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Three Gem - 結晶の景色 -  作者: 赤月はる
宝石の旅路
289/443

288 私塾『エイス』① sideアルノルト

  





アロイス先生とナディヤ姉ちゃんのお弁当を食べて元気いっぱいになった俺は、その日の午後を案内センターからもらった「緑青の街へようこそ」という初心者用案内データや地図を見たり、リア先生の課題を見て勉強のペース配分を決めたりして過ごした。ほんとはサッサと私塾の聴講生手続きをしたいところだったけど、リア先生の課題の量を見て少し血の気が引いちゃってさー。


これだけは絶対おろそかにしないって自分で決めたことだから、計画的にやらなきゃ。不測の事態が起こってもいいように、前倒しでどんどんやってくつもりだしね!


集中して課題も終わらせると、もう外は暗くなっていた。うーわ、もう七時だあ…いつもはアロイス先生が「ごはんだよー」ってコーリングで呼んでくれてから一階に降りるっていう生活だったんだよね。そっか…時間の管理も自分でしないと、あっという間に生活ペースが乱れそう。案内センターに晩ごはんを頼もうと思って腰を浮かせると、玄関からピンポーンとチャイムが聞こえた。ドアを開けると…ゲラルトさんだった。



「こらー、誰何もせずにドア開けちゃだめだぞー?そんなだからデボラに攫われちゃったんだな、アル君は!」


「わー、ごめんなさい!どうしたんですかあ?えっと…中へどうぞ?」


「晩ごはん食べちゃった?一緒に食べようかなと思ってね」


「ほんとですか、やったー!いまから案内センターにお願いしようと思ってたんですよー」


「あ、やっぱりそうか。センターに注文した形跡がなかったからさ!私の家へおいで、すぐ食事は届くよ」



ゲラルトさんはもう注文してくれた後だったみたいで、ニコニコしながら俺をゲラルトさんのお家へ招き入れた。母さんの家のドアに鍵を掛けずにポテポテ付いてきた俺に「鍵かけなきゃダメだよ、アル君はほんとに平和なところで育ったんだなあ!」と注意された…恥ずかしい…宿舎で部屋の鍵とかはカールがやっててくれたからな~。


でもゲラルトさんの家へ入って、俺はビックリした…リビングだったと思われる場所は山積みの箱の迷路。マナが漂ってきてるし、あれはきっと全部魔石が入ってるんだ。ダイニングにも浸食していて、ゲラルトさんは器用に箱の高層建築をよけながら「こっちこっち」と俺を案内した。



「…ゲラルトさーん、これ危ないよ…」


「わはは、だって興味のある魔石は手元に置いておきたいだろう?でも確かにそろそろ整理しないとなあ…じゃあアル君は防犯意識、私は整理整頓が課題だな!」


「ぶっは!うん、俺も気をつけまーす」



ダイニングにある小窓へ、センターからの食事が入った結界製の箱を持った人が「お待たせしました、お食事です」と言いながら手渡してくれた。この小窓は妙に低い位置にあるなって思ってたら、ガラスじゃなくて結界でできた小窓だった。外から食事の箱を押し込むと結界が中和されて、箱だけ入ってくるんだ。「ありがとう」ってゲラルトさんが言って受け取ると、「さあ食べようか!」とニコニコした。



…アロイス先生とナディヤ姉ちゃんのゴハンが食べたい…



ゲラルトさんのふっくら体型は絶対にハニー太りだと思うんだよ。ハニーマスタードチキン(甘さ濃厚)がたっぷり乗った丼。サラダもサーモンをハニーマスタード(甘さ濃厚)で和えてある。ゲラルトさんはハニーミードをロックで飲み、俺にはハニーレモンソーダを出してくれて、おつまみにハニークリームチーズ(甘さ濃厚)をクラッカーにつけながら食べていた。


…知らなかったあ、甘さって度が過ぎるとこんなに辛いんだあぁ…



「ゲ…ゲラルトさん、緑青の食事って蜂蜜をたくさん使うんだねー…」


「ん?使わない料理の方が多いよ?これは私専用の好物メニュー!おいしいだろ?」



ガーン!


