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Three Gem - 結晶の景色 -  作者: 赤月はる
宝石の旅路
317/443

316 広報部金糸雀支部 sideアルノルト

  





カペラでの新長による所信表明の内容は、カナリアだけの秘密以外が里の自治体へ正式通達された。もちろん昇仙の儀式映像が存在するなどカナリアだけの秘密。だけどダンさんや俺がミロスラーヴァさんを「心安らかに昇仙できるよう尽力した」という内容はがっつり広まっていた。俺が普通にミロスラーヴァさんと里を歩いてたのを何人も見てるしね。


宿のおかみさんはダンさんのことで「私も悪いことしたかねえ…そういう人だったんだね」としょぼくれてしまっていて、俺は一生懸命そんなことないと慰めたりしていた。俺を待つと言ったダンさんにすっごく迷惑そうな顔で対応しちゃったんだそうだ。「きっとダンさんは何も気にしてないよ、最長老様が信頼するって決める前までは、俺も何もしゃべらずに少し嘘ついたりしたよ」なんて俺自身の懺悔も込めて暴露すると、おかみさんはようやく少し笑顔になった。


そして困ったことに…というか、おかみさんが苦笑してしまう事態になっちゃったんだよね。俺の滞在する宿で歌を贈るっていう人や曲を贈るっていう人が毎日押し寄せて、食堂はいつでも宴会状態。里の入口近いこの宿はメインストリートからはずれてるから、呼んでもあんまり来ないってのにね!と言いつつ、急に賑やかになって食堂の収入も上がったと喜んでいた。


俺も何回か巻き込まれて一緒に宴会へ参加したけど、とても楽しかった。美しい歌声、ドシュプルールの音色、ショールの響き、柔らかく踊る人。俺が感動しちゃって夢中で拍手しているのを見ると、演者の人たちはものっすごく嬉しそうに「最長老様のこと、ありがとう。少しくらい恩を返せるといいんだけど」と言って、俺からのおひねりは受け取ってくれなかった。





*****





俺は里をうろうろしたら囲まれちゃいそうだと予測し、ダンさんのいる広報部へ勉強に行くことにした。だって、里全体から「アルノルト来ねぇかなー!」とか「ダン来ねぇかなー!」みたいな波がわっさわっさ押し寄せてくるから…ッ!皆の暖かい気持ちは伝わってます!落ち着いたら行くから、今は毎晩の宴会だけで許してぇ~!

ゾーヤさんにも「その方がいいでしょうね、広報部はいつでもどうぞって言ってましたよ」と言われたので、いざ広報部へ!



「こんにちはー!アルノルトです、お邪魔します!」


「うおー、来た来た!ダンはまだだ、こっち来て話そう!」



そう言って部屋の一角にある応接セットのところへ連れて行ってくれたのは、初日に蘇芳のことで勢いよく質問してきたエドワードさん。ベティさんもニッコニコの笑顔で来て、俺の肩をぽん!と叩いた。



「ありがと、アルノルト君。ダンとあなたには感謝の言葉しかないわ!」


「え、俺は広報部に何も…ダンさんですよ、頑張ったのは」


「ぶっは、ダンもそう言ってたぞ。全部アルノルト君のおかげだってな」


「えぇ~…」


「私ね…アナスタシア様への取材許可が出たの…!一対一でよ!?時間だって、10分とかじゃなくて初回で1時間!密着取材も許可されるかもしれないのよ…もうその話を聞いて、感極まって泣いちゃったわ…」


「よかったですね~!ベティさん、アナスタシア様って呼ぶ時の表情が恋する乙女って感じだもん」


「よくわかったわね!私はアナスタシア様の全てを愛しているの…!」


「ベティはしょーがねえなあ、他の俳優さんたちに失礼なことすんなよ、依怙贔屓の記事書くんじゃねえぞ?アルノルト君、俺は各部族の動向とかのニュース担当だからさ、何か知りたきゃ言えよ。しっかし今回の長は思い切った方策を打ち出したな。今までは紫紺・瑠璃・山吹はシャットアウトもいいところ。蘇芳は筋肉馬鹿なだけだから、酔って少し暴れることがあるって程度で無茶を言いはしないから放置…そんな感じだったんだよ」


「そうなんだ…でもミロスラーヴァさんはそんなに他部族を嫌ってる風でもなかったと思うんだけど…」


「逆よ逆。最長老様がご健勝の頃はそうでもなかったようだけど、さすがにあのご高齢になっちゃったら里の者が自然に『最長老様を守らなくては』と思ったのね。だんだん頑なになっていっちゃったのよ」


「あ~、なるほど!ミロスラーヴァさんが大好き過ぎて、守りを固めたのかあ」


「はは、でもその固い守りをアルノルト君とダンと、新長がぶち破ってくれたんだぜ?だから俺たちは…自分の資質で信用を勝ち取らにゃ。ま、そういう前向きな力の入れ方で頑張れるってのは、ジャーナリスト冥利に尽きるってもんだ。こんな風に気持ちのいい取材ができるってのはそうそう無いからな」


