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30 兄たちの企み sideニコル

  






ヘルゲ兄さんとアロイス兄さんが高等学舎を卒舎して、三年経った。


私もユッテいわく「ようやく落ち着いて、フワフワしたとこがなくなってきた」なんて言われる程度には、大人に近づいた…と思うの。


それにしても、二人の兄の卒舎直後…あの当時のドタバタはまだ記憶に新しく、いまだに思い出すと頭痛がします…



*****



アロイス兄さんは養育セクトの中でも優秀な人しかなれない教導師の資格を取り、中等・高等の教導師として働いている。

なので今でも、毎日の修練の時やお昼休みに会う。

本当は生徒に個人的に会うとか良くないって思う人もいるらしいけど、小さい頃からお兄ちゃん子でベッタリだった私は仕方ないと思われてるみたいだった。

テスト内容の漏えいが無いか等は、養育セクト自体にマザーへの検査・報告義務があるっていうのも、特に「えこひいき」とか言われないで済んでいた要因ね。


以前アロイス兄さんたちのファン?のお姉さんから嫉妬され、少々イヤミ攻撃受けたりもしたからな~。

やっぱりその辺は気を付けて、多少の根回しはできるようになっちゃった私です。

兄二人にあんまり気を遣わせたくないしね。




で、ヘルゲ兄さんはと言えば。

すごい実力者なので、当然のように軍に配属された。

待望の『紅玉』として、鳴り物入りって感じで。


…なのに配属されて一か月後、ヘルゲ兄さんは村に戻ってきた。




私は当時、ヘルゲ兄さんに今までのように会えなくなると知ってすごい落ち込み方をしてた。毎日部屋で泣いて、ユッテやアルマに心配されてたほど。

でもそんな姿見せたら、絶対ヘルゲ兄さんは困ってオロオロしてしまうと思って、必死で笑って隠した。

アロイス兄さんはわかってて、見ないフリしててくれてたけど。


一か月後戻ってきた時ヘルゲ兄さんは、護衛みたいな蘇芳すおう一族の軍人さんに付き添われていて、頭をグラグラさせながら、養育セクトの事務所へ入っていった。


その様子もかなり衝撃的だったけれども、何よりヘルゲ兄さんの髪が切られていて、例のすっごい顔・・・・・が村で初めて披露されてしまったことで大騒ぎとなった。



実はその少し前に、アロイス兄さんから「そのうちにヘルゲが戻ってくると思う。もし具合悪そうに見えても心配ないから」とは聞いていた。

でもまさか、こんなに早いとは思わなかったし、あそこまで病気みたいな状態とは思ってなかったけど。






戻ってきて二日経ってから、アロイス兄さんの家にヘルゲ兄さんも住むことになったと、森で教えてもらった。詳しい話は明日ね、と言ってアロイス兄さんは早退していった。


アロイス兄さんは卒舎後、養育セクトの独身寮や学舎の職員宿舎には住まずに家を借りた。

どうも、二人で最初から住むつもりだったらしい。となると、ヘルゲ兄さんが帰ってきたのも計画のうちってことね。何たくらんでるんだろ…


よく紅玉を軍が手放したなぁ、なんてのんきに考えていたら、アルマが真っ青な顔で部屋に戻ってきた。



「ニコル!ヘルゲ兄さんが精神停滞か精神損傷の疑いがあるって本当なの!?」


「ええぇ!?」



具合悪そうでも心配するな、とは言われていたけど、精神停滞!?精神損傷!?何それ、そんなの聞いてない…!


私が真っ青になってしまうと、アルマやユッテが逆に驚いて言った。



「え!?なんでニコルが知らないの?アロ兄から何か聞いてないの?」


「いや…今日は、アロイス兄さんのとこにヘルゲ兄さんも住むことになったってことしか…」



何とも言えない沈黙が流れ、アルマが取り繕うように私を慰めた。



「まあ、ホラ、今日マザーの検査から帰ったばかりだし、ただの噂みたいだし。きっとなんかの間違いだね!ごめんねニコル、変な話して…」


「ううん、私もアロイス兄さんに聞いてみるから。大丈夫だよ、ありがとうアルマ」



「今日マザーの検査から帰った」この言葉で、私は一気に冷静になれた。

アルマとユッテには笑顔で安心してもらいながら、頭の中では考えがまとまっていく。



(たぶん、中央のマザーで対処できない“疾患”のフリしてヘルゲ兄さんは帰ってきたんだ…ということは、白縹専用の品質検査プログラムのある、この村に戻すしかない。精神の疾患なら、教導師で親友のアロイス兄さんのところで一緒に住むのは理に適ってる。…ほーんと、何たくらんでるのかなぁ?こんなに皆を心配させてぇ…)



私は明日、たぶん森に来るであろう「先生」と「仮病の兄」の二人を叱ってやろうと思った。

何となくぬいぐるみの「ロイ」と「ヘル」に向かって、「しょーがないお兄ちゃんたちだね~…」とつぶやく。


二匹のくまが、プルッと震えた気がした。






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