのスケスケ衣裳と同じ布ですかね、これ。
さらに中にメモが入っており、『これはベビードールと言います!これでフィーネ姉さんは夜の妖精☆』と、まるで今すぐフィーネに襲い掛かるがいいとでも言うようなことが書いてあった。
姉ちゃんたち…これは確かにヲトコのロマンかもしれません。
でもコレをどうやって俺が着せたらいいというんですかああ!
仮装衣裳もベビードールもなんでフィーネじゃなくて俺に渡すの!?
タスケテー…