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Three Gem - 結晶の景色 -  作者: 赤月はる
宝石の旅路
297/443

296 けんかの仲裁 sideアルノルト

  





「ではアル、そろそろ行こうか」


「はーい、お母さん!じゃあみんな、行ってきまーす!」



俺は二日間の一時帰宅を猫の庭で楽しく…フィーネが好きだってことも本人にバレちゃったりしたけど、でもすごく楽しく過ごして緑青の第一へ戻った。お母さんも一緒に来て、これからのことについて話があるからねとリビングへ行く。



「アルが緑青の次に行く場所なんだがねえ…候補は今二つある。まずはエレオノーラが楽に手配できる蘇芳要塞都市、次に私の伝手がある露草の街だね。蘇芳に行ったらいつでもカイかカミルにでも接続していないとやってられないかもしれないが…」


「うは、いきなり殴られちゃうってこと?」


「いや、そこまでではないがねえ。私も話に聞いただけだが、やはり力で何事も解決したがる傾向だし、場所によっては規律が非常に厳しいようだ。逆に露草の街は何でも合議制だし、分野によって組合を立ち上げて管理しているね」


「へぇ~…そっかあ、蘇芳に行けばグラオのみんながどんな人たちに囲まれて仕事してるのかわかるね。露草に行けば民の暮らしに密着したことがわかる…かな」


「うむ、そうだね。露草では魔法部研修生として『分体調整の理解を深めるために、部族特性を見学』という名目になるが、蘇芳はそうもいかん。エレオノーラの手配なので緑青の姓は伏せて白縹として行動することになるかもしれんよ。そうすると当然…大規模魔法だの体術だのを見せろと言われてもおかしくないと、私は思うんだがね。エレオノーラは、バレない程度にならグローブを使ったってかまわないだろうと言っていたが…」


「うっひょー…じゃあ蘇芳でお願いしまっす!」


「ぶっ…アル、私の話を聞いていたかい…?」


「もちろん!俺、ポヤーッとしてるから丁度いいよ。少しは厳しく鍛えてもらおーっと」


「そ、そうか…アルが望むならかまわんがね。ああ、それと…さすがに紫紺と瑠璃は無理があった。紫紺のカリスマ持ちは特殊な学舎にいて接触が持てないし、一般の紫紺と交流したければヴァイスで世話になって中央の街を歩くしかないからねえ。瑠璃も同じだ、政治的な才能を開花した者は専門学舎へ入ってしまう。そしてやはり中央がその本拠地なのでね、旅とか留学的な意味合いが薄いんだよ」


「そっか、わかった!もちろん中央にも行きたいから、特殊なトコは諦めるよ。図書館で調べてから中央の空気を味わってもいいと思うし。ありがと、お母さん。えっと、あとひと月もすればマギ言語の高等講座を一通り受け終るから…そしたら蘇芳要塞都市へ行くことにしたいです」


「ん、わかったよ。エレオノーラに伝えておこう、頑張るんだよ」



そう言うとお母さんはにっこり笑って玄関から出て行った…と思ったらゲラルトさんのお家へ入っていき、「アホ親父ィィィ!!また魔石増やしたのかああ!」と叫んだ。


「ふおおおお、貴重な蜂蜜映像がっ!それはクヴァシールの養蜂場に無理を言って…」


「蜂蜜のトロトロ映像を見ながらうっとりするなアホ親父!」


「ふおおおお!それはだねデボラ!我がケスキサーリ家に代々伝わる極秘のマギ言語構文がおフん!」


「…”山吹の総力編集☆グルメレポーター推薦のトロトロ料理:これであなたの舌も蕩けるゾ!”…これのどこが極秘マギ言語構文かあああ!!」


「ああぁぁぁ…私の癒し映像コレクションがあああ…」



ごめんゲラルトさん。俺、命が大事なのでトロトロ映像を救出することはできないよ。まさかあの箱が全部そんなものとは思わなかったなー。


俺は玄関のドアをパタンと静かに閉めて、明日からの講義スケジュールを粛々と確認して寝ました。






*****





パウラ「やっほーアル!お母さんの用事、ちゃんと済んだぁ?」


アル「うん、大丈夫~。あれ、フォルカーとトビアスは?」


パウラ「あー、それがさあ…またロッホスが突っかかってきたからいい加減フォルカーも怒っちゃって…」


アル「うひょー、俺も行こうっと!」


パウラ「ええ~、アルまで行ったら収集つかないよー!もう、これだから男子は…待ってよアルー!」



ロッホスは今日も粘るねー!何を言い出したのかな?…と思ってたら、けっこうフォルカーが本気で怒ってる…



フォル「てめえ、いい加減にしろよ!口で敵わないと思ったら暴力か!」


ロッホス「う…うるせえよ!毎回毎回、バカにしやがって…っ」


フォル「そりゃあてめえの被害妄想っつーんだよ!」



うおー…お互い胸ぐら掴んじゃって…なんかトビアスが肩を押さえてるな?