俺は初日から「聞く人を間違えると正しい情報は得られない」ということを学んだ…







*****






翌朝はゲラルトさんに朝食も誘われたらキツいという危機感から、起きてすぐにセンターへ朝食をお願いした。普通の…そう、普通の目玉焼きにベーコン。普通のサラダにトースト。ああ、普通の食事ってありがたい。


簡易テントを寝室で展開し、朝の修練をする。俺は突き抜けちゃった前科持ちだから、アロイス先生にはきつく「ヘルゲかニコルに接続してから修練すること!」って言われてる。ニコル姉ちゃんに接続して、守護に「修練するので、もし俺が突き抜けたら助けてくださーい」ってお願いしてからダイブ。


竹林はシャラシャラと揺れてて、光も申し分ない。突き抜けた直後になぜか小さな庵が出現してて、俺はいつもそこから青竹色の世界へ足を踏み出す。お、やっぱりあった…「緑青の竹」だ。昨日からカルチャーショックばかりで、きっと修練で整理する情報がいっぱいだろうなって思ってたけど。でっかく育てよー、たくさん情報が来るぞー?




修練を終えたら外へ出て、ユッテ姉ちゃんに接続。第一の敷地内を気持ちよくランニングして家へ戻り、カイさんへ接続し直す。カイさんにとっての「軽い」訓練をして…接続解除したら、汗がダラダラ出てきたよ。


シャワーでさっぱりして、家の施錠も確認!正門で魔石にマナ固有紋を流して「外出」登録をしてから第一の敷地を出る。


昨日も驚いたけど、この高層建築の多さにはほんと目が回る。地図データを見ながら一番大きくて街の中央にある「緑青自治センター」の建物まで歩き、大通りをキョロキョロと見物しながら歩く。


第一は自治センターのすぐ近くにあったけど、他の研究所は街に点在してるっぽい。次に近いのは第二かなって思いながら角を曲がると、重厚な黒灰色のピカピカした石材でできた建物が目に入った。「緑青第二研究所」って彫り込んである外壁の中は…たぶん第一の半分くらいの敷地。そっか、やっぱり第一って特別大きかったんだなあ。


そんな風に研究所を見て回り、お昼になったので屋台でホットドックと果実水を買って公園でのんびり食べてみた。第二から第七まで、ぜーんぶが同じような敷地と建物で、真っ白くて広大なのは第一だけみたい。案内データによると各研究所で研究テーマっていうか、得意分野があるらしい。


特に第三は「禁忌魔法」が専門らしくて警戒が厳しく、ぼけっと建物を見てたら門衛さんに職務質問されちゃった…



「…失礼、緑青第三研究所へ何か御用ですか?」


「え?いいえ、俺は緑青に来るのが初めてなので…有名な研究所を第一から順番に見てみようって思って…」


「そうでしたか、申し訳ありませんがご身分証明書を確認させていただいてもよろしいですか?」


「え…は、はい…」



俺は身分証を出しておとなしくしていた。門衛さんは笑顔を浮かべて「すみませんね、職務なもので」と言いつつ、マナの波は少しも警戒を緩めていなかった。


…そうだろうなー、この建物から出てるマナ…すーっごくドヨドヨしてるもん!うわあ、心理魔法の研究してる人の精神状態がけっこうギリギリ。ダメだよ、少し休まないと、心がやられちゃうよ?