「…そういうもの、ですか。人のことを知りたがると、やっぱり警戒されちゃう?」


「いや…利害関係が一致すればいろいろ教えてくれることもあるさ。でもそれはお互いに利益があるからだろ?この里で今求められているのは『あなたはどんな人ですか?信用できる人柄ですか?』ってことだ。そりゃモチベーションも上がるってもんだろ。自分が善人だとは思っていないが、俺はこういう気持ちで仕事をしている、だからあなたたちのことを教えてほしいっていうのが上手く伝えられたらさ…それで情報を貰えたら、イコール『あなたを信用します』っていう答えなんだぜ?心が躍るってこういうことを言うんだよ」



快晴の空みたいな笑顔でエドワードさんが話す。恋する乙女みたいな表情でベティさんが話す。この人たちから流れて来るマナの波は、人に嫌われがちな仕事だけど誇りを持ってやっているという、揺るぎない矜持だ。情報を得て、その情報が必要な人々へ行き渡るように尽力する。必要不可欠の情報ではないけど、ダンさんみたいに感動を人々に見せてあげたい、世界は広いんだよって教えたいという信念もある。


そうだ、旅に出て身に染みたはずじゃないか。マザーの図書館を見るだけじゃわからないことばかりだった。マザーの情報は中枢が見るし、それが国を動かすと皆分かっている。だから、マザーに書き込まれる情報はそこを見越して「選別された後の情報」なんだ…


…ヘルゲさんの言っていた「なぜ事実を捻じ曲げる必要があるのか、その理由を知るべきだ」ということの答え。この人たちに話を聞く事で、何かが掴めるといいな…



「エド!ベティも!何でアルノルト君が来てるって教えてくれないんだよ~!」


「うるせー、いつもお前だけアルノルト君を独占してるからだろ!」



ダンさんは奥から出てきて、俺がいるのを見てびっくりしていた。…さっきエドワードさんてば「ダンはまだだ」って言ってたのにぃ~。苦笑いしてダンさんに挨拶すると、奥からもう一人の男性が出てくる。あ、「緑青大好きバーニーさん」だ。



「お、アルノルト君じゃないか!エド、お前ぇ~…仮にも支部長の俺に黙ってるたあ酷いぞ…」


「バーニーは緑青のこと聞きたいだけだろ!」


「ンなことないよ、わざわざ他部族のこと勉強して回ってる白縹だなんて聞いたことないしさ。しかも広報部に来るなんて思わないだろ。知ってることなら教えてやりたいじゃんか」


「あはは、確かに…未成年が留学って感じで他部族を回るのは、俺が初めてだと思います」


「あー…まあ、それだけじゃないよ。白縹に関する取材は、現状ほぼアウトなんでなあ。根掘り葉掘り聞くつもりはないから、そこは安心してくれ」



…あ、それエレオノーラさんに聞きました…ニコル姉ちゃんを守るために、ヴァイス総出でマツったんですよね…



「あはは、その…俺は重大機密とは無縁なので、イイ情報はないと思いますけど。普段の生活に関することなら別に秘密でもなんでもないですから、大丈夫ですよ」


「そうかあ?でも金糸雀支部の恩人を不愉快にするのは本意じゃないからさ、イヤなことはちゃんと言ってくれな?」


「恩人なんて大げさですってば…俺は勉強させてもらえるだけでありがたいですよ。えっと…その、早速なんですけど、質問していいですか?」


全「おう、何でも聞いてくれッ!」


「うぉわ…そ、その…俺が旅に出ようって思った最初のきっかけについてなんだけど。マザーの図書館にある情報は、中枢に都合のいいことが紛れ込んでて事実じゃないこともあるって気付いて…なんでそんなことするんだ、事実を教えてほしいって思ったんだ。でも兄ちゃんが『なぜ中枢がそうしなきゃいけないのかを知らなきゃな』って言ってくれてさ。それを知るためには、どこから手を付ければいいのかなって思って…質問じゃないね、こんなの…しかも皆に失礼かも、ごめんなさい…」



皆はなるほど!って感じの顔になった後、なんだか優しい表情になった。ダンさんはにこっと笑って「ならバーニーの出番だな。バーニーは支部長だし政治関連記事の専門だよ」と言った。何か聞きたいことがあったら呼んでねと言って、バーニーさん以外は席に戻って行った。



「ふむ…まず最初にね、君に言いたいことは『よく気付いた、偉い!』ってことかな」


「え…偉い、ですか?」


「そうさ、白縹は他部族よりも圧倒的に隔絶された集落で暮らしている。白縹以外の部族が、そんなにしょっちゅう村へ出入りするかい?しないだろ?でも他の街は何だかんだ言って他部族が普通に交流している。俺も中央にいた時、ヴァイスの人から話を聞く機会があって知ったけど、軍部に来た白縹は最初すっごく驚くそうじゃないか。全ての部族が集まって暮らしている中央の街に目を回すって言ってたよ。でも君は…未成年だから村から一歩も出ていなかったにもかかわらず、それに気づいた。偉いよ、ほんとに」



そう言ってバーニーさんは俺に笑顔を向ける。そして、俺が疑問に思っていたことの答えを、ゆっくり話し出した。







  

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