…血が、出てませんか、アレ。



パウラ「ちょ…トビアス!どうしたの!?」


トビ「…何でもねえ。偶然ペン先が刺さっただけだ、騒ぎにすんな。ちょっと治癒室行ってくっから」


ロッホス「…余裕ぶりやがってえ!」



ロッホスは逆上してるみたいで、血の付いたペンを握りしめてトビアスの方へ突っ込んでいった。フォルカーは突き飛ばされて転びそうになる。パウラはトビアスを庇おうと間に入ろうとした。


ヘルゲさんに接続。


フォルカーを不可視のガードに受け止めてもらい、トビアスは盾形状で守ってもらう。パウラの肩をそっと掴んでから踏み出した軸足を軽く蹴ってペタンと座らせた。

…で、ロッホスの手首を手刀で叩いてペンを落とす。半回転しながら逆手で頭を横に押し、足を払い、腕だけ掴んで床で頭を打たないように吊り下げた。


うん、何とかなったかな。



アル「フォルカー、パウラ。トビアスを治癒室に連れてってくれる?俺、ちょっとロッホスと話すからさ」


フォル「…あ、ああ…」



三人がポカンとしてるのでトビアスのケガのことを思い出させると、治癒室へ行ってくれた。さてと…



アル「…ロッホス、どうしたの」


ロッホス「…うっせえ…」


アル「なんだよ、トビアスに何かされた?」


ロッホス「ちげえよ…あのペンが刺さっちまったのは…ほんとに事故だったんだ。でもあいつ…何も言わねえで治癒室行こうとすっから…謝り損ねて…」


アル「あ、そっか…フォルカーはわざとだと思って怒鳴ってたもんね…それで謝れなかったんだ」


ロッホス「…」


アル「でもその後、また逆上して襲い掛かっちゃ正当性なくなっちゃうでしょー。そのカッとなる性格なんとかしなよお」


ロッホス「…お前、何であんな動きできんだよ…すげえスピードだった…何かマナが渦巻いた感じしたけど、何かの肉体強化かよ」


アル「俺、周りにいたのが軍人ばっかでさ。鍛えてもらったんだよ、それだけ。魔法使おうとしたけど動いた方が早いと思ってやめたんだよ」


ロッホス「…そうだったか…? まあいいや、とにかくその…悪かった、止めてくれて助かった。トビアスにも謝ってくる…」


アル「俺も行く~」


ロッホス「ンだよ、同情とかいらねえよッテテテ!」


アル「ロッホス~、お仕置き!グリグリの刑だー!せっかく今俺に素直に謝ってくれたのに台無し!」



俺たちはギャアギャア言いながら治癒室の方へ歩き、もう治してもらったらしいトビアスたち三人と会った。ロッホスはピタッと黙ると「…悪かった」と口を尖がらせながら小さな声で言った。


フォルカーがまた掴みかかりそうだったので手で制して…もっかいグリグリの刑!



アル「ロッホスねえ、ほんとはちゃんと謝ろうと思ってたのに、フォルカーに誤解されて引っ込みつかなくなっちゃったんだよー。トビアスももう気にしてないだろ?フォルカーも俺がお仕置きしたからもういいよね?」


トビ「俺は最初から偶然の事故だから気にしてねえよ」


フォル「…んじゃ俺も誤解して悪かったな。でもお前の普段の態度が悪いのもいけないんだぜ?」


ロッホス「…ああ、悪かった」


パウラ「初めてロッホスが謝るトコ見たあ…んじゃさ、もう水に流せばいいよね?いがみ合うのってめんどくさい!疲れる!ロッホスもさあ、もう何でも怒らないで普通に話そうよお」


ロッホス「…努力する」


アル「あははー、んじゃロッホスは俺とトビアスについて語り合うってことで!」


バシーン!


トビ「おまえはもう黙れ…!」



五人で教室へ歩きながら、俺はやっぱりロッホスもそんなに嫌いじゃないなあって思った。最初はあんなにイヤな感じの波だったけど、だからって避けてたら旅の意味がないかなって思って…話しかけ続けたらロッホスの波が少しずつ緩んでくるのがわかってさ。ロッホスだってあんなに何でもカリカリしてなきゃ、勉強だって集中できるのに、もったいない。



トビ「…おいアルノルト。お前さっきの体術すごかったじゃんか…俺にも教えろよ」


フォル「おー、ちょっとびっくりしたぜ。俺も俺も!」


ロッホス「あれ、ほんとに軍人に鍛えてもらっただけであのスピードなのかよ?」


パウラ「あ、そういえば私も足蹴られたのに痛くなかった…なにあれえ?」


アル「…あうー…えっとー…あ、授業はじまるよお~あはは~」



やばーい、ピンチ!俺が人様に教えるとかありえないよお~!







  

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