「…大変失礼しましたアルノルトさん。第一の…デボラ様の息子さんだったのですね。滞在確認も取れましたし問題ありませんでした。よいご滞在を」


「い、いえ…俺こそよく知らなかったので不用意に近づいちゃって、すみませんでした。で、あの…二階のあそこの窓際にいる方、少し休憩した方がいいと思いますって伝えてもらえませんか?」


「は?ああ~…ハハ、顔色が悪いからご心配いただいたんですね。視力がいいですね~。分かりました、伝えますよ」



門衛さんは「でも、いつものことなんですよ」なんて言ってた。大変なお仕事だなあ。






*****





午後2時くらいになって、歩き疲れて第一へ戻った。今日こそ聴講するぞおって思いながらセンターへ聴講手続きを取る。第一…ケスキサーリ家の運営する私塾『エイス』は、研究員が持ち回りで講師を務めている。午後3時くらいからいくつもの授業が開かれるので、カリキュラムの組まれていない聴講生は好きな授業を選んでいいみたいだった。


今日あるのは…「マギ言語初級講座」「マザーの歴史」「緑青の歴史」「古代マギ言語の考察」…うーわ、どうしよ。いっぱいあるよお。


でもヨアキムさんにも少し教わったし…「古代マギ言語の考察」に出てみよっかな。


そう思ってエイスへ入館手続きをして入った。一つ一つの教室が大きい…すり鉢状に机と座席が並んでいて、議場みたい。先生はまだ来てないけど、生徒はチラホラ座ってる。先生の真ん前に行く勇気はないし、正規の生徒のジャマをしてもいけないから少し後ろの方の席に座った。


講義が始まり、初老の先生は拡声の魔石を持ちながら話はじめた。



「えー…いつも言ってることですが、この授業に出られる人は身分もしっかり証明されている方ばかりですので信用して講義をしております。マギ言語は本来門外不出、この講義内容が漏えいした場合は緑青条例により厳罰が課されますのでご注意をお願いします。では講義を始めます」



…へええ…そっか、そりゃそうだよねえ。俺の秘匿ランクがFだから、選択できた講義だったのか…


内容は現在のマギ言語に比べて古代マギ言語は「カタコト」みたいなものが多く、効果の低い魔法が多かったということ。それでも文明が進むにつれて人間側の語彙も豊富になり、緑青の古代王朝時代の頃には逆に難解な言葉や熟語が多用され、絶大な効果の魔法もできたが組み上げきれずに頓挫した魔法も多かったということ。


なるほどねえ、ヨアキムさんも言ってたけど宮廷魔法使いって世間知らずが多くて、難しい魔法の言霊をこねくり回しすぎて上手に作れてなかったんですよって言ってたもんなあ。


なんだか違う視点でヨアキムさんの話が理解できた気がして、この講義を聞いてよかった!って思えた。


講義が終わって、充実した気持ちで席を立とうとした時に声を掛けられた。



「…なあ、あんたドコの人?この講義に来たの初めてだよな?」



俺よりも後ろの席に座っていたらしいその男の子は、同い年くらい…かな?ちょっと鋭い感じの目をしてて、身長も俺と同じくらい。ブロンドの長めの髪はボサボサで、眼鏡をかけていた。



「えっとー…ドコの人って?出身地?」


「…どこの研究所かって聞いてんだよ」


「あ、第一の敷地内に御厄介になってるよ」


「…客か。魔法部経由かよ?」


「まあ、そんな感じ…かなあ。なんでそんなこと聞くの?」


「いきなりこの講義に出といて不思議に思われないわけねえだろ?お前のことなんてマギ言語の初級講座でも中級講座でも見たことがねえ。なのに“理解できてスッキリ”みたいなカオしてやがったら聞きたくもなるさ」



…あちゃあ。そんな視点で見られるとは思わなかった。

まあいっか、せっかく話しかけてくれたんだし!マナの波もけっこう気持ちいいやつみたいだし!まずは挨拶からかな!



「そっか!俺アルノルトって言うんだー、よろしくね。君は?」


「アァ!?…ちっ…なんかお前やりにくいな…トビアスだよ…」



俺は初めて話した緑青の同年代に嬉しくなり、勝手にガシっと握手した。トビアスはまた「アァ!?」と驚いて、呆れたように俺を見たけど…


俺は「つっかまーえたっ!つっかまーえたっ!緑青の友達つっかまえたっ!!」と内心でヘタクソな歌まで歌ってましたー。





  

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